第85話 研究×計略=獄

「……あら、こんな所で何をしているの、ラート?」

「りおがぶんだんわなふんだんだよ! やばいってけいこくしたのに!」

「うわ、それは酷い。その上モンスターハウス引いたのか」

「大変だったのう……という事は、後2人もバラバラに散っておる、という訳じゃな」

「もーやだ。おれひとりでたてとおとりとおさえぜんぶやれっておしつけられるしはんいこうげきまきこまれそうになるし、しょうようもわらってるだけできっちりこうほうたいひしてるんだぞ!?」

「実質後衛2に前衛1か……それでシャドウは難易度が高いな確かに」

「相手には主の援護が付いておるしの」

「……ところで、ラート。…………クリスライナーを見なかったかしら?」

「は? いきたたからばこが? なんでここででてくるんだ?」

「主のモンスター自動湧きシンボルの間違った運用。本人にとっても運試しだったらしい」

「……いやいやいや!? おまえらなにやってんだよ!?」

「いやしかし、主はこのダンジョンを空間神様に売るようなのじゃ。その後は世界の果てを巡り続けるから、次挑めるかは分からんとか言われて、つい、のう」

「クリスライナーだしなー。追いかけざるを得ないよな?」

「ひとがくろうしてるときにおまえら……!!」

「……で、見たの? ……見なかったの?」

「しるか。こっちにきたっていうんだったらそのへんにいるだろ。ていうかもんすたーのむれにまぎれてたんならおれしとめたかもしれないし。……おい? なんでぜんかいのじょうたいでこっちにこうげきたいせいとってるんだ?」

「…………獲物の横取りは、ギルティよ」

「ちょっとまてふかこうりょくだろ!? あぁもうなんでこんなんばっかりなんだー!!」




「ん?」


 ソールの戦闘に注視しつつ防御を(罠的な意味で)固めていると、不意に撃退メッセージが流れた。目をやればラートが落ちたようだ。ただ、ログを見る限りフレンドリーファイアで。何やってんだ?

 確かに魔法罠になって解除よりも回避の方が容易になったとはいえ、ラートは凄腕盗賊職スカウトだ。その発見と回避ルートの見極めは皆の中でも随一だった筈だが。

 と思ってログを遡ってみると、もう不憫としか言いようのない展開だった。分断罠の警告を無視されてモンスターハウスに放り込まれ、必死に生き延びたら不可抗力でフレンドリーファイア。


「いよいよ苦労キャラが板についちゃったか。あの分だと拗ねて次の攻略には踏み込んで来そうにないな」


 モンスターハウスに残っていたモンスターに八つ当たりしているレポリスを呆れた目で眺めながら、自滅を笑うとまでは行かないが、合掌を送る。その手で杖を振り、隠蔽率重視の罠を3人の周りに増やした。

 ラートがいるならどうせ見破られるからと威力重視だったが、いないのなら全開で隠していくさ。レポリスは確か解除系の魔法が専門だった筈だが、魔力とて無限ではないのだからいつかは引っかかる。……と、思いたい。

 一方ソールはと言うと、流石に影たちが無限湧きしている事に気が付いたらしい。どこかに仕掛けがある筈だと広場を移動しながら探している。うん。その外周のが仕掛けだから。結晶柱は飾りじゃないぞ。


「しかし、案外かからないものだな。攻撃的には結構な密度だと思うんだけど」


 冥府産ゴーストが召喚できたから駆除の手伝いも含めて召喚してみて、私の目ではどれが偽物でどれが本物なのか分からないのだが、ソールはまだ生き残っている。それとも、あまりの豪快な吹き飛ばし方に、モンスターの方が期を逸しているんだろうか?

 ブラインド兼牽制になってるみたいだし、賢いモンスターみたいだったからひっそりすきを窺っているのかもしれない。偽物の攻撃は時折刺さっているから、そのタイミングを測っているというのもありそうだ。


「まぁ正直そこで戦ってくれてるだけで時間稼ぎにはなってるから、別にそのままでもいいんだけど」


 元の世界に戻れるまで、あと10時間。




『――さぁ! 奮闘を続ける金鬼ですが、ダンジョンマスター帰還までのタイムリミットが10時間を切りました! いよいよ時間がありませんが、間に合うんでしょうか!?』

『……どうだろうな。……あの関門はどうやら無限にマッドシャドウが湧き出てくるようだから、アサシンレイスを全部仕留める必要があるのか、それとも別の仕掛けがあるのか、その判断が難しいな……』

『今のところアサシンレイスの攻撃は不発のようです! 先程から広場の中をあちこちに移動しているようですが、無限湧きのシンボルを探しているのでしょうか!?』

『……と言う事は……何とも酷い事だが、アサシンレイスですら無限湧きの対象、という事か……。……しかも、数が変動しているから……放っておけばどこまででも増える方の無限湧きだな……』

『なるほどうっかりアサシンレイスを仕留め損なうと、マッドシャドウに紛れたアサシンレイスという状況だったのが、逆転する可能性すらある訳ですか! これは酷い! 分かっていましたが、どこまでも酷い関門です!!』

『…………問題は、どこにシンボルがあるか、という事だが……』

『先ほどまでの関門はどちらも中央の結晶柱が破壊目標でしたが、この広場はそもそも結晶柱がありませんからね。あのマスターの事ですから、マッドシャドウの中に結晶持ちの個体が紛れている、なんて可能性もありそうです!』

