Tips問題(後日談)
“クラウドの受難”1話:平和+変化=騒動
新たな第一位、『星神』の誕生より、5年――。
ビィー―――――――!!
「んあ?」
相も変わらず大量のアンケート結果という名の書類と格闘しているダンジョン『死の修行場・獄 ※心折れ注意』の主、テンです。どうも。ダンジョンマスターって中間管理職かなんかだっけ? 神になってから書類整理(大半は廃棄)してる記憶しか無いんだけど。
さて今鳴った侵入を知らせるサイレンだが、実は鳴る事自体が久しぶりだ。ほら、配下の皆が参戦した後で条件を変えたから。具体的には、中ボス戦闘がある第5階層を突破しないと鳴らないようになっている。
まぁその後にも階層はずらりと並んでいるし、というか中ボス戦闘にも段階があるしで、これが滅多に鳴らないっていうのは普通に想定外な訳だがそれはさておき。
「えーと誰が突破されたのかなー……って、え、クラウド?」
神仕様になった(ユニーク化した)【ダンジョンの書】を開いて階層の状態を確認すると、抜けられたのはクラウドだったようだ。珍しい。ちなみにメニューからも見れるが、【ダンジョンの書】を使った方が後で見返したり他の情報を確認したりするのが便利なのだ。
それはともかく、最初の中ボス戦闘と言う事で大分手加減している、という前提ありきでも、クラウドが抜かれるとは驚きだ。ソールと並んで、今の今まで突破者0人を維持し続けて来てたのに。
ただ中ボスとしての階層を突破したのにまだ同じ場所に留まってるみたいなんだよな。なんだこの挑戦者。
「とりあえず戦闘の様子から見るか」
全自動録画機能は便利だ。本当に便利だ。勝手に重要度に分けて保存してくれるし呼び出しも早いんだから文句の言い様がない。それもあって【ダンジョンの書】で操作する事が多いんだけど、さてと。
「ってうわ、まっぶし。何も見えないんだけど」
見ようと思ったら、何故かクラウドが戦ってるだろうタイミングの映像が、真っ白い光でホワイトアウトしていた。え、なにこれ。この5年で神含め色々な挑戦者が来たけど、流石にこれは初めてだぞ。
どういう事だ、と思いながら映像の明度を下げてみるが、限界まで下げても何も見えなかった。どれだけ強烈な光なんだこれ。
「というか、この光に吹っ飛ばされたのか、クラウドは」
クラウドは一見すると人間に見えるが、実際は戻り人という種族だ。冥府神に生み出され、生命力が低く割とほいほい死んでしまうが、同じくらい気軽に戻って来るという、ある種世界公式のアンデッド種族だったりする。
だが公式と言ってもアンデッドはアンデッドなので、あれで神聖属性、浄化属性、強い光等には非常に弱い。ダンジョンの自動録画が機能不全になるような光となれば、文字通り、ジュッ! と蒸発しててもおかしくないんだよな。
「ダンジョンの中にいるし配下だし、倒されるのがある意味前提条件になってる中ボス部屋だから、緊急脱出は発動してると思うんだけどな」
……一応反応を追いかけ、自分の部屋に戻っているのを確認。うん。緊急脱出はちゃんと働いたようだ。
『テン、今のは誰が突破されたンだ?』
「クラウドの第一中ボス部屋。ただ、監視画面もホワイトアウトしてたからまだ相手の正体見れてないんだよね。今探してるとこ」
『はァ? あれがかァ?』
「そう。あれが」
ソールから連絡が来たのでそう返しておく。その間も【ダンジョンの書】で、どうやらまだ中ボス部屋に留まっているらしい挑戦者の姿を探す。……ダメだな。ホワイトアウトが直らない。
ダンジョン機能が壊れた場合どこに修理依頼出せばいいんだ? 空間神か? と思いながら、録画の時間を前にずらした。まさかずっとこんな光りっぱなしで挑戦してきた訳じゃないだろう。だとしたらすごい騒ぎになってる筈だ。迷惑極まりないって意味で。
えーとホワイトアウトしてる時間がここだから、その前の中ボス部屋入り口の映像は……あっ、たぶんこれだな。
「うん?」
そこに映っていたのは、自分より幅も長さも大きい剣を、辛うじて引きずらずに背負っている女性だった。たぶんこれ後ろから見たら剣しか見えないな。まぁ種族特性やレベルがあるから、別に不思議ではないけど。
ただ、その装備が手袋からブーツまで一揃いっぽい白い皮鎧なのはいいとして……すっごいボリュームがあって輝いて見えるような、ゴージャスな金髪をポニーテールにしてるんだよね。
でもって、その目も髪に負けないぐらいに輝いてる金色でさぁ……。
「…………」
何と言うか、すっごく見覚えのある、むしろ見慣れた感もある色の組み合わせなんだ。そこに、強烈な光、という特徴が加わると、何と言うかこう、消去法の結果として選択肢が1つしか残らない感じ?
