第38話 安定/不穏=厄介事

『侵入者の撃退に成功しました▽

 ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の巡礼者がやってきました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 侵入者の撃退に成功しました▽

 ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の研究者が侵入しました

 ダンジョンに1人の吟遊詩人がやってきました

 『謎の卵』は成長しています

 ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 侵入者の撃退に成功しました▽

 侵入者の撃退に成功しました▽』




 その後もちょくちょく、奴隷を使って利を独占してやろうとする人は現れるようになった。連れてくる人数がダントツなのは銀色の人のままだから、やっぱり結構な金持ちか、下手をすれば貴族(悪腐)かもしれない。

 まぁ当然ながら1人残らず回収&リリースしてるけどね。幸いというか何というか、最初の4人のように残留が決定した人はいないから気が楽だ。子供は増えたけど、卒業決定してるし。


「ところで、そろそろ厄介事が来る気がするんだ。何だと思う?」

『主のそういう勘って何故か当たるからなー』

『もォじき解禁した侵入制限開放日だから、また国が来るンじゃねェの?』

『おれ、ぎるどがほんきだしてちょうさしにくるとおもうー』

「国とギルドが結託するとか考えたくないけど、有り得ると思う人ー」

『あー、有り得るかも知れんのー』

『……普通は無いけど、有ったらわくわくするわね……!』

『相当数の巡礼者を弾いてしまいマシタから、神殿も本気出すのでは?』

『ああああああの、ぎぎぎ吟遊詩人の人たちが全然物語作れないから大人数行くなら便乗するかって話してたのを雑用中にうっかり聞いてしまったことがありありましててて』


 と、適当に話を振ってみればそれなりに返る反応。

 ……んー、なんかしっくり来ないんだよなー。国とギルドと神殿と吟遊詩人が本気出す。いやまぁそれも相当大事なんだけど、何というか……何か忘れているような気がしない事も無いようなというか。


『これだけのよそうをならべてそうとうでながすあるじがすごいとおもうぞおれ……』

『今更じゃ。いい加減慣れた方が心持として楽になれるぞい』

『そうそう。でもこれで主がしっくりこないって事は、これ以上に何かあるって事か?』

「それが分かれば苦労しないっての」

『……何かしら? 何が起こるのかしら? わくわくするわ、お客様は来るのかしら……!』

『てめェは自分の階層で冒険者が罠にはまる所見たいだけだろォが』

『デスが、マスターの懸念は大抵当たる上、その場合は大変な事態になる可能性が高い訳デスよね』


 色々言いあっているのを半ば聞き流し、真剣に考えてみる。

 私ならどうする。他者蘇生系スキルが解禁され、連続で侵入する事が解禁され、人数制限すら緩和された。にも関わらず第一層から先の情報はいまだに一切なし。宝すら時折主が気紛れでオークションに並ぶ物のみ。

 ……まぁ解禁と緩和はバカにしていると受け取る人が相当数いるだろう。その上で進めないという現実で更に苛立ちは増す。プライドの高い人間、とまで行かないレベルでも自分に自信があればのた打ち回ること必至。


『正直、これ以上の大事となると想像したくないのう……』

『そなえるのにひつようだとはいえ、さすがにじょうだんですませたいよな』

『まぁまぁ。備えなんて無駄になっていくらなんだからしょうがない』


 となれば、手段何て選んでいられない、なんて段階を過ぎ、正気であれば絶対に使わない手段ですら行使する可能性が高いか。では、正気であれば使わない/使えない手段とは?

 ギルドと国と神殿の大連合。まぁ異例と言っていいんじゃないだろうか。でもこれはダンジョンがイレギュラー消滅した場合も発動する。前例がある上にある程度仕方がない手段という認識だろう。つまり、まだ温い。


『嫁……は、考え事中だなァ。おまえら、次の発言は身構えといた方がいィぜェ』

『一応同意しておきマショウ。我々の思考の斜め上を行く人デスから』

『……だから楽しいんじゃないの……』

『うん。多分それはレポリスだけだから』


 大連合を発動して、まだ足りない時。ギルドと国と神殿、この世界においてとても強い権力と武力をもつ組織。それらが1つに集まって、まだなお届かない場所に、手を届かそうと思うなら?

 悔しさと苛立ちと無力感が満ちたその先、何もかもをかなぐり捨てて選び取る手段。大連合のほかに、力を持つ者と言えば……


「……ソール」

『おゥ?』

『全員備え!!』

「クラウド後で減俸。あのさ、皆って一応冒険者の中でずば抜けた実力者なんだよね」

『主!? 質問より先にそっち!?』

『いや、自業自得じゃろ』

『まァな。前にも言ッたが、ガチで世界にケンカ売って勝てるメンバーだろ』

「その世界ってさ、大連合に属せる全部の組織を合わせて、って意味で合ってるんだよね」

『だなァ。つか、他に何の解釈があンだよ?』

「ううん。ただの確認。そうだよね、ギルドと国と神殿、これだけあれば普通は十二分に過ぎるどころかオーバーキルだもんね」

『…………嫁。今、何考えてる?』


 流石にソールの声も真剣な物に変わる。他の皆の沈黙も固唾を飲んで耳を傍立てているんだろう。んー、とちょっと考える声を前置きとして、嫌な予感全開で、結論を続けた。


「ほかのダンジョンの配下が来た場合さ、皆、勝率ってどの位ある?」




 そこから数週間が経ち、年に4回、ダンジョン開放日から三か月ごとに起こる侵入制限解除の日を、流石に緊張を持って迎える事となった。『噂を聞き耳』でセイントブラッドとシレックマレムの同盟国の参加及び冒険者ギルドと神殿の本気は確認済みだ。

