第64話 違和感+情報=解答
『I n orl .
re rl .
n ot r .
h .
is c i o.
he .
fr is h cr n p .
si e fr ce i s d .
s su o one.
t e re .
O e ec e. 』
『きゃぁああっ!!』
魔力の回復速度を加味した中で一番厚い魔力殻に引きこもり、半ば自動制御の杖を2本従えて、周囲に圧縮した‘星’を10ほど浮遊させている。これが、私の全力戦闘形態だ。
もちろん装備の方で回復速度や術の魔力効率は上げてあるし、アイテムボックスにはポーションの類がかなりの数入っている。どんな長期戦でも、という訳には行かないかもしれないが、粘る事を前提にした装備。
誘拐犯を目の前にして、世界間拉致なんてものをする相手だと認識して、冷静に慎重にどんな手札を出してきても対応できるように、同時に目的や理由や方法なんかを探れないかと読心も試みているから、正直頭の方はいっぱいいっぱいだ。
……けど。
(なんだろう、この無駄な罪悪感)
そんなもの感じる必要はないんだろうけど……どうしよう。思った以上にこのお姫様とやら弱いんだけど。威嚇の目くらましのつもりの魔法でダメージ入って逆にびっくりした。
まさに紙防御。しかも結界殻張ってから、一応踏まれたり叩かれたりしたんだけどヒビ入るどころか衝撃すら通らないんだよね。何という雑魚さ。わりと本気で他に本体が居ないか警戒はしてるけども。
(かみさまにおねがいしてもらったおにんぎょう。神様にお願いして貰ったお人形。つまりアレか。私はこのお姫様とやらのおもちゃ扱いだと)
さっきからしてる読心も外れだしなー。このお姫様まじで物を知らん。神様は単にかみさまだし、他に誰かいるっぽいけど名前ぐらいしか分からないし。ここまで箱入りでなんで疑問の1つも持たないんだよ。
そんな事を考えている間も私の結界殻はバシバシ叩かれているんだが、通らねーなー何一つとして。どうしよう、やり方次第で下位魔法だけで死ぬぞこのお姫様。
(え? マジでこれが誘拐犯の本体? 絶対嘘だそれだけは無いわ。この世界の事知らないっつってもそれだけは断言できる)
もう割り切る事にして防御に割く魔力の2割を今いる謎空間の走査に振り向けながら、ぷんぷか怒っているお姫様を見上げる。えーと、身長は……大体3倍から4倍ってとこか。ぬいぐるみの大きさを40㎝とすると120~160㎝、30㎝なら90~120㎝。
いずれにせよ成人じゃないのは確定。等身の関係から言っても子供なのは疑いようが無いし。下手すれば年齢一桁だったりしてか。……いや、だとしたらもう少し手がこう、ぷくっとしてるよな。
そうこうしている間に走査に振り向けた感覚に手ごたえあり。術式の形で脳裏に浮かび上がるこの空間の情報を整理して、今までの記憶から類似パターンを拾い上げる。
(…………うわ。あの戦争神の試練ダンジョンと似たような構造とか、マジか。力技でぶち抜いて大丈夫じゃなさそうだし。うわ最悪。私にかけられてるこの縮小の魔法を何とかしないとどうにもならないな)
あの時は本当に大変だった。それに輪をかけて厄介な構図であるというのが判明して目標をとっとと切り替える。ていうか、今掛けられてるのこれ本当に魔法なんだろうな。神業だったら流石に解除も難しいんだけど。
『なんなのよ! おにんぎょうのくせに! おにんぎょうのくせに!!』
「だっから人形じゃなくて人間だっつってんでしょーが。人の話を聞けこの箱入りが」
『なによ! はこにはいっているのはあなたじゃないの! せっかくいれてあげたのにでようとするなんて、たちばをわきまえなさいよ!!』
「知るか。ダンジョンから出ようとしたことなんてないぞ私は。戦争神様に無理やり引きずりだされた事はあるけど」
自分に関する異常に走査の方向を振り向け、思考の大半をそちらに割きながらの会話。その先に、ぴたりとお姫様からの攻撃がやんだ。
