第8話 ネクストステップ




道誠中学水泳部、その三年生は精強である。


かつて永四郎がその身体能力をエイリアンと評した者たちである。


県予選を順調に勝ち進んだ彼らは、地方予選も危なげなく通過した。



そして夏の全国大会。


彼らは2回戦で負けた。





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冬の全国大会。


彼らは県予選、地方予選を危なげなく通過し、全国大会に臨んだ。


永四郎は帯同しなかったが、中学一年生の中からは控えゴールキーパーとして石国が、フィールドプレイヤーとしては1番体の大きい赤江が選出された。


だが、東京で開催される全国大会に2人の出場機会は無かった。


(先輩たちがこんな苦境に立たされるなんて)


地方では敵なしの我ら。それが全国大会ではどうだ。よく知らないチームに苦戦している。


事前に対戦相手の情報を集め分析する、いわゆるスカウティングが欠けていたことも苦戦の原因であろう。


国民的RPGのナンバリングが8であったときの話である。縁もゆかりも無い地方のチームのことなど知る由がない。インターネット上に情報が出回ることもなかった。


ましてやプー球はマイナースポーツである。月刊の専門誌で注目チームが特集されることも、地方予選の結果が掲載されることもなかった。




東京体育館。プールの喧騒はどこまでも騒がしく。

笛の音と怒声と、少年たちの情熱と、そして絶望で充満していた。




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春が巡ってきた。


永四郎を始め、育ちざかりの13歳たちの体格は一回り大きくなっていた。身長はプラス2センチ以上。体重の増加率は個人差があった。


プー球と出会って1年が経とうとしている。


週に5〜6日の練習。壁にボールを打ちつけてハンドリングを強化した。学校のプールはもはや何千往復したか分からない。肌は日焼けで黒くなり、冬の訪れとともに元に戻った。冬は学校の周りを走らされ、心肺機能の強化に努めた。


たくさん練習した。


けれど先輩たちは負けた。春の全国大会も2回戦で負けた。


14人いた同級生は、4人が辞めた。強度の高い練習についていけなかった者、プー球に喜びを見い出せなかった者、理由はそれぞれあるだろう。




永四郎は思う。自分がプー球を続ける理由はあるだろうか。


技術の深淵。自分はまだ表層しか分かっていない。


それに、仲間たちがいる。先輩もいる。


辞める理由がなかった。この逡巡すら一瞬であった。





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道誠中学、並びにの周囲には数十の桜が植わっている。


卒業式の日、それらは大量の花びらで卒業生たちを見送った。


水泳部からもが卒業した。


永四郎たちはまもなく中学二年生になる。



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