第16話 Lvup+新能力=大改装
『冒険者たちは侵入を諦めました
冒険者は侵入を諦めました
冒険者たちは侵入を諦めました
冒険者たちは侵入を諦めました
侵入を諦めた冒険者が500人を突破しました
称号【放ったらかし主】を入手しました
冒険者たちは侵入を諦めました
悪戯神が何か企んでいます
冒険者は侵入を諦めました
冒険者たちは侵入を諦めました
ダンジョン入り口前に【エグゼスタティオ】が建設宣言されました
【エグゼスタティオ】の現在の規模は村です
【エグゼスタティオ】に『心休めに一服』亭が建設されました
【エグゼスタティオ】に『最後の晩餐』亭が建設されました』
「……宿屋?」
もしくは食事処だろうか。というか、言いにくい村名だな。いや、今の規模が村と言うだけで、この先町、更に街になる可能性もある訳か……。
流石にこんなお知らせが流れればいやでも察する。常連さん達が挑んでこなかったのは、この村の建設に力を注いでいたからだろう。ダンジョンの前に拠点をつくるというのは、確かに大事だ。
「つまり、ここからは質の上がった戦略と状態で行きますよ、って事か」
旅をした先で挑む場合と、ぐっすり休んでしっかり食べてから挑む場合ではかなりコンディションに差があるだろう。つまり油断もしにくくなり、いよいよ隙を突きにくくなったという事だ。
「それに……侵入者として、冒険者以外の人も入って来るだろうし?」
お知らせ画面に流れる表示には、細かいが色々な違いがある。前々から疑問には思っていたのだ。何故侵入時は『冒険者が侵入しました』なのに、撃退時は『侵入者を撃退しました』と、表現が変わるのか。
きっと研究・観察専門の人や、この間の罠職人なドワーフのおっちゃんみたいな人も来るんだろう。解析さえできれば、と思っている冒険者は多いに違いない。
ダンジョンは破壊できない筈だが――
「テイマーみたいな人に小石モグラが魅了されちゃったら、思わぬショートカットとか作られるかもしれないから、その辺の対策も考えないと」
禁止されているのは外部からの破壊と、挑戦者による破壊・変更。つまり、内部の者なら破壊も変更もできるのだ。うちの場合、現にダンジョンマスター当人が積極的にスキルを使ってダンジョンを破壊変更もとい拡張しているし。
更に混沌とした色になり密度も上がった護剣を目の前の地面に突き立て、腕を組んでしばらく考える。……とりあえず考えたくはないし、今までの冒険者の皆さんのパターンからして一応禁止されてはいるようだが……一応、念の為、万が一としての保険も実行しておきたい。
「となると、どっかフロア1つ削るしか無い訳か……。本当どうやって階層を増やすんだろう。やっぱりダンジョンのレベルを上げる方法を探――」
そこまで独り言で考えを整理した時だ。
いつものように何の前触れも音も無く目の前に、とある画面が展開された。
『ダンジョンをレベルアップしますか?』
「……………………もっと早く出てこいよコラ」
思わず心の底から毒づいてしまったが、仕方がない。筈だ。
「定経験値制じゃなく、突っ込んだ経験値によってレベルアップ後のボーナスが変動する変則自由形レベルアップだったか……。なんてややこしい」
その後、出てきた画面をスクロールした下の方に並んでいた『ダンジョンレベルに関するルール』を読み終わり、ざっくりまとめてそう呟いた。必要だと思われる細々した条件は、
・ダンジョンのレベルアップには最低必要+任意の経験値が必要
・任意の経験値の量と基礎ステータスの上がり幅は比例する
・任意の経験値が幾らでもレベルアップ後の最低必要経験値量は変わらない
・ダンジョンの最大階層はダンジョンレベルの二乗
・新たな階層の閉鎖編集期間は3日
・閉鎖されている階層にダンジョンマスターが居る場合、ダンジョンに侵入されない
・階層の順番は自由に入れ替えられる。ただし必ず転送陣は設置しなおす事
・フロア数制限は全階層のそれぞれに適用される
と言ったところだろうか。
問題は幾らの経験値を一度のレベルアップに突っ込むか、という事だ。溜まりにくい職業ポイントで一時7000Pに達していたのだから、金鬼さんや灰兎さんでインフレが起こった経験値はもっと多い筈。
ダンジョンレベルの二乗まで階層は増やせる、という事は、もし仮に経験値を3つに分けてLv4になった場合、16階層まで増やせるという事。それだけ階層があればまず突破されることは無くなるだろう。
「…………そう。だがしかし――」
それプラス、15×3=45日の安全も確保できる。仕掛けの質が落ちる? まさかまさか。広いっていうのはそれだけで十分すぎる仕掛けだ。様子見に時間を割いていいんだったら、地味な嫌がらせで神経を削ってから以下略という時間のかかる搦め手も可能だろう。
自由度ははるかに上がる。時間をかけていいのだったら――それこそ、金鬼さんだって手こずらさせてやれる。かも、知れない。
だがしかし。だがしかし、だ。
「――敢えて1回のレベルアップに全ての経験値を突っ込む!」
気合と共に、ピッ、と表示させていた画面の決定ボタンを押しこんだ。
『ダンジョンレベルが2に上がりました
最大階層が増加しました:4階層
以下のボーナスが付きます
・屋外フロア(空)
・屋外フロア(崖)
・罠自動設置機能
・設定:天候(屋外フロアのみ)
・設定:風量・風向(屋外フロアのみ)
・設定:ランダム要素
・施設属性:祝呪確率系
・施設属性:ガチャ宝箱
・施設属性:モンスター自動生成
・モンスター属性:増殖
・モンスター属性:分裂
・マスター能力:ダンジョン内ワープ
・マスター能力:ダンジョン内魔力消費1/3
・マスター能力:ダンジョン内スタミナ消費1/5
・マスター能力:ダンジョン内魔法攻撃力30%上昇
・マスター能力:ダンジョン内限定スキル『テイマー』
・マスター能力:ダンジョン内限定スキル『複属性適正』
・マスター能力:ダンジョン内限定職業【武器職人】
・マスター能力:全スキルLv+1』
…………。
あれ、これもう勝ったんじゃね?