『……なんでせんそうしんさまがあなたにきょうみをもつのよ。せんそうしんさまはかみさまとぜんぜんなんにもかんけいないじゃないの』
「冥府神様に聞いたんだって。大軍を殺さずに撃退したって。でも実行犯はどーも盗賊神様っぽかったなー」
『めいふしんさまがなんでそんなはなしをするのよ』
「死者を出さないダンジョンだっつって感謝状貰った」
『なんでししゃがでないのよ。はこにはちゃんとぴったりふたをしてあるのに、そもそもなんでほかのひとがはいってこれるの。おかしいわ』
「何で死者が出ないか。自力蘇生アイテムを持ち込み必須アイテムにして、使用されたら強制送還っていうルールにしたから。蓋云々は知らん。つーかダンジョンなんだから侵入者ありきだろーに」
『わたくしがあなたをいれたはこはだんじょんなんかじゃないわよ?』
「現に目覚めたらダンジョンに居たんだからしょうがない。つーか最初の冒険者到着まであと何時間ですって急かしたのは誰だよ」
『わたくしはそんなことしらないわ。だいいち、わたくしがちょくせつはなしかけたのはあのおしおきのときがはじめてよ? おばかなおにんぎょうね』
「誰がバカだ。……ん? ちょっと待て。何か話がおかしいぞ?」
ようやく、何故か大人しくなったお姫様と話すうちに、私は話の方向がおかしい事に、ようやく気付いた。気づく事が出来た。
今お姫様が話した内容から推測できるのは、
1.お姫様は“かみさま”にお願いして“お人形”をもらった。
2.お姫様は、“お人形”=私だと思っている。
3.“お人形”を入れたのはきっちり蓋の閉まる“箱”。
4.“箱”の中は“お人形”にとっては快適。
5.お姫様が“お人形”に話しかけたのは、私が心象世界まで意識を落とした時のみ。
の5つ。
他にも気になる情報はあったがそれはおいておく。そして、私が把握している範囲の事情は、
a.私は突然異世界に拉致された。
b.私はダンジョンマスターという職業に固定されている。
c.ダンジョンから自力で出た事は無い。
d.正体不明者からの接触は最初の張り紙と、【ダンジョンの書】の2つ。
e.私が縛られている契約相手は、存在を消されたセイントブラッド王家の血筋の人物
の5つ。
私は今まで、これらの条件は対応していて、だからつまりお姫様=誘拐犯だと思っていたのだが。
「だとしたらおかしい」
『いきなりなにをわけのわからないことをいっているの?』
「確定情報として、1つ。お姫様の“箱”はダンジョンではない。2つ。あの張り紙はお姫様ではない」
『そうね。なにをいまさらわかりきったことをいっているの?』
「推測情報で、1つ。お姫様の“かみさま”と私は今のところ接点がない。2つ。お姫様と私の間の契約には細工が施されている。3つ。誰かが“かみさま”を騙ってお姫様に嘘を吐いた」
『ちょっと! かみさまはほんとうにおにんぎょうをくれるっていったのよ! わたくしがかみさまのこえをききまちがうわけがないじゃないの!! わたくしはかみさまのいきうつしのみこなのよ!?』
「巫女ぉ!?」
再びお姫様が猛るが、それ以上に信じられない新情報が飛び込んできた。巫女って確か、神殿序列であのアズルートおじいさんの上にいる神様の依り代だった筈だ。完全に生まれ持っての素質に依存する為、たとえどんな零細神殿でもその待遇は下手な貴族をしのぐと聞いた。
『ふふん。ひれふしなさい、あがめなさい。わたくしこそがかみさまのすがたうつしなのよ!』
「え、全身真っ黒いけどどの神様?」
『しつれいね! わたくしのどこがまっくろなのよ! かみさまといえばなまえをいうひつようのないかみさまにきまっているでしょう! おばかなおにんぎょうね!』
「…………お姫様。ちょっといい?」
『なによ!?』
話を聞いている途中で猛烈に引っかかる個所があったので声を抑えて質問する。……一応警戒は緩めていない筈だが、流石に動揺が抑えきれん……!
