第77話 好奇心×夢=停止不可

 突然異世界に拉致をされて、ダンジョンだと分かった事。構成と撃退の日々。手痛い失敗に恐怖。神々含む出会いに、致命の実質上の敗北。変化と交流、力と思惑、策略に信頼に、しまいには戦争。同じ異世界人の発見。自称勇者、使徒との戦い、その結末。干渉に激戦に、その最後。そして、神代の話。

 どうしても凄惨な部分や、言葉にし辛い部分は濁してしまったし、神代の話に至ってはほとんどを省いた。どこまで話していいのか分からなかった部分もあるが、それ以上に、どう話せばいいのかが分からなかったのだ。

 途中で何度か口を湿らせる為にお茶を飲み、2杯目のそれが空になって、ようやく長い話は終わった。うまく喋れた自信なんか欠片も無い。正直2人の反応が怖い。沈黙に耐えかね、しかし破る事も出来ず、何かが限界に達しようとした、その時、ようやく真野花が口を開いた。


「えーとー……今も“あー”ちゃんは、その、スキルっていうの? つまり、魔法を使えるってことー?」

「負荷の方はとんでもないから、まともになんて使えないけど、一応」

「という事は、やはり先ほどの車が見せたおかしな挙動は、“りゅうせい”さんの仕業だったのですわね?」

「間に合わせるにはアレしかなかったから」


 それに続いて今度は華楽が確認を取る。それに頷いて、そして再び沈黙。2人は何故か目で何かを話し合って……おい、何故そこで目に輝きが戻る?


「一応ですわよ? 一応ですけれど、今は他にどのような事ができますの?」

「4大8小……12の属性の初級魔法をギリギリ使えるぐらいかな」

「それはー、火の玉を出したりー、カマイタチを飛ばしたりー、そういうのー?」

「そういう派手なのは中級の入口になるから、せいぜいコップに水を張ったり地面に溝付けるぐらいの地味なやつ」

「ただの確認ですわよ? ただの確認なのですけれど……あちらの世界では、どの位の力量だったんですの?」

「あー、連盟組んでる、だから……近くにある3か国ぐらいの仲良い国に喧嘩吹っかけて、誰1人怪我すらさせずに勝てるぐらい? あ、一応向こうでも規格外だの理不尽だの散々言われたから、基準にはならない」


 おい待て2人とも。何故キラキラが増していく。特に真野花、何だ「大魔法使いかー……!」って何感動してる。おい? ちょっと? さっきまでのシリアスはどうした、何だそのアイドルでも見るような目は!?


「実験せねばなりませんわね」

「そうだね是非見たいよね本物の魔法ー」


 結局そういう扱いか!!




 で。


「「おおぉぉぉ……!!」」

「………………」


 半時間ぐらいして、ぐったりとまともに座る気力も無くなった私と、感動しまくっている2人の図があったとさ……。この2人こんなにファンタジー好きだったか……?


「水が突然現れてコップに満ちましたわ!」

「何にもないのに風が渦巻いたよねー!」

「目の前で土に穴が掘れましたわ!」

「いきなり紙が燃え上がったよねー!」

「豆腐が凹んで一瞬重量が増しましたわね!」

「チーズが冷たいのにとろーんってなったねー!」

「折り紙の風船が爆竹のように爆ぜましたわ!」

「小さいけど水晶みたいな結晶ができてるよー!」

「双葉がいきなり成長いたしましたわね!」

「蛍光管が光ったねー!」

「水のコップが凍りましたわ!」

「音叉が震えたよー!」


 発言の順に、使った属性は水、風、土、火、圧、溶、爆、晶、木、雷、氷、音だ。本気で全部実演する羽目になるとは……お陰でなけなしの貯金で作った銀のかぎ針は残り2本になってしまった。

 というか、私が使える魔力が総量の2割になっている上負荷が増していると言ったって、これは流石にきつすぎないだろうか。もしかして第零位の情報は古くて、その実時間経過と共に負荷は増してるんじゃないのか?


