第13話 暇+新しいスキル=実験

『ダンジョン固定より半年が経過しました

 称号【半人前主】を入手しました

 スキルスロットが追加されました:+2個

 過去のお知らせの参照機能が解放されました

 ダンジョン監視画面の録画機能が解放されました

 職業【ダンジョンマスター】の契約能力が解放されました

 職業【ダンジョンマスター】の憑依能力が解放されました

 職業【ダンジョンマスター】の特殊生成能力が解放されました

 職業【ダンジョンマスター】の特殊スキル発現能力が解放されました

 職業【ダンジョンマスター】のレベル上限が上昇しました:Lv100

 一部組織に対する情報制限が解除されました:~中規模

 ダンジョン入り口の隠蔽レベルが下降しました:レベル3

 ダンジョン入り口前への建物建設限界が緩和されました:村』




「…………半年」


 こちらの世界の暦は、どうやら元の世界と変わらないらしい。まだうるう年がどうなのかは分からないが。つまり……こちらの世界に拉致されてから、元の世界でも同じだけの時間が過ぎていた場合。


「大学3年生になってる、と。……いや、いくつ講義をすっ飛ばしたか数えたくもないから、留年か」


 じわり、と滲み出す物があったが、強引に拭って画面を睨む。

 心を折られてどうする。何がどうなっても生き延びると決めた筈だ。今更――そう、今更な話だ。何十年かかっても無理かもしれないのは最初から分かっていた事だ。


「……悪いが、諦めないぞ。絶対に……命がある限りは」


 何者とも知れぬ拉致の犯人に向かって、幾重にも塗り固めた心を小さく吐く。更に数秒睨みつけてから、お知らせ画面を閉じた。一度深呼吸をして気持ちを切り替える。


「さて、またスキルスロットが追加されたわけで……流石に新しいスキルを取るか」


 スキル画面を呼び出し、5個の空欄の枠を眺めて悩む。実はいくつか欲しい候補はあるのだけど、さてどうしたものか。


「必須と言えば必須だけど、金鬼さん対策で役に立つかって言われると……」


 空欄にタッチして取得可能なスキル一覧を眺め、さらに悩む。繰り返しになるが、もちろんいくつか欲しい候補はある。だがしかし、金鬼を含む化け物たちに対する手段としては、こう、何だか微妙だ。

 せめて階層が増やせればもう少し余裕もできるのだろうが、無い物はしょうがない。ある物で何とかするしかない訳だから、そうなるとやはり、必須だがダンジョン難易度上昇に直接関係ないスキルは後回しか。

 ならば、残るのは2択。


「更なる罠の極悪化か、主としての戦闘力強化か。うーん…………」


 空欄は5個。不測の事態を打開する為に、スキル取りたての状態で何とかするには、少なくとも2つは無いと厳しいから――取れるのは3つまで。


「となると、まずはこれかな」


 まず1つは戦闘力の強化に役立つスキル。戦闘力というか、防御力に限る強化にはなるだろうが、それでも、相対したら終わりの現状はさすがにまずいと金鬼襲来で思い知った。


「自分のを取ったから、もう1つはダンジョンの極悪化、と」


 もう1つは主に罠の強化に役立つスキル。もちろんこっちは遠慮なく攻撃に特化してますが何か。鬼畜冷血えげつないは褒め言葉、攻略させる気どころか利益を与える気すら微塵も無い。


「そしてもう1つは…………うーん……」


 自分か、罠か、それとも必須だが微妙な生活系か。

 常連さん達が1週間の制限期間中なのをいい事に『冒険者予報』も閉じてスキル画面に集中する。もし万が一今侵入者があったらサイレンでめちゃくちゃ驚くこと請け合いだ。

 いや、もしかしたらサイレンにすら気づかないかも……


 ふよふよ


 と、思考が脱線しかけたあたりで、視界の端を何かが漂っていった。妙に引っかかったその何かの正体を確かめるのが何故か怖い。いや、呪印綿毛なら周りに山ほど漂っている。きっとそのうちの1匹がたまたま流れただけだろう。だという事にしておいてほし


 ふよふよ~


 い……。

 …………………。

 目を閉じて深呼吸。何度か繰り返してどうにか心を落ち着かせて、そうっと顔を上げて、さきほど何かが漂っていった方向を見ると、

 そこには――


「……色つき呪印綿毛。な、訳がないか。人の姿してるし」


 ――何か赤いワンピースを着た、手のひらサイズのちみっこがふわふわ浮いていた。そのままそろりと首を回してみれば、呪印綿毛に混じってちらほら、青いのやら緑のやら黄色のがふわふわと浮いている。

 確かに可愛らしい。可愛らしいがしかし…………こいつらなんぞ。

 思わず思考停止したまま赤いちみっこをじー―――っと眺めていると、ふとちみっこがこっちの視線に気づいた。その場に浮いたまま目をぱちくりさせ、視線を合わせたまま、右にふよふよしてみたり左にふよふよしてみたり。


 だから……おまいらなんぞ?


