第7話 宣戦布告
そうちゃんが毎朝ランニングをしているのは知ってた。
5時くらいには起きてるのかな?
中学の頃からそうちゃんは私のことを避けるようになった。
まあ、仕方ないかな
私はそうちゃん以外の男子と仲良くしたいとは思わない。男性嫌いって程ではないけど下心が見え見えなのが受け付けられない理由。
もちろん、みんながみんなそうではないけどね。
高校生になったことをキッカケに私は行動を起こした。
「おはよ。」
マンションの中庭でストレッチをしているそうちゃんの背後から挨拶をした。
「ん。」
そうちゃんは振り返ることもなく一言返してくれた。
「そうちゃん、あのね。私も一緒に走っちゃダメかな?」
精一杯の勇気を出してお願いをした。
これまでも学校では喧騒に乗じてそうちゃんに近づくことはできるけど、プライベートではなかなか難しい。
「お前のペースに合わせないぞ。」
そうちゃんは少しだけ私を見ながら答えてくれた。
「うん。」
そうちゃんとの2人だけの空間。
本来ならばうれしさでいっぱいなんだけど、今は緊張している。
「すぐいけるのか?」
「うん。体ほぐしてきたから大丈夫。」
そう答えるとそうちゃんはゆっくり走り始めた。
私も体力づくりや美容のために定期的に運動している。元々運動はできるほうで学校のマラソン大会でも上位に食い込んでいる。
そうちゃんの横に並び走っているがついていくのが精一杯だ。
やっぱり本格的に走り込んでいる人とは比べ物にならない。
それでも
「そ、そうちゃん。走りながらでいいから話し聞いてくれる?」
「お前にそんな余裕があるならな。」
そうちゃんはチラッと私を一瞥するとすぐに前を向いて走り続けた。
「うん。あのね。今さらなんだけどね。そうちゃんに確認というか、お願いというか。色々話したいことがあるの。正直何から話したらいいのかわからない状況なんだけどね。
まずはまた私の存在がそうちゃんの邪魔になっちゃうかもしれないけど3年間よろしくね。」
私は俯きながら言った。
そうちゃんは何も言わない。
速度を落とさずに走り続けてる。
私は黙り込んでしまい、次第にそうちゃんについて行けなくなり遅れ始めた。
そうちゃんは振り返りもせずに走り続ける。
私はやがてそうちゃんの姿を見失ってしまった。
困ったことにそうちゃんがどこを走っていったのかがわからない。
私はしばらく立ち尽くしてしまった。
「はあはあ、止まっていても仕方ないや。」
再び走り始めようとしてふと思い出した。
あれは小学4年生の時、私達は自転車で小さな冒険に出かけた。言い出しっぺは私。
やたらめったら走り続けた結果、迷子なってしまった私達はとりあえず来たはずの道を戻って行った。
しばらく走り続けると海に出た。
すでに日は傾き太陽は水平線のかなたに沈んで行こうとしていた。
「綺麗〜。ねぇ、そうちゃん綺麗だね!」
「ふふ。香澄は現金だな〜。さっきまで真っ青な顔してたのに。いまはいつもの可愛い顔に戻ってる。」
そういえばそうちゃんはこの頃からタラシだったな〜。
あれ?ひょっとしてそうちゃんのランニングコースって。
私はあの海まで走っていく。
「そうちゃん!」
「遅かったな。」
心なしかそうちゃんが微笑んでくれた気がした。
「なあ香澄。俺もお前に言っておきたいことがあるんだ。」
ドキッとした。名前で呼ばれたのは久しぶりだ。少し心を許してくれた気がした。
「うん。」
「お前は勘違いしてるかもしれないけど、俺はお前のこと嫌いじゃないぞ。たしかにお前とのことを疑われて嫌がらせされたりしたけど、お前が悪いわけじゃない。むしろお前は被害者だからな。だからお互いのためにお前とは距離を置く必要があったんだ。」
そうちゃんは優しく微笑んでくれている。
「だから俺に後ろめたさなんて感じるな。お前の好きなようにすれば良い。俺もそうするから。」
「そうちゃん。じゃあ、これからはそうちゃんのそばにいていいんだよね?」
そうちゃんは少し考える素振りをし、
「あ、別々にってことな。だってお前といると目立つし、他の女の子と仲良くなれないだろ?あくまでも距離感は友達で。」
「そうちゃん⁈この話の流れからしたら、お互い打ち解けてお付き合いが始まるって流れでしょ?テンプレってやつかもしれないけど大事にしようよ!」
そうちゃんの左腕を掴みながら訴える。
「いやいや。せっかくの高校生活だからお互いに楽しもうって話しだ。付き合う?たしかにお前は可愛いし性格もいいとは思うけど俺のタイプじゃないから。付き合うはないな」
そうちゃんはそう言うと楽しそうに笑った。
「もう!そうちゃん!絶対に私のこと好きになってもらうからね!例えそうちゃんが誰かと付き合ったとしてもそうちゃんのお嫁さんになるのは私だから!」
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