第37話 雇用=面接+能力
『ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました
ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました
ダンジョンに2人の研究者が侵入しました
ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました
ダンジョンに2人の巡礼者がやってきました
侵入者の撃退に成功しました▽
侵入者の撃退に成功しました▽
ダンジョンに6人の冒険者が侵入しました
『謎の卵』は成長しています
ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました
ダンジョンに2人の巡礼者がやってきました
ダンジョンに2人の吟遊詩人がやってきました
ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました▽
侵入者の撃退に成功しました▽
侵入者の撃退に成功しました▽』
そんな訳でさっくりと15人の人員を確保。その後事情をそれぞれに聞き、独力で稼げそうな人は路銀を持たせて解放した。もちろん、開放に関するカラクリや私たちの内情に関する事は喋れないように【ダンジョンマスター】の特殊能力で封をさせてもらったが。
で、明らかに口減らしに売られました的な子供たちは、ざっくり怪我と病気を治療した後で得意技能を見定め、クウゲンとショウヨウに育成を一任。
そして、残りはと言うと。
「えー、ざっくり左から一言でまとめると、ゲテモノ職人、潔癖症、戦闘狂、激レア種族、と…………ちょっと待て最後、なんで使い捨て扱いの奴隷に混じってんの」
「趣味に合わなかッたンじゃねェの?」
「自分で言っといて何だけど、知らなかったというオチに一票」
「あァ、ありうるなァ」
いつの間にか当たり前になった電車の窓から見下ろすという構図で、さすがに今回は外に居るソールとそんな事を言い合う。ため息を吐いて見やる先には、いま散々言ってしまった4人が並んでいる。
それぞれに挙動不審だが、頭の中はどう決着をつけるかでいっぱいだ。そんな些細な事なんて気にしていられない。どう考えたって解放してもまた奴隷になるのが見えているのだ。同じ人間を何度も拾う羽目になるに決まっている。
「……とりあえず、潔癖症の人」
「ああああの、潔癖症ではないです片づけるのが好きなだけなんです」
「ならばなお都合よし。倉庫の管理人よろしく」
「…………はい?」
「大量に入って来る荷物をひたすら仕分けして整理してきちんと保管して、必要に応じて必要な物を取り出すだけの簡単なお仕事を担当で。お給料その他は仕事場見て要相談。とりあえず、ラート。仕事場に案内お願い」
「おー」
1人はこちらとしても居れば嬉しい人材だったので、さっくり雇用決定。思考が停止してしまったのか、砂色の兎耳をぴーんと立てたまま固まっている20歳前半の女の人を、ラートはずるずる押して連れて行った。
「次、職人さん。どうしても疑問だったから聞くけど、何故におもしろ系なゲテモノや本来の目的が見えないイロモノばっかり造るのかな?」
「まともな武器は作り飽きた」
「非常に分かりやすい答えをありがとう」
考える事数秒。
「クラウド、この人にガチャのこと教えて。んでもってガチャの銅以上のうち剣と花から私の作ったのを引き上げてこの人のを入れといて。ランク分けは任せる。お給料その他は質と感想で要相談」
「主、工房と道具はー?」
「確かずっと前におやっさんが落としてった鍛冶セットがあったからとりあえずそれで。んで、ひとまず倉庫の空き部屋使ってもらって。あとで部屋作っとくからリクエスト確認よろしく」
「りょうかーい」
もう1人は個人的にツボだったんで採用決定。淡々と下す判断にドワーフ……にしてはえらい灰色なその人はぴくりと太い眉を動かすにとどめ、クラウドの後に大人しく従って移動していった。
さて、と残り2人に目をやり。
「……確か特殊能力が使えるんだっけ。具体的にどんなんか聞いても?」
「…………魔力を、輝石に変えられる…………」
「輝石っつーと……輝晶の亜種みたいな?」
「…………使うと、砕ける…………」
「なるほど、使い捨て。……現時点で私が魔石どころか魔晶作れるから、正直外で言うほどの価値は感じないんだなこれが……。でも外に出るとまた狙われる訳で。んー…………まぁ、普通にそのまま癒し系でいてくれればいいか。マスコット枠で」
「…………ます…………?」
「レポリス、女の子だし面倒見の方お願い。でもあんまり変な事吹き込まないように」
「……ふふ、分かったわ……」