「一応ただの確認なのですけれど!」

「……うん?」

「これで本気の2割なんだよねー!?」

「……まぁね……」


 こっちは起き上がる気力もないっつーのに、きゃーと喜びの悲鳴を上げてハイタッチする2人。そうか、そんなに魔法が実在する事が嬉しいか。とりあえずもう少し休ませてくれ。


「どうしようテンション上がってきちゃったー、友達が大魔法使いしかも本物とかもう今日寝れないよどうしようー!?」

「寝ろ」

「甘いですわね遠近さん。私(わたくし)なんて3日は寝れない自信がありましてよ!」

「威張るな」

「魔法だよ魔法だよ本物の魔法だよー! しかも異世界だよ神様だよー! どうしようどうしよう、もうなんか止まらないんだけどー!」

「止まれ」

「ですわよね止まりませんわよね! はっ、そうでしたわ。爺! 私(わたくし)この感動に浸っておきたいので、向こう1ヵ月の接待関係行事、全てキャンセルしておいて下さいまし!」

「果たせよ」


 各所に力の入らない声で突っ込みを入れるが、テンションが振り切れた二人には届いていないようだ。この2人、本当に同い年だよな……?

 と、ぐったりしている私に、華楽に『爺』と呼ばれた執事さんが電話を終えて近寄ってきた。


「お疲れ様でございます、“りゅうせい”様」

「……だったら止めるん手伝って……」

「私は主であるお嬢様のご意向を最優先に考えますので」

「……うん、分かってた……」


 でなきゃこんな何でもありのまさしく実験場みたいな部屋、ものの10分で作り上げんわな……。なおこの執事さんは華楽の呼び方に合わせて私の事を“りゅうせい”と呼ぶ。


「ところで大変失礼なのですが、先ほどから使い捨てにされているその棒のような物は一体何でしょうか?」

「触媒っつって……魔法を使うのに必要な道具。普通は使い捨てじゃないんだけど、これ、銀なのに魔力容量低すぎて、一回使ったらボロボロになんの……」

「なるほど。これがなければ使えない訳ですな」

「……これに限らず、貴金属と宝石……魔力容量の大きい素材の組み合わせなら、形すら何でもいいんだけど……」

「ほうほう。性能が上がる条件というのはどのようなものなのでしょう?」

「んー……基本、貴重だったり希少だったりする素材の方が、いいんだけど……一応銀に、仮にも桁外れな私の血でコレだから、そもそもこっち産の素材だと、似たり寄ったりかも」

「それはそれは。いやはや、大変勉強になりました」


 鉄や鋼でも試したが、発動の為に魔力を流し込んだ時点でバッキリ割れるかボロボロと崩れたから、そもそも発動すらしないって事で却下した。

 うーんしかし、魔力回復の手段が生成系アビリティ【小太陽】しか無いから、流石に回復に時間かかるなー……。

 向こうだと食事でもある程度回復効果があったんだけど、こっちでは最終決戦の時に残ったポーションが今あるだけ、しかもアイテムボックス開くのに魔力いるから却下だし。

 と、執事さんから何か聞いた華楽が振り切れたテンションのまま何か言ってる。またたぶんとんでもない事だろうなーこの分だと。そして私が割を食う。予定調和だな、うん。


「“りゅうせい”さん、今爺に言ってとりあえず集められるだけの種類の貴金属を持ってこさせていますわ! 良い物があれば何なりとおっしゃって!」

「だろうな。そんなところだろうとは思った。……けど流石にすぐは無理だからな?」

「えー?」

「不満そうに言うんじゃないっつの魔力切れだアホ…………」


 あ、いかん、気持ち悪さがぶり返してきた。完全に残量0になった訳では無いからか気絶はしないみたいだが。再びぐったりとソファの上にうつぶせになると、頭の上でひそひそ声が。


「なんか本当に辛そうだねー」

「やはりこの世界の負荷というのが酷いようですわね」

「ゲームでは魔力の回復アイテムとかあるけど、作れるかなー?」

「どうなのでしょう。話を聞く限り、こちら産の物では皆等しくダメなようですわ」


 聞こえてるぞ2人とも。

 ちなみに、自分でも魔力関係の実験は色々とやってみた。もちろん他の事に支障を出す訳には行かないから上限は決まっていたけど、今の所魔力回復は自然回復(正しくは生成)以外の目途は立っていない。

 で、触媒なしで使え尚且つ熟練度がカンスト寸前まで使い込んでいる『変性生成』も試してみた結果、どうやらこのスキル、かける物質に内包される魔力によってコストが変わるらしいという事が分かった。

 そりゃダンジョンの中だと楽々使える訳だよ。んでもって肝心の使い手は少ない筈だわな。私の場合の前提条件が色々と常識外れすぎる。

 そんな事を考えながら、私は頭上でひそひそしてない話にいつ割り込むか、ひたすらタイミングを待っていたのだった。

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