とりあえずあれだ。
「賭けには大勝利、と」
で。
当然ながら現在、大改装中ですよ! 一応『冒険者予報』は開きっぱなしにして、誰か来たら戻る予定にはしてる。一向に誰も来る気配すらしないけども!!
いやーそれにしても、魔力消費三分の一は嬉しいね。単純に三倍スキルが使えるって事で、しかも30%威力アップもあるからガンガン作業が進む。あれだね、1人建機状態だね。うん、何だか自分が本当に人間でいいのかちょっと不安になってきた。
「人間を辞めるつもりはないけども。しかし、広さが今一分からないな……。とりあえず広げるだけ広げたいのはあれだけど、効率考えると、ギリギリ入れない事は無いぐらいの広さがベストだという……」
ざくざくと土を掘る、もとい、『変性生成』で土→魔石を実行してフロアを形成しながら唸る。属性色ごとに転がる大小様々な魔石は小石モグラ達にせっせと運び出してもらっているので、きっと今頃宝物庫は大変な事になっているだろう。
まぁどうせ後で全部護剣に突っ込むから、1つたりとも冒険者の皆の手には渡らないけど。
そしていい加減暴れ……もとい働いたところで、ダンジョン管理画面を呼び出してフロアの広さを確認する。
「…………しょうがない。この辺で一回妥協しとこう」
その広さを確認して、小石モグラ達に指示をいくつか出す。そして向かったのは、部屋の隅。
「それじゃあここからは、いい加減でありつつも必殺の威力と難易度はそのままに――『変性生成』!」
【スキル『変性生成』土→魔石】
そして再び、ひたすらスキルを行使する作業に戻った。
結局あの後丸々1か月半というもの、誰1人として挑戦者は現れなかった。
期限の3日が過ぎてからは、最初の階層の最奥(主の部屋ではない)に階層移動用の魔法陣を設置して作業にいそしんでいたのだけど、やっぱり静かなものだった。
そして1か月半が過ぎてようやくやってきた挑戦者と言うのが坊ちゃま一行。今度連れてきたのは……なんだろう、木札で作ったマントのようなものにすっぽりと身を包んだ、謎すぎる人が2人。そしてもう1人は、神官のような人だった。
(そういえば、神官ぽい人って初めて見るな)
「ダンジョンマスター! いい加減に出てきてその首打ち取らせろ! 卑怯だぞ!」
相も変わらずキンキラキンの全身鎧に身を包んで叫ぶ坊ちゃまに、作業を続行しながら独り言。
「残念ながら卑怯陰険は敗者の戯言、鬼畜冷血は褒め言葉ですよ坊ちゃまー」
え、備えなくてもいいのかって? あぁうん、金鬼さんに合わせた難易度にしたから、まぁまず抜けれないかなと。
「ええい、早くやれ! とっととダンジョンマスターを引きずり出すんだ!」
「やっては見ますが……呪術師と一緒なら先にそう言ってもらいたいものですね……」
ため息をつきながらも白く滑らかなロッドを構えるのは神官さん。……なんか嫌な予感するな。一応『結界術』の発動準備しとくか。
「希う、希う。今は姿を隠された、尚この世のために力を尽くす、空間の広がりと奥行きを支配せしめし彼方様」
ロッドを体の前で掲げて始まったのは、どうやら祈りのようだ。空間の広がりと奥行き、今までの流れから考えて空間神か。
ん? 空間神の神官で、引きずり出す……?
