第15話 把握努力≒新機能
『精霊神がオブジェクト『魔石(超巨大)』を非常に気に入りました
精霊神がオブジェクト『魔石(超巨大)』を別宅に決定しました
オブジェクト『魔石(超巨大)』が精霊神の所有となります
オブジェクト『魔石(超巨大)』が『精霊神の別宅』に変化しました
『精霊神の別宅』に侵入者が近寄る事は出来ません
『精霊神の別宅』の近くに呪い系の罠を設置する事は出来ません
『精霊神の別宅』を中心として半径2mは精霊の溜まり場となります
『精霊神の別宅』が設置された事で職業【精霊使い】にボーナスが付きます
『精霊神の別宅』が設置された事で職業【契約者】にボーナスが付きます
精霊神から維持管理費として毎月『精霊結晶』1個が送られます
地脈龍が目を輝かせて見ています
生命神がにこにこしながら見ています
情報神の興味を強く引いたようです
『街頭アンケート』の機能が解放されました
天脈龍の興味を引いたようです
虫の精霊が本気を出す事にしたようです
『噂を聞き耳』の機能が解放されました
『考え覗き見』の機能が解放されました』
「……まぁ、普通に大事だよなそりゃ……神の一柱な訳だし」
特に虫の精霊の反応が激しい。まぁ名前に精霊ってついてる時点で、何となく上下関係は見えてたけど。当神たる精霊神様は、気配がするな、と思って見に行ったら必ず幸せそうに眠りこけているけど。
きっと色々大変なんだろう、と思って毎回魔石をお供えしている。気配が消えた、と思って見に行ったら必ず無くなっているから、きっと受け取ってくれてはいるんだと思う。
「小精霊達には癒されるから、別に歓迎なんだけど。ここがダンジョンだって考えるとちょっと違和感があるような。……いや、そうでもないか」
今日も触媒をぐにぐにと改良しながら独り言。そろそろ常連さん達が準備を始める日なので『冒険者予報』は視界の隅に開きっぱなしだ。
開きっぱなし、なのだが。
「……んー、おかしいな。そろそろ兄貴さん達が3日後とかに来る予定立ててる筈なんだけど。『素早さ宣言』の人らすら来る気なしってどういう事?」
その表示は沈黙したまま。ずーっと攻め込まれ続けていたこちらとしては、いきなり手加減されるようなもので妙に調子が狂う。というか、全てのフロアの編集が終っている為、早いところ引っかかってもらって反応を見たい。
「あの正解ボタンだってやっと仕様を2段目に変えられたのに……」
手札は小出しに、オーバーキルなのは威力だけでいい。あの廊下はまだ4つの変身を残しているのだ!
最初っから考えうる最強の守りを張る訳ないじゃないか。本気っていうのは相手の学習に合わせて出していくものだよ。
「坊ちゃまが来ないのはいいとして……やっぱり、半年経過していくつかの機能が解放されたのに関係してると見た方がいいか。ダンジョンのルールに関してはまだまだ謎だし」
ぐっぐっ、と触媒の仕上げをして、全体のバランスを眺める。ぶんぶんと振ってみてもいい感じ。うん。
全体で1mほどの長さで、持ち手全体を覆う小盾(バックラー)と言って差し支えないナックルガードを備えた、全てが同一の謎マテリアル製な肉厚の片刃直剣。
触媒の最終的な形は、受け流し防御を最優先にした取り回ししやすい剣となった。魔石と金属でできてるだけあって流石にちょっと重いが、それはおいおい慣れていくしかないだろう。
「しかし、色々な属性を混ぜすぎたか……何だこの混沌とした灰色」
ナックルガードの下に完全に隠れた長い柄を両手で持って、名も無き剣を電車の光に掲げてみる。その色はもはや、何とも形容しようのないマーブル風味の灰色となっていた。色が均一ではない所がまたなお一層……。
〈これで貴方は何をするのかしら~?〉
「とりあえず改良は続けるとして、基本『結界術』の触媒。直接斬ったり刺したりは一切しない方向で。問題は剣の形でも『結界術』が発動するかどうか……。実際やってみればいい話ではあるんだけ、ど?」
考え事をしていてナチュラルにスルーしそうになったけど、今、誰かに話しかけられたよう、な?