ひとまずまだ捌ける激レア種族の、ニンフとか木の精霊っぽいんだけど、髪と目が透き通った桃色の女の子をレポリスに任せる。……可愛らしい銀色兎の中身が笑い上戸な悪戯好きなので微妙に不安だが、大丈夫だろう。たぶん。
そして最終的に残った1人。
「…………とりあえずお引き取り願っていいかな? 具体的には隣の大陸辺りに」
「ずいぶん冷たいなぁダンジョンマスター」
「これ以上戦闘狂はいらん」
こちらは野性味たっぷりの錆色な毛並みの狼獣人のお兄さん……だと思う。狼頭だから年の判別がつかないけど。にやにやと楽しそうな視線の先は当然のように金鬼を捉えている。
「冒険者として位通用する常識を覚えろ。護衛位出来る程度の敵味方識別は身につけろ。それが雇用最低条件だ。戦闘要員は正直もう余ってる」
「虐殺でも暗殺でもなんでもござれだぜ?」
「暗殺は今の所予定が無いし対策ぐらいもうやってる。虐殺に至ってはそこにいる金色で十分すぎるしそれ以外にも相当揃ってるから飽和状態」
「手っ厳しいなぁおい」
そりゃあそうだ。積極的に追い出したいんだから当然だろう。重ねて言うが、戦闘狂はもういらん。もう、という辺りが重要だ。
「いやいや、一応レア種族だしな」
「コレは古代種だけど?」
「あいつもそうだがなァ」
「ソールの型違いなんざ余計いらん」
「型違いか。愛されてるな、金色」
「自慢の嫁だ。やらねェぞ、錆色」
「意気投合すんなそこ」
ソールと意気投合する辺りで既にアウトだ。こんな暴れ馬これ以上増えてたまるか。
「私にとっての利点を示せ。……もっとも戦闘力に関しては既に飽和状態、目利きは私が修練中、その他いろいろ充実してるから、相当でないと利とはみなさないけど」
改めての確認、という形での最後通告を言い渡す。暗に普通に冒険者やってろと込めながら投げやりに問えば、にやにや笑いのまま、わざとらしく考え込み、
「種族エクストラアビリティ、【神殺し】」
と、切り札を最高の形で切って見せたのだった。
結局、残った4人はそのまま丸ごと雇用する事になった。そして現在私が何をしているのかと言うと。
【スキル『魔力転換』魔石抽出】
【スキル『魔力操作』陣描転写】
【スキル『同時展開』異種展開】
【スキル『高速操作』3倍】
【スキル『複属性適正』(四大)エレメンタルバレット】
【スキル『複属性適正』(八小)エレメンタルバレット】
【スキル『結界術』設計結界“増倍球”】
【スキル『多種合成』異種合成】
【スキル『変性生成』変形形成】
効果音的に、きゅぼっ! とか付きそうな威力の魔法を、作りかけの階層で乱射していた。とはいえ、さすがに使うスキル数の関係上一発撃つのに2秒かかるけど。
クラウドに言わせれば、その威力の魔法を2秒に一発撃てるのはその時点ですでにおかしいんだそうだ。高速操作が無ければ10秒はかかるのだが。というと、それでも十二分におかしいから!! という魂の叫び。
再びの一撃で上下前後左右が岩で埋まっていた空間に、大型トラックが通るトンネルほどはありそうな大穴が開く。ダンジョン内ワープで穴の終わりまで移動して、再び発射。
…………えぇ、八つ当たりですが、何か?
「あー、思い出しても腹立つあんの余裕のにやにや笑い……」
頭にあるのは当然ながら錆色毛並みの狼獣人。獣の血の強い人なのか狼が直立しているような姿の戦闘狂は、古代種の中でもさらに異端、“神を喰らう神”――滅びを司る神が生み出した種族だったのだ。
ちなみに古代種とは、今現在は現世に影響を与えない場所に居る神々に生み出された種族だとの事。代表的なところで行くと、太陽神、夜神辺りらしい。
いいのかと思うような並びだが、神様たちにも色々と事情があるらしい。何故引っ込んでしまったのかには諸説あるが、古代種に伝わる伝説では『ある時突然姿が消えた』というのが共通らしいから、今のところ不明なんだそうだ。
閑話休題。
「神喰らいの狼とか。元の世界とこの世界、その実もともと同じ世界だったりするのか?」
で、種族エクストラアビリティ【神殺し】というのは、その滅びの神の特性というか本質というか……序列や格を無視して神を滅ぼす、その為の力と性質、その一端なのだそうだ。
そもそも神というのは、基本として下位存在からのダメージ90%カット・全攻撃力200%アップ・自動再生・属性障壁・スキルLvMAX・敵対存在ステータス60%ダウン等々、ふざけるなとしか言いようのない特殊能力をいくつもいくつも持っているんだそうだ。
その上で基本的に桁外れのステータス。勝てるとしたら同じ土俵の神か、それとも既存の生き物であることを辞めた存在ぐらいな物。
この大前提をひっくり返せる唯一の手段が、【神殺し】。
【神殺し】を習得した状態であれば、たとえLv1でも前述の特殊能力の内、こちらのステータスダウンだけは免れる。そしてレベルをあげて行き、Lv50を目安として完全に特殊能力は無効化されるんだそうだ。