 と、思った心が通じたのかどうかは定かではないが、赤いちみっこが、ぱあっ、と顔を輝かせた。そのまま、今度はぴゅーっ、という感じでどこかへと飛び去っていく。

 ぽかーん、としたままその姿を見送ると、1秒もしないうちに同じ速度で戻ってきた。椅子代わりの岩に座っているこちらの、手首の辺りでさかんにぱたぱたと手を動かしている。


「……つまり付いてこいと」


 その動きの中に、袖口を引っ張ろうとするものがあった事に気づいてそう聞いてみる。するとまたも顔を輝かせくるくると頭の周りを回りだす赤いちみっこ。

 あれ何か色増えた? と思ったら、本当に緑のちみっこと黄のちみっこが一緒に回っていた。何がそんなにうれしい、そして君らは一体なんぞ? と思いつつも岩から立ち上がり、一度スキル画面を閉じて先ほど赤いちみっこがすっ飛んで行った方向へ向かった。

 ダンジョンの罠はマスターに対しては発動しないので、入り口すぐの通路と同じく罠の敷き詰められた最短ルートを通り、向かった先は超巨大魔石のフロア。ここもやっぱり罠ががっつり仕掛けてあるけど、関係ないのでスルーして超巨大魔石の所に行くと。


「あれ、おねーさんは誰ですか」


 結晶が枝分かれしている根元の部分で、すっかー、と気持ちよさそうに眠りこけている美人さんを発見した。

 背丈は同じくらいだろうか、波打つような金髪は足元の辺りまであり、身にまとっているのは薄い布地を幾重にも重ねたようなワンピース、手首には赤の、足首には青の円環を3つずつ着けていて、出ているところは出て引っ込むべきところは引っ込んでいる、まさに美人という言葉を擬人化したらこうなりました、な、その実妙に現実感の薄い人だった。

 思わず声をかけてしまったが、謎の美人さんからの反応は無い。魔石は下手な鋼より硬いらしいので寝心地は悪い筈なのだが、何やらよほど居心地のいい姿勢を見つけたようだ。微動だにしない。


「……おねーさーん? もしもし、そもそもどこから入ってこられたんですかー。そしてこのちみっこ達は一体ー?」


 清々しい程に反応無し。

 とりあえずダンジョン管理画面を開いて今いるフロアを確認してみる。フロア属性、罠配置、うろうろとあちらこちらのステータスを確認していくと、一か所、何かおかしい表記があった。


『魔石(超巨大) ※精霊神が宿っています』


 手についた土を丁寧に払い、『水属性適正』で水球を出して手を洗う。ぬれた手のままごしごしと顔をこすって、再び画面、オブジェクト詳細画面を確認。


『魔石(超巨大) ※精霊神が宿っています』


 変な表示のまま変化なし。

 ふと思い出して過去のログを呼び出してみる。どんどん遡って行ってこのダンジョンに名前が付いた時の辺りに行って、


「……なるほど、このフラグの回収か」


『精霊神が何かを検討しています』の表示を見つけて、そう呟いた。そしてもういちど謎の美人さんこと精霊神様(?)に目を向ける。微動だにせず快眠中だ。


(……この眠りを妨げるのは良くないな)


 この様子からして、休憩所なり昼寝場所なりに選ばれてしまったんだろう。となれば、4色のちみっこ達はそれぞれの属性の精霊で間違いあるまい。下位か中位かは分からないが、無邪気な様子から下位じゃないかなと判断。

 すると、まぁ、魔石をお供えしておけばいいか。精霊達の色ごとに3つずつぐらい固めておいておけば分かりやすいだろう。


(問題はこのちみっこが、どうして連れてきたのかという事なんだけど)


 もし何か精霊神に聞くべきことがあるのだったら今ここを離れるのはダメなのだろうが、その精霊神様はぐっすりお休み中だ。神様の時間基準というのはよく分からないが、当分起きないのは確実だろう。

