第47話 変化+違和感=看破

『ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに3人の巡礼者がやってきました

 『謎の卵』は成長しています

 ダンジョンに1人の研究者が侵入しました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 ダンジョンに4?の???が侵入しました

 ダンジョンに6人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の吟遊詩人がやってきました

 ダンジョンに2人の巡礼者がやってきました』




「なるほど。確かにこれは単位が分からん」


 ボスフロアで戦闘態勢のまま監視画面を見、ため息を吐く。お知らせ画面に妙な表示が出た事に気がついて、一応全員に警告を飛ばしておいたのだ。最初は普通に冒険者かと思ったんだけど……。


『うわぁ、獣神の類かー』

「ねぇ? 下位神ってなんなのフリーダムなの? 好き放題してくれてんだけど? 溶岩を楽しそうに泳ぎ回ってんじゃないネイザーアクィラ焼き鳥にしてんじゃない。ふざけんなこいつら」

『あー、まぁ、自由じゃのう……』


 溶岩の中を平気な顔で歩いて進み、他の冒険者が行かないだろう、っていうか行くことを想定していない場所で何やら魔法陣を展開、全身を光に包んでむやみやたらと神々しい獣の姿に変わると、現在楽しそうに遊んでやがるよ。


「ねぇこれ攻撃していいよね。1時間同じ場所にいて攻略に関係ないことしてたら遠隔攻撃落としていいよね?」

『あるじ、きもちはわかるがおさえろ』

『次の休止期間でルールに追加する事デス……』

『どンなペナルティ来るか分かンねェぞ』

「そうかそれもそうか。それもそうだね。妙に公平さに関してガチガチに固めてあるし。ダンジョンのルールって」


 そしてイライラをどうにか飲み込んだところで、ふとまた目に映る妙な表示。タッチして時間を見れば、どうやら20分前の侵入のようだ。今度は3?の???となっている組の方は、音属性の階層へ行ったらしい。


「…………」

『あー……こっちは、芸術神の類か……』

「やっぱり攻撃していい?」

『だからおさえろあるじ』

「いやだって、これは攻撃されてもしょうがないよね? フロアの仕掛けを使って大魔法陣で特殊効果出しながら絶好調でライブ中だしよく分からん巨大建造物作っちゃってるし。大魔法の加減が狂っちゃってもしょうがないと思うんだこれだけ乱射させてれば」

『あァまァ……確かに、どこの作品の街だよッて感じにはなりつつあるなァ……』

「地形が変わってるんだから調子が変わってもしょうがないよね。音を鳴り響かせることに加えて地形を書き換えると魔法を攻撃に変えて乱反射するようになっても仕方ないよねぇ?」

『主、ちょっと落ち着くんじゃ。それは本気でシャレにならんぞい』


 ならないような方法を言ってるんだ。


「ははは。しかしそうか。これが神か」

『オイ、嫁?』

「確かに理不尽だな。遠慮容赦が要らん筈だ。……死ヌマデ殺ス」

『うわぁ、主がキレた……。ご愁傷様、他の普通の侵入者たち』

『……そうね。ギルドはどうするのかしら……』

『どうしようも無いデショウ。本来神殿の役目である神相手ともなれば』

『ショウヨウお前……それは……』

『おや? 何か?』

『キレた主の相手と、神相手にするのがほぼ同じ難易度って意味じゃ……』

『………………黙秘権を行使しマス』

「減俸するぞお前ら」


 4日後が楽しみだな、えぇ?




 ――5日後、中央最高神神殿。


「あのー、副神官長様……」

「どうしましたか?」

「【エグゼスタティオ】からの、その、嘆願書なのですが……」

「加護や祈りを求める内容では無く、嘆願書……?」

「神殿無き神様達の行動を、何とかしてくれ、との事なのですが……」

「……見させていただきましょう」


・完全攻略不可能ダンジョンが、攻略不可能ダンジョンになった

・お願いしますあいつら何とかしてください。進めるかこんなもん!!

