第98話 最終回答「つちのなかにいる」

 最終リザルト

 ダンジョン『死の修行場・獄 ※心折れ注意』裏面お試し突破者:0人

 私との戦闘者:6人(1パーティ)

 新ダンジョン:星神の試練突破者:0人

 ソールとの戦闘者:6人(1パーティ)




〈大体予想通りだったね~〉

〈大体予想通りでしたねー〉

「すっごい順当なのは認める」


 『精霊神の別宅』と『生命真の宿り木』が寄り添うように生えて(?)いる場所にテーブルと椅子を設置して、女神3柱……いや、私は半身にして半神だから、2.5柱? で、お茶をする。その内容は、実況は無かったもののそれぞれに見学していたらしい私のダンジョンでの挑戦模様だ。

 なお、敬語については「同じ第一位の神になったんだから無しで」と言われた。ちょっと遠い目になるくらいは許してくれ。

 それはともかく、最終結果については女神様達も予想通りだったようだ。まぁ、そうなるように調節したんだけどな。調節がうまく機能したようで何よりだ。一部例外は軍の健闘辺りだろうか。


〈それにしても~、ちゃんと使徒も返り討ちにするんだね~〉

「するよ、そりゃ。挑んできてるんだから」

〈私は、私の子供たちが試練に挑む時はー、どうしても手加減しちゃいますー〉

「生命神様はそれでいいと思う」

〈そうだね~。司る権能が全然違うもの~〉

〈そうですかねー〉


 ちなみにソールは現在対挑戦者対応中だ。例の鍵が大量に持ち出された影響で、星神の試練終了してから3日程が経つというのに、未だに挑戦者が途切れない。


「ま、私は罠作るぐらいしか仕事ないし、それもほとんどサクスンが出来るようになったから楽なもんだけど」

〈ほんとに~? 無理してない~? 〉

「…………一応何とか」

〈もー、無理しちゃ、めっ! ですよー〉

「しないように今こうしてお茶してる訳なんですが」

〈あ~、敬語~〉

「……してる訳なんだけど」


 なお、信仰による力の方は相変わらずである。何でこう、集中砲火? 偏向信仰? するんだろうな。セットで信仰しろセットで。セットの神だぞこっちは。

 ちなみに、このお茶をする時間というのも実は神としての修行を兼ねている。2柱の女神様に、力の制御を手伝ってもらいつつそのコツを掴もうとしているところだ。結果? ……まぁその、暴走しないだけ褒めて欲しいかなって……。


「人間時代含めて実年齢50年行ってないんだから、変な話だけど、加減してほしいのはある……」

〈まぁそれもそうだよね~〉

〈今までの事を考えるとー、妥当ではありますがー〉

「妥当かそっかー」


 ……冷静に考えてみたら世界救ってるんだよな。完全に流された結果だけど。あと、アズルートお爺さんがなんかつらつら私の功績とやらを挙げていた気がする。何だっけ。興味ないから思い出せない。

 となると、功績だけで言えばこれだけの信仰を集め、向けられるだけの理由はあるって事か。私の神としての成長が全然追いついてないってだけで。


「普通は力にもご飯にも困らなくて、楽な状況の筈なのになぁ」

〈そうね~。色々イレギュラーがあったものね~〉

〈そもそもー、50年足らずで神になるというのが既に快挙ですからねー〉

「あー、そうかそっちもそうなのか」

〈そうだよ~。色々と最短記録を塗り替えまくったよね~〉

〈まぁそれを言ったらー、新たな第一位というのが既に前代未聞なのですがー〉


 そう。第一位、第二位という呼び方は、第零位の話であれば「生まれた順番」の筈だ。だから本来の双子神は、最新にして次なる世代、第三位と呼ばれるのが正しい。

 そして私及びソールについて言えば、世界の住人からの成り上がりなので、普通は下位神、力量が天元突破でも上位神と呼ばれるのが正しい筈だ。

 では何故、双子神の空席に収まった私及びソールが「新たな第一位」と呼ばれるようになったか、というと。


〈第零位様もー、思い切ったことをされましたよねー〉

〈そうだね~。まさか位付けの区分けを~、起こせる事象によって定め直すなんてね~〉

「つーかあれ、絶対空間神噛んでたろ……。私がやった擬似スタンピードを強調しまくって実質直訴したの、あの苦労人じゃん」

〈あはは~。まぁ~、あのすっごい一撃も加味してだけどね~〉

〈いやー、試しに撃ってもらったら、思ったよりすごい威力でしたねー〉

「え、何。あれも私のせいになんの? 確かに剣作ったの私だけど、あれは本人のスキルレベルと補助の方でしょ?」

〈普通は溜めの時点で剣が砕けるって、鍛冶のが云ってたよ~〉

〈試し撃ちの空間が壊されてー、空間さんもちょっと涙目になってましたしねー〉

「えぇ……」


 納得はしてないが、そういう事らしい。私とソールが「それぞれ」第一位相当が行使するクラスの事象を起こせる、そしてそんな奴がセットになっている、という事で、新たな第一位に認定されたのだ。

 ちなみにそれに合わせて下位・上位神という名称を廃止し、そこに属していた内一定以上の信仰を集め大規模な事象が起こせる神は第二位に、それに足りない零細・新米神はまとめて第三位と呼称するようになった。

 ずず、とお茶を飲んでげんなりとした息を吐きつつその経緯を頭から振り払う。言えない。瞬間火力で言えば、あのソールの一撃に匹敵する魔法が撃てるとか。面倒ごとにしかならない。