 そう思って赤いちみっこ、こと、火の小精霊(仮)に目を戻す。

 いない。


(と思ったら寝てる)


 いつの間に移動したのか、精霊神の手元で丸まってくぅくぅ寝息を立てていた。うん、やはり起こすのは良くない。そっと移動してそっとお供えして、またダンジョンの編集作業に戻ろう、そうしよう。

 うんうん、と自分で自分に言い訳して、そっとその場を離れたのだった。




 という珍事があったりして思考が止まったりもしたが、どうにか無事新しいフロアの編集も終了。これで上限フロア数となったので、主の部屋に戻ってスキルを使ってみる事にした。

 結局とったのは、『結界術』『多種合成』『雷属性適正』の3つ。悩みに悩んだ末、最後の1つは必須の物の方にした。本当に危なくなってたんだよ……携帯を始めとした、元の世界の電化製品の電池残量が。

 まぁ、当分練習して加減を覚えないと逆に壊してしまいそうな威力だったから、危機なのは変わらなかったりする。


「でもコレ面白い、『多種合成』。この分だととんでもマテリアルでも作れそうだ」


 【ダンジョンマスター】の特殊スキル能力が解放されたせいかどうかは分からないが、『変性生成』と『多種合成』を組み合わせると非常に楽しい事になった。とりあえず、これで自分用の護身武器……っていうか、結界術の触媒を作るとする。

 という事で用意したのはオーソドックスにミスリル+魔石。

 右手に子供の頭位の透明な魔石、左手にそれより一回り大きいミスリルの塊を持って、


「『多種合成』!」

【スキル『多種合成』異種合成】


 の掛け声と共に体の前でぶつける。と、その2つは粘土の塊同士でもぶつけたかのようにぐにゃりと柔らかく変形し、魔石と同じ大きさに縮んで一塊になった。


「続いて、『変性生成』と」

【スキル『変性生成』変形形成】


 手と塊が薄っすら光を帯びたのを確認して、再び塊に力をかける。柔らかい粘土のように変形する謎マテリアルの塊をぐにぐにと形作っていく。不思議な事に圧縮する方向に関しては無制限にできるらしい謎マテリアルをしばらくいじって出来たのは、


「……なんか変な感じになった」


 杖、のつもりで、何だかよく分からない棒っぽい物だった。いまいち不満、の評価を下して、失敗作の山の方にぽいと放る。あれも溜まったらまたまとめてぐにぐにと加工するつもりだ。

 今失敗作の山を構成しているのは、魔石と金属の合成謎マテリアル、金属同士の謎合金、色んな色の混じった多属性魔石、それらで出来た杖モドキだったり短剣モドキだったり、『結界術』の触媒にするつもりで作った物ばかりだ。

 触媒というのは、美人魔法使いさんや灰兎さんが使っていた杖の事。

 なのだが、魔力を込められる素材で作られた装備品ならなんでも良いようだ。それでも杖の形をとっているのは、それが一番集中できるから……、つまり、気分の問題らしい。スキルの説明文を見る限りそうだった。


「やっぱり気持ちが重要なのか……。とはいえ、盾にするのは何か違う気がするし……」


 謎マテリアルをこねまわしながら独り言。実はうまくいかないのもいまいち頭に具体的なイメージが浮かんでないからじゃないかと思っている。

 そう、問題は、どういう形にするか、なのだ。盾は何か違うし、かといって杖や剣は攻撃的な方向の方が向いている気がする。こうして触っている間に何か閃かないものかと思いつつ失敗作を量産している訳だ。


「そう、何か、ただ単純に防御しても、防御ごと切り裂かれそうなんだよな。だからこう、一捻り欲しいんだ」


 そうしているうちに、何故盾が違う気がするのか、その原因に思い当たった。先日の金鬼襲来、その時に見た、仕掛け扉の力技での突破だった。自分の実力が生半可以下なのは百も承知なので、一応しっかりした扉が一撃で壊されたのを見ている以上、通用する気が欠片もしなくなっているのだろう。


「となると……跳ね返して相殺、か、物理無効、か、受け流す、か…………」


 うん?

 受け流す?


「……確か、あったな。防御に特化した、頑丈さオンリーの防御剣……」


 斬れなくても届かなくても、ただ守る事だけに特化した、そんな護剣。なんのゲームだったか、確かそんなのがあった筈だ。

 うろ覚えながら、その剣の姿を思い出して――


「……よし」


 そのイメージを持って、失敗作の山へと向き直った。









死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:1

マスターレベル:1

挑戦者:2457人

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る