第36話 策(侵入者)/策(主)

『ダンジョンの侵入ルールが変更されました

 以下のルールの設定は『公開』です

 ・連続侵入不可→フロア移動もしくは1時間経過で連続侵入可能

 ・侵入位置固定→ランダム

 ・ダンジョン突入人数制限解除日:1回/年→4回/年

 ・侵入許可:他者蘇生系スキル保持者

 ・他者蘇生系スキルには以下の制限が課せられます

1.発動ごとに発動対象者の所持品ロスト率上昇

2.発動ごとに発動者の所持品ロスト率上昇

3.発動ごとに発動者所属パーティのガチャコイン取得率減少

4.発動ごとに発動者所属パーティのLuckが低下(階層限定)

5.発動ごとにフロアの罠+10(第1層のみ・永続)

6.スキル受け付け時間制限:1分

7.同一人物への3回目以降の発動は無効

 ・ダンジョン閉鎖日:無し→5時間/週

 侵入ルールの変更による難易度差が職業ポイント5000Pに変換されます

 ダンジョンの情報規制Lvは0です

 ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました

 『謎の卵』は成長しています

 ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました

 侵入者の撃退に成功しました▽』




「…………ソールー」

『ンあ?』

「コレさ、やっぱ兄貴さん達だよね」

『ンー……あァ、だろォな。また一番手押し付けられてンのか『義兄弟』』

『いや主……週一でダンジョン閉鎖で、再挑戦が1週間後って、二度と同じ構造に挑めなくしてる辺りやっぱり鬼だね』

「だからどうしたのクラウド?」

『それこそ今更だろォが親父』

『うん、ごめん、そういう主だった』


 わいのわいのと言いながら、監視画面をONにすれば、やっぱり兄貴さんたちだった。後続の2人パーティは落ちているが、兄貴さんたちは勝手知ったるとばかりに罠を回避して奥へと歩みを進めている。

 そのルートが最初から正解で有る事、トラ耳剣士さんの手になにやら書き込まれた紙がある事から考えて、やはり地図が完成されたとみて間違いないだろう。


「まぁはっきり言ってあの階層、対超大人数挑戦者用だしなぁ。少数精鋭の冒険者パーティにはクリアされて当たり前だったりするんだけど」

『それでも時間がかかるように改変してあるあたり流石主じゃのう……』

『うふふ……その次の階層が、個人殺しなのがまた素敵……♪』

「Lv上がって階層が増えたら、通ったルートによって行先がある程度決まるようにしようかなと思ってたり」

『あぁ、戦略が組めると錯覚できるわけデスね』

『でもそのじつほぼうんまかせか! たいへんだな!』

「最終的には、次の階層への鍵をパーツ状にしてばらまいて、しかも鍵ごとで違う階層に行くという仕様にしようと思ってる」

『他パーティとの連携が重要になる訳かー。しかも絶対違う種類のパーツがちょっとずつ集まる感じにするだろ主』

『ンでもってどォせパーツは持ち出し不可だろォ? むしろ鍵パーツの奪い合いになンじゃねェのかそりゃァ』

「さぁ? まぁ一言だけ言うなら、普段の行いって大事だよね」


 はっはっは、と笑いながら最後の一言を言えば、『相変わらずえげつない』『さすが心折ダンジョンの主』等々の反応。褒め言葉をありがとう。でも言葉によってはきっちり減俸するから覚悟しとけ?

