第17話 謎-調査=解決

『【エグゼスタティオ】にギルド支部が建設されました

 冒険者は侵入を諦めました

 冒険者たちは侵入を諦めました

 冒険者たちは侵入を諦めました

 【エグゼスタティオ】に『殴りの切れ味』が建設されました

 冒険者たちは侵入を諦めました

 冒険者たちは侵入を諦めました

 【エグゼスタティオ】に交易人寄合所が建設されました

 冒険者は侵入を諦めました

 冒険者たちは侵入を諦めました

 冒険者は侵入を諦めました

 【エグゼスタティオ】に『四肢獣車取扱い』が建設されました

 付近に空間神の神殿が建設予定です

 冒険者たちは侵入を諦めました

 冒険者たちは侵入を諦めました』




「たまに訳の分からない名前があるけど、着実に充実してきてるなぁ……」


 電車の中の荷物を整理しつつ『お知らせ画面』に目を通す。とりあえずあった方がいいと思う階層は完成、3つ目の階層は只今編集中だ。坊ちゃまの久々な襲来から2週間、やっぱりその間誰も侵入してこない。

 いや、侵入してこないというのは語弊があるか。侵入に成功している人が居ない、の方が正しい。常連さんたちのお陰で侵入条件はもう分かった物だと思うんだけど……あの人たちの性格からして、その程度の情報を独占するような真似はしないだろうし。

 となると……常連さんたちは満たしてるけど、普通の人たちは満たしてない、そんな特殊な条件がまだ見つけられていない、とか?


「……そんなに難しい条件あったっけか?」


 頭の中でざっくり思い出して首をひねる。

 あとの条件は、まぁ普通の筈だ。というか、スキル制限は常連さんたちのパーティ構成見れば分かるだろうし……。


「とすると……本当に何だろう」


 まさかの持ち物制限に気づいて無いなんて事はないだろう。その他の制限系条件だって常連さんたちを見ればすぐ分かる。進入必要アイテムは、兄貴さんが「明記されていた」って言ってたし。

 食料を日持ちしそうな順番に並べ、装備品は電車の外にスペースを作って移動。魔石を属性ごとに積み上げなおして『精霊神の別宅』にいくらかをお供え(当然のように熟睡中)。

 そこまでやって一息つき、さて3つ目のフロアの編集にかかろうか、とペンダントを起動して、ふと、精霊神様がここへちょくちょく来るようになったときに解放された機能の1つに目が留まった。