「あのさ…………もしかして、目、見えてない?」
『まったくそんなこともしらないの? かみさまのみこなのだからめもみみもかみさまにつうじているのよ? わたくしじしんがかんじることなんてできるわけがないじゃない』
「それだ。そこだ。間違いないそれが理由だ。普通に念話で会話してるって事か!」
『ねんわなんてひつようないわ。だってわたくしはかみさまのみこなのよ? はなしかけてくるあいてのどくしんぐらいふつうにできてあたりまえだわ。おばかなおにんぎょうね』
「それで心がノーガードなのか……!! 超納得したけどどうしよう!?」
想定外に最悪だ。このお姫様犯人どころか被害者の1人だった!
「え? 名前を言う必要のない神様というとあの神様?」
『そのかみさまよ。あがめなさい、たたえなさい!』
「……私から見て、お姫様の髪も目も真っ黒に染まってるように見えるけどなぁ……」
『そんなわけがないでしょう! わたくしはかみさまのみこなのよ!? そんなおおはばなかんしょうできるそんざいなんているわけがないじゃない!!』
「だよねー。そんな事したら大ごとだよねー。下手したら世界引っくり返るよねー……」
今更ソールの零した言葉が脳裏に蘇る。『まさかとは思うが、最高神の権威簒奪とか考えてねェだろォな、黒幕』……あの時の嫌な予感も相当だったけど、本格的に現実感を帯びて来たよどうしよう。
(ちっくしょ、そういう事なら気付けよ気付いてくれよアズルートおじいさん!! っつかあの時突然参加してきた神様の方だけど何自分の巫女に拉致監禁小細工させてんだちゃんと守っとけよぉおおおおおおおおお!!!)
心の中で心の底から叫ぶ。罰せられてもいいから届け、んでもってとっとと事態をどうにか解決しろ! 何で私が異世界の神話戦争に巻き込まれなきゃいけないんだ!! 自分の世界の厄介事くらい自力で解決しやがれっての!!
思いの丈を心の中で思い切り吐き散らしていても、私はお姫様を見上げる姿勢から動いていなかった。空間把握の術式も起動状態、結界殻及び‘星’、自動制御の杖も順当に稼働中。
つまり、一切の油断はしていなかった訳で。
「っだーもう!! 何で私が!?」
だから、ソレに気づくと同時、今度は声に出して思い切り叫び、右手のワンドを振った。魔力を込めて紡いだのは、お姫様相手に放てば掠っても死んでしまう本気の攻撃魔法。
【スキル『同時展開』異系展開】
【スキル『複合属性適正』(爆・晶・溶)サブテンス・コーラパス】
【スキル『結界術』設計結界“倍増球”:対象 同時起動中術式】
合わせて左手の剣の石突きをお姫様に向ける事で照準として、こちらは渾身の魔力を叩き込んだ最大威力の魔法を放った。
【スキル『同時展開』同系展開】
【スキル『結界術』設計結界“狭籠殻”】
【スキル『結界術』設計結界“代晶幕”】
【スキル『結界術』内張り:対象 設計結界“浄癒繭”】
【スキル『結界術』威力拡大結界:対象 起動中全術式】
【スキル『結界術』多重展開:対象 起動中全術式】
周囲全域に攻撃を、お姫様に防御を施し、探査と自身の状態異常解除へ振り向けていた魔力を2つの結界殻の維持に戻した。
アイテムボックスから魔力のリジェネポーションを取り出して一気飲みし、うんざりもげんなりもひとまず丸めて心の底へ放り投げ、
「ちっ、本質に気づいたとみて本気で排除にかかってきたか!」
お姫様を庇う形で、私は魔法という牙をむいた。
b f o l
属性: ・ a
レベル: i
マスターレベル: t t
挑戦者:1人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます