第84話 作戦/謀策=智略合戦
一応観察だけはしているものの、レポリス達はすっかりレアモンスターを追いかけるのに夢中、リオ達は相変わらずばらけたままで、ラートがもうじき落ちそうだ。
変わらず化け物なソールは制限時間ギリギリに影を撃破、即座に宙に浮く結晶柱に攻撃を浴びせ、
『ぬァ!? オイちょッと待てどォなッてンだァ!?』
その攻撃が反射されて心底ぎょっとしていた。ふはははは、何のひねりもなく同じネタを使う訳が無いだろ。次は破壊できるといいねー。それ以前に第二ラウンドは耐えられるかなー?
こっそりさっきより支援魔法の出力を上げて再召喚されたダークシャドウの様子を見る。……戦闘中に動きの精度が上がっていくとか、お前は物語の主人公かソール。
残り時間は11時間。ここらで一度ソールを落としておきたいところだが、第二ラウンドも抜けられそうだ。コピーの出力上げたのに何で対応できるんだろう本当。
「と、なーるーとー……」
第三ラウンドに引っかかってくれれば御の字として、数%罠コストを減らして関門のコストに回す。その上で結晶柱の耐久度を減らして数を8から20に増やした。色つきダミー6つを1セットとして色分けし、それぞれを等間隔で配置。
外側に行くほど素地の色そのままにして、その周囲に大量のダミーと本命を床と同じ色にして、固まり過ぎないようにかつオーバーブレイクで誤爆が起こるように振り分けた。
ダメ押しでダミーと本命に破壊すると雑魚の出現スピードが上がる仕掛けを込める。必須の物だけ壊したとして全破壊時の上昇速度は50+3体/秒の200%UPだ。
で、ダミーの一部にはダメージが入ると吹っ飛ぶ仕様の結晶を混ぜる。ダメージ量に応じて私のコピー召喚or‘星’化する代物で……いや、‘星’を落としたところでカウンターでダメージ食うだけだな。コピー召喚のみにしとこう。
更にそのコピーが使用する補助魔法の方向性を絞って上限を上げる。コピー1つに付き1ステータスのみしか強化できないが、優先順位を決めて空き枠を埋めるように使用先を決めるようにして、と。
「これで抜けられたらもう直接対決しかないか。……いや待て、あれだけ主人公してるんだから……」
念のためにもう一段仕掛けを設定。今までのパターンから考えて、有りそうな可能性は全て潰しておくことにする。更にそこからご同輩の主人公補正を思い出し、奇跡が起こった場合の可能性も潰しておく。
対策をして仕掛けを施し細工を仕込んで可能性を潰す。
挑戦者たちの主人公補正を合わせて考え、自分のやっている事が完全に悪役そのものであるのは十分に理解した上で、それでも手抜きはせず、ただ自分に呆れたため息を吐くにとどめた。
「なーんで平穏な生活送りたいだけの為に魔王やらにゃならんのだ」
ダンジョンが飛び回る、なんて呆れた光景の中を突っ切る。どんなに極悪な作りであろうと通れる道はある、というか、作らざるを得ないのは裏側に回って初めて分かった。
在るべき場所から拉致されてきたというマスターは決まって、何でこんな所だけ妙に公平なんだか。なんてグチグチ言っていた。ただ、何故かその分余計に凶悪な仕掛けになっていた気がするが。
訳の分からない思いつきはひたすらに愉快で、殺さないというその思考回路は呆れるくらいに優しくて、大きさも誂えた様に丁度腕の中にすっぽり収まる愛らしい異世界人。
勝手に異世界に帰したと聞いた時は本気で世界の境を破壊して向こうに渡ろうとしたが、生命神と精霊神の二柱がかりで押さえられた上、遺されたダンジョンの管理責任が自分に回ってきていて耐えざるを得なかった。
だがそれも、今日までの話。
「二度と、離れてたまるかッつゥんだ!!」
一声吼えて、いつか見た結晶の蕾、それと似て非なる守りの殻までの道のりの、最後の広場へ飛び込んだ。絶対ここにも何かある。下手に突っ切ろうとすれば痛い目に遭うのはさっきの広場で思い知った。
という事はもちろん、この場所は自分の弱点をとことんまでえぐる仕掛けになっている筈だ。この剣を得て以来神含め大概の相手には負ける気がしないが、それでも防げない攻撃と言うのは存在する。
(ざッと考えられるのは貫通に状態異常、嫁の性格からして貫通即死ッてとこかァ? 流石にどォ考えても捌ききれない密度で一斉射撃なンてのはねェだろォが……いや嫁だ。なンか手を打ッてその状況に持ッて行こうとすッかァ)
何しろ先ほどの連戦で自分の力量も弱点も明らかになってしまっている。もちろんその情報を活用しない訳がないから、徹底的に自分に対して相性の悪い場になっている筈だ。