 と、呑気に言いながら何をしているかというと、皆の担当階層、その先に設置しようと思っている階層の編集だ。

 ……実は屋外属性の階層であっても、ちょいちょいと編集の仕方を工夫すれば洞窟っぽい物も出来るんだよねー。とりあえずざっくりでいいので仕上げを優先。


「そういえば、皆の方の階層はどんな感じー?」

『うむ? 大方できあがったかのう』

『大筋は完成しマシタよ』

『……造り込み拡張中……』

『もうちょっとー』

『ざッくりでいきゃァこんなもンだろ』

『今面積で言って、予定の倍の広さまで行ったかな?』


 ずば抜けて(無駄に)優秀なのはクラウドだ。しかし一番遅めのラートでもそんなものなら、たぶん抜かれても大丈夫だろう。


「よーし、それじゃあ入り口の次に完全ランダムで皆の階層を接続するから、それぞれにボーナスアイテムの配置開始でよろしくー」


 号令をかければ、重なって了解の返事が返ってくる。それに、さて、と一息ついて現在の階層をダンジョン管理画面で確認し、とりあえず一旦完成という事にした。

 ダンジョン内ワープを発動して電車のフロアに戻り、念話を1人に絞って通達。


「で、ラート、ちょっといい?」

『なにー?』

「今倉庫作るのに働いてもらってるゴブリン達がいるんだけどさー……それぞれの得意技能、素質ありそうなのを引き取って特化させるとかできるかな」


 呼びだしてひたすら穴を掘り、アイテムを整理させ続けていたゴブリン(弱)達。思惑通りというか何というか、やっぱり個性という物がある事が発覚。

 ご飯をあげたためなのか、いつの間にか数は増えて現在100前後と言ったところか。いつの間にやら場所の分担や交代制の管理から道具の修繕まで自分たちでやっている。流石は集団生活が本能に組み込まれている生き物、と言ったところなんだろうか。


『でしなのか? べつにいいけどそだててどうする? おれのすきる、めずらしくもないぞ?』

「そうでもない。鍵を開けれるって事は鍵を掛けられるって事で、盗めるって事は隠せるって事でしょ?」

『あー、そーゆーことか。わかった、なんにんかきたえる』

「出来れば人様の奴隷を盗める腕前くらいまで鍛えてね」

『それはさすがにおれでもなかなかむずかしいぞあるじ!?』


 あっれぇ!? みたいな感じで驚きの声が返る。うーむ、やっぱり奴隷って管理が厳しいみたいだな。公認の人身売買と言えど、やはり命に関しては重いという事でいいんだろう。

 とかなんとか考えていると、再びラートから疑問符が来る。


『まぁあるじがむりなんだいいってくるのははじめてじゃないから、とりあえずやってみるけどな。なんでそんなちょうちょういちりゅうのうでがいるんだ?』

「いや……ただ社会のシステムを良く知らないからの予想なんだけどね。そろそろ出てくるんじゃないかなーって」

『? なにが?』

「奴隷は持ち物扱いされる。でも生き物には違いない。ならば、枠を一つ分潰して、フロアを固定しとこうと考える奴」


 最初の階層のフロアは、侵入ごとに難易度が変更される。そしてその変更は、フロアが空になった時に起こる。つまり、誰かがフロアの中に居れば、難易度は変わらない、のだ。

 もちろん誰かがフロアに居続ける限り罠は設置され続けるから、はっきり言って見当違いも甚だしい。むしろ自分で自分の首を絞める行為に他ならないだろう。

 だが――私が冒険者ならば、フロアの固定を、別の目的で行う。


「いるんじゃないの、っていうか確実にいるよね? わざと難易度の高いフロアを固定して、後続を断とうと考える自分本位なド阿呆は」


 自分の利益を考えれば確実にやる。私だってやる。しかも奴隷というのは所有権がキツく守られていて、ちょっとやそっとでは動かせない。……そう、例えば週に5時間程度の閉鎖程度では。

 種族によれば、飲まず食わずであっても1カ月ぐらい耐える事は可能らしいというのは知っている。……使わない訳がない。そうは思わない? ラート。


『……あるじがなんできちくだのおにだといわれてるのか、おれいまやっとわかったかもしれない』

「らぁとー?」

『なんでもないぞあるじ! で、そのでしこうほってどこにいる!?』


 ぼそっと小声での感想に返答してみれば、慌てて話を終わらせてしまおうとするラート。うん、でも減俸しとくから。

 心の中だけで罰を決定し、ラートに奥の奥に設置してある倉庫階層への移動魔法陣の使用許可を出して行き方を地図にナビした。向かっているのを画面での点の移動として見ながら、倉庫の方へ「今から一芸に秀でた師匠が行くから、作業を一時中止して整列ー」と声をかける。