・完全に未転生者お断り仕様に…………下位神のパーティが入って以降

・ダンジョンの主が難易度を下位神に合せて切り替えた。これは無理

・心が折れるどころか悟りが開けそうです

(以下、同じような内容が箱一杯に続く)


「…………なるほど」

「どうしましょう……?」

「ふむ……そう、ですねぇ……――」




 ダンジョンの難易度を望み通り絶句レベルに引き上げてから4日。いやぁ静かでいいね。前と同じだと思って踏み込んで吹っ飛ばされる???達を見てすっきりしましたとも。ざまぁ!!


『いや。嫁。オレらは暇なんだがァ?』

「町でも見に行けばー?」

『いやいやいや無茶言うな主。今出てったら即行で囲まれて身動き取れなくなるから』

『【ききさっち】がぜんかいでけいしょうならしたぞ……。しにがみなみのとっしんをまちじゅうほぼぜんいんがしかけてくるとか……』


 ぐったりしながら全力で否定するクラウドとラート。いつものように外に行ったら大変な目に遭ったようだ。まぁ私は虫の精霊さんの特典で知ってたけど。


『やはり、難易度を上げ過ぎじゃとおもうぞい、主』

「んな事言っても、普通の侵入者と???とかっていうのを区別した仕掛けなんて作れないんだからしょうがないし」

『……あら、一応作れるなら作るの?』

「ポイントと経験値は欲しい」

『あぁ、ものすごく納得』


 そりゃあ当然だ。うちのダンジョンが得意な相手は、失礼な言い方だが多数の有象無象。少数精鋭への対抗手段は必要だとは言え、得意なところもろとも切ってしまっては自己強化すらままならない。

 もう少しでダンジョンのレベルを上げようかと思っていた物だから余計に残念だ。区別して発動する仕掛けとか階層移動の条件を変えられるとかが出来るんだったらやっている。

 ……それでもお知らせが途切れない辺りは流石の根性だがな、冒険者を始め侵入して来ようとする人たちは。ナイスガッツ。まぁ来週以降も変わっていなければ減ってしまうだろうが。


「せめて階層移動の条件が変えられればねー。1階層で行くと、下位神1柱が混ざるごとに+10Pとか。もちろん神のランクに応じて増加値アップで」

『あー……それならまぁ、妥当か』

『罠の難易度を戻しても十分にとンでもねェな』

『使徒も同様かの?』

「上の神様のランクも加味するけどね」

『あぁうん、あんていのあるじだな』

『まぁ当然の配慮デスね。ようやく主の思考が分かってきマシタ』


 新しい階層を編集しながら会話する。ここは超立体迷路といった感じで、階段と部屋サイズの浮島、それらが15分おきにランダムで離れたり繋がったりするという階層だ。

 実は昨晩、冥府神様が夢枕に立ったんだよねー。高い功績値の持ち主と【異次元位相】属性ダンジョンの主って事で、悪霊系の引き取り・浄化をお願いされてしまった。


 どうしてもある程度の数、怨念だの恨み辛みだのからなるゴースト系モンスターは出現してしまうらしい。それがこの世で出現するなら冥府神の神官の皆様が浄化すればいい話なのだが、問題は、冥府にやってきても悪霊のままだったり、そもそも冥府で発生した感情の澱がモンスター化したりした奴なんだそうだ。

 基本的に一度浄化を耐えきったとの事で、鬼のように強いらしい。しかも場所が場所なもんで、防衛に手いっぱいで討伐までいかないんだそうだ。防衛にてこずるとそのプレッシャーで健康な魂が悪霊化する事もあるらしい。

 で。そんな奴をおいそれとその辺に放り出すわけにもいかず、しかし浄化は拒否するし、かといって冥府に野放しにしておくと被害が拡大する。

 という事で、【異次元位相】という階層の1つ1つが完全に独立した小世界となっているうちのダンジョンは、そんな奴らの封印にとても都合がいいんだそうだ。

 私が魔法系極で、魔力耐性が有り得ない位高く(つまりまず憑りつかれない)、いざとなれば一掃できるのもポイントが高いらしい。まぁ最悪クラウド経由で喚んでもらえば、神並みに育ってしまった奴でも強制的に浄化するとの事だった。


