第62話 選択肢2 舞台裏
世界境界外縁『神々の会議室』
〈────以上が現在までで判明した被害者を調べた結果となる〉
〈よりによって神気の擦り込みによる手駒化……! それでなくとも例の事情で神が居ない世界の住人だぞ……!?〉
〈2年弱の時間をどう見る? 分かっている範囲は随分と決定的な事実のみ。それ以前は本当に有り得ぬものなるか?〉
〈ちなみに精神の。回復の目途はつきそうか〉
〈異世界人の精神という面白、厄介な物を問答無用で突きつけ回答はまだかと急かすとは余裕が無いぞ医薬のもうしばしいくつか実験、ではなく方法を試してみてからの結論の方が色々と安心できるだろうと思わん事も無いぞ〉
〈生命のがこちらに回そうとしたのを横から掻っ攫った挙句監禁して理スレスレの人体実験を行っておるんだな。皆の者、もう1つ議題が出来たようだ〉
〈医薬の。話し合うまでも無く〉
〈あらら、既に断罪さんの調査が入った後でしたかー。あー、資料を見る限りこれはどう考えてもダメですねー。私はこの結論を支持しますー〉
〈どれどれ~? ……あ~、これはやり過ぎだね~。断罪の~。ギルティに同意~〉
〈……すまない、遅くなっ…………何だこの拷問記録は〉
〈あ、お兄様!〉
〈さて会議は途中であるがまだまだ検証、ではなく治療の真っ最中なのでこれで失礼させてもらうとするか次は必ず完治した状態の異世界人たちをお披露目、お目見えしようそれではな〉
〈……ギルティに同意だ。……盗賊の、逃がすな〉
〈うぃうぃ冥府ノ。諦めな精神の、あのダンジョンマスターは冥府ののお気に入りダ〉
〈んん……。話を戻すと。結局。誰が、何を起こしたんだろう〉
〈それもそうですな。とはいえ異世界だ、干渉できるものなど限られていよう。……なぁ、時間のに、空間の〉
〈ワタシをお疑いに……? まぁ疑わしいのは確かですが、いつも通りぐっすりと眠っておりましたよワタシは……。今回の会議でようやく起きた所なので……ふわぁ〉
〈理由は分かるけどな。ダンジョンは異世界人のアレだけじゃないんだぞ。世界中に今も増え続け、しかもそれに合わせて元の世界も広くしなきゃいけないんだ。そんな余計なことしてる暇なんかあるかよ〉
〈神気が黒という事しか手掛りがないですからなぁ。まぁそれでいくなら僕も当てはまりますがぁ〉
〈…………(さて、どうかな)〉
〈……(おい、契約ノ。どういう事だヨ?)〉
〈…………(我が権能をもってしても、あのダンジョンマスターをこの世界に縛り付けている契約の相手が分からぬのだ)〉
〈……(おいおイ。本家が分からないって、それはどうしもうもないゾ)〉
〈…………(今も、会議に参加したる者らから契約痕が見つからぬか、探っておるのだがな)〉
〈…………(大丈夫かよそレ。ボクの権能貸すカ?)〉
〈……………………(近日中に炙り出せねば、直訴と共に頼む)〉
とある国の外れにある塔、最上階
ガシャァン!!