生きていた配下間の通信で確認した限りリオ達は分断され、レポリス達は何かを追い回していた。すっかり策略に嵌ってしまっている訳だが、これは自分たちが悪いのか相手がすごいのか判断に困る。
一刻も早く直接姿を見たい、気配を感じたい。にも関わらず、バキバキと硬質な音を立てて姿を変えていく広場に、口角は勝手に吊り上った。自分を落とすための、自分に合わせて調整された舞台。
「ッたく、どこまで惚れさせりゃァ気が済むンだ?」
もちろんその笑顔は、その後湧きあがった影の群れと周りを囲う結晶の柱群に、引き攣る所までがセットだが。
『さぁ! 大本命の金鬼が最後の広場に到着しました!!』
『……何やら広場そのものが形を変えているな』
『ただのつるりとした広場が円形に広がり、その周囲を飾るように尖った形の結晶が伸びて行きます! 様々に色分けしてありますが意味はあるんでしょうか!?』
『……おそらく、あるんだろうな。……そして、またしても召喚陣、か?』
『今度もまたシャドウのようで――いや、その数が尋常ではありません! 広場が続々と湧き出すシャドウによって埋め尽くされていきます!!』
『……あのマスターが物量攻めとは、珍しいな……』
『そうでしょうか? 金鬼の顔が引きつっているようにも見えますが』
『……ふむ……。…………あぁ、そういう事か』
『一体どういう事でしょうか?』
『……恐らく……いや、確実に、ただの物量では無い』
『ほう! まぁ金鬼相手に数など揃えるだけ無駄とは言いませんが効果が薄いのは周知の事実。それでも有象無象をぶつけて来たという事は、やはり何か策があるということですか?』
『……あの剣の自動防御は、ダンジョンマスター自身が纏う結界殻を基本にしているだけあって、とても優秀だ。……だがしかし、付与の都合上、そして持ち手に合わせた結果、明確な、かつ補いきれない弱点がある』
『ほほう!? それは一体!?』
『……貫通攻撃は、通るのだ。……後、状態異常への耐性も、本人に依存する。……それを踏まえて考えると……あの群れの中に、確実に、アサシンレイスが混ぜられているだろう』
『アサシンレイス、それは死神を越える死神とも揶揄される、最も防ぐ事が難しい即死持ち、いいえ即死のみのゴーストモンスター! その致死率は100%とも言われ、ひとたび出現すれば撒き散らす死と恐怖により、たった一体でゴーストタウンが発生すると言われています!!』
『……救いは、レイスという種族特性で、浄化耐性が0である事だな……』
『しっかーし金鬼は浄化攻撃を持っておりません!! 幸いゴーストのみ透過可能な壁はありませんが、あのシャドウの群れの中からアサシンレイスを識別し警戒するのは至難の業です!!』
『……何が凶悪かと言えば……湧きだす他のシャドウが、限りなく浄化耐性の高いマッドシャドウである事だな……むしろ、どこから調達してきた……』
『マッドシャドウ……すみません、初めて聞くモンスター名です。一体どのようなモンスターなのでしょうか?』
『……端的に言うと、冥府産ゴーストの一種だ。……死者の泥が『別つ川』に沈み、なお浄化されなかった場合に湧きだす。……霊体種族であるからシャドウと名はついているが、その実態はスライムに近い』
『聞く限り攻撃力は低そうな印象ですね。ん? 冥府産ゴースト? ってあの軒並み鬼のように強くかつ浄化耐性がほぼカンストしている、あの冥府産ゴーストですか!?』
『……だから言っただろう。……どこから調達してきた、とな……。……確かに攻撃力は皆無に等しいが……物真似が上手く、冥府産ゴーストの中でも特に浄化耐性が高いのだ……』
『そんなマッドシャドウが群れをなし、その中にアサシンレイスが混ざっている! しかもマッドシャドウはアサシンレイスの物真似! ……これ突破できる存在っているんですかね』
『……いや、突破法はある。……火属性殲滅魔法、もしくは光属性広範囲魔法で消し飛ばすか……うちの神官を3人も連れて行けば、合唱神技で薙ぎ払って、終わりだ』
『なるほど! という事は金鬼1人では無理でも、灰兎、もしくは白翼人の女性が合流すれば突破の目はあるという事ですね!!』
『……ただ』
『ただ?』
『……本当に、その対策だけで突破できるかどうかは、分からん』
『ですよね!! あのマスターの事です、きっと眼を覆いたくなるような仕掛けがあるに違いありません!! さぁ、盛り上がってまいりましょう!!』
開放型疑似ダンジョン
属性:世界開拓拠点
レベル:1
マスターレベル:3
挑戦者:――――――(カウント中)
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