第30話 研究×本気=OverKill

『付近に空間神の神殿が開殿しました

 『殴りの切れ味』が鍛冶神の神殿に建て替わりました

 【エグゼスタティオ】に冥府神の神殿の建設が始まりました

 【エグゼスタティオ】に第一防壁が建設されました

 『謎の卵』は成長しています

 【エグゼスタティオ】に商売神の神殿の建設が始まりました

 【エグゼスタティオ】に生命神の神殿の建設が始まりました

 冒険者たちは侵入を諦めました

 冒険者たちは侵入を諦めました

 ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに1人の研究者が侵入しました

 侵入者の撃退に成功しました▽』




『じゃっ、ま……すンじゃねェよ親父ィ!!』

『はっはっはー、無理矢理尽くしで求婚とか、玉砕ザマミロー』

『ンだとォ!? 見てきたように言ってンじゃねェ!!』

『え? マジで玉砕? ぶっはっ、あー流石息子だわー期待裏切らないわー』

『テッメッ……、覚えてやがれお袋に黄泉返りしてんの報告すッからな!』

『ちょお前、それは卑怯じゃないか!? 確実に飛んでくるだろうが!』

『るッせェ!! だったら邪魔すンなァああああ!!』

『だが――臆病な娘さんにすら力技しか使えないバカ息子は通さん!!』


 ………………えーと。

 【ダンジョンの書】での過去ログ・映像表示機能は、スロー再生や編集なんかが可能だったので、クラウドと金鬼の一騎打ち、目で追う事も出来なかったあの場面を再生してみた。

 何故かどれだけ引き延ばしても音が間延びして低くなったりしない超々高性能なスロー再生機能だったのだけど、そこで再生された戦いの最中の会話と言うのが、これだ。


「……クラウドのノリ、どこで見たのかと思ったら、金鬼か……」


 何ともまぁ……、なるほど、確かに思い返してみれば、顔だちのみで見れば似ている気がする。恐らくは異種族婚で、どちらか一方の種族として生まれてくる世界のシステムなんだろう。

 しかし、まぁ、なんと、いうか……。

 うん、世界は広いが世間は狭いね。


「つか、黄泉がえり、ね。それでクラウドが急に契約の更新を提案してきたんだな……。感謝状についてたごっつい名前がクラウドの事なんだろうけど、一瞬誰かと本気で思ったよ……」


 確か、双牙灰狼、だったか。まぁ納得ではあるが、納得ではあるが恥ずかしくないのか。いやまぁ、金鬼とか灰兎とか、そういう通り名がまかり通ってるんだからわかりやすい方がいいんだろうけども。

 だがこの分で行くと、私にも恥ずかしい通り名が付きそうな気がしてしょうがない……。ひっそり引きこもって生きていければそれでいいんだけど……。帰還の為の研究も出来ればなお良し。


「…………そういえば、大量の空きスロットどうしよう」


 大量侵入によるスキルスロット追加は18個。温存していた2個の枠と合わせて20個。これはでかい。が……今は手に入った限定スキルを早く上げてしまいたい。特に『同時展開』を。

 まぁ、目標が無い事は無いのだが……。精霊神様の加護を受けた時に大量についてきたアビリティ、あれを生かすために、属性ごとの適性を一通り揃えてみたいという事だ。それにしたって限定スキルの中に4大の残りが全て入っているから、雷・音・氷・圧を除く小属性とやらの方だけなのだけど。

 称号の【8小属性マスタリー】とアビリティから考えるに、同じく限定スキルである『命属性適正』は別の区分のようだ。何が違うのかは分からないが、多分生命神様の髪と服の色からするに、光=白=命、ってことなんじゃないだろうか。もしかしたらニアリーイコールぐらいかもしれないが。


「ただ……そろそろ取ってもいいと思うんだよね、研究用の解析スキルと空間系スキル」


 最初来たときは生存が最優先だが、最悪の想定相手だった国、及び現在最大脅威である金鬼、その両方に対策が立てられた今、ひとまずは安全が確立されたと言ってもいいんじゃないだろうか。

 となれば、帰還のための研究をする余裕も出来たと判断してもいいだろう。という気がする。1年も頑張ってきたんだ、そろそろ探し物に移ってもいい筈だ。


「けどそれをするなら、ダンジョンのレベルをもう1つ上げてからにしようか……」


 国の兵士さん達が落として行ったのは何も規格装備だけではない。むしろ大量の職業ポイントと経験値こそがおいしいのですよ。そして思った以上の経験値を落として行ってくれた。これだけあればレベルを上げたっていいだろう。

 だって明らかにLv1→2の時より大量の経験値が手元にある。ボーナスに期待してもいい筈だ。それに、階層が増えればそれだけ小細工もできるし。沼エリアでやってみたい構想が浮かんでてうずうずしているのもある。

 が。ここで調子に乗ると、空きスロットを趣味方向で埋めてしまう可能性もある。そう考えると軍×5で入った空きスロットが埋まるのも早そうだ。大いに悩みどころではある。


「……けど、まぁ……加護&アビリティのついてる、小属性を取るのは問題ない、かな……」


 そう、後々まで応用が効きそうな、属性のスキルを取るのは問題ないだろう。もしかしたら属性を揃えたら何か起こるかもしれない。後は主に限定スキルの方を使って使って使いまくるのみ。

 そして限定スキルと言えば限定職業が気になる。職人系ばかりだが生産職は最強だと思うので良し。が、こうなると器用強化とか持ってた方がいいんだろうかとか考えてしまう。


「……そろそろ欲の皮が突っ張ってきたから、成長の方向を真剣に考えるか」


 とはいえ、純魔法特化なのか、魔法特化副生産なのか、半魔法半生産なのかしか選択肢は無いが。金鬼襲来で思い知ったが、ダンジョンマスターには戦闘力が要求されるんだよ……。

 今の所、取得スキルはやや魔法に偏っている。職業は生産寄り。となると、純魔法特化は止めておこう。一応景品は大量に予備を作ったが、逆に言えば無くなったとき作れるのが私しかいないのだ。

 が……半生産、というのもやや問題がある気がする。というのも、ゲームでもそうだが1つの物に特化したステータスと器用貧乏なステータスでは、圧倒的に特化型に軍配が上がる場合が多い。まぁ、究極に言えば相性なのだが。


「数ある手札が売り、とはいえ……これだけ属性があって、しかも同時展開と組み合わせまでできるんだから、普通に考えたら極悪だよね」


 まぁ対魔力耐性に特化していたら苦戦するかもしれないが、それにしたって、直接攻撃せず、冷気や延焼なんかで攻めればいい話だ。最終的にゴリ押しで突き抜けてしまうほどに特化してしまえば済む話でもあるし。


「となると、魔法特化副生産、か」


 そうなれば、生産系の職業が充実している以上スキルは魔法に特化するべきだ。小属性4種に、魔力関係の物を探して……効率upと威力upは別なのか。まぁ当然ながら効率で。

 他に目ぼしそうなスキルはっと……魔法系の汎用性の高そうなやつ……、いや、魔法系でなくても、魔法に転用できそうだったらいい訳だから、そうなるとこの辺もなかなか……。




 で。

 結構な数のスロットを消費してスキルを取った後、解析系スキルの中で浅く広い範囲と、狭く深い範囲を調べるスキルを1つずつ取り、さて本命は、と思って探してみたら、


「……肝心の、空間系が、無い、とか…………」


 がっくり、と盛大に脱力したのち、スキル上げを兼ねて崖エリアの最果てで魔法を乱射してしまってもしょうがない結果だった。流石に疲れるから遠距離&大魔法専用のロッド(長杖)を造りだしたのもしょうがない。

 クラウド、何事かと思って飛んできてくれてありがとう。でも何で見ちゃいけない物を見たような顔をした後、即座に回れ右したのかな?


「……いや、うん。落ち着け、自分」


 盛大に地面をえぐって、流石に休憩しながら頭を冷やす。目の前はクレーターだらけになっているがとりあえず放置だ。

 ダンジョン内ワープなんて物がある上、アイテムボックスまで完備されているから、つい空間系の魔法も普通にある物だと思っていたが……、よくよく考えれば、それらは全て、神が割合直接関係している。

 まぁ、ダンジョン内ワープに関してはどの神か分からないにしても、それは恐らく、世界に生かされている身分では到底届かないランクだという事でほぼ間違いない筈だ。

 よって、存在したとしても禁術指定されている可能性が高い。そんなものを引きこもりが手に入れるのはそれこそ無理があるだろう。そもそも、存在しない可能性の方が遥かに高い。


「と、なると……」


 世界の法則を読み解くか……誘拐犯を締め上げて無理やり方法を吐かせるしかぐらいしか方法は無い。が、誘拐犯はいまだその正体の鱗片すら掴めていないし、世界の法則を読み解くとなると、数十年では足りない可能性が高い。

