第31話 阻害×封印=瀕死
『ダンジョンに6人の冒険者が侵入しました』
金鬼到着より……えーと、腕時計で1時間か。驚いたことに、金鬼はまだ健在だった。本気で魔法を乱射しているし、こちらの魔力の消費に応じて足場はどんどん消えて行っているのだが、それでもまだ粘っている。
とは言え粘っているという表現通り、その様子はだいぶ苦しそうで、んでもって最初の位置から一歩も近づけていない。そして、身を守る魔石の蕾とそこに宿る結界殻は無傷だ。
そろそろクラウドの方も決着がついてもいい……筈だが、一向に連絡が入らない所を見ると、まだ戦闘中のようだ。そろそろ適当に撒くように言ってこっちの階層に
「ッかし、なンつー厚さの守りだよ……ッ!? オレでもってこれとか、ッたく、余計な事してくれやがッてセイントブラッドのバカ野郎共がァッ!!」
ここまであからさまに違えば分かりもするか。まぁセイントブラッドを叩きかえしてから再挑戦してくるまでの間、誰も挑んでこなかったことを考えると物理的に封鎖されていてもおかしくないし。
それに、敗北して帰っていたんだったらそれは誰でも知る所になるだろう。そして1年が来ないのにもう一度挑戦しているのもまたしかり。となれば、私の超強化の原因なんて、ダンジョンのシステムをある程度推察できる人物なら誰だって思いつく事だ。
そしてそれ以上に、金鬼なら。
「――分かってたんじゃないの? セイントブラッドが私の顔を望んだ時点で、何を引き替えにしてでも握り潰さなければならない不都合があるって事」
「…………ッ!!」
これだけの殻を纏い、これだけの分厚い弾幕を張り、全力で拒絶しておいてまさか私の方から魔法で声を届けて話しかけるとは思っていなかったのか、目を見開いて一瞬動きが鈍る金鬼。
当然ながら、狙って作らせた隙を逃がすような真似はしない。右手の杖をタクトのように振り、金鬼の現在いる足場、そこにゆっくり時間をかけて仕込んでいた罠を起動
しようと、した。
『Error!
ダンジョンマスターの能力値が成長上限をオーバーしています
成長上限まで能力値が制限されます
能力値の減少に応じスキルがいくつか封印されます
能力値及びスキルの解放の為には経験値を必要量投入してレベルを上げてください』
いきなり目の前に現れた赤い画面。同時に襲い掛かる全身を鎖で絡め捕られるような不快な重量感と、内側にあった物を無理矢理引き剥がされるような強烈な痛み。
文字はかろうじてしか読み取れなかったが、何やらいつの間にかダンジョンのルールを破っていたらしい事は分かった。僅かに残った感覚で、結界殻が1つ残らず消滅したのを認識する。
となれば、支える物の無い魔石の蕾は当然ながら落下する訳で。
身を守るシェルターから脱出も救出も不可能な棺桶へと変わった蕾の中、体の重みと痛みで、私の意識は暗転した。
「――約しなきゃァいけねェんだよ……」
「お前には前科があるだろーが。主がどんだけ警戒しまくってたと思うんだ」
「るッせ。つゥか、ノったら止まらねェのは親父譲りなんだがなァ」
「制御位自分でできるようになれよ……もう子供でもないんだし」
何か、少し離れた所で会話が聞こえる。
体の感覚は相変わらず遠い。というか、自分の姿勢すら分からないのはどういう事だろう。そもそも前後の記憶があいまいになってるな……何がどうなってこうなったっけ?
「しッかし、どォなってんだァ? 直前までは調子よく魔法乱射してきたッてのに、突然倒れンだもんなァ」
「俺に聞くなよ。お知らせ見せてもらおうにも肝心の主が倒れたまま意識不明だし」
「はァ? 4の契約なら出来ンじゃねェの?」
「出来たら苦労しないっつの。そもそもダンジョンコアの在りかすら教えてもらってないぞ」
確か――金鬼が、クラウドを突破してこっちまで来たんだったっけ。で、仕掛けは満載、という事で迎え撃って…………。
……その、トドメ、って時に、何か、赤い画面が出て……? あれ? あの画面、結局何が書いてあったんだっけ?
