第3話
「うわぁ~あ。寝みい」
結局あの後家に着いたのは四時過ぎだった。足についた血とかを洗い流すためにシャワーを浴び、シャワーを浴びると死んだようにまた寝た。
そして、遅刻ギリギリで学校に来て、授業まで寝る。結果、授業中も半分くらい寝てしまい気が付くと、昼休み。弁当を食べようと思うが、弁当を取るのがめんどくさくて、動きたくない。
「飯、食わないのか」
「バッグから弁当取って」
「自分で取れ」
やはり来たのは上本だった。だが、今日の上本は来るのがいつもより少し早い。
「よっこいしょ」
机に寝そべっていた身体を起こした。すると上本はいつもは持ってない弁当箱を持っていた。
「珍しいな。今日は赤城と昼飯取らないのか」
バッグから弁当箱を取りながら聞く。
「あぁ、優菜は昼も部活があるらしくて、昼飯を取る時間もないらしい」
あぁ、だからここに来たのか。
「男よりも部活か」
「うるせぇ。優菜は最近大会も近いのに文化祭で練習時間はこれから無くなっていくし、最近は連続殺人事件で早めに帰るようになってきてるしな」
「確かにな」
適当に話しながら二人で一つの机を使い弁当箱を置く。
「そういえば殺人事件は昨日もあったらしいな」
「え、そうなの」
素直に驚いてしまった。なら、昨日の二人は何だったのだろうか。
「知らないのか。昨日は一人だけだったみたい」
「マジか」
「あぁ、にしても食事中にする話じゃなかったな」
「……確かにな」
二人そろって食欲がなくなるが、腹は減っているので胃の中に書き込んだ。味なんてろくすぽ分からなかった。
~
今日でもう四日がたった。何から四日がたったのかと言うと、連続殺人事件が起きてから四日がたった。毎日平均に二人ほどの被害者が出る。犯人は当然のごとく捕まらない。
そして、犯人が捕まらないので夜に外に出る人は全くと言っていいほどに少なくなった。いつもなら十二時を過ぎても車が走っている大通りでも車が一つも走ってない。
現在の時刻只今深夜一時。大通りには音すらしない。まぁ、そんな時間に何をしているのかと言うと、俺がしているのはただの散歩だった。
寧々木さん達と会ってから俺は夜遅くにこうして散歩をする。別にあいつらを捕まえようみたいな正義感から来たモノでも、寧々木さんたちと会いたいというモノでもない。俺はこうして自分に覚悟が在るか確かめているのだ。
そうして歩いていると、ここ最近毎日来ている一つの公園に来た。どこにでもある公園。公園の中にあるベンチに座った。この数日同じベンチに座っている。
「覚悟を決めるか・・・」
俺はこれ以上この件に関わっていいのか?この時間寧々木さん達は多分アレと戦っているのだろう。それが仕事なのだとしたら特に思う事は無い。ヒーローも、正義の味方も、慈善事業だから有難味があるのだ。ヒーローや、正義の味方が給料貰っていると知ったら有難味が激減だ。だから、なんとも思わない。せいぜい大変そうな仕事だな、くらいしか思わない。
だが、それと同時にかっこいいと、魅力的と思う。いくら高校生と言っても所詮は男だ。そういう中二病的な考えだってある。拳銃とか使ってみたいし、ラノベ展開的なハーレムを夢に見たことは一度や二度ではない。だが、俺がそんな事を出来るかと問えばそれは間違いなく否だ。俺には覚悟が無い。他にも色々無い物が多いが一番最初に思い付くのが何故か覚悟だ。
俺には覚悟が無い。
「ちっ……クソが……」
結局最後には覚悟無い、という結論で終わってしまう。
そして、ソレと同時に頭によぎるのが彼女だった。覚悟が無い、と言う結論が本当に正しいのかと尋ねるかのように、彼女のあの顔が頭をよぎる。
~
苑宮の様子が変だ。しかもその様子が日に日に激しさを増す。このままでは俺以外にも苑宮の異常が分かるかもしれない。
そして、苑宮関連でもう一つ気になることがあった。ソレは連続殺人事件が始まってから様子がおかしくなって来ているという点だ。苑宮と連続殺人事件のあるはずもない接点を考えてしまう。
黒板を見るために前を見ると視界の端に苑宮がチラつく。最近は夜歩いているので寝不足な体に鞭を打つようにして、起こして授業を受けているのに、苑宮が視界の端に移るたびに今見たく苑宮関連で変な憶測を考えてしまう。もうこれはアレだな。一種の病気だな。
「はぁー」
授業中なので小さくため息を吐く。
空はあんなにも晴天なのに、俺の心は曇りだ。曇天だ。
俺の心が曇天だったら一体彼女は何のであろうか。雨?大雨?台風?地震雷火事親父か?馬鹿馬鹿しい。