 そしてそちらの様子を少しだけ眺め、今度はショウヨウへ通信を繋ぐ。


「ショウヨウ、今ちょっといい?」

『はい、なんデショウか?』

「ちょいっと質問と相談なんだけども――」




 で。


「……ほらね。やっぱり思った通りだよ。思ったより早かったけど。ねー、ラート」

『さすがあるじっていうかなんというか。ん? ということは、これからおれがぬすんでくればいいのか?』

「いや、それより先に試したい事があるんだ。ぶっちゃけ気は進まないんだけど……うまくいったら、ラートの弟子達には完全に仕掛け側に集中してもらえるし」

『……あぁ、あれの事デスか。いきなり何を聞いてくるのかと思いマシタよ』

『……おい、嫁ェ……?』

「嫁言うな。あと意味ありげだけど同じ空間での会話すらしてないから」

『ならいィがよ』


 2週間後、とある侵入者一行がやってきた途端、私たちはそんな会話を開始していた。やってきたのは、坊ちゃまと同じような空気を感じる……銀色鎧の人だ。こちらは普通の身長はある。

 控えているのは可愛らしい猫耳が揺れる猫獣人メイドさんとキツネの尻尾がふりふりの狐獣人メイドさん。両手に花かこの野郎。そして護衛らしい冒険者然とした男が3人と……首の枷から伸びる鎖を引っ張られて無理やり歩かされている、ボロボロの人たちが15人。


「持ち物制限は10枠20個までだから、20人は連れてくるかと思ってたけど……メインのいけ好かない野郎とお付きのメイドさんが持ち主だろうから、1人1枠で5枠ずつって感じか」

『まァ妥当な所だろォなァ。あの様子だと、金色と違ッて一応自衛程度はできそォだから武器とかにも枠使いたかッたンだろ』

『いや、それより装備を落とさない為の食糧枠じゃないか? そもそも装備品は枠とは別の持ち物なんだし』

『どちらにせよ気に食わんのー……主、出撃し(で)て構わんか?』

「却下」

『……抜け駆け禁止……』

「だから却下だっつのそこの血の気の多いの。話聞け。まずは私の策がうまくいくかどうかだって言ってるっしょ」


 とりあえず順当に暴走しようとする皆の手綱を絞る。私だって殴り込みに行きたいっつの。しばらく大人しくしてろ頼むから。


「ふぅーむ、それにしても、また面倒なダンジョンですねぇ。小坊主が癇癪を起したというから来てみれば、何とも、華の無い」


 ……小坊主=坊ちゃまだよな? 癇癪、癇癪かぁ……そういえば空間神の神官さんの強制召喚の時、問答無用で吹っ飛ばして以来見てないな。相変わらず元気(笑)にやっているようだ。


「ふぅーむ、この私に歩かせようとする時点で腹が立ちますねぇ。こんな土くれしかないような場所を。よくも」

『じゃァ来ンなって話だよなァ』

『全くじゃ。チンピラでももう少しマシな言いがかりをつけるじゃろ』


 散々にこけ下ろされる銀鎧。……【防具職人】を持ってるからか、あの鎧違和感しか感じないんだけど。もしかしてメッキのハリボテだったりして。


『……そうだったら、お腹を抱えて笑えるわね……!』

「ふぅーむ……折角鎧をミスリル銀で煌めく物に変えたというのに、こうも光源が無いとは、気の利かないダンジョンマスターですねぇ」

『いや、あるじせいかいだな。あれ、ひょうめんはみすりるぎんだけど、なかみはてつかへたしたらすずだぞ』

『……っふふふ、だめだわ、止まらないわ! あははははは!』


 ラートの見立てに、笑い上戸なレポリスが上品に爆笑している。後は呆れるか失笑だ。私? 一周回ってこんなアホがいるのかと感心したけど何か。


『流石主、感想も俺らとは一味違う』

「ふぅーむ、あぁ、退屈ですねぇ。フロアの難易度の判定はまだですか?」

「いや、今終わった。ここは大したことが無いようだ」

『ンでもって難易度の判定って事はァ、嫁の懸念は大正解ッて事かァ?』

「ふぅーむ、時間を無駄にしましたねぇ。大したことが無いのであれば進みましょうか。道中の罠は頼みましたよ?」

『デショウね。大したことが有れば奴隷をその場に残し、仕掛けを起動させたままにするつもりだった、と』


 監視画面を眺めつつ好き勝手言いあうこちら側。当然聞こえる訳もないので、銀鎧一行は冒険者の持つ地図を参考に奥へと進みだした。当然ながら大人数で移動するとなると、罠を踏み抜く人もいる訳で……。