ギギギ、と錆びついたような動きで、声のした方、右後ろを振り返る。
〈うふふ~、守り一択なのね~〉
ふわふわと笑いながら、実際地面から数センチは浮いてこちらの手元を覗き込んでいる、美人という言葉を擬人化したらこうなりましたという感じの、その実現実味の薄い美人さんがそこに居た。
「……あの、精霊神様? どうやってここまで来られたんでしょうか?」
〈あらやだ~、だって私の別邸が根を張ってるじゃないの~。移動とか祝福に関しては私の神殿のようなものよ~〉
いつも完全に熟睡しているからわからなかったが、その瞳は極上のエメラルドすら色褪せて見える程美しい緑。ただただ穏やかな光を宿すその色に思わず見とれて、「はぁ」と妙な納得をしてしまった。
つまり、精霊神様はこのダンジョンの……居候? に近い形となるらしい。だから歩き回ったり、恐らく簡単な神としての術であろう祝福は普通に行えると。
……成程、寝てる姿しか見てなかったが、この人も確かに神様なわけだ。話しているとどこか感覚がずれる。
〈それでこの剣の名前はどうするのかしら~?〉
「まだ決めてないです。ていうかまだ決まらないです。これから先も当分色々するつもりなんで」
ほわんほわんしたまま聞いてくる精霊神様にそう答えて、謎マテリアルの護剣を下ろした。そういえば鞘も作らないと持ちにくいな、とか思いつつ、とりあえず足元の地面にざっくり突き刺しておく。
〈そうなの~。楽しみにしてるから決めたら教えてね~〉
「……はぁ、まぁ、ご期待に添えるかどうかはあれですが」
ふわふわと言った精霊神様は、そのままダンジョンの壁に向かって漂っていった。返事が届いたかどうかは分からないが、うん、精霊って壁抜け出来るんだね。
しかし……いよいよ本格的に暇になった。いや、暇なのはいい事なのだけど、出来ればどうやってレベルアップするのかとか階層の増やし方とか、そういうのを調べたい。
その情報源は、今の所、冒険者さん達の独り言っていうかこっちへのメッセージだけな訳で――
「あ」
そこまで考えて、思わず声を上げる。何で今まで気づかなかったのか……否、すっかり綺麗に忘れていたのか。
善は急げとばかり、慌てて電車の、最初に座っていた席へと戻ってみた。
「…………ない、だと……」
思い出したのは、最初にダンジョンの入口条件を設定するよう急かしてきたあの文字の浮かぶ張り紙だ。山ほどの荷物の整理をしないといけないのも思い出しつつ元の席を覗き込んでみたが、そこにはほかの席となんら変わらない、ただの背もたれ裏があるだけだった。
当時の服に戻って当時の姿勢で寝てみたりもしたが、起きた所で変化は無かった。がっくり、と本気で膝をつきそうになる。
「ん?」
と、そのつま先に、何か重量のあるものが当たった。この際何でもいいからヒントをくれ、と前の座席の下からその何かを引っ張り出してみる。
出てきたのは、厚さ5㎝はあるA4の装丁本だった。ただその装丁部分が全て迷路のように細かい線で埋め尽くされ、タイトルも何もあった物じゃないが。
いずれにしろ本であることに違いは無いので、とりあえず読んでみようと装丁部分に手をかける。ぐっ、と力を入れた所で、本の表面に画面が展開した。
『ユニーク『ダンジョンの書』は封印されています
解放には職業【ダンジョンマスター】の職業ポイントが必要です
現在のあなたの職業は【ダンジョンマスター】です
使用するポイント数を入力してください
_ _ _ _ _ _ _ _ _ _
完全解放まで、あと 10000000000P です』
………………何だ、この、アホみたいな桁数は。
数えてみたら11桁目に1が来ていた。つまり、100億P突っ込まなければこの『ダンジョンの書』とやらは完全解放されないという事だ。
「……さりげなく無理ゲーじゃないのか、この本の完全解放は」
思わず顔が引きつってしまう。この間のにわか冒険者ラッシュでだいぶ溜まっていたポイントだが、金鬼さんの対処で結構使ってしまった。残りは……ざっと5000Pちょっとか。
だがしかし、今現在この本以外にまともな情報源があるとは思えない。精霊神様関連で色々機能も解放されたが、あれは主に侵入者への対策を立てる為の物だろう。
もしかして今の状態だと中身は白紙なのか、と思って再度本に手をかけてみるが、接着剤で固定してあるかのように動かない。どうやら少しでもポイントを入れて、部分的にでも解放しないとそもそも本自体が開かないらしい。
「いや、最悪完全解放されるまで一切開かないってこともありうるか……」
独り言を呟き、入力欄らしき空白を睨んでしばらく考える。職業ポイントを得るのはその実かなり大変だ。1人頭平均30Pしか入らないうえに、あの経験値インフラを起こした金鬼さんですら90P。
の割にスイッチ仕掛けだの棘天井だのには50Pとか300Pとか使うのだから、本当に割に合わない。棘天井や縄梯子に施した麻痺棘、あれですら5本で2Pなのだ。500本で200P、全くバカにできない。
今のところ毒を調合できるようなスキルも素材も無いので、状態異常系の物は呪印綿毛を除けば全て職業ポイントから賄わなければならない。次にスキルスロットが増えたら調薬系スキルを取ろう、と決めて、更に悩み、
「…………500Pを『ダンジョンの書』開放の為に使用」
渋々、声に出してポイントを使用した。
空白だった入力欄に『500』の数字が入力され、ふ、と一度全ての文字が消える。
『ダンジョン内モンスター状態一覧が解放されました
完全解放まで、あと 9999999500P です』
……思った以上に500Pはしょぼかったらしい。ていうかその位ならペンダントから出来るわー!!
と、叫びたいのを何とか深呼吸で抑え込み、今度こそと開く方向へ力をかける。今度はあっさりと開いた分厚い本は中途半端なところで綺麗に開いた。そこにずらりと並ぶのは、確かに今ダンジョンに居る配下モンスターの一覧。
なるほど、確かにペンダントからではどのフロアに何匹いるのか、しか分からないが、こちらでは一匹ずつの体力や魔力に加え、レベル、属性、現在の行動、性別までが記載されている。
ためしに、スライム(微小)の内の一匹の名前をタッチしてみる。本から画面が浮かび上がり、そこには現在のスライム(微小)の様子がリアルタイムで映し出された映像と、線図で描かれたフロア内の位置、そして細かい項目が並んでいた。
「個体名、空白。種族名、スライム。属性、無。年、2ヵ月14日……」
ふむふむと各項目を眺めてみて、右側に点滅する矢印に気づく。その部分にタッチすると、映像と線図はそのまま、細かい項目だけがスルリと入れ替わる。
「ステータス……お、思ったより細かく多岐に渡ってる……」
そこにはレベル体力魔力スタミナ攻撃力防御力以下略の文字通りステータスが。属性別の防御値まで記載されているうえ、物理にしても斬撃打撃刺突はともかく、爆破だの圧力だのまでが並んでいるのは細かすぎないだろうか。
ざっと属性の所を眺め、一度項目を戻ってもう一度眺めてみる。そこで年の欄に目が行って、ふと気づいた。
「て、年齢2ヵ月半なら最初に召喚したうちの一匹か、このスライム」
最初に召喚したのが、坊ちゃま対策の水フロア、その中を満たすために大量召喚したスライム(微小)だった。とにかく大量に召喚した覚えがあるので、他にもいるかとスライム達をタッチして年齢を確認していく。
ところが意外にも、年齢2ヵ月半なスライムは他にもう何匹も残っていなかった。寿命ではないだろうし、侵入者にやられるなんて事も無かった筈なのだが、はて。
と思ったところで、また思い出す。
「……そうか。にわか達が大量に拉致って行ってたな、そういえば……」
飲兵衛の救済策、という事で、さぞかし高値で売れたのだろう。あの冒険者達の言いようからしてかなり長い間気付けなかったから、相当数が売り物にされたに違いない。あの乱獲騒ぎを逃れてなんとかとどまっているのが、このわずかな数匹、という訳だ。
今は最初のスライムに戻っている為、水中でへろへろ泳いでいる姿が映し出されている。奥に他のスライムもたくさん映りこんでいるのはご愛嬌か。右矢印をタッチして項目を何度も切り換えながら感傷に浸っていると、ふとまた気づく。
「あれ、これまだ下あるんだ」
スクロールバーが小さく横についていた。特に何の疑問も持たず下へとスクロールする。
『レベル上限までレベルアップが可能です
レベルアップ後、そのまま進化する事が出来ます
進化先候補
・スライム
・ピュアスライム
・クリスタルスライム』
で、どこでどうやってレベルアップさせるのかは書いてない、と。
そこが分からないと意味ないじゃないか。とぐちぐち思いながら、他のスライム(微小)達のステータスを確認。
……なんと、3つ目の進化が出ているのはあのスライムだけでした。
「でもだからさ、レベルアップの方法が分からないんだって」
しかし結局進化どころかレベルアップすらもなく、『ダンジョンの書』を閉じたのだった。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:1
マスターレベル:1
挑戦者:2457人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます