第23話 復活祝い=心配+オマケ

『ダンジョン消滅まで残り 05:10:09


 ダンジョンマスターの存在をダンジョン内に感知しました

 ダンジョンの消滅は回避されました

 ダンジョンの封鎖は4時間後に解除されます

 『黄泉返りチケット』が1枚使用されました

 称号【黄泉返り経験者】を入手しました

 称号【蘇る主】を入手しました

 称号【超迷子】を入手しました

 冥府神から手紙が届きました

 生命神から1件の要請が来ています

 地脈龍から『謎の卵』が届きました

 天脈龍がじーっと見ています

 悪戯神が『白紙の招待状』の期限を無期限に設定しなおしました

 情報神から『スキルガイドブック』が届いています

 ダンジョンの封鎖解除まで残り 03:43:20 』




 前触れもなく、意識が浮上する。


「……ん?」


 気が付くと同時に普通に目が開き、お知らせ画面越しに見慣れた電車座席の背中側が見えた。自分の体を見下ろせば黒尽くめの恰好で、ペンダントもちゃんとつけている。

 ペンダントがある事と電車に全く人が居ない事で未だ異世界だと判断してため息を1つ。どこかうんざりしながらお知らせ画面に目を通して、


「…………どこからどう突っ込めと……」


 思わずがっくりと力が抜けた。

 まずダンジョンの消滅って何だ。蘇ったって事はやっぱり死んでたって事か。『黄泉返りチケット』がちゃんと使えたのはまぁ良いとして、【超迷子】って一体何なんだっっ!!


「って、手紙?」


 途中の一文、『冥府神から手紙が届きました』を再度見て、その部分をタッチしてみる。……反応無し。これは例によって電車の中にある、という事だろうか?

 とりあえず他のを確認してしまおうと目を下に移せば、次にあるのは『生命神から1件の要請が来ています』。タッチしても反応が無いからこれもやっぱり電車の中か。後回し。

 『地脈龍から『謎の卵』が届きました』。……なんだこれは。どうせ電車の中だろう。後回し。天脈龍、地脈龍の対なんだろうか。まぁ見られてるだけだから今更だ。


「『悪戯神が『白紙の招待状』の期限を無期限に設定しなおしました』?」


 そもそもそんな物あっただろうか。……と思ってログを確認しなおしてみると、確かにあった。ちょっと前のログに『悪戯神より『白紙の招待状』が3枚贈られました』の一文が。

 ……『白紙の招待状』って何だろう。後で確認しよう。慎重に。

 で、『情報神から『スキルガイドブック』が届きました』。おぉ、これは素直に嬉しいかも知れない。どうせ【ダンジョンの書】と一緒で開くのに何かしらの制限がかかっているんだろうけど。

 ダンジョンの封鎖解除まで、あと3時間半ぐらいか。その間に電車の捜索とそれぞれのアイテムの確認だな。

 そう思ってお知らせ画面を閉じ、いつものように『冒険者予報』を起動してミニ画面表示。まだ余裕はあるし、と思いつつ目をやると、


『冒険者予報

 時刻:4時間後

 人数:3人

 挑戦回数:39回

     ↓   』


 兄貴さん達が、封鎖解除してすぐに特攻してくるようだ。


『    ↑

 時刻:4時間後

 人数:2人

 挑戦回数:32回

     ↓   』


 こっちもやはり常連さんの一組。


『    ↑

 時刻:4時間後

 人数:4人

 挑戦回数:27回

     ↓   』


 以下略。


『    ↑

 時刻:4時間後

 人数:2人

 挑戦回数26回

     ↓   』


 うん。


『    ↑

 時刻:6日後

 人数:1人

 挑戦回数:4回』


「お前は来んな!!」


 明らかに金鬼襲来の表示を見て思わず叫んでしまったが、殺されたのだからしょうがないだろう。




 で。


「手紙に要請書、招待状、本。……卵はどこ行った?」


 4通の封筒と厚めの紙、そしてA4の厚さ1センチ弱の本を発見し、ついでに電車の中を再度整理して、それでも卵らしき物体は見つからなかった。首をひねりつつ元の座席に戻って、さてどれから確認しようかと考える。

