第25話 異変=備え-現実
『【エグゼスタティオ】に『無謀者の集い場』が建設されました
【エグゼスタティオ】に『絶望を語ろう』が建設されました
【エグゼスタティオ】に『夢蝶の泊まり花』が建設されました
【エグゼスタティオ】に『黒雪鳥の氷室』が建設されました
【エグゼスタティオ】に『銀鈴の鳴る小枝』が建設されました
【エグゼスタティオ】に『騒がしい一泊』が建設されました』
「なんか建設ラッシュ来てるなー……」
『軍が来るから、大慌てで建てたんじゃない? 特に真ん中3つの上等そうな名前、多分上級宿だし』
「貴族士官用だろうねー。ていうか、『絶望を語ろう』ってなんだ。酒場だとしても何故絶望限定」
『そりゃあ……主、自分のダンジョンがどんなんか思い出してみなよ』
「悪かったな絶望限定で。どうせ心折ダンジョンとか呼ばれてるんだから分かってたさ」
で、2日後。そんな表示がぽつ、ぽつと現れるだけのお知らせ画面と、刻々と時刻の部分を減らしていく『冒険者予報』を見つつ、私はまだ崖フロアを編集していた。
とりあえず森の土台こと、崖底からのテーブルは100個ぐらい作った。作ったけど、どうせすぐ埋まるんだろう。目標は500個だ。合わせて崖も編集している訳だけど……。
……実は、崖下に迷宮を制作しているので、むしろそっちに時間と手間を食っていたりする。いやぁ、凝りだすと止まらなくって!
『あれ、主。そろそろだけど、あの部屋居なくていいの?』
と、ダンジョン管理画面で迷宮の全体図を見ながらノリノリで迷路を作成していると、クラウドからそんな連絡が入った。『冒険者予報』を確認してみれば、
『冒険者予報
時刻:10分
人数:(カウント不可)
↓ 』
なるほど、確かにもう少しだ。
が。
「いや、大丈夫でしょ。ていうか、最初の階層を突破出来たら宝箱の1つも進呈してあげたいくらいだ」
『主が本格的に自信満々だ……。まぁ、俺が見た限りでもあれを抜けれる団体行動に慣れた奴がいたら見てみたいけど』
「だよね? それにダンジョン内ワープも出来るし。見つからない限り発動できるから、この階層に来た時点でワープすれば逃げれる逃げれる」
『さすが主、逃げと防衛手段の確保に関しては抜け目なし』
「褒め言葉をありがとう」
専守防衛、放っておいてくれれば無害なダンジョンです。なんでわざわざ潰そうとするのかね、攻撃してくる奴には容赦できない事ぐらい分かるだろう。
『うーん、でも主、別の理由で引きこもっておいた方がいいかも知れない……』
とか思っていると、再度クラウドから心配そうな声。て、別の理由?
「と、いうと?」
『うーん……ダンジョンのルールの1つなんだけどさ、特定のタイミング以外での7人以上の同時突入にはペナルティが課せられるんだよ』
一応作業の手を止め、ワープで電車のフロアまで戻って聞き返す。クラウドが何か考えながら話す内容に、やはり、と納得する事が1つ。
「あぁ、それで挑戦者の人たちは合計6人以下で来てたのか」
『で、その特定のタイミング、っていうのが、ダンジョンが出来て1年目の日と、その後1年ごとの同じ日でさ』
「今まで国は1年ジャストに攻める事で、物量によるダンジョン圧殺を実現してきた訳だ」
『そうそう。でも、今回はそれを何故か前倒しして来てるから……ペナルティっていうか、ダンジョンマスターの方へのボーナス、って言った方が正しいんだけど』
その言葉にしばらく考える。
今回の場合、カウント不可と出るくらいだ。数百人か数千人か、最悪数万人が一度に襲い掛かってくる、と見ていいだろう。
そして、挑戦者へのペナルティではなくダンジョンマスターへのボーナスと言う方が近い、という事は、私ないしダンジョンの強化、またはオプション、レベルアップ時のあれのようなものが来る、という事だろうか。
恐らくはオーバーした人数に比例してボーナスは大きくなる筈だ。クラウドは、引きこもっていた方がいいかも知れない、と言った。
つまり、大きなボーナスが与えられる事、それそのものが私への何らかのデメリットになるという事だろうか。
「……んー、いまいち分からな――」
そこまで考えて、呟きかけた瞬間、
ビィー―――――――!!
『ダンジョンにセイントブラッド国【金剣隊】第1部隊が侵入しました
ダンジョンにセイントブラッド国【金剣隊】第2部隊が侵入しました
ダンジョンにセイントブラッド国【金剣隊】第3部隊が侵入しました
ダンジョンにセイントブラッド国【金剣隊】第4部隊が侵入しました
ダンジョンにセイントブラッド国【金剣隊】第5部隊が侵入しました
ダンジョンにセイントブラッド国【金剣隊】第6部隊が侵入しました
ダンジョンにセイントブラッド国【金剣隊】第7部隊が侵入しました
ダンジョンにセイントブラッド国【金剣隊】第8部隊が侵入しました
ダンジョンにセイントブラッド国【金剣隊】第9部隊が侵入しました
ダンジョンにセイントブラッド国【金剣隊】第10部隊が侵入しました
ダンジョンに――――――― 』
侵入者を知らせるサイレンが鳴り響き、お知らせ画面には怒涛の勢いで文字列が流れ出した。確かにこれはとんでもない人数だ。少し舐めてかかっていたかもしれない。
そして文字が流れ出すのに合わせて、ぐらりと視界が傾いた。めまい、とも思ったがそれにしては頭痛もする。何故だか息も苦しくなってきた。立っていられなくて、土の床の上に膝をつく。
やけに心臓の音が大きく聞こえる気がして、右手で服の胸の辺りを握りしめる。左手は土の床について何とか姿勢を支えているが……。
『……主? えっちょ、主!? 大丈夫!?』
その右手の腕輪から、クラウドの焦った声がした。何とか息をしながら答えだけは返しておく。
「なんとか……今の、ところ?」
『いや、全然大丈夫じゃないっしょ!? やっぱ主にはキツかったか……!』
「やっぱ……?」
珍しくまじめな色の滲んだ声に聞き返せば、数秒の沈黙があった。
『あー……さっきさ。俺、引きこもってた方がいいかも知れないっていったよな』
「聞いた……、今、最奥の部屋」
『素直な主で俺嬉しい。じゃなくて、その理由っていうのがその、急にたくさんボーナスをつけられると、負担になるって事なんだ。たまに居るんだよ、一気にレベルアップして、その成長負荷に耐えきれなくて死んじゃう奴』
つまり、肉体改造を一気に行う事に等しい、という事か。
『今の主は、人数制限破りの侵入者に対するペナルティとして、たくさんの能力が付加されてるところなんだ。レベルが上がれば力の受け皿も大きくなって、今回のこの人数だと……レベル8もあれば確実に耐えきれるかな。でも、主は――』
「レベル1、だから、流石に、キツい。というか、ぶっちゃけ、命が、危ない、と……」
『うんうんそうそう。って、主!? 何か呼吸とかヤバそうだけど今絶対大丈夫じゃないよな!?』
「分かってる……」
相変わらず流れが止まらないお知らせ画面を開いたまま、左手にも力が入らなくなった。この1年弱ですっかり慣れた土の床に横向きに転がる。息が苦しい、頭が痛い、それ以上に、体の中で何かがうごめく感じがして、それが一番気持ち悪い。
『本当何考えてんだセイントブラッド……って、セイントブラッド!? なんでわざわざこんな辺境までこんな大軍遠征させてんだ!?』
「……有名国?」
『有名も何も、王族が代々いずれかの神の篤い加護を受けることで有名なめっちゃくちゃ強い大国だよ。ただ国内の安定に力を注いでいて、戦争とかダンジョン攻略とかには出張ってこないから、周りは割合平和な国なんだけど……』
「それが……何故か、このダンジョン、には、全力、傾けて、きた……?」
返るのは沈黙。何よりの肯定の証であるその返答に、思わず苦笑が漏れそうになる。頭は痛いしなんか体の中で暴れてるしでそれどころではなかったけど。
しかし、本気で意識が霞みだした。これはまずい。神の篤い加護を受けることで有名、となると、あの可能性だけは確認しておかないと。
「……クラウド、」
『何?』
「空間神の、神官……居る?」
『へ? いや、セイントブラッドは空間神の加護だけは受けないんだ。神殿立てるのが嫌だから』
「そか……なら、大丈夫、かな。倒れてて、も……」
『それは大丈夫って言わない!!』
以前に受けた、ダンジョンマスター強制召喚。あれは本気でシャレにならない。前は嫌な予感が大的中してガチガチに対策した上秒殺したからなんとか問題にならなかったものの、今のこの状態だと文字通り瞬殺されてしまう。
それが無いと分かっただけでも良し。待ち受けるのは対超大人数フロアに迷う事確実の崖フロア、いまだに金鬼ですら完全踏破していない即殺フロアだ。その上クラウドまで剣を持って立ち塞がってくれている。まず抜けれまい。
『主、主ー!? 返事してー! 主ー!!』
「……ごめん、クラウド……、あと、任せた……、っ!」
『っちょ、主!!? 任せたってそん』
プツン
ずっとつながっていた腕輪の通信を、こちらから一方的に切断する。契約の副産物である通信機能は、優位な方からであれば遮断する事が可能だ。更に心配をかける事にはなると思うが、それでも、そこで通路をふさいでいてくれることの方が私にとっては重要である。
「……ぁ、っぐ……、っは、あ゛……っ!」
左手で頭を、右手で心臓の上を掴み、体を縮めて体の中で好きに暴れまわる何かを押さえ込む。うるさいくらいに心臓の鼓動が体中に鳴り響き、呼吸はそろそろ途切れ途切れ。
霞む目で何とかお知らせ画面を見るものの、文字の勢いは全く衰えていない。時々赤い文字が混じるのが何とか分かるくらいだ。不吉なものを覚えたが、確認はできない。
「ぅ、あぁ……っ!!」
体の内側、その何処からか得体の知れない物が湧き上がり、体中を暴れめぐって、外へ溢れだそうとする。魔力の類なのか何なのか、外へ出さない、と強く思うと、体の中に留めておけるようだ。その分、暴れまわる強さは上がるが。
だが……コレを外に出してはいけない、その直感が頭から離れない。となれば、このまま押さえ込むしかない。問題は、高まっていく謎の内圧に、私がどこまで耐えられるか。
ギチギチと張りつめる音がしそうな綱引きは、まだ当分終わる気配がしなかった。
「任せたってそんな俺は下っ端、だから主!? うわ、通信切るか普通この状況で……。どうしましょう、マイマスター?」
〈……お前の切り替えも大概だがな……。……契約の詳細は知らないが、あの娘の事だ。……お前の自由を大きく縛っている訳では無いんだろう?〉
「むしろほぼ放任ですねー。よっぽど強烈な悪意を持って攻撃する事ぐらいしか制限されてないっす」
〈……そうだな……。……お前、あの娘の事気に入っただろう〉
「は? あぁまぁ、そりゃあ。生意気極まる息子しかいなかったもんで、あんな娘がいたら良かったのになーとは」
〈……どうせこの人数だ、また礼状をしたためなければならない。……しかし『黄泉返りチケット』では余るだけだろう。何より、人数と釣り合わん〉
「っすね。どう考えても3000人オーバーですもんね」
〈……という訳で、お前を解雇する〉
「何という変則的なクビ宣告!? ちょ待ってくださいマイマスター!」
〈……話を最後まで聞け。……そして解雇したお前を、あの娘に配下として進呈する。……そうすれば仮契約では無く、本契約が結べるな?〉
「…………、おぉぉ、確かに。え、って事は俺、蘇った上に転生まで出来るって事っすか?」
〈……むしろ当分還ってこんでいい、この問題児が。……元々お前の寿命は余っていたんだぞ。……途中で打ち切ってこちらに来た挙句、配下契約を結んでほしいなどと……どれだけ処理が面倒だったと思っている〉
「いやぁ、すんません……」
〈……ではそれで決定とする。……今から礼状を書いて襲撃が一段落し次第ダンジョンマスターへ送るから、お前もそのつもりをしておけ〉
「ういっす。あ。ありがとうございますマイマスター」
〈……そう思うならせめて寿命ぐらいは使い切ってから川を渡れ〉
せめぎ合いが始まって、どれくらい経ったのか――、ふと意識が浮上したところを見ると、気を失っていたらしい。ただ感じる感触がふわふわと柔らかいので、もしかしたら夢か、また死後の世界に行ってしまったのかもしれない。
まだ息苦しいのとぐらぐらする感じは続いているが、体の中で暴れていた何かは大人しくなったようだ。浅い呼吸をしているのを理解しつつ、どうにか目を開けてみる。
「……………………知らない天井だ……」
まさかこんな絶体絶命の状態直後でテンプレを言えるとは思わなかったが、とにかく、起きてまず見えたのは知らない部屋だった。
クリーム色を基本にしたシンプルかつ明るい部屋で、棚などの小物も少ない。今寝ているベッドは壁際で、反対の壁に2つ、足元の方の壁に1つ、合計3つの扉が見える。窓は無いから外の様子は見えない。
寝ているベッドは、何というか、木製の普通のベッドだった。縦方向の両端に衝立があって、ふわふわした感触はこのベッドの物。かなり良い布団なのは確かだろう。
で、私は何故か、ピンク色の花模様が可愛いパジャマに着替えていた。髪もほどかれている。
「……いや、何でだ」
本気で、気を失っていた間に何が起こったんだろうか。ていうか、やけに体がすっきりしている気がするが、クラウドに何かされたんだろうか。いや、危害を加える事は出来ない筈で、私は、その、異性にむやみに触られるのは嫌いだから、つまりクラウドが着替えさせる事は出来ない筈だ。
となると、真剣に、気を失っていた間に何が起こったんだろうか。ぼんやりと見知らぬ部屋を眺めたまま、ぐらぐらする頭で考えてみるが、何一つさっぱり分からない。
そうしている間に、ふかふか布団の魔力で睡魔が再びやってきた。調子が悪い事は悪いから、特に逆らわず微睡に入る。
この部屋はなんだとか着替えさせたのは誰だとかセイントブラッド国の軍はちゃんと撃退できたのかとか、色々確認したい事はあるが、まだしんどいというのが正直なところだ。
「…………」
そんな訳で、ふかふか布団で体を伸ばして眠るという贅沢を、久しぶりに満喫する事にしたのだった。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:2
マスターレベル:1
挑戦者:――――(カウント中)
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