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。結局授業に集中出来ず今日もノートは白紙だった。
あーあ、雨でも降らねぇかな、こんちきしょう!。
~
あの後からも授業に全く集中出来ず今は今日最後の授業は体育。下原高校では体育は二クラス、男女別々でやる。女子は今頃バスケやらバレーボールやらともかく体育館で何かやっているのであろう。対して男子はと言うと、晴天のくせに冷たい風が吹くお外で半そで半ズボンと言う小学生さながらの格好でテニスだ。二人一組と言うペアで、ポンポンボールを打ち会うという苦行にも似た行為を延々とやらされる。テニスは元から好きでもないので、やる気がほとんどゼロだ。まぁ、それに加えてやる気がゼロな要因は色々あるけどな。
「それじゃあ行くぞ」
「あぁ」
ネットを挟んで向こう側にいる上本が声を掛けてきた。
「うりゃ」
上本の掛け声と共に、緑色のテニスボールが飛んでくる。速くもなく、遅くもない打ちやすい球。
テニスボールがこっちに来て地面に跳ねて、こっちに向かってくる。そして、ソレを打ち返す。打ち返したボールを上本がさらに打ち返してくる。帰ってきたボールを打ち返す。その繰り返し。
これぞまさしく現代の修行。無だ。無になるのだ。
「あぁっ」
ボールを上本が驚いたような顔と声を出した。
なんだと思ったが今はボールボール、と思いこっちに向かってきているであろうボールを探した。そのボールは案外早く見つかった。
「へっ」
そのボールは俺の目と鼻の先にあった。
直撃だった。問答無用の額へのクリーンヒット。
そして、俺はボールに当たりそのまま地面に倒れた。
~
それからは地面に倒れた俺の所に上本をはじめに教員とかがぞろぞろとやってきて、上本に連れられあれよあれよと保健室に連れてこられて、ベッドに寝かされた。
何故だろう現実味が湧かない。倒れた時に何処か打ってしまっただろうか。こりゃあ心配だ。
でもまぁ、これで体育はさぼれた。毎日はやだけれど、偶にはこういうのも悪くないのかもしれない。だけれども……。
「暇だ……」
保健室は壁が他よりも少し薄いのか外からの音がよく聞こえる。例えば、俺がさっきまでやっていた体育のテニスの音や、どっかのクラスがやっている合唱。その他には車とか、近くでやっている工事とかそういう色々な音。
そんな生活音に耳を傾けながら横になっていると邪魔な音が急に混ざってきた。授業の終わりを告げるチャイムだった。どうやら結構な時間を俺は横になって過ごしていたらしい。
「よっこらしょ」
気持ちよくてベッドから抜け出したくなかったが、何とかベッドから出た。
それからは保健室にいる教員に軽く挨拶をして保健室から出た。
「んっ……ふぁーあ」
保健室から出て少し歩くと、背伸びをして身体を伸ばしたらあくびも出てしまった。
「行くか」
その言葉と共に俺は制服に着替えるために教室に歩いていった。
~
「んーん。やっぱり浴衣とかの方がいいのかな。焼きそば的に」
「いや、別に制服でもいいんじゃね。それに浴衣だって全員分手に入れるには無理なんだから」
俺と苑宮は放課後の部屋で文化祭の時の衣装をどうするか話し合っていた。
「それもそうだね。明日からやるから大体は決めないとね」
俺は苑宮の言葉に返事を返さなかった。
いつもとは明かに違う苑宮。苑宮がこの部屋でも教室と同じ風な時は偶にある。だからそれはいい。だが……。
「……どうしたんだ今日は」
だから、ついつい訊いてしまった。いつもはそんじょそこらの女優が子供かと思うくらいの演技をしているくせにここ最近、特に今日は三流の大根役者張りの演技しかしてない。いや、出来てない。
「どうもしてないけど」
教室でよく見る笑顔で俺の言葉を返した。
「どうしたんだ今日は」
再度、同じ質問を訪ねる。
「どうもしてないけど」
同じ言葉が返ってきた。
「どうかしたのか」
俺が最後にもう一度訪ねる。
「だから!どうもしてないって言ってるじゃない……」
何回も同じ質問を聞かれて怒ったらしい。
「どうかしてないわけないだろう」
「っ!」
その瞬間に物凄い音と共に立ち上がって、こちらに向かってあるいてきた。
「だから!何もないって言ってるでしょう」
座っている俺の上にのしかかりいつもの口付けをする時と同じ体勢になった。俺に怒って物凄い近くから睨みつけてくる苑宮。だが、はっきり言って全然怖くない。
どれだけの時間が経ったか、わからないがそれでも俺と苑宮は互いを見続けた。