 それに、もし万が一何かの拍子に方法が分かったとして、神が直接振るう力だ。それを自力で再現するとなると……まぁ、まず人間を止める必要はあるだろう。


「つまりは手詰まりか……!!」


 思わず頭を抱えた。

 人間を止めるつもりはない――というのは、既に自分でバカバカしくなっている。とうに人間なんて可愛い物じゃなくなっているのは、目の前の光景を見れば一目瞭然だ。こんな1人で世界と戦争できる人間が居てたまるか。

 だが、元の世界に心残りがあるのは確か。何としても絶対に戻る。この命がある限り、どんな不可能だって覆すと決めた。

 諦めない。貫き通す。絶対、必ず。


「…………ひとまずは、誘拐犯の正体を掴むのが先、だな」


 決意を新たにした所で、とりあえずは取得したスキルを試す作業に戻る事にして、地面に両手を押し当てた。


「『変性生成』」

【スキル『変性生成』土→魔石】

【スキル『変性生成』砂→ダマスカス鋼】

【スキル『変性生成』魔石→魔石(特大)】


 足元を起点に、周囲が魔石の地面に変わる。同時にその外側が崖並みの勢いで陥没して、その亀裂に金属の塊がゴロゴロと転がった。我ながら随分と範囲が広くなったものだ。

 作ったのは崖から生えるテーブルマウンテンの、魔石版。とはいえ足元のこれは一塊では無く、水晶柱がいくつもまとめて生えたような形をしている。その真ん中に1人分の平らな部分と、正面に向かう細い道のような隙間がある感じだ。

 手に持った即興・適当の謎マテリアル製ロッドを、かん、と改めて足元の魔石に触れさせる。そのまま正面の隙間から見える大地に照準を合わせて、スキルを発動。


【スキル『魔力転換』魔石抽出】

【スキル『魔力操作』陣描転写】

【スキル『同時展開』同系展開】

【スキル『火属性適正』火球×5】

【スキル『火属性適正』火球×5】

【スキル『火属性適正』火球×5】

【スキル『火属性適正』火球×5】


 顔の高さ、ロッドの頂点から正面に向かって、魔法陣が4重に展開する。そこから20の火球がドドドドドンッ! と連続で撃ちだされる。飛んで行った火の玉は崖のやや下あたりに着弾して、2・3人なら入れそうな穴を穿った。

 再度同じスキルを発動。今度はそのやや下を狙い、狙い通りに着弾。そのままやや右、左、と狙いをずらして大きな穴を開け、属性を土に変えて同じく発動。


「しかし、水球と火球はともかく、何で石礫と風礫なんだ……? イメージ優先にしたって、何だ、風礫って」


 独り言を挟みつつ開けた穴が石礫でみっしり埋まったら、今度は属性を風に切り替えて再び穴を開ける。んで土属性で埋めて、今度は火属性で穴を開ける。この繰り返しだ。

 まぁ一応“同時に”“たくさん”使用する効果はあるようで、限定スキルのレベルは順調に上がりつつある。職業の場合は習得に必要なのは一定の熟練度という事だったが、スキルとなるとやはり必要なのは一定レベルなんだろうか。

 とかなんとか、魔法を乱射しながら考えを流していると、突然クラウドからの通信が入った。


『主っ! 今どこにいる!?』

「どしたのクラウド。崖エリアの奥の奥だけど?」

『悪い!! 金鬼に進まれた!!』


 ……はい?


『あんにゃろ、『義兄弟』と『素早さ宣言』と一緒に突入してきたんだ! 今俺5人がかりでかかられててそっち行けない!!』

「……確か金鬼って空飛べたよね。となると、クリアする気が無ければストレートにここまで来れるのか」

『っていう――事!! あぁもう、主のダンジョンで鍛えられてるだけあってめっちゃくちゃやり辛い! 時間稼ぎなのが見え見えなのはわかるけど振り払えない!!』


 なるほど、ソロである事を曲げてまで本気で来るか。どっちのパーティもこのダンジョンの初期からの常連さんだから、生存に関してはとんでもなく腕をあげている筈だ。スピードタイプ対スピードタイプでは時間がかかっても仕方がないだろう。

 そして、金鬼が全力で来る以上、さほど余裕はないとみていい。崖エリアは造り込んでいるだけあってだいぶ広くはなっているが、単純距離で来るならば。


「――半時間もかからないか。了解、こっちで何とかしておく」

『えっ、主!? 仕掛けで仕留めるんじゃ!?』

「編集が間に合ってない。そもそも階層は既に使い切ってる、ダンジョンのレベルをあげないと無理だよ」

『うぇえええ!?』


 クラウドがパニックな声をあげているが、まぁ前の結果からすれば無謀と言われてもしょうがないだろう。極魔法職と極前衛職がタイマンなんてすれば結果は火を見るより明らか。こちらの手札が割れている分この間より勝負は早いかも知れない。

