第11話 ホイホイ=餌+巧妙な罠
『ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました▽
ダンジョンに6人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました▽
ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました▽
ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました▽
ダンジョンに6人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました▽
一ヶ月で100人の侵入者の撃退に成功しました
一ヶ月で500人の侵入者の撃退に成功しました
一ヶ月で1000人の侵入者の撃退に成功しました
称号【100人斬り】を入手しました
称号【500人斬り】を入手しました
称号【1000人斬り】を入手しました
称号【一騎当千の主】を入手しました
称号【ホイホイダンジョンの主】を入手しました
称号【超人気主】を入手しました』
「やってられるかぁあああああああ!!」
叫んで、ダンジョン管理画面のとあるスイッチを押しこむ。進入してきていた冒険者の誰かが足元の罠を踏みつけたのと全く同じタイミングでガパリ、と音がして、ドザバー―――――!! という音が続く。
「「「「アッー―――!!」」」」
今侵入してきていた4人組の冒険者は唐突な水流になすすべなく飲み込まれ、通路の奥へと流されていった。その先は例のほぼ生還不能な水フロアだ。
さして間を開けず現れる『侵入者の撃退に成功しました』以下の表示を無視してダンジョン管理画面に指を走らせ、連続10組の侵入によりガタガタになった罠通路の仕掛けを大急ぎで修復する。
「モンスター召喚、呪印綿毛を10セット!」
【スキル『モンスター召喚』呪印綿毛(20匹セット)×10】
完了ボタンを右手で押し込みながら左手を横に突き出してスキル発動。光を放って魔法陣が現れ、そこから綿毛がふわふわバサバサと吐き出される。
「5匹ずつに整列、今から手を叩くから、そのあとに発言する言葉を一文字ずつ記憶! 記憶出来たらそこの穴から下に行って、行った順番に通路全体使ってただよう事! たまに大水流すから、その時は事前に壁に埋まる!」
鳴り響く、ビィー―――――――!! の音に負けないように大声を張り上げて、綿毛が一塊ずつ縦に並んだところで手を叩く。ゆっくりしっかりある言葉を一音一音区切って発音すれば、綿毛にはその言葉が文字となってぼんやり浮かび上がった。
一見2㎝ぐらいのケセランパサランのようにも見えるこいつらは、スキル『モンスター召喚』で喚び出せる“呪印綿毛(20匹セット)”だ。
術の一種なんじゃないかと思ったけど、なんのなんの、思った以上にはっきりとした意思があって扱いやすい。ふわふわ大量に漂ってるのを見ると癒されるし。
で、何でこんな修羅場状態になっているか、というと。
「あぁもう誰か何とかしろこのにわか達ウザ過ぎる……!!」
ダンジョンに名前が付いた+『義兄弟』の持ち帰った超レア魔石=冒険者殺到。
という事で、今非常に忙しいわけである。ほとんどが『冒険者予報』に挑戦回数の出ないご新規という訳で、あっさり落ちてくれるのはいいんだが、その頻度があまりに高すぎるのが問題だ。
いつかの金持ちさんこと坊ちゃまが行った波状攻撃、あれの無意識な大規模バージョンという感じか。プラス、何故かご新規さん達はロスト以外でアイテムを落としていく事が発覚。
その場合電車には届けられず、その場に落ちたままになる。ので、小石モグラを大量召喚して回収に当たらせてるのもあって、罠の再設置が全く間に合ってない。
「あー電車の様子も見れてない。あんまり重いものはないだろうから潰れてはいないと思うけど、席が一杯になったらどうなるんだろう」
幸いなのは【ダンジョンマスター】の恩恵として、睡眠も食事も必要ないという事か。お陰で何とか戦い続けていられるが、もし睡眠が必要だったらとっくに突破されていてもおかしくない攻撃密度である。
1週間の縛りが効いているのか、それとも交通事情的な何かなのか、たまに『冒険者予報』で最新の冒険者が2日後とか出る事があって、その間にほんのちょっと仮眠をとる、くらいの物だ。
「新しいフロアを編集したいのに……」
また一組、今度は6人組の冒険者を落として、今度はスライム(微小)をまとめて100匹召喚。こちらもわざわざ作った水フロアへ直通の縦穴へ向かうように指示して、さらに罠を修復する。
「しまった、もうストックが無い!」
一番よく引っかかる『飛び出し系』の罠、その飛び出す物のストックが残り少なくなっていることにそこで初めて気づく。槍にしろ矢にしろ、基本は使い捨てだ。
職業ポイント節約の為に『変性生成』で作って設置していたのだけど……まぁこれだけ派手に使い倒せば無くなりもするか。合間合間で作るにも限度があるし。
「あーもー、本当魔石の価値を見誤った……!」
また来た冒険者が水フロアへ入ったのを確認して、スライム(微小)たちに『ひとまず逃げに徹して』と指示を出す事で時間稼ぎにして、新しいフロアの予定地に移動。
できれば魔力はモンスター召喚の為に温存しておくべきなんだろうけど、罠の方が大事なのでしょうがないと割り切る事にする。スキル『変性生成』を発動して、石の矢じりを大量に作り出した。
途端、くらりと視界が歪んで、その場に倒れそうになった。
「……ヤバ、このタイミングで魔力切れとか……」
気力で倒れるのを阻止して思わず呟く。こうなったらしばらくスキルは使わない方がいい……というか、使うと気絶する。気絶は本当にしゃれにならないので椅子代わりの岩に腰を下ろし、『罠作成』を発動。石の矢じりが、全部ちゃんとした矢に変わった。
小石モグラが集めて丁寧に山積みにしていく矢の山に触れて再度『罠作成』を発動。ダンジョン管理画面の横、罠のストック一覧に矢の本数が増えていくのを確認して、
「しんどい……」
流石に、天を仰いだ。
ちなみに、スキルを使うと気絶する、と言ってる割に『罠作成』を使っているが、これは魔力消費量ギリギリの綱渡りだったりする。【ダンジョンマスター】に加え【罠職人】にもなったので、低位の罠の作成ではほぼ魔力を消費しないのが分かってるのもあるが。
ぐったり脱力して監視画面に目をやれば、水に飛び込んだ冒険者達は何故か目の細かい網を水中で振り回していた。今スライム(微小)達には、とりあえず逃げに徹するように言ってあるのでいつまでも捕まらないと思うのだが。
「おい、話と違うぞ」
「ここのダンジョンマスターは学習が早いらしいから……一歩遅かったって事か」
……こいつら何言ってるんだ?