「……もういい。帰る」
俺の上から退き、長机の上に置いていたバッグを持って扉の前で止まった。
「……さようなら……」
それだけ言うと苑宮は部屋から出ていった。その、いつもと違う苑宮の顔が脳に焼き付いた。
まるで、何かに怯えて、恐怖しているかのような顔を忘れることは出来なかった。
~
苑宮が出て行ってから俺も部屋から出ていった。
本来なら家に自転車で直帰している所だが今はそんな気分じゃなかった。気分的には台風に逆らいながら帰りたい気分だ。まぁ、本当に台風に逆らったら自転車が壊れそうだからしたくないけど。
でも、現実はうまくいかないもので、今の天気は晴天だ。布団を干すにはちょうどいいくらいに晴れだ。雲も空には一つもなく風も吹いてない。はっきり言ってつまらない。
そんな事を考えながら自転車で走る。無風状態の中を自転車で走ると少し風が体に当たっている感じになる。だが、それでは足りなかった。
そうして自転車で思いっきり走っていると目的地である書店に着いた。
この書店はこの辺りだと一番大きな書店だ。中には書店なので雑誌や本がある。それ以外だと文房具やちょっとしたおもちゃ、更にはカフェすらもある。カフェには入った事は無いがそれ以外の所なら何処に何があるかも知っている。ここのプロだ。
自転車を駐輪所に止め、書店の中に入るとそこはとても静かだった。
まぁ、書店なのだから静かなのは当然だが、外との違いに一瞬戸惑ってしまった。
外の静かさは無関心さにある。いつもの道をただ通る。ソレは学生だろうが社会人だろうが老人だろうが、その無関心はある。たとえ学生が転んでもそこには関心がない。まず、見てないかもしれない。ソレが外の正体。自動車やバイクの音でうるさいがもっと根源的なところでは静か。それが外の空間だ。
だが、中の静けさは人々が無理矢理静かにしているからこそできる空間だ。他人の集中を邪魔しないように、と言う常識。これがこの空間を無理矢理静かにしている。誰かと話したとしても、出来るだけ小声で話す。そういう当たり前のマナーの上で出来たのがこの空間。誰もが周りに興味深々なくせにマナーや常識と言う観点から無理矢理静かにしている空間。それが中と外の違い。
そうして、店内に流れる何の曲か分からないBGM を聞きながら俺はライトノベルコーナーに行くため歩き出した。だが、行くことは出来なかった。なぜなら途中で呼び止められたからだ。
「あ、岸峰君」
女性向け雑誌コーナーを横切ろうとしたした時その声に呼び止められた。
「え」
呼ばれることを想定してなかったのでついつい驚きのあまりそれなりの声を出してしまい、隣に居る客から訝しげな目で見られた。
女性向けファッション誌を手に取りながら立ち止まる俺を見る女性。
「今から少しいい?」
「えっ」
そう聞いてきたのは今どきの仕事が出来るOLっぽい服装に身を包んだ雪ノ瀬静音その人だった。
~
「それで覚悟は決まった?」
俺は雪ノ瀬さんに同じ書店の中に入っているカフェまで連れていかれた。程よく高いホットコーヒーをおごってもらい、はしっこの方にある席に座った。
覚悟を問われてからどれだけ時間が過ぎただろう。俺は問いを返せてない。雪ノ瀬さんは俺をせかすようなことをせず、ただ黙ってコーヒーをちびちび飲んでいる。
問いを返すのは簡単だ。まだ、決まっていませんと返せばいい。だが、それではダメだと直感が囁いてくる。その先に待つのは後悔だけだと囁いてくる。そして、彼女の顔が終始頭をよぎり、判断にストップをかける。
これをただただ永遠とループさせているだけの思考。いや、思考とは言えなくなったただの作業。こんな自分に吐き気を覚える。この作業をしているだけで自己嫌悪に陥りそうだ。
「まぁ、こんな事を考えろと言われても簡単には決められないものね。でもね……」
雪ノ瀬さんはコーヒーを一気に飲み干して、立ち上がった。
「後悔が無い選択をした方がいいわよ」
まるで俺の考えが分かっているのではと思うかのような返しをして、帰って行った。
俺は「じゃあね」と言いながら手を振って歩いていく雪ノ瀬さんをただ見ているだけしか出来なかった。
「わかってますよ、そんな事」
俺は独り言を呟き、一口も飲んでないホットコーヒーを一気に飲み、立ち上がり帰路に着いた。
コーヒーはホットからアイスに変わっていたが、今の俺にはアイスの方がありがたく感じた。
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