第35話 Lvup+人員=大改装
『ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました▽
ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました
ダンジョンに2人の巡礼者がやってきました
侵入者の撃退に成功しました▽
『謎の卵』は成長しています
ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました
ダンジョンに3人の研究者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました▽
ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました▽』
金鬼との契約より、1週間。
なんと、最初の3日私は一切記憶が無い。何故か金鬼は微妙な顔をしていたが、本当にあの心臓が跳ねた感覚の後、最初に気が付いたのが4日目の朝辺りだったのだからしょうがない。丸3日経ってるって聞いて携帯で確認して驚いたともさ。
で、そこから4日は全く電車から動けなかった。何せ顔の右側3分の1と右腕の感覚が一切ない。金鬼が言うには、私はどうやら「『瑞』を介すると一切の抵抗が出来なくなる」というある意味の希少体質だったようで、うっかりとその箇所の支配権を奪ってしまったのだそうだ。
その影響で、契約後しばらくは金鬼の魔力が無いとうっかりと死んでしまう。という状態だったらしい。……一応、この4日の間に何度も魔力接続して金鬼の魔力に慣らされたから、放置されるとどんどん意識が遠のいて弱っていく、というのは無くなったけど。
まぁ結局さらに不自由になったのだから文句の1つも言いたい。……のだけど、『瑞』(右耳の辺りにあったらしい)に触れられると全身の力が抜けて意識が薄れる。
最初は触れられただけで完全に気を失っていたのだから、進歩と言えば進歩なのだが……文句を言おうとすると金鬼が魔力接続を始めるので、結局言うのを諦めた。
なお、金鬼の真名は5日目に改めて教えられた。けっこう長かったのでここでは割愛する。ちなみに、配下の皆さんの名前もこの動けない間に考えた。……下手に凝るよりシンプルな方が、と思ったのだが、思いのほか好評でほっと胸をなでおろしたのは秘密だ。
「嫁ェ、大丈夫かァ?」
「よめ言うな……なに、ソール」
「しゃあねェだろ、お前の通称は冒険者らがつけるまでねェんだから。あ、精霊神がなンか話したそォにしてたぜェ?」
口調で分かるように金鬼=ソールだ。元ネタはまんま太陽である。ちなみにやっぱりあの契約は正真正銘、生涯に1人としか交わせないもので、当人が言っていたようにプロポーズで間違いないんだそうだ。
なので現在、私、嫁認定です。しかもソールの種族独特の感性は広く知られているようで、配下の全員にソールの嫁扱いされている。
……にしても、精霊神様か。なんかあったっけ?
「……あ」
「心当たりあンのか?」
「多分、崖エリアの緑ゾーンが一杯になってきたんだと思う」
そういえばかなり放ったらかしだったのを思い出した。確か100ぐらい作ってそのままだ。流石というか何というかとんでもない成長速度だが、範囲が増えれば増える程絶対数が増え、つまり増殖速度も右肩上がりに早まる訳だからまぁしょうがないだろう。
「……緑ゾーン? なンだそりゃァ」
「崖エリアの緑の生い茂った高台だよ。精霊神様の依頼で、外で絶滅しかかってるらしい種類の育つ場所を提供してるの」
「あァ、そォいう事かァ。どォりでレア度9オーバーの植物ばッか生えてる筈だなァ」
「あー、やっぱり貴重なんだ」
「貴重ッつーか……まァ、連合国どォしの戦争の引き金になッてもおかしくねェぐらいだな」
「…………それマジ?」
「大陸間戦争よりゃァ多少マシだろォが、下手したら国家間バランスが引ッくり返るレベルだぜェ?」
「おぉう……思ったよりずっと大事だった……!」
左手のみを支えに電車から降りるまでにそんな会話をして、加護を受けるだけの厄介事ではあったかと改めて戦慄する。……崖エリア、編集し倒してとても愉快な感じになっているんだけど、もう少し後ろの階層に回すべきか。
迷路をいじるの楽しいし、いっそボーナスエリア的なものにしてしまおうか。ある程度何も持っていなくても仕掛けを利用すれば行ける感じにして、どちらかというと本人の動きと勘の良さが問われる感じで。
……盗賊係さんが活躍しそうだな。
「……嫁、今またダンジョンの極悪化について考えてただろォ」
「失礼な。マスターのお仕事だよ」
「まァいいけどなァ、嫁のダンジョン相変わらず必殺過ぎて楽しいからよォ」
「ごめん、その価値観は相変わらず分からない」
言いながらベルトに護剣を召喚し、ダンジョン内ワープを発動。崖エリア上空で結界を張って全体を見下ろしつつ、そろそろ崖そのものも新たに刻まないと場所が無い事に気づく。
「まぁ、大規模な魔石化に関しては、片手でもできる目途がついたから良しとするか……。……ポイントにしてもこの分だとある程度安定した収入があるとみていいだろうし、となると、問題は」
「追いつい――」
「やっぱり皆が暇だって事かなぁ……。……とりあえずざっくり刻んで作って用意して、レベルを上げて本格的に取り掛かるとしよう」
途中でソールが文字通り飛んできたのでダンジョン内ワープで遠くに離れ、考えをまとめる。引っ付かれてたら作業にならないのだ。嫁扱いされているからか、私とソールがいる階層には誰も入ろうとしないし。居たとしても生温い笑顔を向けて去っていく。
……最後の一線は許してないよ? どう考えても迫られてる時はあるし、魔力接続している間はある程度心も共有だから、どれだけ強く求めてるかも知ってるけど、でも応えない。
拷問だ? 分かってるよ。でも、ここは異世界。……正直、ここで確実な絆を結んで、この世界に根を張って……もし万が一、戻れなくなったら。私は絶対後悔するし――それが原因で、自分がどうするかが分からない。
「……魔王になってもおかしくないし。絶対戻るって決めている以上、違う世界の人なんだから……」
ちなみに、念のためにダンジョン内ワープで行方をくらましてから呟いておいた。当然ながら心の声の方は閉ざしている。……察知されたら「ついて行くから問題ねェよ」とか、絶対言うに決まってるんだあの金色は。
で き る かー―――!!
