第29話 最適解=無欲+少数

『ダンジョン固定より1年が経過しました

 称号【一人前主】を入手しました

 スキルスロットが追加されました:+3個

 階層ごとのフロア数制限が大幅に緩和されました:300+9

 階層ごとの転移陣への条件付加機能が解放されました

 職業【ダンジョンマスター】の職業ポイントを入手しました:5000

 職業【ダンジョンマスター】のステータス補正が完全に適応されました

 職業【ダンジョンマスター】の外出制限が限定解除されました:12時間

 職業【ダンジョンマスター】の以下の特殊能力が解放されました

 ・外出中フロア召喚

 ・外出中モンスター召喚

 ・モンスター鹵獲

 ・副職業成長制限解除

 ・スキル成長制限解除

 ・配下成長制限解除

 職業【ダンジョンマスター】のレベル上限が解除されました

 全ての組織に対する情報制限が解除されました

 ダンジョン入り口の隠蔽が解除されました

 ダンジョン入り口前への建物建設制限が解除されました

 これ以降ダンジョンが存在する限りこの日は突入人数制限が解除されます』




「…………外かー。行きたいけどなー。そんな暇ないだろーなー」


 電車のあの席に黒尽くめで座り、色々な意味でぐったりしたままお知らせに目を通す。

 主に成長負荷ではあるんだけど、他にもオークションで出した鉛ガチャの品に何と6桁Eの値段がついたり、あまりにも大量のアイテムを整理したり、罠の材料を作りまくったり、【ダンジョンの書】に5000P追加したのに『過去映像・ログ一覧』しか開かなかったりと、色々なダメージが追加されまくったのだ。

 おかげでこの10日ほどというもの、アイテム整理してるか倉庫作ってるか寝てるかの生活だった。ダンジョンの方は階層が階層なもんで、罠の回収すらやってない。時々罠の材料を大量に作って管理画面に補充しておくだけだ。


「しかし、どうするかな、あの大量の規格装備……正直いらん……」


 どうやらセイントブラッド国軍兵士さん達は、1週間で全装備をそろえ直したらしい。全く同じものがまた同じ数だけ手に入ったから間違いない。どう考えても短剣よりパンの方が安くつくだろうから、もう2種類多く食料持たせたら装備無くさなくて済んだのにと思わなくはないが……。

 連動して進攻してきたもう1つの国はシレックマレムといい、クラウド曰くここは武力で独立を果たしたばかりの新興国なんだそうだ。

 とはいえその中核をなしているのが、元の世界で言うところの外人部隊のような扱いに耐えきった軍人だというので、ぶっちゃけセイントブラッドの兵士さんよりはるかに厄介ではあった。


「まさか、フロアを移動できるとはねー……ガチャの中身が微妙に分かる程度に透ける仕様にしといたのが吉と出たけど」


 どんな誘い文句で釣られたのかは知らないが、まぁ新興国なら欲しいものは山ほどあるだろう。その筆頭たるものは金。大国から援助と引き換えに、と言われたのであれば、命の危険が無い以上乗らざるを得まい。

 だが、その分がっつこうとしたのが仇になった感じか。見事にガチャの中身に釣られ、フロアを必要以上に探索。調べなければ発動しない罠まで見事に軒並み起動させ、セイントブラッドの兵士さんをも結構巻き込んで沈んでった。


「100人以上同時にそのフロアに入って、んで次に進めたらボーナスあげよう、そうしよう。機能が付いたし」


 人数が増えれば増える程ボーナスを大きくしてー、で、それ以下の人数の場合は表示だけすれば釣れてくれるかなー。なんて呟きながらダンジョンを編集。

 んー、人数を100人から段階的に、フロア同時滞在時間を……30分から。時間が長い程ボーナスも良くなる、と。ふはは、悩め悩め、そして沈めー。

 なお、現在セイントブラッド・シレックマレム連合軍は現在も侵入中。お知らせで流れたとおり人数制限が外されている影響か、特に何か変わった事は起きていない。


「ダンジョンにもアイテムボックス的な物はないもんか……、あ、でも自動整頓機能とか付いてないとダメか……。出来ればジャンル分けにタグ付け機能も欲しいし……」


 というか、電車にファンタジーな物を積んでいても違和感しかない。特に武器類、お前らだ。


「電車から放り出すまでは私がやるとしても……そこから先、勝手にやってくれないもん、か……?」


 そこまでぐだぐだと独り言をこぼして考えるともなく考えていると、ふと一つの案が浮かんだ。窓枠についた肘へ頭を預け、本格的に考える。

 ずらずら時々脱線しつつ、頭の中の試算で思いつきを煮詰めていく。最終的に出来上がった物は、


「……まぁ、やってやれない事は無いか……?」


 多数の不特定要素を踏んではいたが、まぁ迷路を作るのは無理だが実際行動する事はあまりない、今の微妙な暇を埋めるのには丁度いいくらいの暇つぶしには、なりそうだった。




 とは言いつつ、一歩たりともその場を動かずペンダントを操作。ダンジョン管理画面と、監視画面とは違う俯瞰画面を同時に見れるよう横に並べ、機能を使おうと思ったら出てきたマイクへ声を吹き込む。