なぜに目安かというと、相手取る神の格によるらしい。大元である滅びの神ならともかく、劣化版である【神殺し】では多少影響されるんだそうだ。
最終的にそれなりの格の神を相手取り、最悪討ち取る必要があると確定している私にとって、まさに喉から手が出るほど欲しい必須スキル。こんなものをちらつかされては雇用するよりほかにない。
「しかし、通りで【ダンジョンマスター】は基本チートとか言われるのか理解した。その気になれば、全種族のエクストラを習得できるからか。しかもそれを配下に配り直せる」
冷静に考えればバランスブレイカー過ぎる。好きなスキルを好きなだけ量産できるようなものだ。そりゃあ色々な物や者がたかってくるはずだろう。
「とはいえ、加護と【神殺し】って同時習得できるどころか、相乗効果があるのか……まぁ、【神殺し】も神の力と言えば力ではあるけど」
左耳、葉を四大属性の色に、縁取りを八小属性の色に塗り分けられた四つ葉のクローバーの神印にちらりと意識を向けてそう呟く。
神という存在にケンカを売っているとしか解釈できない【神殺し】だが、加護を受けている者が習得する、もしくはその逆パターンの場合、基本威力が上がるという事が判明。
私だけでは無く、ソールとショウヨウにも同じ事が起こったから間違いないだろう。もちろん加護を授けてくれた相手に牙をむけばその限りではないとは思うが、神というのはつくづく分からない感覚をしている。
ちなみに、神を相手にしないと威力が分からず、またレベルをあげる事も出来ないと思われた【神殺し】だが、以外にも簡単にレベルアップ出来る事が判明。その方法とは――
【スキル『複属性適正』(水・氷)アンタラティク・ニクス】
【スキル『結界術』設計結界“封小箱”】
【スキル『複属性適正』(火・溶)ラーヴァ・フロウス】
【スキル『結界術』設計結界“封小箱”】
その1、とにかくスキルを使いまくり、全体的なステータスをあげていく事。力量をあげれば上がるらしい。という訳で、とにかく使い倒し、
【スキル『結界術』設計結界“封小箱”解放】
その2、神の管理下に置かれた物の破壊。普通なら神殿とか神器とかを想像するが、今この場所、ダンジョンはその対象としてカウントされる。
つまり、ダンジョンを自力で拡張していれば、【神殺し】も半ば自動で上がっていくという仕組みだった。ちなみになんで錆色狼が奴隷に落ちたかというと、空間神の神殿をぶっ壊して回っていたからなんだそうだ。
反省の色が全く見えなかったから、絶対解放したらまた壊しに行く。具体的には【エグゼスタティオ】の外れにある空間神の神殿を。
「嫁!? 今とンでもねェ音がしたが、何があッた!?」
「あ、ごめん。ちょい威力実験してた」
「……異次元位相の壁とォり越して音聞こえるッて何事かと思ッたぞ」
「反省はしてる。これ普通に撃ったら地形が全然別物になるわ。下手したら大陸に穴開くかも」
「ァー……確かにシャレにならねェな、この状況見る限り」
文字通りすっとんできたソールとそんな事を言い合い、目の前の光景を眺める。そこは確か、適当に乱射していた消滅系元素属性魔法によるトンネルが4本交差して、飛行系スキル必須の特大立体交差点になっていた筈の場所だ。
その真ん中に氷系の魔法と炎系の魔法、それぞれを閉じ込めた結界を設置し、十分な距離を取って解放したのが先ほどの流れ。
轟音、というか超超特大の衝撃波が念の為張っておいた結界の表面にヒビを入れた時点で色々覚悟してはいた。いたが、流石にこれは予想外だったと言っておこう。
「瓦礫が残ってるのは単純な爆発によるものとして、何で炭化してんのって話だよ」
「いや、煤じゃねェの? 妙に寒い気がすンのは魔法の影響か……」
「その上結界張ってた私の背後、確実に10mは完全に崩落してるし」
「残ッてる部分もヒビッつーか亀裂がびッしりだしなァ」
ちなみに爆発の中心点から、150mは距離を取ったつもりだ。
「で、嫁。具体的には何をどォしたンだ?」
「自分の手持ちの中で、今の所範囲と深度が一番でかい氷系と炎系の魔法をぶつけ合わせてみた」
「何気に無茶やッてンなおい。しかしそうか、こォなるか」
「瞬間火力同士のぶつけあいだとどうなると思う?」
「そりゃァ、もっとでかい被害が出るンじゃねェの?」
「……次は200m距離取ろう」
「300にしといた方がいいと思うぜェ」
そんな訳で、厄介な侵入者や同居人は増えたものの、ダンジョン奥地はおおむね平和だ。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:4
マスターレベル:3
挑戦者:26521人
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