第89話 理解+需要=包囲済
「……………………」
ソール達との攻防を制し、私はこの世界にいなければならないリミットを耐え抜いた。空間神様に送ってもらい、空間を越える木まで戻る。
根元の辺りに展開している結界を上の方まで拡大しようと、即座に魔力的な接続をして、半ば条件反射的に内部の状況を確認。
同時に視界が戻り、それら全ての情報を統合して、
「あら“りゅ――”、えぇ、とにかくお帰りなさいですわ!」
「おっかえりー! 待ってたよー。退屈はしてなかったけどー」
――――世界はやっぱり敵である、と、再認識することになった。
華楽たちは、少なくとも残り時間12時間時点では大人しく結界の中で待っていた。外が賑やかになっていたのには気づいていたものの、危ないという私の警告を全員で共有していたこともあって隠れていたという。
が、やがて漂ってきた美味しそうな匂いに、数人が徐々に耐えきれなくなってきた。最初は話し合いだったのが、溜まってきていたストレスにより暴力沙汰寸前までいったらしい。
仕方なく妥協案として華楽が外の様子を窺うと、光る魔法陣のようなものを中心に屋台があるわ焚火があるわ、まるで祭り会場のような有様になっていたという。
「その祭りが、あまりにもファンタジーでして。そもそも独断で木に入っていった人たちも、そういうのが大好物な方ばかりだったのもあり、無理に抑えるとそれこそ血が流れると思いましたの」
よく相談した結果、できるだけ無害に見える真野花と男性2人に、交渉に強い華楽とそういう仕事の女性1人で結界から出てみたのだという。もちろん言葉は通じないし何を食べているか分からないし、流石に失敗かと冷や汗が流れたと真野花は語った。
しかしここで眼鏡をかけた男性が登場(特徴を聞くとどう考えてもショウヨウだったので以後名前呼びする)。何やら杖を出して唱えると、言葉が理解できるようになったのだという。
魔法! 魔法! と真野花は浮かれたが華楽はぐっと我慢。自分たちの状況をできるだけ丁寧に伝えると、ショウヨウはにっこり笑って、事もあろうに私のこちらでの立場(完全攻略不可能認定ダンジョンのダンジョンマスター)を全部話しやがったのだ。
「すごいすごいと思ってたけど、本当にすごかったんだね“あー”ちゃんー」
なのでご友人やご同輩をおもてなしするのは配下の当然の義務デスと締めくくったショウヨウは、華楽と女性の判断で白。一応いつでも結界内に逃げ込める距離を保ち、他の人と連れ立って屋台の料理をご馳走になる事にした。
そしたらまぁ、私のダンジョンの侵入条件のせいで美食のインフラが起こっている【エグゼスタティオ】、その中でもこんな大イベントに屋台を出せるような実力店だ。その味は下手をすれば向こうの一流料理店を越える。
わぁいわぁいと喜んで食べている内に世界自体の話になり、華楽はこの世界に資源が溢れている事に気が付いた。更に電子機器の受けが激しく良いのも分かって、その時点で私を支点に資源輸入ビジネスの骨子が出来上がったという。
「その前提で話をしてみれば、“りゅうせい”さんの道具はこちらではどうやっても再現できないと言うではありませんか。恐らく世界の理屈が違うためだろうとあの方(ショウヨウ)は仰っていましたわ」
「ダンジョンマスターで権力者なら、異世界人保護法とかも作れるかなーって話になってねー。何かお忍びの政治家さんもいたみたいでー、すっかり話はまとまってるよー」
その結論を聞いて、本気で気が遠くなったのは間違いじゃない。
もっとも話を統合してみれば、何の事は無い。
私が身内認定した相手にはとにかく甘い事を知っていた常連さん達は元配下の皆と一計を案じ、外堀を埋めたと言うだけの事だ。
だけど、呪うように言葉を吐き出す事ぐらいは許してほしい。
「……私の24時間の努力と緊張を返せ……!」
あの臨時ダンジョンでの必死の攻防は何だったっていうんだ!!
ふざけんなぁああああああああ!!!