「えー、こちらダンジョンマスターです。道具は全員行きわたったねー。番号分けした腕章もつけてるねー? ……はいよーし。確認オッケー。それでは事前に言った通りに、作業開始ー」


 画面の向こうで、腕章を付けたゴブリン(弱)の20人程の集団がわらわら動き出した。手に持ったスコップで壁を掘り、光り続ける転移陣の中へ放り込んでいく。その動きは、思っていた物よりやや早い。

 私の思い付きとは、自動で出来なければ手動でやればいいじゃない、だ。召喚したモンスターは基本私に逆らわないようなので、一応召喚できる中では一番人型に近いゴブリン達に実働してもらう事にした。

 なんで(弱)かというと、何となく、そっちの方が成長余白が大きい気がするからだ。出来れば道具を扱わせることでシーフ系に育たないかなと思っているんだが、見ている分だけで既に作業効率が違うので、そこはやはり素質の問題だろう。


「ちょうど、ご飯も入ったしねぇ……」


 どうやら一応、何も食べず飲まず寝ずとも動けるらしいが、報酬として睡眠時間と食事を考えている。まぁ、あの兵士たちに支給されていた大量の食糧をどうやって消費するか悩んだのもあったりはするが。

 そんな訳で、将来にも備えた訓練を兼ねる意味で、いきなり魔法抜きの土木工事と相成ったのだ。ちなみに土はどこへ消えているかと言うと、転移陣の先……つまり、電車の外だ。

 が、天井に転移陣を設置した上、ほぼ別部屋じゃないの? って程距離を取って壁を作ったうえ、天井を遥か上に、床を遥か底になるよう『変性生成』で掘っておいたので、まぁ早々埋まらないだろう。


「まぁ後は適性を見つつ、魔法使い枠と生産職枠も作っておかないとねー。どーしても戦わないと落ち着かない奴が居たら問題なんだけど」


 その場合はどうすっかなー、と画面を見つつマイク外で独り言。結構あっという間に広がっていくスペースを、よしよしと見守りつつぐったり体の力を抜く。


『あるじー』

「何ー?」


 そんな中、クラウドから通信が入った。向こうは向こうでやる気が無い。


『ひまー。こいつら何回も同じとこで引っかかってるからつまんない』

「文句言わなーい。しゃあないっしょ、兵士が頭固いのはある意味定石だし」

『でもさー、だからってさー。なーあるじー、俺外出ていーい?』

「出方も戻り方も私知らないよー」

『えーマジでー。出るのは確か外につながる、何、クリアした時に使う脱出陣に乗るかー、外出た奴がマークした場所に繋がる裏口魔法陣使うかだよー』


 裏口魔法陣か。成程、確かに入り口前に主っぽいのが出現したらいきなりフルボッコにもされるか。そして外に出る手段はあったらしい。なるほど、契約している相手が居なくとも、モンスターを外へ送り出すにはその手があったのか。


「えー、クラウド強いのは知ってるけど、大丈夫?」

『だいじょぶだいじょぶー。俺認識阻害魔法何気に得意だよー。裏口設置してくるからさー、お小遣いとマークアイテムちょうだい』

「マークアイテムねー。どんなんがいい?」

『コインみたいな平たい丸希望ー。あ、術式込めるのも隠蔽するのも俺やるからー』

「おけ、透明度の高い謎マテリアルで作る。5個ぐらいあったらいいー?」

『十分ー』


 現在進行形で土が降り注ぐ場所へ移動し、杖を下から上へ、くい、と持ち上げる。


【スキル『複属性適正(風・土)』土自在操作】


 ざぁっ、と土が意思を持っているかのように伸びあがり、頭上を越えて背後へ降り積もった。ポンプで吸い上げているかのような光景は、積もり直した土がかなり高い山を築いたところでやっと止まる。

 思ったより大量の土があった事に軽く驚きつつ、その土の山に両手を押し当てた。


【スキル『変性生成』土→魔石】


 ざらざらと落ちた中から透明な物を選び取り、インゴット化して山にしてある金属の方へ移動。安定度が最も高そうな金色を選び、再びスキル発動。


【スキル『多種合成』異種合成】

【スキル『変性生成』変形形成】


 粘土のような塊をしばらくこねて均一化し、ぶちっと手ごろな大きさにちぎって丸く平たい形に加工。それを作れるだけ作ると、数は7個となっていた。思ったより多い。

 が、まぁいいかと適当に流してダンジョン管理画面を開く。さてどこに設置したものかと思って、とりあえず最奥の部屋、その横に小部屋を作って設置する事にした。後で隠し扉と隠し通路で蜘蛛の巣のごとく難解にすればいいや。


