第61話 解決-完全=悩み

『ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに3人の研究者が侵入しました

 ダンジョンに1人の吟遊詩人がやってきました

 『謎の卵』は成長しています

 ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の巡礼者がやってきました

 ダンジョンに6人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました』




「え……? な、何を言ってるんだよ。化け物? 獣化能力入手、って事? それとも、ダンジョンマスターの配下ルート?」


 通らない攻撃を防ぎつつ返答を待っていれば、自称勇者はぶつぶつと口の中で混乱した言葉を呟いているばかり。吐きかけたため息を飲み込んで、ワンドをコートの下から取り出して、目に見えるように魔法を溜めていく。


「いい加減に目を覚ませ。お前たちは異世界に拉致されて、しかも元凶に洗脳まで掛けられて、都合のいい駒として適当に扱われていたんだ」


 同情しない事も無いから、元凶との魔力的接続を切って匿ってたんだよ。

 そう付け足して、しっかりと魔法の溜まったワンドを正面に向ける。周囲に被害を出す訳にもいかないから、選んだのは圧属性を基本としたブラックホールのような魔法だ。

 素養は大きいみたいだし、見ればわかるだろう。今の状態じゃ顔色は見えないが。


「は、ぁ? わ、訳が分からないよ。いきなり牢屋に入れられて拷問、拷問……? うん、拷問されて、しかも化け物とか殺すとか」

「選択権の放棄と判断するが、構わないんだな?」

「第一、ゲームなんだから死んだところで、最後に泊まった宿で復活するんだし、そんな脅しには屈しないよ!!」


 疑問符で埋め尽くされたその声。震えていないのは本当に理解していないからだろうか。


「……ソール、クラウド」

『おゥ嫁!! そッち大丈夫か!?』

『主! こっち今自称勇者一行の後2人が暴れてて、何とかいなしてるところ!』

『ァ? ちッ……嫁から呼びかけたオレらしか念話が通じねェとか、何しやがッたこいつら!?』

「そいつら、ここに連れてきて」

『はァ?』

『えー?』

「重戦士がもう手遅れ。この場で殺す。目の前で見せないと意味ない」

『ァー、なるほど』

『ならしょうがないな。骨の4・5本は勘弁してもらうか』


 思った通りにあっさりと承諾の意を返してくる2人。まぁ、だろうとは思ったけど。このダンジョンの経営陣で、一番甘くてどうしようもないのが私なんだから。

 ワンドに溜めた魔法の内、細かい魔法を4つだけ起動状態にして狙いを定める。動きは確かに無駄が無くて速いが、見えない程じゃないな。

 ……あぁそうか。そもそも比較対象が間違ってるんだ。私が見慣れてる速度って世界最強とその上だった。


「おゥ嫁、連れて来たぞ」

「主、こっちも引きずってきた。意識はあるから怪我はやむなしだよな?」

「うん。しょうがないと思う」


 言いつつ連れてこられた弓士と魔法使い、そして場所を僅かにずらす事で自称勇者の視線が人間を辞めた重戦士に集まったタイミングで、魔法を発動。


【スキル『圧属性適正』オプレッション】×4

「っがぁああああ!!?〉


 狙いを定めたのは手首と足首。ここを完全に潰してしまえば這いずるようにしか動けない。なによりそれなりに神経の集まる場所だ。痛いでは済まないから立ち上がる事すら困難だろう。


