第65話 対峙=準備×感情

『I   not belon     orl   .

            re     rl .

   existen      his is not r     .

 h            .

    is c   which i     d here is o.

 he    re is pecu  .

         from    is     h  it was seale  cr   n p   .

   resistan e fr ce i ch it as sea s .

  nd the s which it w su ntil i o one.

  t e re ize .

 O e ec d fr e.              』




 襲い掛かる氷塊を、土槍を、風の矢を火山弾を腐食の霧を吹き飛ばし斬り裂き相殺し続け、延々と終わりのない持久走のような戦いが始まって、私の腕時計が正確に働いているなら、2時間が経過した。

 たまに攻撃が掠る事もあって、私の結界殻の表面には無数の傷がついている。それでも重要度的にお姫様の結界殻の方を優先しなければならないから、本音で言うと徐々に追い詰められてきていた。

 ペースを落とすことなく無数の魔法を乱射している為独り言を言っているような余裕はないが、それでも思考の端で今の状況を分析しなおす。


(まずいな、これは。この空間そのものが攻撃者であると同時に攻撃そのものだ。相殺して打ち消したところで空間に戻るだけどころか、ロス分だけどんどん空間そのものが縮んできてる)


 攻撃の密度と種類、そして手応えが分かった瞬間に、自分の結界殻を10枚ぐらい減らしてその分を探査に回していたのだ。もちろんその速度は速いとは言えない物だったけど、何もやらずにただ耐久レースに付き合う義理も無いだろうと思ったのが吉と出た。

 まぁ欲を言うなら、縮んだ影響で隙間なりヒビなりが出てこないかと思っていたからそこはちょっとがっかりだ。黒幕は私の事も、そしてお姫様の事も生かして帰す気はないらしい。


(まぁ全く歪みの1つも無しって訳じゃないからまだどうにかしようもあるか。空間をボールとしてその表面に私の縮小に関する術式が刻まれてる感じだな。そりゃ分からんわ。この空間自体がどこかに内包されてるのも確定だけど)


 自分にかけられた術がギシギシと歪みだしているのを確認しながら、魔法の相殺のペースを上げる。この空間を破った先にきっと黒幕がいるのだろうから、そこに至るまでには何とか元の大きさに戻りたい。


『ちょっと!? いきなりわたくしのことをとじこめたあげく、むし!? しかもこのかごみたいなばしょのそとがさわがしいわ! なにがどうなっているのよ! せつめいしなさいおにんぎょう!!』


 お姫様はぷんぷか怒っているが、私は既に頭をフル回転させているので返答している余裕はない。一応内張りで状態異常治療の結界を張っておいたのだが、流石に巫女に掛けた細工だけあってちょっとやそっとじゃどうにもならないようだ。

 しかしそろそろ本格的に何とかしないと詰みそうだ。リジェネポーションの効果は3時間まで、この忙しさから言って飲み直している暇はないだろうから、あと1時間以内にはなんとか少しでも状況を動かさないとまずい。


(つっ、て、も……この、密度は……っ!!)


 まずい、のだがさっきから攻撃の密度がうなぎのぼりに上昇中。流石の私も捌ききれなくなってきて、お姫様の結界にも何発か掠っている。私の方の結界殻は、そろそろ表面から5層ほどが限界だ。

 と、そうやって思考を余所にやったのがいけなかったのか、捌ききれなかった敵の攻撃の1つがこちらの結界殻に直撃した。限界だった表層が、ガシャァン! と音を立てて割れ砕ける。


「っ、割れ砕けた魔力の殻の破片たち、守る為に分厚く硬く、堅牢に強固に作り出された魔力の結晶よ。お前たちにもう一度姿を与えよう、本来の物とは対称ながら、変わらず守る為の姿と役目を。その断面は鋭く、その身は固く、故に与える、盾では無く、剣の姿を、防御では無く、攻撃の役目を、変じて漂い、なお従え! 『ストレイフ・エッジ』!」


 無詠唱の魔法をコスト無視で周囲にばらまき数秒の時間稼ぎとして、一息に長い詠唱を詠み上げきる。もともと無数に皹が入っていた為1つ1つは小さいものの、100を越える結晶の刃が周囲の守りに加わった。