〈でもー、そうですねー。この調子ならー、神官や担当種族はー、せめて100年待った方がいいでしょうねー〉

〈そうだね~。力が不安定な状態だと~、生まれる子の力も不安定になっちゃうからね~〉

「そうする。全然余裕無いし。あのバカは当分接近禁止で」


 その合間に、何が起こったのかがくんっと信仰が増えた。お茶を吹きそうになったのを耐えて、注意をもう少し制御の方に傾ける。

 ……が。女神様方、何故そこで顔を見合わせるんですかね。


〈……安定って意味だと~、近くにいた方が良いんだけどね~〉

「やです」

〈神としての属性上ー、不仲は良くありませんよー?〉

「ヤです」

〈ツンデレ~?〉

〈意固地ですー〉

「だぁれがツンデレ頑固か。余裕無いっつったとこでしょうよ、今、まさに」


 その先の行為までしれっと込みで進めてくるのを断固として断ると、えー、という顔をする2柱。今担当種族は後100年待った方が良いってその口で言いませんでしたっけねぇ?

 わざとクッキーを丸ごと一枚口に放り込んで黙る。もぐもぐと噛んでいる間にようやく諦めてくれたのか、それぞれお茶とクッキーにてを伸ばしつつ、話題を転換してくれた。


〈それで思ったけど~、よくそこまで安定してられるよね~〉

〈そう言われればー、それもそうですねー。身体がある……というだけにしてはー、安定度が高いと言いますかー〉

「?」

〈神っていうのはね~、割と不安定な存在なんだよ~。大体分かってると思うけど~、それよりずっと~〉

〈それがー、本当に、普通の住人としての時とー、ほぼ変わらないんですよねー。それは不思議だなぁって思いますー〉


 と、思えば、何やらよく分からない話題だった。安定度とは? である。口をもぐもぐさせたまま首を傾げると、通じていない、という事は通じたらしい。少し考える間を開けて、考えつつの言葉が続いた。


〈そうだね~……。私だと~、今でこそおっきい木に場所を借りたり~、こういうおっきくて綺麗な石を探したりするようになったけど~、それまでは大変だったんだよ~〉

〈私もそうですねー。最初の巫女が見つかるまではー、生命力の強い場所を大地さんに作ってもらったりー、それこそ神殿に居たりですねー〉

〈うっかりすると自分の形も分からなくなるからね~〉

〈権能がずれる事もありますからねー〉


 んん?

 まぁ、自分の形が分からなくなる、というのは、自前の身体を持っている私には当てはまらないだろう。同様に、それら「安定する場所」も自前の身体で賄っていると思われる。

 けど、それだけではない、と?


〈だって、あっちの世界の出身なんでしょ~? 自分がどこにいるのか、分からなくならない~?〉

〈ダンジョン、というのもー、結局空間の歪みですからねー。何処に、というのがはっきりしないと思うのですがー〉

「…………あー。自己肯定、自己証明辺りか。「自分が何処にいるのか」っていう、具体的な目印的な? それが無いから来る不安感とかが無いって事?」

〈たぶんそんな感じ~〉

〈まぁ、身体があるからそこが基準なのかなー、とは思いますがー〉


 その言葉を受けて、考える。

 ……あぁ、まぁ、そうか。確かに。


「まぁ……確かに、最初に拉致られた時に居た空間が、それこそ私の試練の場みたいなふわっふわした場所なら、その場所を何て呼べばいいのか、もしくはそもそも場所なのか迷ったかもしれないけど」

〈けど~?〉

〈けどー?〉


 クッキーを飲み込み、口の中の欠片をお茶で飲み込んで、考え、思い至る。

 そう。最初から最後まで、私が何処に居るかで迷ったことは無い。いや、場所的な意味だと「此処はどこだ」が続いてたけど、その回答に困ったことは無い。それが、女神様達の言う「安定感」になっているのだろう。

 仲良く声を揃えて首を傾げる女神様達から一度目を離して、上を見上げる。高さはあるが、そこの光景は変わらない。


「だって此処、どう見ても「土の中」じゃん」


 現在位置、ダンジョン『死の修行場・獄 ※心折れ注意』最初期階層【確殺回廊】第2フロア。

 一面の土の床、土の壁、土の天井。……なら、実際はどうあれ、少なくとも私の認識では「土の中に居る」だ。そこは、絶対に揺らがない。

 で。地面があるなら地上があるだろうし、空気と重力もあるし、それなら空もあるだろうし……つまり、「世界に属している」という部分は、動かない。


「てか、その安定度だから世界境界が権能に加えられるんでしょ。世界の中にいる事を自覚してなきゃ外は分からないし、外が分からないなら境界線も分からないんだから」

〈なるほどね~〉

〈元住人らしい認識ですねー〉

「そりゃま、世界ありきの命でしたので?」

〈あ~、また敬語~〉


 実際は、もう知っている。本当に土の中にいる訳ではない事を。

 それでも、私にとって現在位置、自分の領域、と呼べる「此処」は


 ──「つちのなか」だ。

















 普段在るのは、広がる天体から綺羅星が降り注ぐ、結晶の舞台。

 美しくも過酷極まるその場を、挑戦者達は「天の獄」と呼ぶようになり。

 贈られた名は、【天獄の間】──そこの主で、『天獄の主』。


「テン、どォした?」

「接近許可出してないのに寄ってくんな!!」


 地中の星は太陽を得て、無限大の宙を描く。

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