第14話 夜道
「吉乃さん、もう時間だから上がっていいよ。帰り仕度できたら事務所に来てくれる。」
バイト初日、コウくんや他の先輩のサポートもあり特に問題なく終えることができた。
「失礼します。」
どうぞとオーナーの声が返ってきたので扉を開けると、事務所にはコウくんもいた。
「お疲れ様。とりあえず適当に座って。」
テーブルを挟んでオーナーとコウくんが向かい合って座っていたので、少し迷ったけどコウくんの隣に座った。
間近で見るコウくんは普段とは髪型も違い、大人びた雰囲気で少しドキドキしてしまう。
「吉乃さん、今日一日やってみてどうだった?私が見る限りではうまく対応できていたように見えたよ。」
「はい。戸惑うことばかりでしたけど皆さんがサポートしてくれたので大きなミスなく終えれました。」
「接客も笑顔でできてたし余裕を感じられたよ。」
コウくんが私の言葉を受けてオーナーに付け加えてくれた。
「余裕なんてないよ?そう見えたならコウくのおかげだよ?しっかりサポートしてくれるからあんし・・・って」
そこで自分がどれだけ恥ずかしいことを言っているかに気づいて手で口を覆ってしまった。
「ふふふ。若いっていいね〜。そうか、総士も成長したね。じゃあサポートついでに家まで送って行ってね。わかってると思うけど男はみんなが狼になる必要ないからね?」
「人を鬼畜扱いしないで下さいよ。彼女の妹も友達なんでそんなことしませんよ。」
コウくんはオーナーを困った人を見るようにしながら着替えるために事務所を出ようとした。
「総士。合意の元なら問題ないよ。」
とオーナーはコウくんを茶化した。
「合意にはいたりませんから!」
当事者ながら除け者にされていた私は恥ずかしさで顔を赤らめながらも反論した。
「残念だったね総士。お前には高嶺の花だ。」
オーナーはこの手の話が好きなのだろうか。
どこまでも攻めていく。
「オーナー、セクハラで訴えられますよ。吉乃さん、すぐに着替えてくるから待ってて。」
「なんだよ揶揄い甲斐がないね。もうちょっと年長者を労りなよ。」
「その前に吉乃さんがオーナーのセクハラに屈するでしょ。」
♢♢♢♢♢
「やれやれ。行ったかな?吉乃さん少しだけいい?見た感じあの子とは壁みたいなのは感じられなかったんだけど、人間不信みたいなのを感じることある?だいぶよくはなったみたいだけど。」
「え?人間不信・・・ですか?いえ、そういう感じはないです。コウくんは双子の妹が仲良くて私自身はまだそんなに話したことないんです。」
ひょっとして公佳にフラれて?
ううん。さすがにそれはないかな。
「そうだったの?隣にいるのが全然違和感なかったよ。ああ見えてすごく気遣いのできるやつだから仲良くしてやってね。」
オーナーは優しく微笑んでくれた。
その後は他愛のない世間話をしていると
「おまたせ。吉乃さん帰ろうか。」
とコウくんが帰り支度を終えて迎えにきてくれた。
「いいかい総士。しっかりと送り届けるんだよ。家に着くまでが仕事だよ。」
「お疲れ様でした〜。」
コウくんはオーナーのいじりをスルーして事務所の扉を開けて私を先に通してくれた。
♢♢♢♢♢
「ごめんねコウくん。遠回りになっちゃうね。」
「ん?いや同じ方向だから問題ない。」
男の子と2人で歩くなんてシチュエーション始めてだから、何を話せばいいのか考えていたけどコウくんは会話がなくても気にする素振りがない。
私だけが意識してるみたいで恥ずかしい。
「ねえ、コウくん。」
「ん?」
「この前はごめんね。気分悪くさせちゃったね。八つ当たりなのかもしれないけど公佳を憔悴させた葛城くんが許せなくって。もうちょっとタイミング考えてくれれば良かったのにって。」
公佳にも話したことない私の心の中の黒い部分。
「じゃあそれは俺を恨むべきだぞ。2人は元々惹かれあっていた。そこに俺が横槍入れたんだからな。カズマは悪くないから許してやってよ。で、恨む相手が必要なら俺を恨めばいいから。でも仕事に支障のないレベルでな。」
「ううん。コウくんを恨むのはお門違い。フラれて傷ついたのはコウくんだけだしね。」
「お〜、中々エグッてくるね。もう吹っ切れてるから笑い話で済ますよ。」
コウくんは晴れ晴れとした表情で私に笑いかけてくれた。
しばらくすると我が家が見えてきた。
ん?家の前に人影?
「史華、お帰り。コウくん送ってくれてありがとうね。」
公佳がわざわざ家の前で出迎えてくれた。
「公佳?よく帰り時間わかったね?というかわざわざ出迎えにきてくれたの?」
私が不思議そうに聞くと、公佳はスマホの画面を見せてきた。
コウくん
俺のバイト先に吉乃さんが入ってきた。
え?すごい偶然だね。
史華をよろしくお願いします。
バイト終わったので10分後くらいに送り届けるから心配しないように。
コウが送ってくれるの?
ありがとう。気をつけてね。
「コウくん、公佳に連絡入れておいてくれたんだ。」
「オーナーのせいで予定より遅くなっただろ。初日だし心配するといけないからな。」
公佳はご満悦な表情で私の耳元で囁いた。
「ね、コウくんは優しいでしょ?」
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