「さて、ちゃきちゃき崖を作ってしまおう、そうしよう」
遠くから何かが高速で飛んでくるような風切り音を背後に、私は再びダンジョン内ワープを発動するのだった。
で、崖フロアを編集したのち、自分のレベルとダンジョンのレベルを2つずつ上げた。自分のレベルの方は定経験値だったけど……【ダンジョンマスター】の特徴か、えっらい量が必要だった。
ダンジョンの方は、現在溜まっていた経験値を3分割、1:2の順番で振った。あまり変化が無かったのが残念だ。
「全員集まったー?」
「1人イビキかいてるけど、どうせ聞くだけは聞いてるから大丈夫だよ主」
「後で選んでもらわなきゃいけない物があるから……まぁ欲しい物が手に入らないだけだから良いか」
「おきた! おれおきたよ!」
「現金じゃのうお主……」
再び電車の席に戻り、好き勝手に最初の階層に降りては侵入者と遊んで(を苛めて)いた全員を招集。……ちょっとだけ監視画面で覗いてみたけど、やっぱりあまりにひどい状態だったね、うん。
という訳で、気晴らしを用意してみた。
「えー、ダンジョンのレベルを上げたから、作成可能な階層が増えましたー。今Lv4だから16階層まで。なんでー……中ボス戦フロアという事で1つ、そして1人1階層を担当として制作してもらいまーす」
「おぉ!」
「……あはは♪」
「ほー」
「思い切りマシタね」
「まじでまじで!」
「へェ」
わりと良い食いつきの反応を確認して、細かい説明に移る。
「具体的には、わりと本気で戦闘が行われる中ボス部屋、これは1階層を6つの放射状に分けて、真っ直ぐな状態で作ってもらうからそのつもりで。属性は人石固定」
「通称・遺跡かー。まぁ本気バトルなら妥当かな?」
「だろうのぅ、細かいカスタマイズは可能かな? 主」
「可能、にしてるけど、ポイントは自分の懐に入った分だけでやってね。そして担当階層。これは、ボーナスショートカットとしての階層っていう大前提ね。だから純戦闘じゃなくてもクリアできる方法を用意しておくこと」
「ェー」
「……頭の使いようなのね、うふふ、楽しそう……」
「それプラス――直接相対するゾーンは、階層の特別枠に作る事。屋外エリアなら上空、地下なら一方通行の落とし穴びっしりで。クリアしたら先の階層へ進めて、失敗ならそれぞれの階層にランダムスタートで」
「ほぅ、という事は……」
「えらぶのぞくせいか!」
「正解。ちなみに、それぞれの担当階層は配下同士での属性かぶり禁止。あと、私がボスフロアで使いたい属性とボーナスフロアで使いたい属性は省くから、その中から選んで」
「ッてェ事は――」
「方法はじゃんけん勝ち抜き。異論は認めない」
「――ッチ」
約一名バトれない事に不満げだったが、敢えて無視。舌打ちすんなそこ。
でまぁ、基本車座で集まっていた皆はやおら顔を見合わせて、
『せーのっ、じゃん、けん――!!』
以下、勝ち抜き順に部屋割り。
クウゲン(空亀)。属性:溶・屋外。
クラウド。属性:雷・屋外
ショウヨウ(翠鏡)。属性:木・屋外。
ソール。属性:空・屋外。
レポリス(灰兎)。属性:氷・屋外。
ラート(赤鼠)。属性:人木・地下。
最下位のラートだけ地下なのは……正直、こんなに屋外ばっかりに偏ってどうするんだ、と貧乏くじをひかされた結果だ。「おかしい。おれ、うんわるくないのに」なんてぶつぶつ言ってたけど……相手が悪かったんじゃないかな。
そんな訳で、今はそれぞれに階層を編集中。私は久しぶりに1人で景品の作成――と行きたかったのだけど、驚きのガチャチャレンジ成功者0。景品が1つも減っていないというある意味異常事態に頭を悩ませていた。
「どーするかな……。……いっそ、侵入者制限をいじるか? 一度に侵入してくる人数には制限をかけるとしても、クリアするまで突入無しっていうのは緩和しても大丈夫な気がする……。そう、フロアを移動したら、とか」
