第9話 フローティング



センターポジションというと何を想像するだろうか。


アイドルグループの総選挙。


バスケのセンター。


いずれも真ん中である。


プー球にも真ん中のポジションが存在する。バスケのセンターのように体格のいい選手が適任で、アイドルのように華がある。


そして過酷な水中でのバトル。


それがフローティアーというポジションだ。




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赤江はその大きな体に比例した身体能力を持つ。秀でた泳力を持つわけではないが、チームのフローティアーとしての自覚を持っていた。


だからこの日も体を張っていた。


(!!!!!!)


相手は隣県チームの巨漢。身長は赤江と同じく170cmほどで、体重はそれ以上。共に70kgを超える体をぶつけ合いながらポジション争いをしていた。


(!!、!!)


道誠の攻撃ターン中である。攻撃時間30秒のうち、既に15秒が経過している。左ゾーンの亀田がフリースローを獲得した。


味方がボールを拾うまでの僅か2秒間、時計は止まり、センターの2人は激しく争い続ける。


「パス!!」


右ゾーンの永四郎が声を挙げた。彼の前には守備の選手がおり、パスを受けるに最適という状態ではない。


亀田は中央、ゴール前にパスを出す。時計が再び動き始める。


赤江の態勢は五分といったところ。利き手に球を収めるが、すぐさま巨漢の腕が迫る。


プー球においてボール保持者を狙う場合、腕を抑えることが最も効果的だ。肘に手を添えるだけで満足な投球は出来なくなる。次いで肩を狙う。攻撃側はそれをさせまいとボールを高く掲げるのが定石であった。


赤江はどうか。


腕を上げることは叶わない。右肩に巨漢の腕が乗っていた。のみならず、相手の体重がのしかかってくる。


(んおおお)


マジで重い。見かけ通りの重量を巻け足で耐えながら赤江は旋回を狙う。亀田がパスを出してからここまで3秒。


(浮けん!フリースローで仕切り直すしかない)


相手を振り切ることを諦めた赤江はボールを離した。だが、笛は鳴らなかった。


(嘘だろ!)


プー球は頻繁にフリースローが取られる。パスやシュート、ドリブルなどの攻撃側の諸活動を阻止した際、ボールから腕が離れたことを条件に。1試合のうちに100回は取られるであろう、珍しくもなんともない反則なのである。


ゴール前でもそれは変わらない。しかし、今回は「フリースローを取るためにわざと手を離した」と判断されたらしい。


体勢を崩した赤江の目の前で巨漢がボールを掴み、近くにいたゴールキーパーに渡した。息つく暇もなく驚異的な加速で赤江から離れていく。


「後抜けー!!」


自軍ゴールキーパー石国の声。遠ざかっていく巨漢。ダッシュで追いつくことを諦めた赤江はゆっくりと自陣に戻りだした。


40分に渡る試合のうち、およそ20秒ほどのことであった。




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