 結局、緊急そうな要請書から確認する事にして、折りたたまれた厚い紙を開いてみた。


『ダンジョン:死の修行所・獄 ※心折れ注意 マスター様

 『精霊神の別邸』が設置された事を精霊神様から聞きました

 つきましては私の別宅ともいえる『生命神の宿り木』を設置してもらいたく思い、この要請書を出す事にしました

 種を同封いたしましたので、『精霊神の別宅』の根元に植えていただければ後はこちらで干渉します

 安易に近づけない様、結界などを張っていただけると幸いです


 追記:冒険者たちの必ず通る道か部屋だとなおいいです』


「……これ単なるお願い手紙じゃ?」


 思わず呟いてしまったが、恐らく非は無いと思う。同封? と思いつつ厚い紙をくるくる回して表裏を確認。膝の上を丁寧に見回して、そっと立ち上がって座席も確認。

 ……種って何でしょうか。というか、同封なら封筒が無いとおかしい筈じゃあ……。

 一応、手紙の『種』の文字の所を突いてみるが、当然ながら反応無し。疑問符は尽きる事を知らないが、とりあえず隣の席に要請書を置いて冥府神様からの手紙を確認する。

 内容は、ダンジョン内死者の大きな削減に対する改めての感謝と、もう1枚感謝状を贈らせてもらった事、合わせて『黄泉返りチケット』をもう10枚贈った事、そして、死んでいる間、私が実は盛大に迷子になっていて、見つけるのに時間がかかって申し訳ない、と続いた。


「……なるほど、【超迷子】の称号はそのせいか……」


 お知らせ画面に並んでいた心当たりのない称号の理由を発見して、げんなり呟く。というか、死んでから迷うって……。

 とりあえず気を取り直して読み進めると、配下の人が何名かダンジョンに無理やり入って、しかも出れなくなった人が居るらしい事。多分もう冥府に来る事は無いとは思うものの、迷子になるのは大変なのでそのまま居させる事。こき使ってくれて構わない事が書いてあった。


「こき使ってくれて構わない、と言われてもなぁ……」


 だから人を使うとか無理なんだってば。と思いつつ紙をめくる。そこには、一言だけの追記と、指でつまめるサイズの紙袋がくっついていた。


『追伸

 妹……いや、生命神が要請書を送ったらしいが、肝心の物を冥府に忘れていた。こちらから同封しておくのでそっとしておいてやってくれ』

「生命神様、あなた、まさかのドジっ子ですか……?」


 同封する、と書いてあったのに何もなかった原因はこうだった。紙袋の中をのぞいてみると、確かに真ん丸の種が1つ入っている。これを『精霊神の別宅』の根元に植えろという事らしい。


「スキルガイドブックも気になるけど、とりあえず先に植えてくるか……」


 一応、要請書と手紙を持って電車から出る。そういえば結局、崖エリアの森は今のところどうなっているんだろう、とか考えながらてくてく歩き、『精霊神の別邸』のフロアまで来て、


〈あらマスターさん、良かった~還ってこれたのね~〉

「あ、精霊神様。えーと、ご心配おかけしました」

〈あなたが謝る事ないのよ~、あの太陽の子が加減下手なだけなんだから~〉

「……太陽?」

〈うふふ~、でも本当に良かったわ~〉


 いきなり精霊神様が寄ってきた。太陽の子、というのは、話の流れ的に金鬼の事だろうか。確かに太陽みたいだとは思ったが、神様にもそう呼ばれているとは……。

 とりあえず要請書と種を取り出し、聞いてみる。


「ところで精霊神様、この種なんですけど」

〈あら~、彼女も来る事にしたのね~。いいわよ~。裏側に植えてもらった方がいいかしら~〉


 途中で理解された。まぁ話が早いのでついて行き、言われたところの地面を少し掘って種を植える。ぱたぱたと土をかけて少し離れ、さて結界と言っても何をどうするか、と考えてみた。


〈ところで~、ずーっと部屋の隅っこで座り込んでる人が居るんだけど~、心当たりないかしら~?〉


 その途中で精霊神様から再びのお声掛け。人? と思いつつその隅っこを見てみれば、なるほど確かに、灰色装束の誰かさんがいる。お知らせ画面には何もないので侵入者ではないから、と思ったところで、冥府神様からの手紙の一文を思い出した。


「……多分こういう事だと思うんですけど、一体どうすればいいのやら……」

〈あら~、押し入り強盗かと思ったら、そういう事だったのね~〉


 あれ? もしかして精霊神様、撃退とかしちゃいました?

 とは怖くて聞けないので、とりあえず護剣の方を呼び出して結界術を待機させ、近づいてみる事に。


「あのー……ええと、冥府神様の配下さん……で、合ってますか?」

「ん?」


 壁に体を預け、片足だけを放り出して俯いていたその人は声に反応して顔をあげた。灰色のフードが外れ、緩く結んだ髪があらわになるが、こちらもまた灰色。細い切れ長の目だけが空を凝縮したような青色で、ぼんやりと薄れて消えてしまいそうな存在感をギリギリ保っている。

 その人……人? は顔をあげてこちらに気づくと、


「あ、どーもダンジョンマスターさん。いやー、急に押し入ってすんませんした!」


 へらっ、と笑って、けらけらと口を開いた。思った以上に緩いテンションだ。


「はぁ、まぁ……こちらこそ、迷子になってすみませんでした」

「いやいや! マスターさんの存在力の大きさを見誤ったこっちの落ち度だから気にしないで! それより、冥府神様からのお手紙は?」

「読みました、一通り。えーと、とりあえず、私預かり、って事でいいんですかね……?」

「はい、その通り! 当分ご厄介になります!」


 うむ、緩い。そして明るい。いいのか、確か死神に該当する人な筈だが。


「と、言われましても……人の上に立つとか、私にはちょっと荷が重いので……」

「そんな深刻に考えなくても、便利な同居人が増えた、ぐらいに思ってくれればそれで十分ですから! あ、何なら一応契約しときます?」

「えー、いいですよ、あんな奴隷契約しなくても」


 ひょい、と左手を出されて聞かれたが、答えは決まっている。誰かにあんな窮屈な首輪をつける事なんて絶対しない。と思って言うと、何故か盛大に噴き出された。


「うはははは……! あ、いや失礼、しかし、あんな奴隷契約と来たか……! あ、もしかしてマスターさん、デフォルトの状態しか見てないんじゃ?」

「いじる部分も見ましたけど、持ち物までいちいち口出す気なんてありませんし。ていうか、そこまで他人の行動指示できるほど頭無いんで」

「ぶっふぅ!!」


 また何やらツボに入ったようだ。……うーん、何だろう、何故かすごく見た事があるような気がするな、このノリ。こんな人は挑戦者の中にも前の世界の知り合いにも居なかった筈だが。

 ひーひーいいながらしばらく転げまわるのを耐えていたらしい灰色の人。やっと落ち着いたらしく、よいしょ、と言いながら立ち上がった。背が思ったより高く、見上げる格好だ。


「いや、実は、契約にも色々種類があって、多分マスターさんが見たのは一番下、10:0の契約、とか言われてる奴だと思いますよ。提案したのは、そーですね、7:3ぐらいでどうです?」


 10:0、7:3。なるほど、色々配分とかあるようだ。しかしさっきからどうにも契約推ししてくるな。なにかメリットとかあるんだろうか。


「そういえば素朴な質問なんですけど」

「はいなにか?」

「従属希望者って人がたまに来るんですよ。あなたも何か契約推しだし。何かメリットとかあるんですか?」

「おぉ、まだ11ヶ月なのに従属希望者が来るんですか!」


 え、食いつくのそっち?


「あー、失礼。メリットは何かと」

「自由に勝る物は無いと思うんですが」

「んー、まあ色々ありますかねー」


 あるんだ。まぁなければ希望なんてしないだろうが。


「人によって色々っすけどー、まずダンジョンマスターの配下になる、これだけでレベルが一定以上なら転生扱いになるんすよ。あ、転生っていうのは世界のシステムの1つで、レベルリセットと引き換えに上位存在へと成る事です」

「当然ながら、普通にやる分には難しい、と」

「っすねー。ダンジョンをクリアするしかほぼ他に方法は無いんで、どっちを選ぶかは人次第だしダンジョン次第。んで、ダンジョンマスターの能力と職業が限定的に使用出来る事っす」

「私で言うと、【罠職人】と【策士】が使えるようになるのか……後はスキルも」

「3職持ちとはまたハンパない。まぁこれはマスターも同様で、配下にした相手の能力と職業が限定使用できるっす。熟練度500まで上げれば習得できるんでお得ですよ」

「……あれ、てことは、【武器職人】はもうちょっとで習得できる?」

「え?」


 言われた熟練度500に、ログを遡って職業詳細画面を開く。ダンジョン内限定職業【武器職人】、ダンジョンに名前が付いた時にもらったその限定職業は、景品としてたくさん武器を作っている間にだいぶ熟練度が上がっていた。

 改めて確認してみれば、【武器職人】は熟練度420の表示。ついでにと確認すれば【複属性適正】も熟練度370となっている。【テイマー】だけは全く成長していない……と思いきや、こちらも何故か熟練度220の表示。


「ダンジョンのレベルアップの時に、なんかついてきたダンジョン内限定職業とかいうのが、熟練度420。限定スキル? が、370と220」

「という事は、この先4職は確実に持てると……すんません、マスターさん思った以上にとんでもないっすね」

「えー」


 とりあえず心外な声をあげておく。常識知らずで悪かったな!


「まぁ規格外さは置いておくとして。他には――」


 思わぬ助言者を得て、その解説で復活後の時間は過ぎて行った。












死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:2

マスターレベル:1

挑戦者:2739人

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