『いや、まわりにはえてるけっしょうちゅうのなかのどれかだろ』

『おぉっと!?』

『…………赤鼠か。……攻略の方はいいのか?』

『なかまがわなのけいこくきかずにぶんだんわなふんだあげく、おれだけもんすたーはうすにほうりこまれたんだ。どーにかいきのこったられあもんすたーおいかけてたらしいやつらにころされたし。もーおれしらね』

『それは何とも不幸な出来事でしたね! しかしあのマスターのダンジョンで罠を見破れないと大変な事になりそうですが、まぁ警告を無視したのであれば自業自得と言えるかもしれません!』

『……まぁ、詳しい事が分かるのならここで思うさま喋るといい』

『どうかんがえてもおれわるくないよな? で、はなしもどすけど、あのかんもんのしかけ、かいしのときにはえてきたけっしょうちゅうのなかにほんめいがまざってるとおもうぞ。どうせいっぽんじゃないだろうが』

『なるほど、縁を飾るように生えてきましたから雰囲気を盛り上げる飾りの一種かと思いましたが、実用品でしたか! となるとあの中から本命を探し出して破壊しなければならない訳ですね! いやぁ大変です!!』

『……いや、周りが破壊できないならば識別も容易だろうが……恐らく、そうではあるまい』

『じゅっちゅうはっくわきそくどじょうしょうのぺなるてぃがついてるとおもうぞ。うっかりこわすとひろばからすらあふれるいきおいになるかもな』

『……そしてあのマスターの事だ。……シャドウ達は、関門の為のモンスターではなく、関門をきっかけに出現したモンスターという扱いであろうな』

『ということは、どうなるんですか?』

『……金鬼が敗北した場合。……少なくとも、その時その場に存在していたマッドシャドウとアサシンレイスは、ダンジョン中を自由に徘徊するようになる、という事だ』

『へたすればせんとうじかんとおなじだけはわきつづけるかもしれないぞ。どっちもごーすとけいだからとべるしかべぬけれるし』

『という事はあの関門に挑戦した分だけその後の攻略が難しくなるという事ですね! 仕掛けを壊そうとした場合、周り中から恨まれる結果になる可能性も高そうです!!』

『……なぁ。いまおもったんだが、このかいせつだんじょんのなかにはとどいてないんだよな? あるじいがい』

『……その筈だが、それがどうした?』

『いや……なんかあのばか、おおわざうとうとしてるみたいだぞ?』




 ソールが剣に金色の炎を纏わせて上空へ飛び上がる。追いすがる影たちの追撃を振り切り高度を稼ぎ、剣のブースト効果を合わせて十分に力を溜め、


『ぜッ……やァああああああああああああああ!!』


 炎の塊を、広場に向けて放った。着弾後爆発する、ソールお得意の剣戟範囲攻撃だ。細長く上に向かって伸びていた影たちをすり潰すように進む金色の炎は、狙い通り広場の中央に着弾した。

 ズドォン!! と特大の爆発音がして影が薙ぎ払われ、その周囲の結晶柱も吹き飛ばされ割れ砕ける。その中の2割程が割れずに吹き飛んだわけだが、一体何人気付いただろうか。


「あんまり続くと焦れて大技使うと思ったんだ――」


 その光景を見て、私ことダンジョンマスターが、


「――計画通り♪」


 心の底から楽しそうかつ凶悪な笑みを浮かべていた事に。




『出ましたーっ! 金鬼の得意技、種族特性の物魔両属性範囲高威力攻撃【フレアスラッシュ】!!』

『おわったなあのばか』

『……悪手にも程があろう』

『あれ!? なんか反応が思ってたのと違い淡白かつ脱落判定ですか!?』

『そりゃそうだろ。たいさくしてないとおもうのか。しかもあるじ、あのばかにはかなりにえゆのまされてきたから、こうどうぱたーんぐらいきっちりはあくしてるぞ?』

『……何の為の連戦で、何の為の物量だと思っている。……広場が尽く円形であることまで含め、どう考えても範囲攻撃を誘発させるための誘いだろう』

『あぁっとー!? 解説の間に関門の広場で影が爆発しました!? 金鬼は飲まれて行方が分からな――脱落!! 脱落判定が流れました!! 金鬼の快進撃もここで止まってしまったー!!』

『うーわー……まっどしゃどうとあさしんれいすにくわえてあるじのこぴーまではいかいはじめたな……』

『……しかも広場中央の時刻表示を見る限り、しばらくはあの速度で吐き出し続けられるようだな……。……戦闘時間とも食い違うから、壊した結晶柱の数に依存するのか』

『あ、とぶめいきゅうにのったいちだんがそとがわまではこばれてった。うわーじごくだ、じごくがてんかいされてる。このままだとまともなとつにゅうもできなくなるぞ。うらまれるだろーなー』

『……まぁ気にはしないだろうが。……しかし、再挑戦の出鼻でアサシンレイスに不意打ち食らうなどという状態では、もはや第一の関門にたどり着くのも難しいのではないか?』

『たどりついたとして、じぶんのしゃどうとたたかってるときにふいうちとかすごくされそうだ。ただでさえきびしいたいじぶんせんにそんなよこやりいれられたら、ふつうはこころがおれるぞ?』

『相変わらずの極悪難易度!! 異世界に戻っていたブランクを感じさせない、圧倒的な構成力です!! 金鬼の攻略失敗によって跳ね上がった難易度は突破されることがあるのでしょうか!? それとも、第二の心折ダンジョンと化して沈黙してしまうのかー!!?』























開放型疑似ダンジョン

属性:世界開拓拠点

レベル:1

マスターレベル:3

挑戦者:――――――(カウント中)

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