「状態からして、何らかの強制制約を食らってるのは確かなんだろうけど……」
「封印系と剥奪系の両方食らってるっぽいよなァこりゃ。が、一応仮にも精霊神の加護持ちなんだろォ? そっちはどォなんだ」
「元々気紛れなうえ、来たところで寝てたら起こす訳には行かないだろ」
「つまり当てになンねェ、と。……いや、マジでどォするよ?」
というか、よくよく聞けば、声の聞こえ方も何かおかしい気がする。耳で聞いているというより、念話でもしてるみたいだ。にしてはうまく聞き取れないけど。
体の感覚どころか目を開ける事も出来ないと、全く何が何やら。せめて、あの赤い画面だけでも確認できればいいんだけど……。うーん、もう少し思考操作の練習しとくんだったかなー。
「仕掛けが仕掛けだから、お前以外はまず突破できないとしても、ずっとこのままって訳には行かないしな……」
「ッたり前だろォが。ンな警戒されンでも、むしろオレの全部を捧げてやるつもりしてるっつゥの」
「レベル差を考えろこのバカ息子。到底受け切れる訳ないだろうが」
「そンぐらい加減出来る程度には自分の力ァ把握してンだよ」
あーもどかしい……。おーい、クラウドー。クラウドー? 聞こえてたら応答お願いー。
…………ダメっぽいか。つか、今のちょっと頑張ってみたのでもしんどいな……。
「ん?」
「どした親父、突然」
「いや……今なんか、細いけど念話がつながったような……?」
「何ィ? ッて事は、意識だけは戻ってる可能性があるッて事かァ?」
「分からん。……『主? 気づいた? 大丈夫か?』」
……あ、やっとはっきり聞こえるようになった。
何とか聞こえてるよー。喋んのだけでもなんかやたらしんどいけど……。ていうか、私、どうなってんの? 体の感覚ないし、声は聞こえてたけど、妙に聞こえづらいし。
「『起きたか!? いやー良かった、ピクリともしないからどうしたのかと……って、体の感覚が、無い……? え、主、マジで言ってる?』」
今冗談言う余裕があるように見える? まぁ、自分がどうなってんのか分かんないんだけど。
「『あーっと、だな。主、余裕なさそうだから手短に纏めるぞ?』」
よろしく。
「『まず、主は金鬼と交戦してた。んでもって、突然倒れた。金鬼は侵入っていうより主と契約したくて突入して来てたから、主を魔石の蕾ごと引っ張り上げて助けた。んで、今は俺の配下として俺と仮契約してもう抵抗できなくなってる。今現在は主の部屋で、主は寝てる。おーけー?』」
えーと……。
…………えっちょ、金鬼居るの!? 隔離しとこうよそこは!!
「隔離してくれだってさ。ほら、言った通りだろ」
「…………るッせ……」
「『でー、俺が見る限り、主は何らかの制約食らってるっぽい。主、何か心当りは?』」
制約? うーん…………あー、あれかな? 何か、金鬼にトドメ刺そうと思った時、赤い画面が突然出てきたんだよ。文章ほとんど見れなかったけど、ダンジョンのルールをいつの間にか破ってたっぽい……。
「『え、マジで。俺そんなの知らない』」
だろうね。確認する前に意識落ちたし……。
…………ごめんクラウド、そろそろ本気でしんどくなってきた。
「『ん、分かった。とりあえず主、お知らせ画面だけ見れるようにしてもらえる? 見るだけでいいから。後、ダンジョンの管理画面を、罠補充に限ってでいいから俺に使わせて』」
……今、私、ペンダント触ってる?
