第34話 回復+備え=新問題

『ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の研究者が侵入しました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 【エグゼスタティオ】に冥府神の神殿が開殿しました

 ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 『謎の卵』は成長しています

 ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに2人の従属希望者がやってきました

 侵入者の撃退に成功しました▽

 【エグゼスタティオ】に商売神の神殿が開殿しました

 【エグゼスタティオ】に生命神の神殿が開殿しました

 『謎の卵』は成長しています

 ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに1人の吟遊詩人がやってきました

 ダンジョンに1人の従属希望者がやってきました

 侵入者の撃退に成功しました▽』




「……………………」


 どうも、心折ダンジョンのダンジョンマスターです。紆余曲折あったけど、なんとかかんとか復活できたよ!

 なんですが。


「……とりあえず、この配下の大変動に関する言い訳を聞こうか、クラウド」

「あれ!? 既に言い訳扱い!?」


 はー、とため息を吐き、重ねた腕の上にあごを乗せて半眼で言う。クラウドはぎょっとしていたが、やらかしたことを把握した以上はしょうがないと思う。

 ちなみに今の体勢は、主の部屋にいると余計にダルく、しかし電車の中は話しづらい事この上ない、という事で、電車の席に座りつつ、窓を開けてそこから皆を見下ろすという謎の構図だ。


「えー、主の陥ってる状況があまりにも世界クラスで大変だっていう事が判明したので、そろえられる戦力は揃えておこうと思ってこうなりました!」

「戦争前提なのかとかやっぱ世界クラスの厄介事かとか回避不可決定なのかとかはまぁおいておくとしても……なぜにこの人選なのかな」

「一応対外的にはガチで世界にケンカ売ッて勝てるレベルだぜェ?」

「うふふふ、神官がいないのがまた素敵……」

「むしろ新しい世界の開拓すらも出来るメンバーと言って差しさわりないじゃろなぁ」

「あぁうんそれは置いといてとりあえず。んで、何故にこう、特に攻撃の方向に特化した人らばっかりが集まっているのかな、クラウド?」

「それはもちろん、主が防御と魔法に特化しているからです!!」

「あ、ちなみにわたくしも正しくは神官ではありマセンので」

「Zzz…………」


 並んでいるのは、クラウド、金鬼はともかく、灰兎、空亀、翠鏡、赤鼠と、うち3人は頻繁に従属希望者として来ていた凄腕冒険者、そして1人は私の復活に関して色々尽力してくれたらしい……確か、連関契約見廻り官、とかいう役職の人だ。

 どうやら私が夢だと思っていた『真っ黒な光景の中で磔にされているの図』だが、心象風景、とかいう奴だったらしく、まぁある意味の現実だったんだそうだ。

 で、あれだけの拘束を仮にも私(ちなみに、どうやら私は現時点で既に規格外に強いらしい)に対して行えるだけの力の持ち主、というと、相手は神々の中でも一握りの数柱に絞られるんだそうだ。


「どーやって御せっつーのこの暴れ馬の集団……」

「最終的に全員本心から言う事聞くンだから大丈夫じゃねェの?」

「その最終的に行き着くまでにどんだけ手がかかんのって話」

「主なら出来るよ! 俺信じてるから!」

「うっさいそこ」


 という訳で、戦力増強が仕方がない事は理解した。で、戦力増強の為には従属希望者を迎え入れるしかないのも……納得したくはないが、理解は、した。

 でまぁ、そこまでを理解するのは良いとして……こればっかりは流石にふてくされていいよな。


「何で名前。しかも当然とばかり。よりによって全員一度に」


 クラウド以外の5人からの要請。契約に際して名前をくれとの事だった。いや、格好いい通称あるでしょ。名乗りなよそれを。


「「「「「それは嫌」」」」」


 あっそ。


「知るか。腕輪も作ってないし話が早すぎる」

「えー。そんなこと言っても主、ぶっちゃけいつ仕掛けてくるか分からないよ?」

「ふふ、名前ってね、名誉な物なの……」

「そこの価値観がよく分からんのだけど、変な名前つけられたらどーすんの」

「そこも含めて本人の見る目、という奴じゃの」

「概ね価値観や美意識の差があっても、貴女は少なくとも懸命に考えてくれるデショウから。そんな名前を無下にすることはありマセンよ」


 なんだこのウェルカムな空気。おじいちゃんまで目をキラキラさせてこっちを見ないでくれるかな。全く…………


「……分かったから、流石にもう少し時間くれる。私も今連続して色々あって頭痛いし」


 結局、そう言う他ないのだった。

 一気に同居人が増え、それに応じて各個人の専用生活スペースを作ったら結構ポイントが削られてしまったのも地味に痛い。侵入者が次々とそれこそサイレンの鳴りやむ暇も無い位にやってくるから、それなりにすぐ取り返せそうなのが救いか。