その後腹立つぐらいに話はとんとん拍子で進み、何とか私は抵抗して卒業とその後1年の自由をもぎ取った。決まったあまりのスピードにやるせなくなって、世界の果てに戻ってモンスター達の拠点を作ってやった。
属性と気候ごとに大きな国が出来るぐらいに広々と作ったから、魔王が生まれても私は知らん。どうにか対処するんだな。
ソールに八つ当たりも含んで接近禁止令を出したのち皆に話を聞いてみれば、ダンジョンマスターは私にロックされたまま、ソールに全権が開放されていたんだそうだ。
「という訳で、配下契約は全員有効だから。主、改めてよろしく!」
「ていうか、はいかとしてののうりょくぼーなすなしとかむりななんいどだったから、あそこ」
げんなりしたのでダンジョンのレベルを上げ、片っ端から属性別のモンスターの楽園に変えた。モンスター自動湧きシンボルを経由して世界の果てに転移出来るみたいだから増えるだけ増えればいいよ。
その時に分かったのだが、電車が無くなっていた。
あの大きな車両があった所は円形の石畳(オパールのような不思議な色合いだったけど)になり、中央に玉座と円卓が並んでいる。玉座を除いた椅子の数は丁度配下の皆の数と一緒。
たぶん、本来のダンジョンの仕様はこちらだったのだろう。私と言うイレギュラーな存在が噛んだことでエラーを起こし、あの時の私が一番強く思い浮かべていた椅子カテゴリの物に姿を変えていたようだ。
「だからって、電車丸ごと再現するかね」
そして張り紙は、やはりそのエラー関連だった。私の首に嵌められていた首輪と、鎖で繋がった黒い石。アレはそのまま、支配の契約の証とダンジョンコアで、張り紙は中途半端に存在を封印された【ダンジョンの書】のヘルプ機能が何とか顔を出した結果。
持ち主である私の能力の上昇に伴い【ダンジョンの書】も徐々に封印を打ち破り、ヒントが欲しいという私(ダンジョンマスター)の願いを鍵としてどうにか完全覚醒に至ったらしい。
なので今現在ダンジョンコアは、玉座の前に置かれた【ダンジョンの書】の表紙に収まっている。【ダンジョンの書】自体は相変わらず迷路のような細い線でびっしりと覆われているが、ぼんやりと燐光を纏うようになっていた。
「……また1年半後にな」
大人しく主人の帰りを待つ忠犬のような【ダンジョンの書】にそう声をかけて、私はともかく、一度生まれの世界に帰ったのだった。
のはいいとして。
「何で付いてきた!?」
「これ以上待てるか!」
「待てよそこは!!」
ソールが一緒に世界を渡ってきたよ。中身が残念どころか論外過ぎて忘れがちだが、金髪金眼の超美形だから目立つ目立つ。しかもソレが私にべったりとなると、当然訳を知っている華楽と真野花以外は相応の目を向ける訳で。
まさか大学に上がって改めていじめ対策とひそやかな報復の為のマル秘道具袋を活用する事になるとは思ってなかったよ。
しかも【小太陽】のレベルと魔力キャパシティが上がったのもあって、普通のケンカぐらいなら楽勝しやがんでやんの。もちろん夜に私から魔力補給するのが前提ではある。
こんなバカを家(孤児院)に連れて帰る訳にもいかないので、結局私は華楽の家に厄介になっていた。連絡は入れてるし時々ソールを撒いて顔出しはしているから、無事を伝える事は出来ているのだが。
「ところで“りゅうせい”さん。疑問だったのですけれど、卒業はともかくその後1年というのは何の時間ですの?」
「いや、実は正直私にも分かんないんだけど、養父さんがね。大学出るのが独り立ちの条件で、出来れば卒業後1年は時間をおいておけって」
「なンだそりゃァ?」
「黙れ。まぁ他にも法律関係とか時間が必要だろうし、足も治ってないし。妥当なところだから合意したんでしょ?」
なお『魂の絆』はまだ封印状態で、足の治療は一度中断したものの再開している。+1年はこちらの世界の行政関係が追いつく余裕でもあり、私の足がひとまず治るまでの時間でもあるのだ。
そうそう。混ざっていたお忍びの政治家だが、直後に行われた総選挙で何と新総理大臣に就任していた。今は異世界政策を中心に革命を起こしているらしい。どんどん対異世界の法律が整備されていっていると華楽は言っていた。
「恐らくあの方が手助けしているのだと思いますわ」
「ショウ……翠鏡か。元々契約系の役職みたいなもんだったし、根回し云々は十八番だろうから、何とも心強い味方だね。味方にできればだけど」
そしてやがて年が明け、寒さが厳しくなり、そして春の兆しが見え始める頃。どーしても私の(育ての)親に会いたいとソールがごねにごねたのと、私自身も晴れ姿を見せたいのもあって、
「絶対、絶っ対騒ぎ起こすの禁止だからね!!」
「わァッてるよ」
「もし万が一やらかしたら配下契約も切って立ち入り禁止指定して引きこもるから」
「わ、わかッたッつの!」
卒業式のその日。
異世界関係が露見して以来初めて、私は家へと帰る事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます