第24話 お客+住人=賑やか
『ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました
60の職業ポイントを入手しました
60の経験値を入手しました
30のダンジョン経験値を入手しました
以下のアイテムを入手しました
・暴れ麦の黒パン×7
・草豚のベーコン×5
・ナナコツの実×8
・ニルネの実×5
・大熊蜂の蜜酒×2
・霧谷の濁り酒×1
【エグゼスタティオ】に『英気を養え!』が建設されました
冒険者たちは侵入を諦めました
【エグゼスタティオ】に『安堵と休息』が建設されました
空間神の神殿が完成しつつあります』
あれから灰色の人に色々話を聞いた。そして、何故私がいつまで経ってもレベルアップできず、称号やステータスを確認する事が出来ないか、というのも発覚した。
こちらの世界に生きる全ての生き物は、体のどこかに魂の印、という意味で『
というのも、『瑞』の位置は個人によって全く異なり、しかも大きさも異なるという。小さい方が強いんだそうだが、舌の裏にあった、なんてケースもあるらしい。
なので、私が自分の『瑞』を見つける為には自分で探すだけでは不十分で……その、今のところ唯一の他者である、灰色の人に、体中、探してもらわないと、いけない、訳で……
「――――できるかぁああああああ!!」
という訳で、当分自分のレベルアップは出来なさそうだ。
あ、灰色の人とは契約を交わす事になった。やはりいくつものパターンがあるそうで、選んだのは腕輪を証とする6:4の契約。腕輪が壊れない限り有効で、灰色の人は、一応、私の言う事は大体聞いた方が楽、という感じになる。
腕輪? もちろん謎マテリアル(頑丈さ最優先)で作った特別製ですが? あと、契約に必要だとかで灰色の人に、名前を付けてくれ、って言われた。ネーミングセンスなんてないけども、じーっと灰色の人を見て、思いついたのは、
「……クラウド、とか」
「おぉ! それいい! ぜひそれで!」
灰色の髪と格好と、濃い空の色の青い目から連想した『雲』。まず敬語を止めてくれ、との事で元々崩れていた敬語は無くなり、完全にフレンドリーな言い方で大歓迎されたので、まぁ良しとしておく。
そんな訳で、12ヵ月、つまり1年まであと3週間、といった時期に、私は、
「んー、刃渡りよーし、重心よーし、造りよーし……、試作5つ目なんとか合格っと」
クラウドの武器を作っていた。
いやだって、丸腰だし。金鬼が来たときは自己申告の強さを当てにして出てもらうつもりだけど、流石に無手っていうのはどうだと思う訳だ。
希望武器は聞いているので、同じ武器で詳細を変えて試作品を量産中。もちろん謎マテリアル製から合金製まで色々ある。ちなみに、身長に合わせた刃渡りとかは挑戦者たちの過去監視映像から大体割り出した。
「あるじー、なんか、生命神様が来てるよー。んでもって何か呼んでるけど? ……って、主、何してんの?」
「もう宿り木そこまで育ったのか……。うん、今行く」
とりあえず呼ばれたので服の土を軽く払い、体操着のままだけどいいかな、とか思いながらフロアの方へ足を進める。
「あるじあるじ、あれ何?」
の、途中、クラウドが部屋の中と私とで視線を往復させながら聞いてきた。あれ、言ってなかったかな。
「クラウドの武器。確か得意得物、双剣だったよね?」
そう。この灰色の冥府神の配下様は、なんとスタイリッシュでスピードと手数重視の双剣使いだったのだ。細身だけど頑丈で左右で長さが同じでグリップだけが左右対称だったら文句ないかなー、とか言っていたので、とりあえずその条件は同じにしてみた。あとは重みとかグリップの形とか、色々違う形で作ってあるが。
しばらく目をぱちくりしていたクラウド。しかし1秒で再起動すると、
「えぇ!? 俺の!? いいの!?」
「前線に立ってもらうのに、無手じゃあ無理があるとは思うよ?」
「まっじっでー! 主、あれ振ってみていい!? いい!?」
「いいよー。どうせ持ってもらって感想聞こうと思ってたしー」
子供みたいに目をキラキラさせて食いつき、許可を出すと、やっほーぅ! とまさにおもちゃに飛びつく子供が如く走って行った。私はそれを確認せず、とりあえず生命神様に会いに行くため通路を進む。
で、確かに『精霊神の別宅』とほぼ同じぐらいまで『生命神の宿り木』は成長していた。うーん、崖フロアの森もそろそろ新しい場所を作らなきゃいけないだろうし、本当植物系の成長は早いなぁ……。
さて、その生命神様だが……、精霊神様と何か楽しげに談笑していて話しかけられん。外見は柔らかい白の髪を腰まで伸ばし、妙な具合に和風な儀礼服っぽいものを着ている。目は海のような生命力あふれる蒼。
が、その体形は、分厚いだろう儀礼服越しにもわかるほど豊満……。まぁ、精霊神様がモデルのように整った、と言うなら、超が付く美人なお母さん、というのが一番しっくりくるだろうか。
あれでドジっ子属性と妹属性を備えているのだから半端ない、とか関係ない事に思考が飛んだ辺りで、ふと精霊神様がこちらに気づいた。おいでおいで、と手招きされる。
「えーと、どうも、おいで下さってありがとうございます」
とりあえず歩み寄って、謎マテリアル製棒型触媒で張ってある結界の直前でそう頭を下げる。あら、という感じで口元に手を当てる生命神様。
〈あらもうー、丁寧にありがとうー。お邪魔しているのもこの木を植えてと言ったのもこちらなのだからー、気にしなくていいんですよー?〉
〈だから言ったじゃないの~、細かい事を気にするマスターさんだって~〉
「いやその、一応神々の前ですし、細かくは無いと思うんですが」
〈あぁ本当に可愛い子ー。れーちゃんが加護をあげる訳ですねー〉
〈めーちゃんはあげないの~? お兄さんの配下さんは腕輪越しに契約してるけど~〉
〈残念ながら、色々規則があってそうもいかないんですよー……。あまり兄様に迷惑をかける訳にもいきませんしー……〉
仲良しですね、女神お二柱様方。あれですか、お茶友達ですか。まぁ眼福でいいんですが。女の身から見ても癒される光景だね。はっはっは、羨ましいか世の男ども。
うーん、それにしても、結局何の用事で呼ばれたんだろうか。あれ、確か精霊神様が初めてこのダンジョンに来て、火の小精霊に呼ばれた時もこんな感じじゃなかったっけ?
そうそう、しばらく待ってみても起きそうにないし、それでもって連れてきた精霊さんの方も眠っちゃって、んでもってそっと作業に戻ったんだった。
……うん、戻っていいかな、この放置具合。
「主ー―――!!」
おぉう。
「これどれが俺の? どれが俺の!?」
「え。……全部?」
「マジで!? 全部貰っていいの!?」
「つっても試作品だよ? むしろそれでいいの?」
「いい!!」
切れ長目なクールさはどこかへほっぽり出してきたらしいクラウドがすっ飛んできた。その両手に抱えているのは合計10本の剣。そのまま奥の、最初は魔法とかの試し撃ちをするために頑丈さ&シンプル一極で作った広い部屋へと走り去った。本格的に振り回してみるらしい。
〈元気ですねー〉
〈元気なのはいい事よ~〉
のんびり言い合う女神様達。あぁ、これは話に入りそうにもないな。
「えーと、それじゃあ、崖フロアに新しい森の土台を作ってきたいのですが……」
〈あらー、そうだったのー。呼び止めてごめんなさいねー〉
〈嬉しいな~。もうそろそろお引越ししようかな~って思ってたの~〉
「いえ、それこそお気になさらず。それではまた、何かありましたら」
にこにこと言ってくれた女神様達に頭を下げて、ダンジョン内ワープで崖フロアへ。『結界術』で空に浮いた状態でフロアを眺めれば、十分な面積があった筈のテーブルは既に9割がた埋まっている。
「さて、これは気合を入れないと――」
そう呟いた時だ。
「――………………え?」
視界の端に開いていた『冒険者予報』。4日後の金鬼の襲来を予告していたその小さな表示に、変化があったのは。
『冒険者予報
時刻:2日後
人数:(カウント不能)
↓ 』
そんな表示を見たのは初めてだったけど。
でも、何が起こったのかを理解するのは簡単だった。
「……いくら何でも、早すぎないか?」
1年経過時点で来ると金鬼から言われていた、国軍の襲来だ。
『……え!? もう!?』
「いくらなんでも早すぎる。2週間の前倒しだよ」
腕輪を通じてクラウドに『冒険者予報』による国軍襲来を伝えると、そんな反応が返ってきた。ため息をつきつつ返してみれば、どこか呆然とした調子の答えが返る。
『そんな……、ダンジョンは、1年過ぎるまでは一定規模以上の組織に対して情報制限されている筈なのに、何で国が動ける程の情報が……』
半年が過ぎた時点で出た、『情報制限が緩和されました』の表示は見間違いではなかったらしい。情報神の仕事なのだろう。何故か今回の場合は制限が効いていないが。
「とは言え、来ちゃった物はしょうがない。クラウド、ごめんけど、一応言っといた場所に居てくれる?」
『それはまぁ、もう着いてるけど』
「一応繰り返すけど2日後だよ?」
『むしろ、何でそんなに主は落ち着いていられるんだ?』
仕事が早すぎるクラウドに思わず確認を取れば、逆に聞き返された。改めて少し考えてみるが、やはりその答えは簡単だ。手元のダンジョン管理画面の決定ボタンを押しこみながら返答する。
「いやだってさ。普通の人が何千人、いや、下手したら何万人来ようと、金鬼には敵わないと思わない?」
『あー……金鬼って冥府でも有名だからある程度知ってるけど、そっか。そういえば主、こないだのは金鬼に殺されたようなもんだったな』
「そうそう……。思えば、罠のネタばれなんて今更だし、直通通路なんて出さずにトラップで時間だけでも稼ぐんだったね、あの時は」
『あぁー……、そうか、餓死狙い』
「うん」
外道? 緑の血? 何の事かな?
とりあえず決定ボタンを押して変化したダンジョン管理画面をじっくり眺め、ちょいちょいと小細工を追加。適当にした所で、崖フロアの編集作業に戻る。
「っていうか、あのフロアはそもそも時間稼ぎと耐久性に重点を置いた、対超大人数フロアとでもいうべき階層だよ? 私のダンジョンでここまで相性が決まっていて、わざわざ悪い相性のまま飛び込んでくる相手に、負けがあると思う?」
『おお、主が自信満々だ!』
「手抜きなんてしませんとも。存分に絶望してくれ、兵士の皆様」
『主が楽しそうだー。俺の出番はひょっとしなくても無いかこれは』
楽しそうなクラウドの返答に、本当はガチャが出来上がってから切り替えるつもりだったんだけどね、と付け加え、『変性生成』を発動。
『いやだって主、あれは流石に大盤振る舞い過ぎるって』
「あれ以上質を落とせと言われた時は本当どうしようかと思ったよ……」
『むしろ何で最低品質があれなんだ? ダンジョン製の鉄ってものすごく上等なのに、最低ラインが鋼って』
「えー。だって鉄だけって、なんか手抜きな感じしない?」
『ダンジョンだからそれで充分なんだよ主』
「うーんー」
その理由というのも、クラウドがガチャのラインナップを見て、これは1段、いや、2段全体的にあげるべきです! なんて敬語禁止も忘れて叫んだのがそもそものきっかけ。
そんなにいいものを作ったつもりは無かったのだが、それでも十分すぎてリターンの方が遥かに大きくなっていたらしい。なのでクラウド助言の元、更に下位の物を作っていたら、間に合わなかったのだ。
武器とか道具の形にするとどうしてもランクが上がってしまうようなので、最下位のガチャはほぼ全部素材である。それも鉄とか霊水の薄めたのとか、え、それは本当に価値があるの? と思わず聞いてしまう物ばかり。
「まぁ、とにかく生き延びようか。返り討ちにして」
『主のそういう緩くも過激な所が好きだよ、俺は』
崖をまた1つ形成して、そんな言葉で会話をストップしたのだった。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:2
マスターレベル:1
挑戦者:2754人
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