 それに合わせいくつか浄化系の魔法を教えてもらい、そして最終手段の魔法のイメージも見せてもらった。……浄化系はともかく、最終手段のそれは消滅って言いませんかね、冥府神様。

 消滅でいいんだったら元素系の消滅魔法があるんだけどなー、というのは感想ごとそっと心の奥にしまい込み、そして今に至るという事だ。

 ちなみに基本ゴースト達の封印場所なので、最大威力の浄化魔法を多重発動し、それを付与した材料で足場を作っている。動いてぶつかると浄化系ダメージだ。次々送られるらしいから、冒険者だけに任せてなんておけない。

 ちなみに3時間に一回、階段と足場の位置で光or闇属性の魔法陣が描かれ大魔法が発動する。階層全体への攻撃だから、思いっきり耐性を上げるかそれまでに抜けないと強制アウト。なお、攻撃力は私準拠。威力は推して知るべし。


「……大魔法発動の直後に侵入出来たら割と楽に進めるが、タイミング間違うと一発アウトだからなぁ。頑張れ」


 ゴースト達はうちのダンジョンのモンスターではないから、もちろんダメージが入る。むしろ攻撃相手としてはそっちメインだ。

 ちなみに、他の階層にも3~5時間に一回、問答無用で階層全体が攻撃対象になる仕掛けをかけた。もちろん攻撃力は私準拠。

 ただし、第1階層にタイムリミットは無い。そして、任意で使える絶対防御アイテム(持ち出し不可)が稀に拾えるようにした。リミット延長用だが、温存して私相手に使う奴もいるんだろうなー。


「いよいよ第1層での探索が大事って事だね。難易度は見ての通りだけど」

『そこは何とかしてあげて主……』

「じゃああの神パーティを誰か何とかしてくれ」

『できたら何とかしてると思いマス』

『おれもそれにはどういするぞ』

『……そうね。同意ね』


 そしてどうにかこうにか場所の拡大も一区切り付き、その迷路としての難易度の高さから、どの階層にでも任意で行けるという隠しボーナスの設置も完了。

 設置するのは配下の皆の作った階層と同じ位置。入り口となる転移陣に、憑りつかれ防止の術式も最大威力で織り込んだし。もちろんこの階層限定って制限つけて。

 さてさてと階層を移動して、特に何も仕掛けが無く、居心地を優先して作った階層へと移動する。しかし生活感は無い。もちろん侵入難易度は電車のフロアに一歩劣るぐらい。

 客間、と呼ばれる部屋に、黒尽くめへ着替えて移動し、手持ちの中でお気に入りのお茶を用意する。


「で?」


 その準備があらかた終わった辺りで、ソールを部屋の近くに呼びだしてから、念話へと呼びかけた。


「……さっきから、誰かな。配下の振りして紛れ込んでる部外者さんは」

『え嘘。主? ちょっと流石にそれは笑えない』

『いやいや、ありえないぞあるじ。どうやってねんわにわりこむんだ』

『……紛れ込んでたかしら? 違和感は覚えなかったのだけど……』

『確かこの念話、契約を介しての筈じゃから、無理があるじゃろう』

『その通りデス。例外がいないことはありマセンが、とても面倒な手続きが必要デスよ?』

「普通はね。でも例外が居ない事はないんでしょ? いるよ。絶対。ダンジョンマスターなめんな」


 主側のイスに座って言い返す。絶対に聞こえている。言い返したその声に込めるのは、出てこいという無言の威圧と、もう1つ――


「……ショウヨウは私の事をマスターって呼ぶんだよ。ニセモノ」


 ――うちの配下に手を出したな、という、宣戦布告。

















死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:5

マスターレベル:3

挑戦者:41007人

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