第11話 公佳

「コウくん、お疲れ様。今日からカズくんと主力組で練習だったんでしょ?この前の試合でアピール成功したもんね。」


ユースでの初日の紅白戦。

結果は2-5の惨敗だったが序盤、俺のミドルシュートとカズマのコーナーからのヘディングシュートで幸先いい試合運びだった。

しかし、時間の経過と共に地力とチーム力の差が如実になって行った。


「まあ、想定の範囲内ってことで。それよりも吉乃。おまえが双子だって今日初めて知ったよ。一瞬おまえだと思ってなんでいるの?って話しかけちゃった。」


一時は好きになって告白したほどの相手なのに、家族構成すら知らなかった。

リサーチ不足だな。そりゃフラれるわけだ。

思い出して苦笑していると、

「なんか面白い事でもあった?史華失礼なこと言ってない?」

俺が思い出し笑いしていたのが気になったんだろう。

「失礼なことねぇ?ん〜、吉乃。吉乃さんとカズマって仲悪いのか?」

昼間のことを思い出して聞いてみた。

吉乃は少し困ったような顔をした。

「あ、悪い。言いたくないことなら言わなくていい。深入りして悪かったな。」

「ううん。大丈夫。ごめんね変な気使わせちゃった。な〜んかコウくんには謝ってばっかだね。」


♢♢♢♢♢


「吉乃。おまえが好きなんだ。俺と付き合ってくれないか?」

コウくんに告白されたのは半年前。

ビックリした。

コウくんが私のことをそんな風にみてくれてたなんて思ってなかった。

好意に対してはすごく嬉しかった。

・・・でも少し?ううん、かなり困った。

私には他に気になる人がいた。

その人とは中学で知り合った。


葛城和真くん。


中学1年でカズくんとは同じクラスになった。

私は双子ということもあり、いつも史華といたからクラスに馴染むのが難しかった。

そんな時、カズくんが話しかけてくれてサッカーが好きだと話したらすごく話が弾み、カズくんを中心に友達が増えていった。


カズくんの所属しているクラブチームに女子チームもあると聞いて私も通いはじめた。

初めはランニングすらついていけなかったけど、練習のない日にカズくんが自主練を手伝ってくれた。


中学2年の夏休みの前あたりにコウくんがうちのチームにきた。

初めは目つきが鋭く、他人を寄せ付けない雰囲気をしていたから苦手だった。

ある時、フットサルの大会にミックスチームで参加すると言われて私はカズくんとコウくんと同じチームになった。

この頃にはコウくんも時折笑顔を見せてくれるようになっていたが、まだあまり話したことはなかった。

試合を重ねていくうちにコミュニケーションが取れるようになり、大会が終わってからは普通に話せるようになっていた。


コウくんは時折、寂しそうな表情をする。

コウくんはとても臆病だ。

コウくんは人一倍努力をしている。

コウくんは周りをよく見ている。

コウくんはすごく傷つきやすい。


コウくんがチームに入ってきた頃、極度の人間不信だったらしい。

だからカズくんに言われた。


"ソウには誠実に接してやってな"


私は男女の垣根を越えて接していこうと思っていた。

だからコウくんに対してははないと思ってた。


告白された時、正直気持ちが揺らいだ。

コウくんだったら私を大切にしてくれるし、一緒にいて安心できる。


でも、私はカズくんが好き


カズくんの気持ちはわからない。


「キミ、ソウに告白されたのは知ってる。おまえがソウに結果を出す前に伝えたいことがある。」


学校の帰り道、カズくんが突然振り返った。


「キミ、おまえのことが好きなんだ。ソウと天秤にかけてもらって構わない。心が決まったら返事をくれないか?」


カズくんが告白してくれた。

うれしくないわけがない。

でもコウくんと天秤にかける?

私ごときがそんなことできるわけないよ。


「カズくん・・・。」


悩んだ。

これまでに経験がないくらいに。

どうすればいい?

コウくんが先に好きだと言ってくれた。

返事ができずにモタモタしていたら、今度はカズくんが好きだと言ってくれた。


"天秤ってなんだろうね"


考えても答えを出せないでいると私は食事が喉を通らなくなり、夜も寝れなくなった。


「大丈夫?公佳、悩んでいることがあるなら私に話して。誰かに話すだけでも楽になるよ。」

史華に隠し事はできない。

やっぱり双子だね。

私は史華に悩んでいることを打ち明けた。


「そっか。葛城くんもなんで今だったのかな!?もっと早くに告白してくれてたら問題なかったのに!誰かに取られそうになって慌てて告白?天秤にかけろ?それって公佳だけに悩み苦しめってことじゃない?」


史華はカズくんに対して怒っていた。


でも、やっぱり私は・・・。


「カズくん、私もカズくんのことが好き。例えコウくんとは友達に戻れなくてもカズくんと一緒にいたい。カズくんの彼女にしてくれる?」

「キミ、ありがとう。でもおまえは一つ勘違いしてるぞ。ソウはそんな心が狭いやつじゃない。もしキミが心配なら俺から説明するよ。」

カズくんは私を気遣ってくれていた。でもそれはダメだ。


「ううん。それは私が言わなきゃいけないよ。コウくんは私に誠実に告白してくれた。コウくんには誠実に接しなきゃだめでしょ?」

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