「………………ちょっとやってみるか」


 運動着を脱いで『水属性適正』で洗い、それを謎換気のよく効いているあたりに干しておく。代わりに黒一色に着替えて、電車の定位置に座って、その機能を起動した。




・ダンジョン弾かれ5回目パーティ

「どこが悪いんだ……」

「『義兄弟』が初期組をしきってくれてるから情報はあるんだけどなー」

「おかしいだろ、初期組以外ほとんど突入できてないのって」

「初期組は初期組でおかしいから……俺たちとの、何かの差なんだろうが」

「どういう事ですかねぇ……。もう一度、入れた人が居ないか聞き込みしてきます」

「「「「もう20回は駆けずり回ったっつの」」」」


・ダンジョン弾かれ12回目パーティ

「金鬼が入れたんだからレベル制限じゃないだろ?」

「自力蘇生アイテムとしか書いてないからレア度制限でもない」

「初期組の話だと、持ち込み制限は10種類20個だろうって話だ」

「俺ら全部クリアしてんじゃないか。何で入れないんだ」

「まだ他にあるんでしょう……。おいしいもの食べられるから滞在続けてもいいんだけど」

「財布がヤバいんだよ。際限なく食いやがって」

「空間神の神殿が近くに建つらしいが、この場合はいっそ救済策かもな……」


・ダンジョン弾かれ35回目冒険者 in『最後の晩餐』

「おかしいですよ……何で私は入れないんですか……」

「いや、そんな事を言われても」

「『義兄弟』だって、『素早さ宣言』だって、金鬼だって、道楽貴族すら入れたっていうのに……何で私は入れないんですか……」

「不思議だよなぁ」

「持ち物制限は満たしてます……。巷の噂で職業制限はないらしいです……。自力蘇生アイテム、持ってます……。なのに何で私は入れないんですか……」

「分かってる限り、それで入れない訳はないんだが」

「金鬼がソロで入ったから、私だってソロで入れる筈じゃないですか……。何で私は入れないんですか……。私の何がいけないんですかぁ~……」

「あぁうん、お嬢さん、その辺にしといたらどうかな。もう3つ目の樽が空になってる」

「飲みたいんですよ……。いいじゃないですか……。私1人だけあの会議室に入れないんですよ……。実力的にはおんなじなのに……私、1人、だけ……うあぁあああ~ん!」

「……もう余所のダンジョン行ったらどうだいお嬢さん」

「仲良しの皆がいるこのダンジョンがいいんですぅ! 私だって金髪君の音頭でバカ騒ぎしたいんですぅ! なのになのにうぁあああ~ん!!」

「ダメだこの酔っ払い早く何とかしないと。あぁもう、誰か『義兄弟』かコレの保護者呼んで来い!!」


・冒険者ギルド【エグゼスタティオ】支部 会議室

「心折ダンジョン、今の所通れた奴一覧来たぞー」

「脳筋パーティが集まってるのは気のせいじゃないよな」

「でも『旋風魔女と盾勇者』が入れたのよね。職業制限じゃないのは確かじゃないかしら」

「最新情報、空間神の神官が入って、マスター召喚に成功したらしい!」

「内容くわしく!」

「詳細よこせ!」

「ただし秒殺されたらしいけどな。阻害魔法を多重に使ってたらしくて、正体は不明のままだ」

「役に立たないな…………」

「いや、待て。あの道楽貴族が空間神の神殿建設に金出したのって、もしかして」

「そのまさかだろ。赤札と青札も一緒に行ったらしいが、やはり秒殺だったそうだ」

「て事は、かなり強力な魔法使いタイプのマスターか」

「仮にも高位神官と赤札青札、それに道楽貴族本人はともかく、お付き2人、全員を一撃で殺ったって事だな。せめて種族くらいはどうなんだ」

「その点に関して、『義兄弟』から情報ー。何でもあのマスター、女子供の可能性がそれなりにあるらしいー」

「誰情報だよ」

「推測したのは金鬼だとかー」

「……信憑性、あるな。あ、まさか初期組が今入り口村の方に力入れてるのって、それでやる気削がれたからか!?」

「ありうる……ありうりますよ。だって初期組ってギルド成績優秀者の人たちが結構入ってますから」


・交易人寄合所 談話室

「ここのマスターは経済の事をよく分かっている」

「全くだ。こうやって消耗品をどんどん必要としてくれないとな」

「しかも殺さないから同じ冒険者がまた買い物してくれるときた」

「中堅で付き合いを踏まえた冒険者が死ぬとダメージでかいからな」

「また立地がいいよな、ここ。大国が3つせめぎ合ってて、でもあの暗黒の森のせいで手を出せない所だろ。ダンジョン村ならどの国からも不干渉だし」

「……ぶっちゃけた話、俺あの心折ダンジョン潰れない方がいいと思うんだ」

「……まぁ俺も思ったが。おいしすぎるぜ、心折ダンジョン」




 なるほど、『噂を聞き耳』の機能は思った以上にすごいものだ。これは素晴らしい。ありがとう虫の精霊さん。

 しかし、一か所だけ突っ込んでいいかな。いや、突っ込みどころは満載なんだけど、うん。


「樽3つ目が空って、どう考えても単位がおかしい!! 何者だあのお嬢さんとやらは!!」


 思わず全力で叫んでしまった。

 金髪君=盗賊係さん、はいいとして、あの会議室って何の事だ。……酒瓶代わりになってるスライム(微小)達に連絡を取る手段を探してみるか。たぶんこのダンジョンに関しての話し合いだろう。

 けどまぁ、常連さんたちが侵入してこない理由はとりあえず分かった。なるほど、女子供、ね。推測したのは金鬼さんと。ふむふむなるほどなるほど、どうしてそんな推測が出来たのかっていうのはとりあえず置いておくとして、


「――何で分かった……。姿や声どころか場所まで知らせる事は一度も無いっていうのに。恐ろしい人だ……」


 問題は、その推測が大当たり――、つまり、心折ダンジョンのダンジョンマスター。つまり……私が、女であることがバレた、という事だ。


「いや、確信じゃないのか、ただの推測だし」


 でもそれなりの可能性、を、信憑性のある人物が唱えた、という時点で十分バレたと思っておくべきだろう。あぁ面倒くさい。これでヤられる可能性が急上昇、男だと思わせていたらせめてざっくりあっさりトドメを刺されるかと思ったのに、余計な事を……。

 しかしお嬢さん弾かれ35回目って事は、お知らせ画面で出てくる『冒険者は侵入を諦めました』の単体表示、ほとんどあなた1人だね? もしかしたら他にも居るかもしれないけど、確実にダントツで挑戦&挫折してるよね?


「……もしかしてお嬢さん、他者蘇生系スキルの持ち主なんじゃあ……」


 常連さんたちと仲がいいという事は、つまり彼らの穴を埋める力を持っているという事で、それはつまり回復職か壁戦士だろう。

 確か最初の張り紙の説明で、壁戦士も他者蘇生スキルを得る事が出来た筈。つまり、今のまま転職が出来ない世界のシステムであったとすれば、お嬢さんがこのダンジョンに挑める日は未来永劫来ないという事だ。

 と、同時に、何で弾かれまくるパーティは弾かれ続けるのか合点がいった。


「全員、他者蘇生スキルか、他者蘇生アイテム持ってるな?」


 まぁ当然の備えと言えば当然の備えだ。冷静に考えれば、むしろそういうコンビネーション系支援アイテムを持ち込まずに仲のいい常連さん達の方がおかしい。

 まぁ分かった所で伝える術は無い訳で。


「頑張って悩むんだ、冒険者の皆さん」


 そうやって時間を食ってくれる分だけ、こちらの命が伸びると言っても過言ではない。だから伝えるつもりなんて微塵も無い。鬼? だから鬼畜冷血は褒め言葉だって。

 心折ダンジョンだと呼ばれたからには、それに相応しい難易度を用意しますとも。文字通り心をへし折るつもりで必殺仕様全開なまま突っ走っていくよ!

 と、決意を新たにした所で画面を閉じる。そろそろ体操着が乾いた頃だろうから、3つ目のフロアの編集に戻ろうと席を立って電車を降りて、


「あ」


 そういえば、試そう試そうと思いながら先延ばしにしていたある事を思い出し、電車の中へともう一度戻った。













死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:2

マスターレベル:1

挑戦者:2463人

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