【スキル『同時展開』異系展開】

【スキル『晶属性適正』クォッツシュート×23】

【スキル『結界術』設計結界“倍増球”対象:クォッツシュート】

【スキル『結界術』重ね掛け 対象:“倍増球”】

【スキル『変性生成』輝石→魔晶】

【スキル『変性生成』変形形成 対象:同時生成魔晶】

【スキル『魔力操作』術式(To3Slot)付与 対象:同時生成魔晶】

【Slot1=スキル『複合属性適正』(四大)エレメンタルエッジ】

【Slot2=スキル『結界術』設計結界“刃鏡壁”】

【Slot3=スキル『魔力操作』指向添加:自動制御 行動:迎撃】


 一気に手数を増やしてしまうためにさらに魔法を紡ぎ、魔法そのものを核及び素材にして魔晶の刃を形成する。更に直接魔力線を繋いで魔力をじかに供給する事で、砕かれるまでは動き続けるようにした。

 ほんの少し余裕のできた頭で探査魔法の追加結果を確認して、思考と同時に口を動かす。


(さて……と)

「その輝きは彼方より、時を越えて輝き続く」

(空間の核の辺りに術式の基礎もあるみたいだな)

「あまりの彼方、それは限りあるものではたどり着く事叶わぬ場所」

(ほんとギリギリ、魔力の方はむしろ減って行ってる)

「近寄る事は叶わず、しかし近寄ってはいけない」

(その上相手の土俵である可能性が高い)

「彼方の距離を越え、時すらも越え、なお届く煌き」

(……ワンサイドゲームになる事も覚悟しなきゃいけないか)

「彼方の距離があるからこそ美しく、過去の物ゆえに儚い光」

(しかもお姫様はどうにか逃がさないといけない)

「もし近くで見たのなら、もし今の光が見えたなら」

(当然、私自身も死ぬつもりはない)

「何もかもを薙ぎ払い、辺り一帯ただでは済まない」

(また随分と無理難題な状況、と)

「煌く光が降り注ぐ、その時は脇目も振らずに逃げるといい」

(チップは命、報酬不明、難易度鬼。しかも拒否不可能)

「煌き輝くのは、防ぐ事も耐える事もかなわない、滅びの光」

(あぁ、本当ギリギリだった)

「降り爆ぜろ、『メトラーシュート』――」

(どうしようかと思ったけど、私だって意地くらいあるさ)

「――重ねて輝け、」


(天秤は、傾けさせてもらう!)

「『ツェーン・シュトーネ』!!」


 敢えて無視していた、唯一攻撃が飛んでこない方向に杖を向けて、周囲に滞空させていた‘星’を全てその一点に叩き込んだ。くるりと振り返った一瞬で反応して術式の構成そのものが動こうとしたが、そんな程度の速度で私の照準を振り切れると思うな!!

 流石に私が作った中でも最高品質の‘星’を、しかも同時に爆発させたものだからその衝撃はとんでもなかった。より正確には、展開していた全ての結界魔法を5回『重ね掛け』して、その合間に『ストライフ・エッジ』で防御魔法陣を構成していたから、衝撃程度で済んだとも言う。

 つまり普通なら跡形なく消し飛んでいる訳で、私は本来の大きさに戻ったのをお姫様との対比で確認しつつ、今ので砕けた結界殻の欠片を『ストライフ・エッジ』&複合魔法で魔晶の刃に変えつつ、やっと察知できるようになった気配の方を見やった。


「いやいやいやいや、お見事、エクセレント、いくら言葉を並べても足りませんねぇ。実に素晴らしい」

〈あぁ、本当に素晴らしい。本来あるべき世界が真っ当なままであれば、どれほどの天才としてもてはやされていたか〉


 魔力のチャージ&リジェネポーションを立て続けに飲み干しながら視線を向けた先で、恐らく私に対する白々しい賛辞を口にしているのは2人。

 よれよれのダークスーツをぴっちりと着た長身痩躯で、脂ぎった扱いの悪い黒髪に顔色の悪い狐面の男と、某有名私立寄宿学校の初等部の制服を着こなした、サラサラの金髪に曇りのない碧眼の美少年。

 変わらず周囲は闇に閉ざされているが、その質はより濃く深くなっているようだった。狐面の方は闇からにじみ出るように、美少年の方は燐光を纏ってそれぞれ佇んでいる。


〈さて、色々と聞きたい事もたくさんあるだろう。いや、それより先にボク達を叩きのめしたいかな?〉

「いやぁ、惰性とは言え真っ当なダンジョンを経営するとは思ってなかったからなぁ。もらえる物は貰っておく精神、素晴らしい。まぁ、情報くらいは得ようとするんじゃぁ?」


 にこにこと美少年が鈴のような声で口を開けば、くつくつと狐面が粘つく声でそれに続いた。ぷんぷか怒っていたお姫様が静かだな、と思って様子を窺うと、どうやらさっきの衝撃で気を失っているようだ。

