“クラウドの受難”2話:状況+証言=対策

 うちのダンジョンである『死の修行場・獄 ※心折れ注意』には、難易度と言うものがある。最初は5段階だったのが、この5年で何度も低い難易度を作ってくれと言う要望が出たので、現在は倍の10段階だ。

 そして初期状態は最も低い難易度になっていて、最深部で待ち受ける私との戦闘で条件を満たせば難易度クリア、次の難易度に挑戦できるって仕組みだ。そして最高難易度をクリアすれば、裏面が解放される。

 とは言え。あのお試しの時を除いて、私が居る最深部まで辿り着いた挑戦者はいないんだけど。ラスボスとの戦闘より道中の攻略が本番なのはダンジョンとして当たり前の事だろう?


「それに階層が増えたとはいえ、私(ダンジョンマスター)と配下の皆が全員揃ってる状態なら、通らなくていい階層の方が多いぐらいだぞ」


 なお攻略としては、まず第1階層が固定で【檻迎の迷宮】。広場と迷路のパッチワークで、ここには時間制限が存在しない。まぁ、対超大人数用の階層だ。ここで数を頼みにする相手は振り落とされる。

 で、次があの溶岩の階層と、音が魔法陣になる階層の2択。これはどっちかを抜ければ第2階層クリアだ。抜けるだけの難易度的には溶岩の階層の方が低い。

 次はと言うと、配下の皆に作って貰って私が手を入れた、ボーナスステージ付きの階層のどれかになる。もちろんカグとノーカにも作って貰ったので選択肢は増えてるぞ。


「で、その中のどれか2つを通ったら1つ目の中ボス階層に繋がると」


 つまり、第3階層と第4階層だ。難易度はどれが低いか? さぁ。パーティの得意分野に寄るんじゃないか? ボーナスステージ部分をクリアしたらあっという間だし。

 そして第5階層は再び固定で、中ボス戦闘階層だ。配下の皆との正面戦闘となるので、まぁ、ここは手加減の関係もあって、後衛の皆の方が難易度は低いだろう。そして、ここを抜かれるとあのサイレンが鳴る訳だ。

 そこからは、種族別とか属性別とか、そういうテーマごとに作った階層の塊からランダムで4つを通ったら中ボス戦闘階層が挟まる、というのをあと3回繰り返せば、私が待つ最奥の階層へ辿り着く。だから、私が居るのは第21階層って事になるな。


「実際にある階層の4分の1でいいんだから、クリアできる筈だよな? 問題なくいけるよな?」


 はて? と首を傾げているのは、大体の挑戦者がその第5階層で躓いているからだ。まぁ確かに戦闘力は必要だが、それにしたってこっちは十分手加減している。難易度が低ければなおさらだ。

 まぁ難易度が上がったら、つまり2週目以降は、各節目ごとに選択出来る階層で、1つは通った事のない階層を通らないと、節目となる中ボス戦の後でその節目をやり直しになる(例えば第10階層を抜けたら第6階層から)んだけどな。

 通れる階層をコンプリートしたら? その後はもう好きなように通ればいいよ。まぁ、コンプリートする為に必要な最低周回は5周だけど。だから最初の難易度設定が5段階だったんだし。


「流石に最低難易度でコンプリートしてから上の難易度に挑戦するっていうのは禁止させてもらったが、難易度自体が主に下がる方向で増えてるから、行ける筈だよなぁ……?」


 ちなみに問題の白陽さんは相変わらずホワイトアウトの真っただ中だ。全く様子が分からない。監視画面が壊れたんじゃなくて、白陽さんがほぼ常時これだけの光を発しているっていうのが分かったぐらいか。

 まぁ現在攻略中の階層が何処かは分かるから、待ち受けるのに問題はないが……視覚対策しておかないと、光で塗りつぶされて全く視界が利かない状態で戦う事になりそうだな。

 なお、現在攻略中の階層は第7階層。順調に攻略を進めているようだ。全く見えないが。


『主ー』

「なに、クラウド」

『いやその、中ボス階層なんだけどさー……。そっちも1回通ったらクリア済みで、別の場所通らなきゃいけないように出来ない?』

「無理。頑張れ」

『だって絶対俺のところ選ぶの分かり切ってるしさー。戻って来れるって言ったって、大変には違いないし疲れるししんどいしきっついし、間違いなく瀕死にはなってるから勘弁してほしいんだけど』

「直接奥さんに言えば良いと思うよ」

『言って聞いてくれるなら此処まで困り果ててないんだよなー……』


 既にアンケート結果という書類仕事に戻っていた私に、クラウドからぐったりした声の念話が届いた。そうだな。言って頼んで、聞き入れて忘れずに行動してくれるなら苦労しないような。それが絶対に出来ないから実力行使になる訳で。

 分からなくはないが、私が困っている時にクラウドから助け船が出た事はあまりない。つまりそういう事だ。自業自得と言うのは座右の銘だから、もちろん仲間にも適応されるぞ?