ガラスが割れる音が響く。廊下や窓を掃除していたメイドたちは、びくり、と体を震わせ、一刻も早く仕事を終えるべく動かしていた手を早めた。
そんな彼女たちに、こつこつと規則正しい靴音が届く。慌てて早めていた手を止めて、靴音の主に深く頭を下げるメイドたち。
こつこつという靴音は一度も乱れることなくその前を通り過ぎ、やがて最上階の中で最も豪奢、かつ、厳重な扉の前で止まった。特に気負うことなく鍵が取り出され、扉に差し込まれてくるりと回転。
ガギン、と重量のある音がして、靴音の主は扉を開いた。そのまま普通に中に入り、
「あ、そうだ」
くるりと、頭を下げたままだったメイドたちを振り返った。
「1階の西橋の窓がね、掃除が甘かった。癖からして左から3番目の子だね」
びくっ、と、指定されたメイドが肩を震わせる。彼女はいつも通りに仕事をした。それで昨日までは問題なかったのだ。しかも、万が一にも仕上がりが機能に劣る無いように気を付けていた。
「お仕置き。後で部屋においで」
だから。
これは、靴音の主の気紛れ。
この塔の主に定期的に会いに来る、この男の気分。
生贄を調達した男は今度こそ扉の向こうへ踏み込んで後ろ手に閉め――ひょい、と左手で、飛んできたガラス細工の白鳥をキャッチした。
「わたくしのおにんぎょうなのに! なんでわたくしのいうことをきかないの!? わたくしのおにんぎょうでしょう!!」
投げつけた本人は溢れんばかりのクッションに半ば埋もれるようにして、箱のまま積み上がっていたプレゼントに当たり散らしていた。男はキャッチしたガラス細工を適当なクッションの上に放り、この塔の主である少女の機嫌を取る為に口を開く。
「お姫様。まだお人形は言う事を聞きませんか?」
「どういうことなのよ!! わたくしのおにんぎょうなんでしょう!? わたくしのいうことをぜんぶきくおにんぎょうでしょう!!?」
「それは悪いお人形だ。神様からのプレゼントだという事を自覚しないとは」
クッションを別のクッションに叩きつけながら怒り続ける塔の主に、男はわざとらしいぐらい真面目な声で答える。
「なんでおにんぎょうなのにわたくしのもってないものをもっているの! なんでおにんぎょうなのにわたくしよりわらっているの!! せっかくはこにいれてかざってあげているのに、そとにでようとしているのよ!?」
「ほう、外に……」
「なんとかしなさいよフルカス!! あのおにんぎょうをつれてきたのはあなたじゃない!!」
「それは確かに、何とかしなければいけませんね。……しかしお姫様。あまり名前は呼ばないでいただきたいと申し上げた筈ですが……」
「しらないわ! わたくしはおこっているのよ!!」
つん、とそっぽを向く塔の主に、フルカスと呼ばれた男はため息を吐いた。こうなっては望みを叶えるか、別の何かを与えて気を逸らすしかない。が、随分と執心しているこの様子から、気を逸らす方法は使えないだろう。
となると“お人形”を何とかしなければいけない訳だが、この頃色々と横槍が入ってあまり思うように動けない。大人しくしていたい状況で、出来れば癇癪は起こしてほしくなかった。
口先で塔の主の相手をしつつ、どうやり過ごすか思考を巡らせる。そんな男の脳裏に、協力者からの連絡が届いた。
一方的な通達とも呼べるその内容に、しかし男は密かに口角を釣り上げた。塔の主に内心がばれない様、慎重に表情を作り直してから真面目くさって提案する。
「それではお姫様」
「なによ!?」
「出来損ないのお人形には罰が必要です。ですが、どうやらお人形は今までの方法では罰を与えられないよう小細工をしたみたいですね」
「そうなのよ! どれだけわたくしがだめだっていってもきかないの!!」
「ですので、直接教えてやりましょう」
ぴたり、と振り回していた手を止め、こちらに塔の主が振り返る。無邪気で疑う事を知らないその瞳に、穏やかで親切な顔を映しこみながら、囁いた。
「お姫様は、ほんの少し箱を開けてくれさえすればいいのです。お人形を箱から出して、お姫様の所まで持ってきます。そうすれば、お姫様はお人形を叩くなり踏むなりして罰を与えればいいのです」
「……それでいうことをきくおにんぎょうになるかしら?」
「なりますとも。お姫様がお人形に負ける訳がありません。思い知らせてやるのです。所詮お人形はプレゼントであり、お姫様は人間です。どっちが上かなんて、考えるまでもない」
「……そうね。おもいしらせてあげるわ。おにんぎょうのくせにわたくしのてをたたいたのよ? ほんとうにいたかったんだから!」
どこまでも都合のいい提案に、無邪気に笑って塔の主は了承した。
男が浮かべた、酷薄な笑みに気づくことなく。
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