第4話 その桜簾を抜けて
永四郎、赤江、その他の面々が入部した。
総勢14名。
まずは泳力、すなわち速く泳げることが肝要である。
新入部員のうち、3名は泳ぎが達者であった。クロール50m32秒ほど。競泳であれば県大会の予選を勝てるかどうかというところ。十分に速い。
残りの者たちは『平凡な泳力』というカテゴリに属する。クロールで50m40〜50秒程度と言えば分かりやすいだろうか。『泳げる』というレベルである。永四郎もここに含まれた。
彼らは初めのひと月で基本的な動作を習得した。すなわち、
浮くための基本である巻け足。
水中で体を引き寄せるための
状況判断のために必須となる、顔を上げてのクロール。
GKからボールを受ける際に有用な、蹴り足による背泳。
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彼らが行う競技は正式には『プール球技】という、激しい実態にそぐわない地味な名前を冠している。
マイナーである。
サッカー・野球・バスケといった人気どころと異なり、特殊な設備が必要となる。もちろん体育で必須となる土のグラウンドでも、雨の日にお世話になる体育館などではない。
大抵の者は足がつくまい。浮かなければ水中に没し、呼吸ができず、死ぬ。死なないためには自力で浮力を得るしかない。
必然、巻け足が重要となる。数ある水中動作の中で、一番効率よく浮力を獲得できるものが巻け足なのだ。鍛えた者ならば10kgのウェイトを持ち上げたうえで浮くことも可能である。
深さの埒外さは言及したが、では広さはどうか。こちらは25m×15mと、学校に敷設される一般的なサイズでよい。(15mは8コース分に相当する)
全国大会に準ずる試合であれば、より広いサイズが求められるのだが。
想像してほしい。
一般的なサイズの、しかし足をつくことの叶わないプール。
あなたが泳ぎ疲れたとしても寄りかかるものはない。
足がつっても自力でプールから脱出しなければならない。
それどころか、2チームに別れて相手より速く泳がなければならない。攻めるだけではない、得点が入らなければ守備に戻らなければならないのだ…ダッシュで。
しかし、
恐怖であった。
こんな過酷な場所で7対7の競技をしながら休みなく泳ぎ続ける。それがプール球技なのか。
多くの新入部員がそうであるように、永四郎もまた戦慄した。
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永四郎は13歳である。従って同級生たちも同じ年齢となる。
一番大きな者、赤江たち数名は身長が170cmに迫る。ほぼ成人男性である。
永四郎のように160cm強と、一回り小さい者も数人いた。
だがしかし、プールで殊更ものを言うのは積極性であった。
シビアな運動能力と、相手との接触。駆け引き。
物怖じしない方が有利なのは言うまでもない。
若さ特有のむらっ気を見せつつも、永四郎を初めとした7人程度が、特にひたむきな姿勢を見せていた。
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これより彼らが心血を注ぐは、
美しくも儚い水中の格闘技。
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