第7話 エクスクルージョン



6月の終わり。


新入部員たちが海パン姿に抵抗を覚えなくなった頃のこと。


夏の本番はこれからだというのに、既に水泳部員たちの肌は茶色に焼けていた。


少年たちの細い体にも筋肉がつき始めていた。もっとも幾人かは元々太り気味で、その脂肪は健在であったが。




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《ピピピピ、ピー》


両チームが審判に注目した。


高く掲げられた手はパー。


「誰?」「5番!」「亀田!」


短く複数、そして長く1回。特徴のある笛の吹き方。


退水たいすいである。


プー球における最も重い反則で、該当した選手は20秒間退場となる。20秒経つまでは交代もできないため、味方のチームが数的不利な状態となる。


また試合中に3回退水した選手は、以後、その試合には出場できなくなる。言わば本当の退場だ。




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亀田かめだ勇気ゆうきは同級生の永四郎と同じく160cm強の体格を持っている。膂力も泳力もまだ並の範疇を出ないが、人一倍負けん気が強かった。


それが行き過ぎて退水になってしまったわけだが。


(さすがに沈めたらダメか)


1人少なくなった自陣を眺めながら、亀田は今の出来事を省みていた。


攻防の転換の際、一瞬の隙を突かれ永四郎に前に入られたのだ。


(このままだと数的不利な状況を作られる!)


亀田は永四郎を逃がすまいと足を持ち、引っ張った。そこを審判に見咎められたのだ。


先輩たちの試合で見たことはあるが、自身生まれて初めての退水。体を震わせる興奮は羞恥によるものだけではなかった。


(なるほどね。あれが退水になるのか)


亀田は反省が得意であった。


(攻防転換の際、カウンター狙いでそれまで守備だった選手が攻撃に転じる。前に入られないためにはどうすればいい?)


答えの出ないまま、20秒が経過した。


「入水ー!」


練習試合に出ていない誰かの声。


機敏に退水エリアを抜け出る亀田。残り数秒でシュートを撃たんとする敵チームに猛然と踊りかかっていった。


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