第46話 絶望×返討ち=白旗

『ダンジョンマスターが『******』の鹵獲に成功しました

 『******』は『異世界神スレイプニル』でした

 事態の解消によりダンジョンは通常状態に戻ります

 強制退去された侵入者への再侵入時間はリセットされます

 ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました

 『謎の卵』は成長しています

 ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の研究者が侵入しました』




 慎重に魔法を解除した中身のスレイプニルは、なんというか、確かにぐったりとしていた。念のためつついてみたけど反応が無かったから、しっかりとトドメを刺してからダンジョンマスターの隷属能力を発動。赤い文字のログが流れて、続々と冒険者の人たちがやってくるのをスルーして、さて、と8本足の神馬に向き直る。


「で、どうするよこいつ」

「あン? 戦力なンじゃねェの?」

「どこの?」

「どこのッて…………あァ、そォいやそォか」


 状況解決のログが流れた途端、即行で戻ってきたソールに疑問を返す。そう、こいつの特殊能力は自由な移動と超高速。そのアドバンテージの分なのか上に乗るのが主神だからなのか、自身の攻撃方法が体当たり一択なのだ。

 放置するとすれば崖エリアなのだが、あそこは現在ボーナスステージ扱いで行くのは非常に難しい。というか、仕掛けだけでも皆が絶句していたので恐らく十分だと思われるから、端的に言って扱いに困る。


「正体が分からなかったから色々考えてみたけど、まさに移動手段だけとなると割合本気で困る」

「主、とりあえず蘇生させるべきではないかのう?」


 しまった。

 そういえば死体のままだった。




 結局、スレイプニルはヘルディンが引き取る事になった。そのまま手切れ金代わりにと奴隷契約も解除して、帰還方法は分からない物のとりあえず放置もとい厄介払いもとい解放した。

 一方私はその後ひたすら【神殺し】のレベルアップの為にスキルを使い倒していた。……途中からダンジョンを壊すより、自分の張った結界を壊しにかかった方が経験値が多いらしいことに気づいてがっくり来たけど、とにかく使い倒した。

 今の所冒険者の人たちで迷路階層の次の階層、音及び火属性の階層を抜けた人はいない。うん。ネイザーアクィラって思ったよりずっとずっと凶悪な魔物だったんだね。ごめんよ挑戦者の人たち。引っ込めないけど。

 たまに虫の精霊さんの特典で町の様子を調べたりしてみると、どうやらうちのダンジョンは既に半ば踏破不能と判断されているらしい。……通りで念入りに入り口階層を調べる人が増えた筈だね。


「まぁいいんだけどさ。本当にちょっとずつだけど、ガチャチャレンジ成功者も出て来たし」


 左手の護剣で結界を維持し、右手のワンドでそれを破壊しにかかりながら独り言。どうやらガチャの上に載っているコイン(模型)が必要だというのがようやく判明したらしい。

 これで大丈夫なのか、と思っていた素材系景品だけど、オークションでの値のつり上がり方や手に入れた冒険者の人たちの喜びようを見るに、あれでいいらしい。これは、私の価値観は相当に崩壊しているとみてとって良さそうだ。

 と、なんとかやっているあいだに、ガシャン、と音がして維持していた結界が割れた。だんだん割れるまでの時間は短くなっていっている……と思いきや、『結界術』の方も攻撃を耐える事で経験値が入るらしく、むしろ破壊までには時間がかかる一方だ。


「まぁ良いんだけどね。防御最優先だし」


 再びスキルのレベルアップ作業に戻ろうと、左手の護剣に魔力を通して、


『あー、主? 今大丈夫かー?』


 そのタイミングで、クラウドから念話が入った。とりあえず結界は張りながらそれに返事をする。


「どしたの。何か問題?」

『いやーそれが……ダンジョン町が結構大きくなってきたじゃん?』

「微妙にキャラ変わってるけど、まぁ大きくなってきてるよね。最初の村に比べたらそりゃあ」


 ダンジョン町、とは、ダンジョンの入り口前に出来る集落の事らしい。うちの場合で行くと【エグゼスタティオ】がそれに当たる。いつの間にやら防壁も2つ出来てるし、とても1年半弱ぐらいで出来たとは思えない成長速度だよね全く。