「……ソール」
『おゥ?』
「これ、あんたの同族?」
権限的には同等の片割れに、静止画として切り取った画像を送る。わいのわいのとクラウドを除いて配下の皆が会話しているのは聞こえていたから、多分全員見ているだろう。
『あァ、お袋だな。親父が黄泉返りしたッての伝えたから、それで飛んできたンだろォよ』
そして、あっさりと返って来た答え。
…………あー、そう言えば何か、確か、そんな会話を録画か聞いたかしたような気がするな。確か、大規模侵攻の後で、クラウドとの契約を更新した時辺りに。
『……あら。……じゃあ、クラウドの、奥さんね……?』
『なるほどのう。太陽竜は一度番と決めたら絶対に逃が……諦めんから、居ると知れば来るじゃろう』
『情熱的な奥様ですねー。ちょっと羨ましいです』
『きちゃったかー。あれ? あるじ、そのくらうどは?』
「多分死に戻って今は自分の部屋」
『あら、自分の妻がはるばる訪ねて来たというのに何をしているんですの?』
『いやー、これはー、どうなんだろー?』
『彼ら彼女らの愛情表現は、相手の種族特性によって、時々やり過ぎになる事がありマスからね……』
どうやらノーカは、あのホワイトアウトした挑戦の様子を確認したようだ。そしてショウヨウの「愛情表現がやり過ぎ」には同意しかない。あの体力バカの加減知らずは文字通り体感済みだからな。
「うん。じゃあまぁこの人の相手はクラウドとソールにお任せするって事で。よろしく」
『げ』
『待って主! 後生だから助けて!』
『せつじつさがふだんのひじゃないな、くらうど……』
『残念デスが、外部から幾ら口を出しても聞いて貰えないかと思われマス』
『もう! ソールさんもクラウドさんも、往生際が悪いですわよ! お持て成しなさいな! お母様と奥様でしょう!』
『いやそりゃァそうなンだがァ……』
『何でわざわざ一時とは言え冥府神様に主従契約結んでもらって冥府に常駐してたと!? そこぐらいしか逃げ場が無いからだよ!! そもそも彼女太陽竜の上に母親が天翼人だからぶっちゃけ種族的に近づいたら蒸発するぐらいどうしようもなく相性が致命的なの!!』
『それはー、むしろ、どうやって結婚出来たのかが知りたくなって来たかもー』
『あんまりにも頻繁に死ぬもんだから必死で耐性つけてレベル上げたらそれが逆効果だったとか、出会って数年で分かる訳ないだろう!?』
クラウドが冥府神様の下で働いていた理由が判明した。そういう事だったの? あと「数年」が短い期間の例えで出てくるって言うのが長命種だなって。
「で、クラウドの奥さんってなんて呼べばいいの?」
『ァー……「白陽」だなァ。あ、嫁。悪いがオレはお袋には勝てねェからな、戦力的な意味で』
「え、何それ聞いてない」
『あぁ、どこかで見たようなとは思いましたが、あの白陽デスか……』
『……マスター。……流石に、これは、相手が悪いわ……』
『というか、そーるってはくようのこどもだったのか。ぼうけんしゃじだいのいろいろになっとくしたぞ』
『オイどォいう意味だラート』
『ちはあらそえないなーとおもっただけだ。たぶんみんなおもってるぞ?』
『ま、否定は出来んのう』
『…………そうね。……思うところは、あるわね』
なにそれこわい。
…………しかし、あれか。私の義理の母親でもあるのか。
うん。出来るだけ仕掛けで落とそう。ソールの上位互換な気配がするから厳しいかも知れないけど、まぁ最悪はクラウドを捧げればいいんだろうし。
『主!? 今すっごい嫌な予感したんだけど!?』
「キノセイダヨー」
『超がつくほどの棒読み!!』
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:9
マスターレベル:8
挑戦者:2336636563人
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