 ……とは言え。ダンジョン運営としては、あまりに秒殺される上に尾を引くダメージが入るのは歓迎できないか。秒殺されるなら傷は浅くするべきだし、尾を引くダメージが入るなら相応の痛手を与えるべきだ。


「……一応確認するけど、色々条件整えても秒殺は変えられない?」

『無理。火山地帯に氷を持ち込むようなもん』

「そりゃ無理だな。……仕方ない。全体連絡、中ボス階層であっても、本気の本気でどうしようもない相手の場合は敵前逃亡して良し」

『いやっほぅ主ありがとう!!』

『お、マジかァ。流石にお袋相手は勘弁してほしかッたンだよなァ』

『……戦士が勝てないのに、魔法使いが、勝てる訳がないわよね』

『えぇ全く、1秒も持つかどうか怪しいところデス』

『戦闘初心者も以下略だよねー』

『そーるがしろはたあげるあいてとなんてまともにたたかえるわけないな!』

『そういうことじゃのう』


 リオとカグからの返事が来ないが、あの2人は現在ボーナスステージで挑戦者の相手をしていて忙しいからノーカンだ。こちらからの連絡は届いている筈だから、聞き逃したって事はないだろう。

 しかし大歓迎だな。この分だと、中ボス階層はフリーパスって事になりそうだ。となると、途中の階層で落とさなきゃいけないって事だが……あ、第8階層に移動した。順調なんだよな。

 まぁソールの上位互換っていうのなら、罠は避けるだろうしモンスターは鎧袖一触だろうし、止められるとしたらギミック階層だろうが……本当にこの光が邪魔だな。攻撃力がついているとしたら、常時全面攻撃しながら進んでくるって事か? 理不尽な。


「まぁ問題は、この分だと普通に最高難易度まで踏破して、裏面の開放までいきそうって事なんだけど」


 念話に投げるも、返事が来ない。考えるのも嫌かそうか。逃げてたって、こちらの逃げ場には限界があるからいつかは追い詰められるんだけどな。稼いだ時間で対抗手段を考えないと。

 ……とりあえず、割と本気で太陽そのものがそこにあるかのような、この光をどうにかしないとどうにもならないか。サングラス程度で防げるようなもんでもないだろうし、攻撃力がついているならもっと根本的に防御力が足りないって事になる。

 光に対抗するって事でとりあえず思いつくのは、階層全体を闇に沈めるとか、光属性や発光現象自体に大幅な減衰を掛けるかって辺りだが……多少封じた所で、監視画面が機能不全になるっていうのを考えると、純粋な出力で突破されそうだ。


『……嫁が真面目にお袋対策を練ッてンな、こりゃァ』

『頼む主、せめて言葉を使おうって気になる程度に拮抗してくれ……!』

『本当に参っていマスね……』

『クラウドさんがー、ここまで本気でどうしようもなくなってるのは初めて見るよー』

『私も見た事がありませんね……』

『おなじくみたことないな。というか、あるじもみたことないからほんごしいれてたいさくかんがえてるんだろうが』

『……かの名高き白陽と、最速完全攻略不可能認定を受けたダンジョンマスターの、実質一騎打ちね……。……うふふ、面白くなってきたわ……!』

『楽しむのは結構じゃがレポリス。そんな事を言っておると、無茶ぶりが回されるぞい』


 念話の向こうで皆が何か話しているが、とりあえず気にしない事にする。私は今忙しいからな。

 しかし太陽、太陽か……。……それこそ宇宙空間に放り出しても元気にしてそうだから、減衰系は目いっぱいかけても文字通り焼け石に水と思っておいた方がよさそうだ。

 なら問題は防御だが、こっちも相手の出力が出力だからな。相当に重ねないと厳しいだろう。これだけ長時間光っ放しって事は、むしろ普段は抑えてないと生活できないパターン……つまり、デフォルトで範囲ダメージを入れてくるって可能性も高いし。


「……いや、ちょっと待てよ。クラウドー?」

『え、何主、俺今引き籠る準備してるんだけど』

「普段の仕事はやって。クラウドってもしかして、生命属性でもダメージが入る感じ?」

『いや彼女相手だとそれぐらいやってもまだ足りないっていうか、うん? あー、まぁ、入るか入らないかで言えば入る。普通の回復魔法とかは大丈夫なんだけどさー』


 入るらしい。てことは、それもあるな。……本当に天敵中の天敵じゃないか。何? 太陽竜って言うのは自分が天敵になる相手に惚れるの? そこだけ見ると迷惑極まりないぞ。

 まぁ私も誰かの事を言えるかっていったら言えないんだけどさ……。


「……ていうか、冷静に考えたらこれ、嫁姑戦争になるのか。かなり物理だけど」


 なお魔法は物理に入る。精神的な物じゃなくて、周辺被害が形に残るから。















死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:9

マスターレベル:8

挑戦者:2336636586人

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