『でさー、何か、町のまとめ役がさ』

「町長さん?」

『まぁそんな感じ。んで、配下の中から相談役がほしいとか言ってきたんだけど』

「は?」


 えーと。

 ……何がどういう事なのか分からないぞ? 何だ相談役って。


「向こうからの要請、一字一句そのまま言える?」

『いや、俺とラートが町を散策してたら、裏道で拝み倒されて文章渡された』

「拝み倒され……本当ダンジョンってどういう位置づけなのか疑問なんだけど。普通に参拝者とか来るし。生命神様や精霊神様目当てとしても」

『今は普通に鍛冶神も来るからなぁ……。あぁそれで文章の内容だけど、主文字読める?』

「異世界出身に何を無茶振りするのかな」

『だよな。でもどう読んでも相談役くれとしか読めない内容だよ』

「何の相談役?」

『さぁ? 書いてある例だとダンジョンへの要望とか街の治安維持とか、その他諸々、って感じだけど』

「随分といい加減な……。つか、町はそっちが勝手に作ってるんだし自分たちで何とかしてよと思うんだけど」

『まぁそうだよな。そんな感じで返事しとく』

「よろしくー」


 ちゃきちゃきとそんな感じで会話は終了。

 しっかし、相談役……相談役ねぇ。ダンジョンの要望なんて確実に真逆に採用するし、治安維持なんてそれこそ知ったことか。放っておいてくれって言ってるだろ、態度で。

 つーか攻略予定のダンジョンにそんな物を求めてどうするんだ。どう考えても何かあった時の人質以外に目的が見えない。何かあった時っていうか、本気で攻略するときの。


「訳が分からん……」


 そんな見え見えな罠に引っかかるとでも思ったのだろうか。それともダメでもともとだったんだろうか。それとも、


「……本気で、相談役としたら。確かに不老の特性は頼るに値するだろうが……」


 ドゴゴン、と結界に魔法を連射しながら考えるが、分からない。他のダンジョンでもやっている事……ならクラウドかクウゲン辺りが知っている筈だし、知っていたら教えてくれるだろう、あの2人なら。


「考えても無駄だな。発想が分からないと裏もかきにくくなるから困りものだけど、これは無理だ」


 ため息をついてラッシュ。

 さて、そろそろ新しい階層の構想にでもかかろう


『あ、主ー……』


 か、って。


「……どしたのクラウド。そんな聞くだけで不幸になりそうな声出して」

『不幸って主何気に酷い』

「今更な話でしょう。全員、ちょっと相談乗って」

『ァ? また何やらかしたンだよ親父』

『またクラウドかの』

『今回はどうされマシタか?』

『ちょっと!? 何で全員寄ってたかって問題が俺にある風に!?』

『……普段の行いって本当に大事だわ……』

『しまいにゃ泣くぞ!?』

『あー、たぶんあれのことだろ、くらうど。ちんじょうしょだったかいらいしょだったか、なんかだんじょんまちからおしつけられたやつ』


 全員と念話を繋げれば次々とかけられる疑念。全く本当に普段の行いって大事だね。フォローに入ったのは一緒に押し付けられたラートだけって辺りが特に。


『ほう、陳情書に依頼書。一体どのような文面デスか?』

『正しくは要請書な。ざっくり意訳して相談役出してくれだと』

『なンだ、ただの完全攻略不可能認定じゃねェか』

「攻略不可能認定?」

『読んで字のごとくの意味じゃ、主』

『……裏も深読みも無くそのままよね……』

『ようはこうりゃくにかかわるしゅうだんがごうどうであげるしろはただな』

「いや、そんな簡単に投げて良いのか攻略」


 思わず突っ込みを入れてしまう。あれだけ派手に侵攻された身としては、元が取れないまま白旗を上げるとはとても思えないのだが。というか、あれだけ大損害を被っていれば意地になって攻略に執着するかと思った。