『あっ!?』

「ふぅーむ? ……これは面倒ですねぇ。なるべく真後ろをついてきなさい、お前たち」

「「はい」」

『あんな鎖に繋がれて、そもそもまともに歩ける訳がないじゃろが』

『しかもしんぱいするのはきれいなおつきだけかー』

『まァ分かりやすい野郎だよなァ』


 クラウドの声が上がると同時、白いもじゃっ毛の小柄なおじいさん(?)が落とし穴に落ちた。それに対する銀鎧の反応に色々言っているが、私はダンジョン管理画面を並べて出し、状態を確認していたので不参加だ。

 そして新機能『アイテム転送』でとあるモンスターに横の座席に置いておいたアイテムを転送し、念の為銀鎧一行の姿が完全に消え、管理画面上で曲がり角を5つ曲がってから実行を命令する。

 で、結果。


「ショウヨウ、賭けは大成功みたいだよ?」

『それは何というか……おめでとうございマスと言えば?』

「まぁね。全員、新しく開く監視画面見てくれる?」


 言いながら操作して、銀鎧一行を映す画面とは別、先ほど落とし穴が発動した場所を映す画面を新たに開く。さらに操作して、その落とし穴を覗き込む角度に。


『いやあるじ、そんなしてんにしてもしたいがあるだけ……あれ?』

『……見間違いかしら。寝ぼけているのかしら?』

『え、ちょ、主どーゆー事!?』


 混乱した声にとりあえずにやりとした笑みを浮かべる。もちろんあっちからは見えないが。そろそろ勘の鋭い方が答えを当てると思うんだけどな。


『……嫁ェ……。アイテムロストを利用して奴隷解放なンざ、普通は発想すらしねェもンだぞ? 万が一した所で、実行はまずしねェし』

「だからどうした。常識なんて破壊して何ぼだしルールは抜け道を探すのが基本だよ?」

『いやしかし……よく蘇生アイテムがあったのう……』

「ぶっちゃけ冥府神様に怒られるかと思ったんだけどね。ちなみに理由が知りたい人は崖エリアの緑色のところよーく観察してみるといいと思う」

『ちなみに直接見に行く場合、制御を失って落下しないようによく注意する事をすすめておきマス』

「冒険者対策として物騒な風が吹き荒れてるからね」


 そしてソールの答えは大正解。

 ダンジョン内で罠や攻撃によって取りにいけない位置に落ちたアイテムは、ロストという扱いになる。

 そしてロストしたアイテムは侵入者が強制送還された時の扱いと変わらず、ダンジョンマスターである私の物になる。

 つまり、幾ら固く複雑な権限に守られ拘束されている奴隷であったとしても……ダンジョンの罠にかかってしまえば、私の物だ。


「いやー、ショウヨウが植物に詳しくて助かった。取り過ぎなければ大丈夫とは言われてたけど、採らないのも逆に悪いのは予想外だったし」

『そもそもあの種類があそこまで繁茂すること自体がまずないのデスが、ダンジョンというのはつくづく不思議な環境デス』


 崖エリアでのびのび育っている精霊神様から預かった植物たち。……レア度にふさわしく、蘇生効果を持つ植物が多分に含まれている。ショウヨウはハイエルフだったので植物に詳しいかと採取を頼んだら、上記の理由で快諾してくれたのだ。

 罠にかかったからには死んでしまっているが、全く懐の痛まない事情で蘇生アイテムは手に入る。ならば少々暴論も可能だ。

 唯一の懸念として、奴隷状態で死亡した場合は所有権が移動しない、というのがあったが、死体であっても所有権は移動するようだ。

 私は奴隷なんていらないから速攻解放予定だが、私の奴隷、という扱いの間は罠にもかからず蘇生アイテムも有効なのだからしばらくはしょうがない。


「さて、それでは残りの人もお招きして、とりあえずは働いてもらおうか」
















死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:4

マスターレベル:3

挑戦者:26009人

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