 そしてその上ベリスエンシスという鍛冶と木工の国、ヴォルスペトラという占いと賭けの国が参加。何と総勢1万名を超えるというとんでもない事態になっていた。


『いやー、これはさすがにおれらでもまずいかもだぞあるじ』

『ほとんどは第一層でふるい落とされるとしたって、これは幾ら何でも……』

『非常識にもほどがありマスね……、下手な大陸戦争並みの規模デスよ』


 と、まぁこちらも流石に顔が引きつるのを止められなかった訳だが。念のために罠は上限まで補充し、そのうえ倉庫に大量に積み上げておいた。のだが……さてどの位持つのやら。

 その作業の途中でピーティさん(綺麗好きの砂兎獣人@元奴隷)が罠作成のスキルを習得し、レベルアップしたからちょっとはマシだったとはいえ、自分用のフロアの編集も含めるとかなりギリギリだったのは否めない。

 というか、今もフロアの編集は続けてるけども。間に合うかなこれ。


「皆の担当階層も、一応手を入れておいたし、そこまでの間にもうワンクッションあるから、そうそう抜かれるようなことは無い筈なんだけど……」

『あァ、あれな。いきなり来て何すンのかと思ッたら、いきなり階層の難易度跳ね上げンだもんなァ』

『しかも間に入る階層も難易度を時間の許す限界まで上げておったし……。クッションというか、奈落の谷を刻んで行ったようにしか思えんがのう……』

「私にとっては間違いなくクッションだよ。少なくとも埋まるまでの間は時間が稼げるんだから」


 スキルを発動し、どんどん地形を書き換えて行きながら会話する。理想の形まであと少し、とにかくオマケは後回しにして、戦闘時に置いて必須の仕掛けだけは何とか仕上げないと……。

 と、そんな作業をしながら、会話が途切れたころを見計らい、念話の先に渋々声をかける。


「……フェル。状況報告よろしく」

『おーけいマスター。参加するのが4国までは分かってるな? ギルドは投入する冒険者をランク7以上に絞ってるな。神殿の方も高位神官で固めてある。下手な人員は邪魔にしかならないって上は理解してるとみていいなこれは』

『まァ学習位するわなァ。特にセイントブラッドなんざァ、前に3回も綺麗に返り討ちされてンだから』

『その上ギルドは配下として参加してる冒険者を把握してる訳だからな。そこだけ見てもランク6以下は足を引っ張る荷物以外の何物でもないって判断はバカでも下せる』


 報告に続くのはソールとクラウド。報告するのはフェル(戦闘狂の錆色狼獣人@元奴隷)だ。今現在、彼だけが外に出て街の状況を眺めている。

 まぁ冒険者が特定されているのは前提条件だ。だからこちらの切れる手札としてはクラウドとショウヨウのみ。……が、まぁクラウドはある程度読まれているとみていいだろう。

 最初の階層に『冥府の使い』が出現したという報告は相当数上がっている筈だ。冥府神のシンボルカラーは灰色。未だに変わらない灰色の髪を見れば誰だって『冥府の使い=クラウド』の図式が描ける。


『でもって、マスターの懸念だが……ビンゴだな。どう見てもそこらに居るレベルじゃないのがそれなりに冒険者の振りして混じってら』

「総数カウントできるならよろしく。出来れば属性と得物、どのダンジョンから来たのかとそのダンジョンの属性と傾向を」

『えーとあるじ、いちおうきくけど、ぞくせいきいてどうするんだ?』

「ワープ先を操作して一番相性が良さそうな所に振る。こいつはカモだと思ったら積極的に自己申告よろしくね、皆」

『……素晴らしく横暴な手段を躊躇いなく取るのね。流石マスター、これだけの軍勢を前に微塵たりともブレない、そこに痺れる憧れる、だわ……!』

「ちょい待てレポリス。どこでそんな言い回しを覚えた?」

『……うふふふ~♪』

「逃げんな誤魔化すなこれ以上心労を増やすなー!」

『主、そやつのいらん事は諦めた方が良いと思うぞい……』


 そして今回の大侵攻、その最大の難敵もきっちり存在している事が判明。僅かでも勝率を上げる為の策を伝達すれば何故かそんな反応が返ってきた。いや、本当にどこから仕入れたんだそのネタ。

 と言っている間に最低限の機能が完成。見栄えとギミックももう少し弄りたかったのだけど、それはしょうがないと諦める事にして電車に戻る。お知らせ画面を開いてみれば、いつかも見たような建設ラッシュが並んでいる。


『おぉ、マスター。そろそろ始めるみたいだぜ』

「了解。各自、最終チェックの方始めて」


 指示を出し、自分の担当の部分をざっと見直していく。罠の数、よし。ボスフロア、よし。そこまでの接続経路、よし。新たに組み込んだ各種ギミック、よし。精霊神様&生命神様からの要請での巡礼者用の仕掛け、よし。

 護剣と杖は改めて強化しなおした。服は黒尽くめに【防具職人】の技術で色々小細工済み。必殺技、準備オーケー。その他諸々も……うん、よし。


『あるじ、おれはじゅんびいいぞー』

『こちらも問題ありマセン』

『万全の状態じゃと言っていいじゃろ』

『……問題ないわ……』

『主、いつでも行けるよ!』

『問題ねェなァ。一応そッち行くかァ?』

「その場で待機」

『おいおいマスター、俺は?』

「外に残って経過報告と情報収集。相手がどこまでの情報をどこまで共有してるのか把握しておきたい」

『へいへーい。お仕事頑張ってきますよ、っと』


 問題児2人の頭を言葉で押さえつけ、久方ぶりに緊張しつつ、侵入の時を待ったのだった。






死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:4

マスターレベル:3

挑戦者:27055人

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