 しかし、名前かー……いや、本気でどんな名前になっても知らないぞ? 私のネーミングセンスは死んでいる。変な方向に走らないように注意はするけど、シンプルすぎる事になるのは請け合いだ。

 皆が去った後の土の部屋を眺めてついため息を1つ。体を戻して窓を閉め、背後からの接触にうんざりと警戒を半々の声をかける。


「…………で、何、金鬼」

「ンー? 荷物整理ついでにお前を堪能しに」

「堪能すんな」


 大型犬がじゃれるがごとく、背後から抱きついてくるパッと見(のみ)美青年に棘付きで言葉を返す。金髪金眼の戦闘狂は私の警戒を意に介さず、元がドラゴンだからなのか器用に喉を鳴らしてすり寄ってくる。

 というか何で人間の声帯で喉が鳴らせるんだ。やっぱりあれか、構造がいろいろと違うのか?

 とか何とか余計な事を考えて現実から逃避しながらも、私が金鬼を振り払えないのには、いくつかの理由がある。


 1つ。あの心象世界で無理矢理拘束から抜け出した際、金色のドラゴンに掴まって逃げ切る事に成功した。まぁ当然ながらアレは金鬼だった訳で、その後、傍から見るだけで痛い状態だった(らしい)私に、休息と回復の面倒を見てくれたのは金鬼だった。

 ……まぁ、具体的には、私は魂の状態で、しばらく金鬼の体の中に居たという事だ。お陰で楽しい冒険者たちの話し合いも見れたし、一応問題ないくらいには回復したのだけど。

 2つ。その、まぁ……妙な同居状態というか、回復中。魂同士で嘘を吐く事は出来ないので、こう……その間中、何というか、ぶっちゃけ好意全開の状態で構われ続けたわけで。

 流石に私だって、一点の曇りもないのが分かりきった好意を全力で注いでくる相手を振り払えない程度には、普通の感性をしている。絆された? あぁその通りですが何か。

 で、3つ。正直これが一番大きいのだが――


 私は現在、立つことすらやっとのレベルで、足が動かない。


 連関契約以下略の翠鏡さんによると(例の心象世界で、青く見えたのはこの人だった)どうやら無理矢理拘束から抜け出した際、魂の一部が欠損してしまったらしい。それが体で言うところの足の部分だった為にこうなり……魂の怪我が原因である以上、もう元に戻る事は無い、との事だった。

 ある程度は魔法で補助して動くこと自体は出来る。そもそも自分の周りに結界を張って浮き上がり、ダンジョン内ワープで移動すれば事足りる話なのだ。

 が、私が望む普通の生活をしようと思うと、介助者が居た方が都合がいい訳だ。寝るときはもうあの部屋に戻らずずっと電車で寝るつもり(こっちで寝た方が回復速度が上がった:客観意見)なので、電車の中で魔法を使いたくない私にとって、介助者の存在は素直にありがたい。


 …………過剰なスキンシップさえなければな!!


 あの金色、何かっていうとすぐ抱きついてくるし頬ずりしてくるし、殺されかけた、いや、実際一回殺された身としてはひやひやものなのだ。バカ力とか加減知らずとか。

 一応、配下としての契約は済んでいる筈なので、今度こそ大丈夫な筈ではある。が、理解と感情は別だ。ビビるのも楽しいのかご機嫌な金色は一向に気にしていないが。


「……そして何故戻ってきてまた抱き着く」

「あ、今度は真面目な話だかンな」


 チ、ダンジョン内ワープで逃げようとしたのがばれたか。


「結論から言うとォ、オレと1対1の契約をしてくれ」

「理由を手短にかつ分かりやすく」

「分かッてンだろ、プロポーズだよ」

「却下」


 即断即決で却下だバカヤロウ。確かに好意を向けられて絆されているのは認めるが話が早いわ。せいぜい背中を刺されなくなって安心程度の信頼度しかないくせにどの口が言うか。