「細やかなるものの祈りを、零細なるものの願いを、どうかどうか、その大きな御手で拾い上げ下さいますように」
「発動、5段防御結界。重ねがけ、3倍段」
【スキル『結界術』物理防御結界】
【スキル『結界術』魔法防御結界】
【スキル『結界術』対阻害魔法結界】
【スキル『結界術』対状態異常結界】
【スキル『結界術』反転反射結界】
【スキル『結界術』重ね掛け:対象 展開中結界】
【スキル『結界術』重ね掛け:対象 展開中結界】
【スキル『結界術』重ね掛け:対象 展開中結界】
嫌な予感的中――の気がして、即座に全力に近いスキルを発動。監視画面で木札の塊のような2人もそれぞれ動いているのを見て、更に防御を重ねる事にする。
「発動、3段阻害結界。“禊”を内張り。重ねがけ、2倍段」
【スキル『結界術』認識阻害結界】
【スキル『結界術』看破阻害結界】
【スキル『結界術』記憶阻害結界】
【スキル『結界術』内張り:対象 晶壁結界】
【スキル『結界術』内張り:対象 輝霞結界】
【スキル『結界術』内張り:対象 鳴粒結界】
【スキル『結界術』重ね掛け:対象 展開中結界】
【スキル『結界術』重ね掛け:対象 展開中結界】
「世界と繋がる事の叶わなかった、この理想の小さな箱庭。その主が居るのなら、せめて一度この目でその姿を確かめたい。それは小さな小さな想い事」
幾重にも幾重にも、それこそシェルターよりもなお分厚く、現実には重みを感じない魔力の殻を身にまとって、起こるだろう『何か』に備える。左手一本で護剣を体の前に、ナックルガードで顔を隠すように逆手で構え、右手も右手でとあるものをしっかり掴む。
左半身で右手を隠すように構えて、更にダメ押しで呟く。それが終るか終らないかぐらいで、神官さんの準備が整った。
「祈りを、願いを、重ねて求むる想い事。この祈りが届きましたら、この願いが聞こえましたら、その御手に宿る力の極々僅かな一欠けら、この場に顕現させてくださいますよう、畏み畏み、言の葉捧げて奉ります」
【スキル『空間神術』最上位神術:ダンジョンマスター強制召喚】
はい来た理不尽スキルっ! 警戒しといてよかったけどダンジョンマスター不利すぎるだろこの世界!!
とかいう叫びを飲み込んだ瞬間、結界の外の景色が暗く溶けた。よく分からない謎空間に一瞬飲み込まれ、そして再び景色が形を取り戻す。
(で、やっぱり目の前にいる、と)
「……何だ? アレは」
「ダンジョンマスター……の筈なのですが……」
アレ扱いかい坊ちゃま。そして自信を無くすなよ神官さん。
……まぁ、阻害魔法を3重にかけた上で重ねがけしたから、何のスキルも無い状態だと黒いぼんやりした何かにしか見えないっぽいからなー。ちなみに何で黒いかというと、あの黒尽くめの姿がイメージだからだ。
こちらの正体に自信が無いのか、状況は妙な膠着に陥った。木札の塊みたいな人たちもこちらの気配をうかがっているようだ。
(できれば……罠だけで済ませたかったんだけど……)
こうなっては仕方がない。元々想定していた事だ、覚悟を済ませていない訳では無い。準備の方は十二分に万端で、後は、相手に聞こえないように小さく小さく呟くだけ。
(……加減の出来ない奴でごめんよ)
「――全術式、待機解除。詠唱再開」
右手に掴んでいた、謎マテリアル製(ただし魔石の配分の方がやや多い)のワンドを侵入者一行に向け、
「攻撃してきます!」
「ひとまず防御を!」
メイドさんと執事さんがとっさに言うのにかぶせて、トドメの一言を。
「遍く呑み込め――タイダルウェイブ」
【スキル『水属性適正』タイダルウェイブ】
右手に掴んでいたのは、護剣が一応の完成を見た後に作った攻撃用の触媒だ。シンプルなワンドの形にしたのは隠しやすさ&取り回しやすさ重視だから。なんで隠すのかって、そりゃあ魔法は不意打ちで使わないと。
で。
やっぱりまだ名前は無い杖から迸った濁流は、狙い通り侵入者を1人残らず飲み込んだ。ぎょっとしたメイドさんと執事さんの顔は一瞬見えただけで、飲み込まれた直後に『侵入者の撃退に成功しました』のメッセージが流れる。
「うん、まぁ普通は一瞬でも生き延びる方がおかしい」
なにせ、
その正体は、雷属性エンチャントを幾重にも幾重にも重ね掛けした杖から放たれる水属性魔法。はっは、何とかできる物ならやってみろ。金属鎧を掠めるどころか剣で斬ったとしても感電死させる自信があるぞ?
「……それでも、あの人相手に通用する気がしないのは何でなのやら……」
はぁぁ、とため息をついて、また作業に戻る事にしたのだった。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:2
マスターレベル:1
挑戦者:2463人
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