『まさか。記憶では確か、このダンジョンで7個目だった筈デスよ』

『もちろん世界中でなァ。まァめでたいンじゃねェのォ?』

『しかも1年4か月ちょっとで認定って事は、ぶっちぎりで新記録だな。やったね主!』

『……お祭りしましょう? マスター、お祝いしましょう?』

「レポリスは料理が食べたいだけだろうと思うけど、認定受けたら結局どうなるの?」


 続く言葉を考えるに、世界で両手の指に満たないとんでも認定らしかった。ギネスとかそんなんじゃないんだから……。

 まぁ、進攻が緩くなるんだったら歓迎だけど。


『えーと、まず冒険者ギルドの賞金が撤去されるだろ?』

『ダンジョン町への干渉禁止はそのまま、世界級自治都市の認定を受ける事になるのう』

「自治都市……つまり国の干渉を受けず、完全に独立して経済の仲間入り?」


 まぁそう翻訳されているだけであって実際の言葉は違うかもしれない上、私の持っている自治都市の情報がかなりあいまいなので一応聞き返しておく。


『そうなるな。あとあるじどれいかいほうしてるだろ? さべつはくがいからにげてきたやつらもよりつどえるな。あんぜんに』

『その上マスターは住民から好意を得るだけでなく頼りにされていマスから、ある程度ダンジョンの機能の内、攻撃的でない物は町に設置可能となる筈デス』

『……まぁ、面倒な点としては……そう、使徒も挑戦しに来れるようになる事ね……』

『だけで済む訳ねェだろ……。間違いなく悪戯神辺りは直接乗り込ンで来るぞ。もッと悪けりゃ、物見遊山気分の低位神がパーティ組んでしれッと混じッてたりしてなァ』


 …………おい?


「ちょっと待て? 何で神様が下界に干渉してくるのかな?」


 確か神ってあの理不尽の塊だった筈なんだけど!?


『そりゃァ……なァ』

『要は暇つぶしじゃ、主』

『ちからがつよすぎるからかんしょうがきんしされてるんであって、あばれてももんだいないところはすきにできるんだよなー』

『そして白旗を上げられたという事は、神々の遊び場もとい暇潰し場こと顕現場所になる訳デス』

『……それを狙って、巡礼者はやってくるのよね……』

『ちなみに使徒っていうのは神の強い強い加護を受けて片足神の領域に突っ込んだ奴の事な』

「ふざけんなとだけ怒鳴っていい?」

『問題ねェよ。嫁ならまず間違いなく勝てッだろォし』

『……私達もマスターの配下だから……能力ブーストも並じゃないしね……♪』


 ソールとレポリスに言われても不安が増すだけなんだよなー……。しかしまた面倒な。私はただ元の世界に帰りたいだけだ。犯人に一発入れられるもんなら入れたいし、ギタギタにできるもんならぼろ屑にしてやりたいが。


「…………軽く宣言とか注意書きとか、入り口に神様向けに設置できないもんかね……」


 ボソリと呟く。そっちがやる気なら、こっちもそれなりに容赦なくヤる気になるぞ?


『え。ちなみに主、設置するとしたら内容は?』

「『なお、神格もちの方もしくは自動蘇生能力持ち、または空間関係の特殊能力保持者の方は――』」

『……方は?』

「『――攻略失敗のペナルティとして、既存の物に加え主のちょっと口では言いづらい実験におつきあい願います(期間無制限)』」


 ちなみに内容としては【神殺し】の効果検証とかオーバーキルの場合どうなるのか、空間系の能力封じの研究と異世界へのルート開拓なんかだ。時と場合に応じて要項は増える。


『鬼だ』

『あくまか』

『恐怖じゃのう』

『二の足を踏みマスね』

『それが目的だろ嫁の場合』

『……ちなみに内容は……?』

「口で言い辛いって言ったじゃん?」

『つまり未定か』

『そんなわけがない』

『しかも期間無制限だしなァ』

『魔道具化の危機と戦慄するじゃろうな』

「あぁ、それもいいね」

『それもって事は、同レベルの事を考えているのデスか』

『……まぁ、普通は怖すぎるわね……』


 うちの配下の人らは皆仲いいね。まぁ良い事なんだけどさ。

 え、高確率でチート持ちのご同輩はどうするのかって?

 ヘルディンと同じルートを通って適当にお帰り願うけど?













死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:5

マスターレベル:3

挑戦者:42928人

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