「……自称勇者にはさっきも言ったが、もう一度だけ言っておく。ここは、現実だ。ゲームのようにやり直しは効かないし、簡単でもなければ優しくもない」


 呻くような叫び声に混じる獣のうなり声がそれなりに大きくなってきたな。理性が持つのもあと数秒か。速攻で止めを刺さないと。


「当然――死ねば、生き返らない」

【スキル『圧属性適正』カンプレス・シュリンク】


 ぼっ、と音がして、もがいていた重戦士の胸の真ん中に、人の頭より少し大きいぐらいの穴が開いた。

 起こったのはそれだけだった。正しくは胸の中心だったところに極々小さく異様に重い肉片があるんだけど、噴き出す血に隠れてしまって分からない。

 そして重戦士は一瞬痙攣して、小さなうめき声を出しながらしばらくもがき、


「……え?」


 そして、動かなくなった。


「……仲間の死もここまでリアルとは……」

「これは、トラウマものだろー……」


 呆然とした声の自称勇者を護っていた結界を解除。ソールとクラウドに念話を送って、苦々しく、しかしまだゲームだと思っている弓士と魔法使いを開放した。


「繰り返す。ここはゲームではなく現実だ。……しばらくは好きにさせてやる。仲間の死を思い知れ」


 そう言って、自称勇者の檻を魔法で解除する。結界殻も最低限の枚数を残して解除して、とりあえず私はこの場を去る事にした。


「ソール、クラウド、被害状況は?」

「人的被害は無いけど、あの重戦士に牢の鍵が叩き壊されたかなー」

「鍵ッつか蝶番だろ、ぶッ壊れたのは」

「構造的にもろい所か……素材的に厳しいって事かな」


 敢えて事務的な会話をしながら階層を跳ぶ。

 ……これで、現実を見てくれればいいんだけど……。




 結論から言えば、彼らは現実を受け入れる事が出来なかった。

 ショウヨウの診断では、もうこれはちゃんとした医師にかかるべき危険な状態で、死なせた重戦士に至っては高位神官でもないと症状を押さえる事すらできないとの事だ。

 せっかく貸し1つがあるんだし、と、まだ階層編集中だったリオを呼び出して最高神の神殿までお使いしてもらった。流石白翼族というべきか、あっさりとアズルートおじいさんまで目通りが叶ったそうだ。


『いや、主の配下だからだろ』

『貸し1つだったのが、利子だけでとんでもない状態になっておるしのう』


 …………。

 まぁ、理由はともかく、死体含む自称勇者パーティ一行4人は、最高神の神殿に引き取られることになった。

 というか、今の今まで異世界間拉致なんて大事が表面化してこなかったのは、神々からしても大失態らしい。普段は世界への影響を抑える為に行動を自重している幾柱かの神々が、その重い腰を上げたとか。

 とはいえ、異世界間拉致なんて大技を使える神は限られている訳で。幾ら証拠が無かろうと、すぐにあぶり出しと制裁は完了するだろう、と、ショウヨウは言っていた。


「……実に後味が悪い」


 また別の階層を編集しつつ、心に残った澱のような重い物を吐き出すついでに呟く。

 一応蘇生は可能な筈だが、同郷の人間を手にかけたという事実は変わらない。もちろん、殺人の1つや2つ慣れなくてはダンジョンマスターとして失格なんだろうが……。


「そうそう簡単に覚悟なんて決まるかっての……」


 一応私は、平和ボケした争いの皆無な世界に生まれて育った人間だ。その性根は早々には変わらない。……というか、変える事が出来ず変えるつもりも無かったからこんなダンジョンにしたんだし。

 行動としては桁外れの威力の魔法を乱射し、しかしこの世界では子供ですら悩まないような甘い事で悩みながらぐだぐだと過ごす。

 頭の中では配下の皆が相も変わらず大騒ぎ。時々聞き流せなくて突っ込みを入れると、それはそれでまた騒ぎが大きくなり、やるのか! 減俸? すんませんでした。までが1セット。


「……まぁ、享受できる平和は享受してる辺り、」


 私は結局甘ちゃんだという事は、確定かなぁ。

 そんな事をまた呟いて、ふっとさした影。私が気配を感じ取れない相手というと既にソールしかいない。

 謹慎はまだ解けていないのに何をやってんだろうかこの金色は。

 そう思いつつ、振り返って呆れ声を掛けようとして、



 ふ、と。意識が、暗転した。












死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:6

マスターレベル:3

挑戦者:45413人

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る