「『ペンダント?』」
首から下がってる黒いの……。鎖が太いから分かると思うんだけど。
「えーと……『……右手で握り締めてるのがそれっぽいんだけど、黒いかどうかは分からない』」
触ってるんだったら、いいや。ありがと。なんとか、やっとく。
「『うん……。とりあえず、俺は金鬼を引きずって部屋から出とくな。ゆっくり休んで、主』」
うん……。しばらく、ダンジョン任せた……。
霞んできた意識を集中して、ダンジョン管理画面を思い出す。触ってるんだったら思考操作も出来る筈だ。
むー、と集中すること数秒、音も無く画面が暗い中に展開した。集中を解かないように気を付けながら、『配下一覧』のボタンを押しこむイメージ。
……金鬼の名前が、カッコ書きで付け足されてる……。クラウドから派生する形だから、私からすれば2段目になるのか。クラウドがクッションになってくれている、という事だろう。
とりあえず、クラウドの名前を押し込むイメージ。そこからポップアップしたメニューから、『権限変更』を押し込むイメージ。お知らせの閲覧許可と、ダンジョン管理画面の補充許可、と……。
そこまでやって、流石に集中力が切れた。途端、全ての画面が閉じた。確認画面でOKを押して、変更しました、との表示は確認したから、たぶん大丈夫だろう。
(……に、しても……しんどい……)
そこまで何とか終わらせて、私は再び、意識を手離した。
「ペンダント、な」
「どォ考えても、そンな可愛らしいもンには見えなかったが……本気で言ってンのかよ?」
「本気だとは思うぞ。あそこまで余裕ない主は……セイントブラッドが来て、成長負荷で倒れた時以来だな」
「成長負荷、なァ。低レベルのまま返り討ちにするッてのがどンだけ恐ろしい事か分かってねェだろありゃァ」
「しかも、レベルをあげない理由が『瑞』が何処にあるか分からないからだしな……」
「………………オイ待て親父、今なンつッた? 『瑞』の場所が分からねェだと……!?」
「嘘ついてないからな言っとくが。聞いた時は思わず固まりそうになるの我慢するの、どれだけ大変だったか……」
「マジか……。このままだと、使徒どころか神自身が挑んでも返り討ちになるぐらいになンぞ」
「流石にそうなったら止めるさ……」
「微妙に自信がねェ言い方だなァ……。まァオレもこッからどォなるかさッぱり読めねェが……」
「おっ、きたきた。さっそく『お知らせ画面』の閲覧っと」
「親父、見えねェ」
「えー……。分かったよ、『配下:同時閲覧許可』これで見れるだろ」
「おゥ、サンキュ。………………おい、ちょッと待て」
「……まさかの……、でもそれなら何でお前との戦闘、それもトドメの直前に発動したんだ?」
「…………それこそレベル差じゃねェの。オレが挑戦してきたのこれで4回目だし、こンだけレベル差とランク差があったらそれだけでとンでもねェボーナスになるだろォ?」
「それなら倒した後で出てくると思うぞ? トドメを刺す直前、邪魔するように発動した訳だから……」
「……これ以上強くなられたら困る“何か”が居る、ッて事かァ。メンドくせェ話だぜ……」
「有力候補としては、セイントブラッド現国王の後ろにいる奴か、第一王子と第一王女の後ろにいる奴辺りだな」
「……どォだろォなァ。どれもこれも、空間には程遠い奴らだっただろォ? 精霊・生命・冥府・商売・鍛冶は除外するとしたッて、もっと面倒なのが3つ残ッてんぞ」
「あー……そっちの可能性もあったな、そういえば。立地を忘れるところだった、って、ちょっと待てよ? 立地と言えば、一番問題なのが一度も問題になってないぞ?」
「一番問題なのが一度も…………あァ、アレなァ。そういやァおかしいっちゃおかしいかァ。動きが幾らなんでも無さ過ぎるわなァ」
「……とりあえずお前、裏口から情報収集してくるか? いや、むしろして来い。ダンジョン管理は俺がやるから」
「親父……面倒だからッて押し付けてんじゃねェよ。普通に考えて親父のが適任だろォが。影忍クラスの相手程度なら余裕で誤魔化せる阻害魔法の腕、おちるどころか契約で上がッてんだろォ?」
「どっちかっていうとお前と主を残していくのが不安なんだよ。主はあの調子だと身動き一つとれないみたいだし、配下だって言ってもお前はそういうの抜けるの得意だし」
「…………………………」
「…………………………」
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:2
マスターレベル:1
挑戦者:25668人
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