「一応マトモな契約として考えたらマスターの方にメリットが満載なンだぜェ? むしろこれほど好条件ねェだろォと思うが」

「……1つずつ挙げていくと?」

「ァー、まず、オレの種族固有アビリティなンだが【小太陽】つッて、体力と魔力の自動回復だなァ。これが制限なしで使えるよォになる」

「あぁ、不死身の理由はそう言う」

「回復が率だから多少は元に寄るがなァ。ンで、次。オレが緊急召喚できるよォになる。もちろん問答無用制限なし」

「つまり、いつでも金鬼を傍に喚べると。空間神の神官のアレでも対処できるって事か」

「まァな。普段から近くに居るつもりしてッけど、不測の事態は起こりうるからなァ」

「近くに居るんかい」

「次。とォぜんながら、オレの能力値がある程度反映される。ンー……魔力・体力の上限と耐久力辺りが特に跳ね上がるだろォなァ」

「種族特性でずば抜けてる項目と受け取っていいね?」

「おォ。次……つッてもこッちは契約の深度にもよるンだが、感覚の共有とかが出来るよォになるなァ。例えば、マスターが俺の眼を借りて物を見たり?」

「視点が動くって意味? 視力その他もろもろをこっちの視点で使えるって意味?」

「後のほォだが、両方出来るなァ。後は細かく言やァ共闘時の連携上昇とか魔力の受け渡しのリスクゼロとか色々あるが、だいたいこンなもんだ」


 抱きつかれたままだが、一応検討してみる。

 …………まぁおいしいと言って差し支えないだろう。癪だが。激しく癪だが。大事な事なので2回言ってみた。

 しかしこれ、本当に大丈夫なんだろうか。頷いてしまうには何だか妙に抵抗があるんだが。うますぎる話だからか?


「ちなみに」

「おゥ?」

「金鬼側のメリットは?」

「常に居場所が分かる。あァ、ちなみに相互だからな? ンで能力値の反映。こッちは流石にオレの方が少ないが、まァ魔力だけ見ても十分旨い。あとは、契約そのものがメリットだなァ」

「……どゆこと?」


 最後がちょっと分からなかったので聞き返す。

 するとこの金色、無駄に色気満点の笑顔でこちらを覗き込み、


「お前の気配を常に感じられるだけで十分オレは嬉しいンだよ」


 明らかに口説き文句を投下してくれた。これで美形でなければストーカーな変態なのだが、残念、ファッションモデルと勝負して余裕で勝てるポテンシャルなので様になる。

 …………ちくしょう、赤くなるな顔!


「さァて、納得もしてくれたところで契約といこォか」

「いきなり!?」


 何も方法とか聞いてないんだけど!?

 と、叫んで抵抗してみるが、相手は流石化け物様。余裕で動きを制され、正面から抱きあう形に姿勢を変えられた。電車の座席は狭いので、自然と密着する形になる。

 さらっと膝の上に乗せられてしかも右手が腰に回っている。左腕が背中を押さえてそのまま首を支えるように拘束してるから抵抗が全くできず……なんかこっちの右手がすべすべする縄みたいなので拘束されて金鬼の背中に!?


「あ、尻尾かこれ!」

「気づくのが遅せェよ。ま、契約の方法としちゃァ在り来たりでな。お互いの『瑞』に同時に触れたうえで、魔力を流して、真名を預ける。これで相手の魔力流が固定されて契約完了ッて訳だ」

「真名……って、ちょ、私それ、無理……っ!」


 完全に捕えられた状態だが、慌てて抗弁する。こちらの世界に拉致された初めの時点で、確か、『真名が封印されました』というログが流れていた。封印されている物を預けるとか、それは普通に無理だろう。


「ン? 契約自体は出来るってお墨付きを2か所からもらッてる、たぶん大丈夫だろ」

「いやいやいやいや!!」

「それに正直一方通行の契約でも構わねェから、オレの真名をお前に預けられれば目的達成だしなァ」

「それだいぶ危険な事だよね!? 私に万が一があったら共倒れ!!」

「ンなもんねェよ。オレが守るからな」


 半分パニックになるが、更に口説き文句を追加してくる余裕の金鬼。

 全力で抵抗しているのだが、もとより足は動かず、右手は金鬼の尻尾で拘束済み。左手は背中と一緒に右手で捕まえられ、体は両手でがっちり抱きしめられていて隙間も無し。

 ……あれこれ詰んだ!?


「……さすがにここまで抵抗されると凹むンだが」

「話聞く限りやり直し出来ない類の契約でしょが……っ!」

「つッてもなァ――」


 未だ抵抗を続ける私に何を思ったのか、金鬼は痛い程の拘束をほんの僅か緩める。体の動きが分かるほどにしっかり密着しているので、金鬼が顔を私の右耳に寄せたのもばっちり理解できて、


「――どォせ、お前が死んだらオレが生きていける訳ねェし」


 そんなセリフを囁かれれば、動きを止めてしまってもしょうがないと思う。

 でもって、金鬼がそんな絶好の瞬間を逃す訳がなく。


 しまった、と。

 ヤバい、と。

 言いようのない悪寒、と。


 パニックになった頭の中にそれらが浮かんだ。

 次の瞬間には。




 ――暗転。







死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:2

マスターレベル:1

挑戦者:25881人

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る