第5話 ベクトル

バン!


「はあはあ。」


HRが終わり急いでそうちゃんのところに行く予定だったのに、クラスメイト数人に囲まれてしまい突破するのに時間がかかってしまった。


B組の教室の扉を勢いよく開けて中を覗き込んだが、やっぱりそうちゃんの姿はなかった。

それならばと今回のの葛城くんを探してみるがこちらもすでに帰った後のようだった。


「も〜、香澄ちゃん。そんな開け方すると扉壊れちゃうよ。」


私の肩口から教室を覗き込みながらみやびちゃんからの注意が飛んできた。


「ぅぅう〜。みやびちゃん、そうちゃんいないよ〜。もう帰っちゃったかな〜。」


「連絡してみればいいじゃない。スマホ持ってるでしょ?」


はい。そうちゃんも私も持ってますよ。

でもね。でもねひやびちゃん・・・


「番号知らないもん。」


うん。そうちゃん教えてくれないもん。

用事あれば家こればいいだろって。

家伝わかるだろって。

だまり込んでしまった私を今まで見たことのない驚愕の表情をした親友が固まっていた。


「・・・まじですか。そこまで徹底してたか纐纈め!」


あ、今度は悪魔のような表情に変わった。

そしておもむろにスマホをいじりだした。


「まさかみやびちゃん。そうちゃんに連絡取れるの?私の知らない間に口説かれてたの?それともまさかみやびちゃんから!?」


「だまれ。」


取り乱した私にみやびちゃんのチョップが飛んできた。


「ホントにも〜!普段はパーフェクトJKなのに、こと纐纈くんのことになるとポンコツ化するんだから。香澄ちゃんが知らないのに私が知ってるわけないじゃない。カテナチオ纐纈くんが香澄ちゃんに近しい人に連絡先教えないでしょ。」


いつもごめんね。

ううん。ありがとうね。

みやびちゃんがいてくれるからの所で踏みとどまれてるんだよ。


「みやびちゃん。私達も帰ろ。」


みやびちゃんは柔和な表情で頷いてくれた。


♢♢♢♢♢


あ〜。これは運が悪い。


やっとのことで校門までたどり着いたのに、そこには中学時代からの先輩が立ちはだかっていた。


香澄ちゃんvs冴子先輩。


2人の間に火花が見える。


 錯覚よね?


2人の背後に龍虎がいるようだ。


「お久しぶりです冴子先輩。」


「ええ、お久しぶりね聖川さん。あなたがウチにくるとは思わなかったよ。まだソウくんを追いかけてるわけだ。」


ふたりとも美人なのに笑顔が怖い。

ここはさっさと逃げねば

・・・ん?


「冴先輩、纐纈くんに会ったんですか?」


何気に聞いてしまったのが後の祭り。


香澄ちゃんの顔色が変わった。


「またですか。ここでもそうちゃんをたぶらかすつもりですか?ええ、先輩は綾姉とも仲良しだから会いにいく機会もできるし、そうちゃんの信頼もあるし、おまけにって きゃっ!」


香澄ちゃんが暴走し出したときに、私の横を通りすぎ綾音先輩が香澄ちゃんの背後から耳に息を吹きかけた。


「な、なにを・・・。あ、綾姉⁈公衆の面前でなにするのよ!」


香澄ちゃんが顔を真っ赤にしながら訴えている。

おそらく香澄ちゃんが唯一敵わない同性。

纐纈綾音こうけつあやね先輩。


「こら香澄。公衆の面前ってわかってるなら落ち着きなさい。総士は?もう帰ったの?」


「10分前くらいに帰ったわよ。随分急いでたみたいだけど聖川さんから逃げてたみたいね。」


いや冴先輩、その辺にしておいて下さいよ。恨みがあるのはわかりますけどね。香澄ちゃんも纐纈くんのことになるとポンコツなんで・・・って、ほらやっぱり涙目になってきた。


「はいはい。さえもその辺でやめなさい。雅は香澄を連れてって。私はさえと帰るから。」


綾音お姉さまの言うことなら喜んで!

と心の中で返事しながら、


「わかりました。それでは綾音先輩、冴先輩失礼しました。」と香澄ちゃんを引きづりながら学校を後にした。


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