第16話 雅は心配なんです

「そうちゃんが、白石くんと話してる!」


香澄ちゃんのそうちゃんEYEはとても高性能だ。

彼女の視界ならどれだけ人がいようがすぐに纐纈くんを見つけれるらしい。

いまはソフトボールの真っ最中。

我らがA組は攻撃中

私も香澄ちゃんも前の回に打順が回ってきたからこの回は暇になりそうだ。

バッターボックスには13番セカンドとショートの間のポジションの史華。

女子は1クラス15人しかいないから全員参加。


「みやびちゃん、始まるよ。そうちゃんはっと・・・うん定位置だ。葛城くんはCBか。大きいし落ち着いてるから適正高そう。」


香澄ちゃんが食い入るように見つめてると、


「去年の大きな大会で準優勝したらしいんだけど、2人ともレギュラーだったみたいだよ。」


いつのまにか史華が隣に座っていた。


「あれ?史華いつのまに?」


「・・・三振しました。」


香澄ちゃんが素早い横移動で史華の横にくっついた。


「史華ちゃん、その話詳しく!」

視線は纐纈くんを捉えたまま史華に詰め寄る。


「ええ〜っと。初級はインコースの高めにきたボールを空振りし」

「その話じゃないから!」

史華がボケて香澄ちゃんがツッコム。

いつもの逆だね。


「私も公佳から聞いた話だから詳しくはないんだけど、ベスト11に選ばれたとか、代表に呼ばれそうとか言ってたよ。」

おっと!かなり衝撃的な事実だぞ。

後でスマホでググッてみなきゃ。

香澄ちゃんなんて衝撃すぎて目が点に・・・からの大粒の涙!


「香澄ちゃん。良かったね。纐纈くん頑張ってたよ。ちゃんと夢繋がってるよ。もう香澄ちゃん責めなくていいよ。」

泣き出した親友を周りから隠しながら慰める。


史華は突然のことで狼狽えてしまっている。


「え?私悪いこと言っちゃった?香澄ちゃん。ごめんね。」

私は史華を見て首を横に振る。


「ごめんね史華ちゃん。うれしいだけだから。教えてくれてありがとう。」

まだ感情が昂ぶっているのか身体は震えている。


「さ!パワーアップしたそうちゃんをしっかり目に焼き付けなきゃ!」

香澄ちゃんは顔を上げてしっかりと纐纈くんを見据える。


私が香澄ちゃんを見つめてると視界の端に怪しげな人が見えた。


「香澄ちゃん。あそこで双眼鏡のぞいてるのって冴先輩だよね?3年も授業中だよね?まさかのストーカー?」

どう見ても怪しい人にしか見えない。

よく見るとビデオカメラも回している。


「そういえば冴先輩ってサッカー部のマネージャーらしいよ。だからビデオ回してるのかな?白石くん、サッカー部のエース候補らしいし。」


「マネージャーってことは、コウくんと葛城くんのスカウトってこともあり得るんじゃない?代表に呼ばれるくらいだから関係者であれば知ってるでしょ?」

史華の方が信憑性がありそうだ。

しかし、香澄ちゃんにはすでになにも聞こえてないようだ。

試合が始まり、纐纈くんのクロスから葛城くんが決めて早々に失点した。


「すごいね纐纈くん。私達が知ってる頃とは比べ物にならないね。あ、入った。」

白石くんの中央突破を纐纈くんが防ぐとそのままドリブルで持ち上がり、ペナルティーエリアの外から豪快に決めた。


「すごい音聞こえてきたね。ボールが破裂したかと思ったよ。」

史華が言う通り、纐纈くんのシュートは当たると大怪我しそうなレベルだった。


私と史華が話してる横で、香澄ちゃんは静かに見ている。一瞬でも逃したくないんだろうね。


試合は一方的だった。

うちのクラスにサッカー部が5人いると聞いていたけど纐纈くんと葛城くんとはレベルが違った。


試合後、葛城くんが白石くんに「茶髪。もうソウに絡むなよ。」と言っているのが聞こえてきた。


白石くんが纐纈くんに?

中学時代に何度も見てきた光景。

香澄ちゃんを気にしてる人は行き過ぎると纐纈くんに絡む。

香澄ちゃんが纐纈くんを好きなのは周知の事実だからね。


授業後、私は葛城くんを捕まえた。

「葛城くん、さっき白石くんとなに話してたの?」

私は葛城くんと直接話したことはなかったが、緊急を要するために急いで確認した。


「平川さんだっけ?白石?ごめん誰かわからないや。」

名前も知らないレベルだったんだ。

う〜ん、どう伝えようか悩んでいると、


「ひょっとしてA組の茶髪?試合後に話してたやつ?」あれ?と指を指しながら私に確認してきた。


「そう、彼が白石くん。ひょっとして纐纈くん絡み?というか香澄ちゃん絡みかな?」

葛城くんがどれだけ把握してるかわからないけど香澄ちゃんの名前を出した方が話が早い。


「あ〜、聞こえてた?まあ、ご想像通りってとこじゃないかな?よくあることなんだろ?」

葛城くんも聞いていたらしく、状況は把握してるみたいだ。


中学時代はひどかった。

特に1年の終わりから3年になるまで嫉妬まじりの嫌がらせ。

やり方が陰湿だった上に纐纈くんも物理的にな被害がなければ無視を決め込んでいたから、たぶん思っている以上の被害があったはず。


我慢している纐纈くんに聞いたことがある。


「なんでやり返さないの?もっとアピールすれば先生たちも対応してくれると思うよ?」

私自身が見ていられなかった。


私だって纐纈くんとは小学校からの付き合いだ。LOVEじゃないけどLIKEくらいの感情はある。


「平川。全部を表面化したらどうなる?誰が一番傷付くのはだと思うぞ。」


纐纈くんは優しい。


だから私は香澄ちゃんの親友として、纐纈くんのとしてやれることをやるよ。

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