幕間1
S-01『伊吹が小姫とイチャつくだけシリーズ』1
「伊吹くん、伊吹くん、伊吹くんっ!」
「うおっ……何? 急に何? 家入った瞬間に駆け寄ってくんなよ。怖い」
「……それは酷くないかな……」
「え。あ、いや、そんなに落ち込まんでも」
「ぼくはただ伊吹くんが来てくれて、すっごく嬉しいだけなのに……」
「あ、え、……と」
「……くすん」
「す、すまん! 悪かった。態度悪かったよな? うん、俺もお前が喜んでくれて嬉しいよ」
「……ホントに?」
「本当、本当! さあ今日は何をする? たまにはお前といっしょに遊んでやるぞ?」
「えっへへー。ありがとう、伊吹くんっ!」
「うおっ!? だからっていきなり抱き着いてくるな、ちょ――おい!」
「だめ?」
「……んんんんんんっ! だめ、じゃ……、ない……っ!!」
「そんな苦渋の顔で」
「こっちだって理性を酷使してるんだよテメェ……」
「じゃあハグしてもいいよねっ!」
「おま、ちょ、あかんて! マジ当た、おぉおぉうあぁ、――あはっふ」
「わーい。三日振りの伊吹くんだー。嬉しいなー♪」
「くぉおぉおぉぉぉ……っ!!」
「……伊吹くんはホントにチョロいなあ」
「え? なんだって?」
「わわわわわ、伊吹くんっ! 頭を揺さぶるのはやめてほしいよっ!」
「え? なんだって?」
「聞こえてるじゃないかあ。さっきから全部聞こえてるじゃないかあっ!」
「この距離ならなあ!!」
「あわわわ、やめておくれよ! 引きこもりは、そんな急激なGには耐えられないよっ!」
「ったく……ちょっと甘い顔見せるとすぐ調子に乗りやがる」
「…………」
「なんだよその目は」
「いや、ぼくが言うことじゃないけれど。これで《ちょっと甘い》なら、そりゃ誰もが調子に乗ると思うよ」
「それは本当にお前が言うことじゃないな……」
「えへへ。でも結局、伊吹くんは許してくれるし、ぼくに暴力を振るったりは絶対しないから好きだよ」
「この話の流れでそんなこと言われても俺は一ミリも嬉しくない」
「いやいや、本心だって。普通ならぼくにストレスを溜めて、それが体罰に変わったりもするものだから」
「――――」
「その点、伊吹くんはどんなに甘えても、頭を揺らすくらいがせいぜいで、絶対にぼくを傷つけたりしないからね」
「……。だからって調子に乗るなよ」
「うふふ。でも、ぼくだって女の子だからね。信頼する男の子には、ちょっとくらい傷物にされたいって思いもあったり、するんだよ?」
「…………」
「ものすごい顔だね、伊吹くん」
「俺はもう、なんて言ったらいいのかわからん」
「まあまあいいじゃない、なんだって。それより伊吹くん、ほら。抱っこして?」
「あ? なんでだよ、そこまで甘やかして堪るか」
「えー、いいじゃないかあ。ぼくは伊吹くんがやって来たから、こうして玄関まで迎えに来たんだよ。リビングまで送ってくれるくらいの甲斐性を見せてくれたっていいじゃない」
「それ単に俺の仕事が増えてるだけなんですが」
「だめ?」
「……抱っこは無理」
「ちぇー」
「でもまあ……負ぶってやるくらいなら、別にいいぞ。ほら」
「…………」
「なんだよ、早く乗れよしゃがんでんだから。……何笑ってんだ?」
「うーん? へへー。べっつにー? えいっ!」
「…………」
「さあ、伊吹くん。れっつごーだよ!」
「……軽いなあ、お前は」
「そう? これでもおっぱいには重厚感があるんだけど。背中の感触を楽しんでくれたまえよ」
「言うんじゃねえよ必死で意識逸らしてんだから」
「……へへへ」
「だから、さっきから何笑ってんだっつの。マジで」
「だから別にー? ……伊吹くんは、やっぱりチョロいなあ、って」
「るっせ、ひきこもり」
「だから大好きだよ、伊吹くん。――大好き」
「…………お前を軽いっつったのは訂正させてもらうわ」
「うん?」
「――お前は、重い」
「愛が?」
「存在が」
「えっへへ。それはとっても嬉しいな」
「このやり取りのどこに喜ぶ要素あったんだよ、ったく……」
「伊吹くん」
「何?」
「――はむっ」
「ほぁ、」
「ん……、れろっ」
「ああああああああああ、おいいっ! なんで首筋を舐めてんだテメェはアホか!?」
「興奮する?」
「するわ! するから困ってんだどうしてくれんの!?」
「もっとして」
「馬鹿なの!?」
「かぷっ」
「ほぎゃあ!? 耳噛むな、ちょ、なんで徐々に上が、――ふあっ」
「伊吹くん、……もしかして耳弱い?」
「うるせえ! やめろ! 囁くな!」
「――ふーっ」
「あー、ごめんなさいやめて! 本当にやめて許してなんでもするからっ!」
「ん、今なんでもするって」
「言った言った言った言った言った! 言ったからやめて! マジで本当にやめてっ!」
「……そんなに言うくらいなら、ぼくのこと落とせばいいのにさ」
「できたらやっとるわ!」
「――――」
「今日お前ちょっとおかしいぞ!? いつもさすがにここまでやらねえだろ!?」
「……ね、伊吹くん」
「なんだ!?」
「ぼくのこと押し倒してみてほしいな」
「ざぁっ!?」
「なんでもしてくれるんでしょ」
「っ、ああそうかよ! だったらお望み通り押し倒してくれるわ畜生!」
「わふっ」
「おらどうだ!」
「……とかなんとか言って、ちゃんとソファに着地させてくれるのが伊吹くんだよね」
「お前みたいな貧弱なの、乱暴に扱ったら壊しそうだなんだよ。――馬鹿」
「ふふ。伊吹くんに押し倒されちゃった。こういうの、なんて言うのかな? ソファドン?」
「新手の怪獣みてえだな……」
「性欲の怪獣だね」
「……お前、終いにゃめちゃくちゃにすんぞ」
「今すぐして?」
「おら」
「うわわわっ。髪っ、髪のことじゃないよっ! 伊吹くんは誤魔化すときいつもそれだよっ!」
「うっせーな……今日なんなんだよ、マジで。ちょっとおかしいぞ」
「……だって」
「だって、なんだ?」
「……伊吹くん、もしかしておっぱいは小さいほうが好みなの? 年下好き?」
「…………………………………………何言ってんの?」
「えぇー。間が気になるよ」
「気にするな。てか何を気にしてんだ」
「んー……あはは。まあちょっと、いろいろ?」
「…………」
「ね、気づかない? 伊吹くん。今日はぼく、いつもとちょっと違うんだよ」
「まあだいぶ違うが……そういう意味じゃねえんだよな。……ん?」
「気づいた?」
「お前、……いい匂いするな」
「お、――ぁ、う……」
「なんか……シャンプーの匂いっていうか」
「あのっ。い、伊吹くん? その……そんなナチュラルに髪を嗅がれると、ぼくめっちゃ照れるよ……?」
「お前の恥じらいポイントわかんねえ」
「わっ、わからないのは伊吹くんのほうだよぉ……っ」
「てか……え、何? お前、自分ひとりで風呂入れたの? ひとりで着替えたの!?」
「うん、まあ……あのね、伊吹く、」
「――お前すげえじゃねえか!」
「えっ」
「なんだよ、やりゃあできんじゃん! よくやったなあ。よくやったぞ! 冬泉は超いい子だなっ!」
「お、おおぅ……。そんなに褒めてくれるんだ……?」
「当たり前だろ!!」
「はわ?」
「俺もう本当お前が誇らしくて仕方ねえよ! よくやったなあ。ちゃんと髪も乾かせたんだなあ。偉いなあ冬泉。お前もうどうしたんだよ、なんだ今日、超かわいいぞ! 頭撫でてもいいか!? お前は最高だ!!」
「…………い、伊吹くんのほうが絶対ズルいんだよ全部ぅ……」
「え、なんだって? よく聞こえなかったけど、まあいいよな!」
「なんでそこだけぇ!?」
「なんだなんだよ冬泉お前、超かわいいじゃん今日! いつもそうしてろよ! そうだよな、今日は綺麗だもんな! やっぱそうしてないともったいないって! おいおい、よく見たらお前、超美少女じゃん! 参ったなあ!?」
「…………参ったよぅ。もう助けてくれよぅ……恥ずかしすぎて死んじゃうよぉ……」
「え、てか何? どうしてお前、今日はひとりでがんばったんだよ」
「い――今になってそれ訊くのぉ!?」
「うん? そりゃ訊くだろ。お前のがんばりは全部俺が褒めてやらなきゃおかしいだろ!」
「どぅああぁぁぁぁぁぁ……っ」
「で、どうしたんだ!?」
「いや……その、えっと……」
「ん?」
「……き、綺麗にしておいたら、えと」
「おいたら!?」
「い、伊吹くんと……いつもより、くっつけるかな、って……」
「…………、あ。えっと」
「……」
「……」
「……えへへ」
「――――――――――――――――っ」
「伊吹くん」
「……何?」
「耳、赤くなってるよ?」
「…………うるせえな……正気に戻っただろ、馬鹿……」
「正気じゃなかった自覚はあるんだね」
「正直……」
「……ふへへ。この体勢だと、顔、よく見えちゃうね?」
「っ、ああもう終わりっ! ほらあの、なんだ! 部屋の片づけとか、そろそろやりに――」
「待って」
「――――」
「今日は、いい。いいから、代わりに……もうちょっと、こうしててよ」
「お、前なあ……」
「おねがい」
「……、あああもうっ! わかったよ!」
「伊吹くんっ」
「今日は、……映画でも観ようぜ。なんかあんだろ」
「いいね! このためにいいテレビが置いてあると言えるよ!」
「言うなよ……んじゃ、なんか菓子でも取ってくるか。買い置きあるだろ?」
「だめだよ」
「駄目?」
「伊吹くんが動いたらくっついてられないじゃない」
「…………、マジで言ってんの?」
「大マジだとも。行くなら、いっしょにぼくも連れてって?」
「め、めんどくさ……」
「おねがい」
「……」
「おんぶ」
「…………はあ。わかったよ、乗れよ」
「えへへ。じゃあ、乗せてもらっちゃうね」
「はあ。……俺はチョロいなあ……」
「いやいや」
「え?」
「あれは訂正。やっぱり、伊吹くんは難易度めちゃくちゃ高いよ。チョロいのはむしろぼくだったよね。改めて理解した」
「それはそれで釈然としねえけど――でも」
「うん?」
「お前だって充分、面倒臭えよ」
「それ、伊吹くんも同じでしょ」
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