傘を差す人

 日曜になると、「俺」の家の竹垣の向こうに、紫色の傘を差した人が立つ。


なんて不思議な話でしょうか。


日曜ごと……となると、その紫色の傘は晴雨兼用のものかな?

それじゃあ傘の主は女性ってことになりましょうか。


何のために?

胸がワクワクしてきます。


さて


 小雨が紫陽花を濡らす昼下がり、部屋の中で「俺」が旧友と将棋を指していると、いつものように紫色の傘が竹垣の向こうに現れます。


青々とさわやかな竹。

夢色にけぶる紫陽花。

そして紫色の傘。


小雨のふりしきる庭の風景を鮮やかに切り取って、作者は私たちを物語の奥深くへと誘います。


「傘の色が紫色だから、きっと美人に違いない。」

「友人と俺」の旧友なればこその会話が進んで行きます。


「見に行こう。」


ついに二人は玄関に向かい、竹垣の向こうを覗くことにしたようです。

私たちも走って、彼らの後を追いかけて、扉を開けて、そっと忍足でついていきましょう。


ワクワクしていた胸の鼓動が、ドキドキに変わっていきます。

でも、何しろホラーですから、用心しておかなければなりません。


そして……


あれ?


それから


あらら……


なんてことでしょうか。作者は簡単に種明かしをしてくれません。


え?どうゆうこと?

私たちが首を捻ると「俺」が言うのです。


嗚呼、そうか。


「俺」が見つけた結論に、読む人は思わず微笑みが浮かぶでしょう。


優しいホラー。


しっとりと、まったりと。

雨の日に見つけたのは、優しい記憶。


雨の降る日は、何か特別なことが起こるかも知れないと感じさせられる作品です。


小雨は私たちの心に、優しい花を咲かせたようです。


著者 紫 李鳥

「傘を差す人」


https://kakuyomu.jp/works/1177354054889958748/episodes/1177354054889958757

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