虫の精霊さんの『噂を聞き耳』機能でエグゼスタティオの様子を探るに、最初の階層の地図はもうあらかた完成しつつあるようだ。まぁ罠は常時組み替えてるけど、通路に手は入れてないからね。
この分だと、ほどなくフロアクリア者は続出するだろう。となると、こちらは暇なわけだ。いや、サイレンが鳴らない時間が伸びるから、ある意味助かってはいるんだが。
「…………制限緩和したらサイレンも収まらないかな。中ボス階層を突破されたら、とかに変更できるだけで違うんだけど……。……入り口もランダムになるように条件付きにするか」
地図が出来ても意味が無いようにはどうするか。……やっぱり、通った道の難易度によって到達が変わってほしいから……フロアごとの罠にランクをつけて、その難易度ランクの合計値で次の階層へ行けるようにしてみよう。
「フロアごとに難易度設定。難易度と連動したポイントを条件に設定。10ポイント取得したパーティがフロアに侵入時、50%の確率で罠として移動魔法陣が生成される、と。あ、使用制限、条件を満たしたパーティのみで」
今のところの最大難易度が5、最短2フロア。うん、これなら妥当じゃなかろうか。まぁ難易度5のフロアは引き当てる方が難しいんだけど。通るのはもっと難しいけど。
ついでに、フロアの難易度も人が入るたびにランダム変更されるように……いや、それだと先に入った人が楽か。うーん……人が居なくなったら白紙になって、で再設定、これで行こう。
「すぐバレるような気がするけどなぁ……週一とかで半日メンテナンスとかできないものか。別に大人数は脅威じゃないから、侵入可能3カ月に一回の年4回にしてもいいぐらいだし」
むしろ経験値と職業ポイント的には大人数バッチ来いだ。
「いや、でも流石に中ボス階層への侵入制限はした方がいいか……。……皆、頑張ってるところ悪いんだけど、ちょっと聞いてくれる?」
『おゥ、どォした?』
『何かのう、主』
『なーにー?』
声を掛ければ次々返る声。ちょいちょいダンジョンの設定をいじりながら、全体放送(配下限定)に向けて説明をする。
「いや、今色々考えてたんだけどね。一個皆につける注文忘れてたの」
『注文デスか?』
『ふふ、なぁに?』
「それぞれの担当階層の、直接相対する特殊フロア。そこの入口の前に、待機ゾーン的な? 順番待ちはこちらですみたいな? そういう休憩できる感じの場所を作っておいてもらえるかな」
『……あー、侵入条件緩和に踏み切るんだ、主。でもって俺たちへの挑戦はパーティごとになるようにしたいんだ?』
『あァ、なるほどなァ。りょォかいしたぜェ』
『ふむ……主さえよければ、簡単なサービスをつけてもいいかも知れんのう』
流石というか一発で気づいてくれたクラウド。そしてクウゲンの言葉にしばし考えて、案を若干修正した。
「……そうだね、それ良いかも。ちょうどエグゼスタティオに一杯食料系のお店出来てるし、いずれ情報集めに屋台でも出すかと思ってたから、そのメニューを割安で出すとか」
『おいしいの……? ううん、おいしそうね……!』
『マスターの料理は独特でなおかつ斬新デスから、大いに喜ばれることデショウ』
『ンーでもッて、商売神の神殿で素材を買うはずの金を消耗品で落とさせるッて訳か』
『さすが、えぐさと酷さに関しては安心と安定の主だな!』
「うん、褒め言葉なのはわかるけど、クラウド減俸」
『そんな!?』
『いや、今のはおんしが悪いじゃろ』
『じーばーく! じーばーく!』
『ラートてめぇやんのかこらぁ!!』
『やるかこの!?』
「あぁ、素材の買い出しはクラウドとラートで行ってね。今ケンカしかかったから」
『学習しまショウよお2人とも……』
そんな訳で、割合賑やかにダンジョンの大工事は進んだのだった。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:4
マスターレベル:3
挑戦者:25881人
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