 だが。


「大丈夫だよ。今度こそ、一片残さず消し飛ばすから」

『え、あれ? あ、あるじ? なんかすごく、声が、怖いよ?』

「はは…………キレた状態でリベンジに燃えてますが何か?」


 あそこまで好き勝手やられたんだ…………多少はぶち切れても許される筈。そんな思いで右手のロッドを握る手に力を籠め、スキル発動。


【スキル『魔力転換』魔石抽出】

【スキル『魔力転換』魔力転化】

【スキル『魔力転換』魔力封入】


 足元の巨大な魔石が淡く光ったのち、綺麗に消滅した。即座にダンジョン内ワープを発動し、崖エリアのさらに奥へ。ざん! とロッドを地面に突き刺し、左手に護剣を召喚、スキルを発動する。


【スキル『魔力転換』魔石抽出】

【スキル『同時展開』異系展開】

【スキル『結界術』威力拡大結界:対象 ダンジョンマスター】

【スキル『結界術』範囲拡大結界:対象 ダンジョンマスター】

【スキル『雷属性適正』雷属性付与Lv3:対象 同時展開スキル】

【スキル『爆属性適正』爆属性付与Lv1:対象 同時展開スキル】


 『同時展開』以下を認識できる限り連続で掛け、前に纏った結界殻と同じくらいに成長した時点で、再度スキル発動。


【スキル『同時展開』異系展開】

【スキル『土属性適正』土類自在操作】

【スキル『変性生成』土・砂→魔石・ダマスカス鋼】

【スキル『多種合成』異種融合】

【スキル『結界術』設計結界“刃鏡壁”:対象 周囲魔石】


 周囲一帯の土が隕石が落ちてもこうはならない程一気に消滅した。同時に私を中心に魔石とダマスカス鋼で出来た謎マテリアルの巨大すぎる塊が出現し、即座にそれは何十枚もの花びらを秘める蕾のような形へと変化する。

 花びらの一枚一枚には“刃鏡壁”と名付けた反射特化の結界が展開され、バチバチと走る紫電とチリチリとした熱気がまとわりつく。その中心で、私は護剣を逆手に持ち、顔を隠すように構えた。


【スキル『魔力転換』魔力転化】

【スキル『同時展開』同系展開】

【スキル『結界術』設計結界“狭籠殻”】

【スキル『結界術』設計結界“代晶幕”】

【スキル『結界術』威力拡大結界:対象 起動中全術式】

【スキル『結界術』多重展開:対象 起動中全術式】


 魔石の蕾に纏われる全ての殻と紫電に熱気がその数と密度を倍増させる。パキン、と軽い音がして、辛うじて蕾を崖の底から支えていた細い茎が消滅したことを伝えた。同時に、右手のロッドも淡く光って消滅する。

 元々やっつけで作った物だったのでこだわらず、右手にはワンドを召喚。より狙いを定めやすくするために細身にしたその先端には、魔石(超巨大)を10個ほど無理やり圧縮し、5×3㎝ほどの涙型に整えた物が鋭い方を先に向けてはめ込んであった。


「対策? あんなの相手にやって無い訳がないじゃないか。過防御だのオーバーキルだの苦情は受け付けない。戦争用だの相手が間違ってるだの言うなら自分の戦闘力を自覚しろ」


 あまりの重防御に、確かに魔力は削られ続ける。持久戦を挑まれればいつかは負けるかもしれない。

 ただしそれは、私が周囲の地形に干渉する暇を一瞬たりとも与えなかった場合の話だ。結界殻維持に護剣、攻撃魔法に杖、そして、魔力補給にはこの蕾そのものを使う。

 周りの地面を魔石化して『魔力転換』で魔力化して補給すれば、理論上は無限に魔法を使い続けられる。そのための布石は既にエリア中の未開拓部分に打ち込んであるから、直線で向かっている以上解除する事は出来ないだろう。

 当然ながら、戦闘が始まってからはそんな余計な事をする暇なんて与えてやるつもりは欠片も無い。不思議に透明な蕾を通し、金鬼が穴の手前で着地したのが見えた。その顔が盛大に引きつっているのを確認して、


「挑むがいいさ。そして絶望しろ。私の座右の銘は――因果応報だ」


 自分でも分かるほど、凶悪な笑みを浮かべた。



















死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:2

マスターレベル:1

挑戦者:25668人

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