「クラウドー?」

『主、できたー?』

「できたー。最奥の部屋の横に小部屋作って、3階層の入口に小部屋への入口作ったからー」

『りょうかーい、移動するー』


 自分はダンジョン内ワープで小部屋へ直接移動して、コインと、画面から引き出して実体化したお金をざらざらと皮袋へ入れる。ほどなくクラウドは現れた。


「こんなもん?」

「流石主、相変わらずいい意味で期待の斜め上を突っ走るね」

「はいはい……。お土産は適当でいいよー」

「りょうっかーい」


 いってきまーす、と言葉を残してクラウドは光に包まれた。それを見送り、再びダンジョン内ワープで電車へ戻る。第4層の土木工事の画面を開くと、既にそれなりの広さの部屋が出来つつあった。

 天井が低めなのはやはりゴブリンの身長の都合だろう。脚立でも贈るべきか。サボってないのは非常にいいことだ。この調子で頑張っておくれ。


「まだ連合軍の方の侵入は終わらないし……一体どれだけの時間をかけるつもりなんだか……」


 それにしたって、何でまたうちのダンジョンをここまでの人員と資源を投入してまで狙うんだろうか。思い当たる節が無い事は無いのだが、それにしたって理由が不明すぎる。

 どうしたもんかね、と思いつつ、ぼーっとして時間を過ごす。気は乗らないが多少は面白いか、と判断して、一度生活空間の方へ移動する事にした。目当てはジオラマの部屋である。

 食材の中から適当にそのまま食べられそうな物を選んで移動。画面は開いたままジオラマの部屋へ行き。第2層を覗き込む。


「……相変わらず、同じフロアをぐるぐるしてるなぁ……思う壺だから別に構いやしないんだけど」


 ただ、学習能力は無いのかと突っ込まさせてほしい。地図ぐらい描こうぜ、兵士の皆さん。


 ここで説明しておくと、第2層は円形の大部屋とその周りをぐるぐる取り囲む迷路、これがワンセットとなり、パッチワークの模様のように同じ形のそれが前後左右に繋がっている形となっている。


 円形の大部屋の真ん中には噴水があり、鎖である程度の距離に固定されたゴブレットがいくつも周りにぶら下がっている。汲んで飲めるが、飲めるのは侵入1回につき1人1杯まで。

 その効果は色々で、具体的に言うとプラス効果は傷回復・疲労回復・おいしい水。マイナス効果はマズイ水・毒・混乱・幻覚・麻痺・疲労増加・強酸・強アルカリ。この中のどれかがランダムで引き当てられる。

 え、明らかにマイナスの方が多い? 当然でしょう。強運なら全回復する泉には違いないよ? 確率的にはおいしい水が一番当たりやすくしてあるし。ちなみにゴブレットの外には出せないので持ち帰り不可。

 ちなみに、ゴブレットの方も実はランダムだ。こちらは流石に種類が少なく、即効果・効果遅延・効果反転の3つ。

 マイナスがいくら多くても、効果反転のゴブレットさえ引き当てれば大丈夫。親切設計でしょう。例え回復系の時に限って効果反転のゴブレットの確率が高めだったとしても。


 そしていくつかのフロアの入口横に、ガチャが設置してある。錫と鉛は同じ階層の中でコインが入手できるが、鉄及び銅は先のフロアに行かないとコインは手に入らない。

 コインの材質だけでなく模様も微妙に変えてあるから、間違う事は無いだろう。ちなみに同じランクのガチャでも種類があって、今の所、花・魚・本・パン・剣の5種類だ。当然ながら同じ模様のコインでないとガチャは引けない。

 間違って投入しないように大きさを変えてあるし、ガチャの上に看板のようにコイン見本(特大)を乗せてあるから、まぁ間違いはしないだろう。なお、ガチャの中身はよーく見ればうっすら中に何が入っているか確認できる。


 で、この階層では、中央の大部屋フロアにとどまっている時間と人数に比例して、そのフロアと通路のワンセットに仕掛けられた罠が増加していくという大仕掛けが存在する。

 大人数で行けばいくほど一気に罠が大量に設置されていく寸法だ。一度引っかかった罠は自動的に回収されるので、壊れていたら修理するだけのお手軽管理である。

 慎重に進もうとすれば大部屋フロアに何度も戻らねばならず、やみくもに進んでも狭い道で罠は避けづらい。そもそも個人で危機を察知してとっとと通路に行ったところで、誰かが大部屋フロアに居ては意味が無いのだ。

 ま、通路に行ったところで徹底的に元の大部屋に戻るような道ばっかり作ってあるけど。正解の道の所には最初から罠が仕掛けてあるし、そもそもそこに行くまでにかなり時間がかかる。

 まぁ、対超大人数フロアというだけあって、少数精鋭で来られた場合はクリアされる確率が高かったりするわけだが――


「まぁ、クラウドがいつか言ったように、この階層を突破できる集団戦に慣れた人間が居たら見てみたい、だね」


 その少数精鋭を沈める為のボーナス設置だし、ガチャ設置だ。欲を出せば出すだけ己の首が締まっていく。当然ながら気づいた時にはもう遅い。


「相変わらず、クリアされる気はさらさらありませんっていうのだけは分かってもらえると思うけどね」


 すっかり癖になった独り言をこぼして、人形がわらわら動くジオラマを眺めるのだった。





死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:2

マスターレベル:1

挑戦者:――――(カウント中)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る