 うん。静かでいい。いざという時の自己防衛は……あ、元々欠片も期待できなかったんだっけか。とりあえず結界殻だけ破られなければいいや。後はこっそり内張りしたのを強化しておいてと。


〈あぁ、それもそうか。その上で魔力の回復とか術式の詠唱とか、そういう事もしたい感じかな? いいね、無駄がない〉

「こうしている今も防御術の補填と補修は進んでいるし、あぁ、何よりその術式の美しさ! 惚れ惚れするほどに精緻かつ緻密、素晴らしい……。しかも油断も隙も欠片も無い。今すぐ大規模術を展開しても食い破られるかぁ」


 予備の自動杖と‘星’の放出準備確認とー、ポーション飲みつつ各種装備に魔力をチャージしてー、晶属性の魔法を素材に杖と護剣の耐久度回復してー。

 強化術式展開準備にー、待機詠唱ストックにー、ブーストアイテムをポーションで飲み下してー、あ、空間捜索の魔法が端っこまで行った。状況把握の最低限のラインだけ残して魔力回収っと。


〈いや、むしろボク達の大規模術を利用して手足の2・3本もしくは空間の崩壊ぐらいは狙ってくるだろう。もう既にこの空間の仕組みや種類まで見破っているのか、素直にすごいな〉

「守るのに要する力と技術に特化して磨き上げた面目躍如だねぇ。難易度の高い方へ高い方へ目標を持って行った結論は、圧倒的な防御力を前提とした、自らを巻き込む規模の大規模魔術使用……素晴らしい、拍手喝采を送ろぅ」


 さて、それじゃあ気合を入れて。


「ダンジョンマスター特殊能力発動」

「ん?」

〈おや?〉

「――『フロア召喚』」


 回復しきった魔力と装備にチャージしていた全ての魔力をつぎ込んで、“私の領域”と呼べる場所を引き寄せて割りこませにかかった。相手の土俵のままでなんか戦えるか。

 もちろん相手が相手な為にとんでもない抵抗がかかるが、意志力の力技で文字通り無理矢理引きずり込んだ。ギギギィ、と古い扉が軋むような音を立てて空間にヒビが入る。


〈おかしいな、なんでこんな干渉が……あぁ、世界のルールか〉

「それにしたって少々型破りな運用を力技で行って……屁理屈をこねるも同然とはぁ……」

〈不愉快だね……実に不愉快だ〉

「そもそもの認識としてあっち所属と思っているのも許せないなぁ」


 呑気な事を言いつつも目の前の姿が何かしたのか抵抗が強くなる。引き寄せる強さと拮抗しそうになって、


「……ふざけるなよ?」

〈えっと?〉

「ほぅ?」


 さっきから術に集中していて口に出せなかった、


「大概にしろよ? 許すとでも思ってんのか? 何してくれたと思ってんだ?そこちゃんと認識してんのかお前ら?」

〈うん?〉

「ほほぉぅ」


 全部の感情を吐き出した。


「ふざけんなよいきなり何の前触れも予兆も準備も確認も提示も選択も時間も無しに異世界なんてふざけた場所に飛ばしやがってしかもダンジョンマスターで最初の冒険者まで1日切ってるし殺す気か殺す気だよな殺す気しかないよな実際一回死んだしな思惑通りに行ってほくそ笑んでたのかほくそ笑んでたよな絶対あぁ苦労したし苦悩したし考えて足掻いて抵抗して対策して働いて作って動き続けてきたさ復活の保証があるったって死ぬのは怖いし痛いのは嫌いだからなもちろんこんなことしやがった犯人の事なんてひと時も忘れた事なんて無かったしむしろ今までの対策は全部犯人相手にする為の基礎で下地で実験で準備だったからその犯人が目の前に出てきてのうのうと呑気にしてるだけでどんだけ私がブチ切れ続けてると思ってんだ今持ってきてる手札じゃ全然足りないに決まってんだろありったけの全力の本気の死力で戦いに臨むに決まってんだろうが、」


 ぎっ、という効果音では生温い万感の思いを込めて、目の前の姿を睨む。


「塵芥以下にした程度で終われると思うなよ腐れ誘拐犯共がぁああああああああああ!!!」















b f out W l

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