夕凪の唄
中目黒サニ太郎
第1章・鳴り雪ぐ
1
ブリッヂを渡った先にある島で、一人の少年が新雪のように肌の白らかな少女と出会いました。夜風の強い夜だったので、少年は着ていた外套を少女にかけてあげました。少女は丁寧な礼を述べると、彼に出会うまでの経緯を語り始めました。彼女の言い分はこうでした。
自分は頂界から来た精霊であり、神様からの言伝を地界の古き友に伝えるため使わされたのだ。少年は頂界を信じていなかったので、もちろん、彼女の言うことも信じませんでした。しかし、彼は少女の手伝いを買って出ました。無鉄砲な考えでした。ただ、何もない一日の終わりにこのような出来事が起こったことを、少年は密かに喜んだのでした。さらに、彼は日頃から勇敢で心優しいと評判でしたが、この時の彼には、また別の理由がありました。
彼は少女に一目惚れしていたのです。もちろん、少女には秘密。
さあ行こう、と少年は言いました。ところが、問題が一つありました。少女は言付けを告げるべき相手を知らないのです。これは参った。少年は幼い頭で考えました。そして一度、自分の家に帰ると両親と食事をしました。お腹が減ってはどうしようもありません。ニンジンは嫌いだったので皿の端にどかすと、母親にこっぴどく怒られました。今度やったら食事は抜きにしますからね。母親の言う、今度、が訪れることはありませんでした。その日の晩、両親が寝静まるのを恐る恐る確認したあとで、少年は家を出ました。月はなく、星の明るい夜でした。かくして、少年と少女の終わらない旅が始まったのでした。
それは、何もない夜にはうってつけの事件でした。
夕凪の唄 中目黒サニ太郎 @N_Sanitarou
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