第4話 桜の國

「私の国にようこそ!…とは言っても、死後の世界みたいなもんだけどね。」

まぁ、死後の世界だよな。もう、向こうの世界には帰れないんだから。死んだも同然だ。

「とりあえず、私の家に来てちょうだい。立ちっぱなしだと疲れるでしょう?」

「あ…はい。あの……あなたは?」

「え?あぁ、私は桜姫さくらひめ。適当に呼んでちょうだい」

桜姫か……

呼び方が思いつかないな……

「さ、桜姫さん…」

「……堅苦しいな。もっと他の呼び方はないのか?」

「すみません…思い浮かばないです…」

「むぅ……。じゃあ、こうしよう。今からここに咲いている桜の種類を教える。その中から呼びやすいのを選んでくれ。多少、呼び方を変えても良いぞ。私は桜の姫なんだからな。」

「は、はぁ……」

「んじゃ、ついて来い」

それから何時間経ったかは覚えてない。

いろんな種類の桜の説明を聞いた。

その中から選んだ、桜姫の呼び方は―

「シダレザクラのシダレ、でどうかな。」

「シダレか。悪くないな。」

「よ、よろしくお願いします…」

「そう畏まらなくてもよいのじゃが……まぁ、よろしくの。話を進めるが―この後、私の家に案内しよう。どうせ寝泊まりするところがないのだろう?」

あー。出会ってばかりの女性宅にお邪魔になるんですか。なんか、本能的に抵抗しちゃいますね。


シダレの家は、元いた場所から歩いて5分ほどの距離にあった。木造建築2階建ての家だ。

「結構豪華な家ですね…」

「頑張ったぞ!」

1人でこの家の大きさだもんな……

「さ、入った入った!」

「お、お邪魔します……」

家の中に入った瞬間、とてもいい匂いがした。なんか、暖かい春の匂い――

「どうじゃ?いい匂いじゃろ。全部桜の木で出来とるしな。それに、私がちょっとした魔法で桜の匂いを付けたんじゃ。」

「へぇ~。なんか、落ち着きますね」

「おぉ!わかってくれるか、ハルキよ」

「なんか、ポカポカします!!」

「そうかそうか!やっぱり私が見込んだとおりじゃったな!」

シダレは満面の笑み。……ん?……?

「シ、シダレ。聞きたいことがあるんだけど…」

するとシダレの目付きが一気に変わり、ニヤリと笑って―

「まぁ、そんな話を玄関でするものじゃないだろう?」


―まるで、全てを知っているようなセリフだった。


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