「かーっ、せっかく大儲けのチャンスだと思って、わざわざ護符を買い占めてきたのに丸損かよ!!」
「何でかここぞって時の運は無いんだよな。しゃあない、諦めて潜ろうぜ。スライムが逃げるんだったらあの扉にも届くだろ」
「寄ってたかって沈めに来るから、捕り放題って話だったのにな。ま、行くか。そのために装備も整えたのに、つり合い取れるんだろーな?」
……。
捕り放題。寄ってたかって沈めに来るから、捕り放題。
つまり、スライム(微小)がこいつらの狙いだったって事? 確かにゲームとかでも生け捕り用のアイテムはあるけど、一体何に使うんだ?
とりあえず腹が立ったので極細テンタクルを寄生させることにする。あぁ、何人かに実験した結果、別に支配状態になる訳ではないらしい。無理やり表現するなら、思考を盗む、が一番近いか。
何でスライム(微小)を狙ったかっていう理由は後々聞かせてもらうとして、とりあえずその網置いて帰れお前ら。
「「ごぼぐばぼぼっ!?」」
スライム(微小)が押した壁のスイッチで天井から鉄球が落下。その衝撃波で水中がかき乱されている間にテンタクルに網を回収させ、スライム(微小)達に無理やり水中に沈めこませる。
酷い水中の悲鳴を無視。改めて気合を入れて、ダンジョン管理画面へと向き直った。
結局、餌(魔石)に釣られたにわか達のラッシュは2ヵ月半続いてやっと終わった。『冒険者予報』に並んだ人たちの挑戦回数の多さを見て、やっと常連さんだけになったのかと思わずほっとして倒れそうになったのはしょうがない。
とりあえず罠を満載にしておいて電車でぐっすり。体勢的に無理がある格好で寝てるのだけど寝違えとか肩が凝ったりしたことはない。理由は分からないがファンタジー万歳なのだろう。
そして起きて挑戦者たちの履歴を確認。うん、皆さん予想通りの所で落ちてます。いやーいいわこの安定感。まぁその安定感に安心してたら足を掬われるんだろうけど。
で、例のスライム(微小)を捕獲してどうするのか、という話は、というと。
「ようするに、飲兵衛の救済策か……。オークション、絶対あれ、兄貴さん参加してたよなぁ」
要点は、あのスライムが透明である事。水オンリーで生きていける生活環境だった事。小瓶にちょうど入るサイズだという事。の3つ。
スライム(微小)を酒の瓶やワインのボトルに入れてしばらく放置しておくと、水分以外の成分をその身に凝縮して中身を水に変えてしまう。これは元々スライムという種族が持っている性質なんだそうだ。
そして酒を凝縮したスライム(微小)を丈夫な小瓶に入れておくと、機嫌よくそのまま詰まっているんだそうだ。そして一日一回水を入れたコップに放してやると、コップの中身を吸収した酒に変えて、また大人しく小瓶に戻る。
「まぁ確かに、スライムを食べ物とは言わないな……。特にうちのダンジョンでは大事な配下だし」
高価な酒、というのは、総じてランクが低いんだそうだ。だから飲兵衛冒険者たちは、ダンジョンでのロストを承知で常に大事な酒を持ち歩く。
スライム(微小)に吸わせておけば、飲めるのが一日一杯に制限されてしまうもののほぼ確実に安全だ。過去に同じことを考えた奴がいない事は無いのだが、完全に透明なスライム、これが何処をどう探してもいなかったらしい。
というのも、スライムは野生の場合湿地帯なんかに居る訳で、既に泥や枯葉を大量に飲み込んだ状態だ。腹下し確実の酷い水に、大事な酒をさらそうとする飲兵衛はいないだろう。
ならばスライムを捕まえて、透明な水の中で飼って透明にすればいいんじゃないかと思うが、それをすると大概のスライムは溶けて死んでしまうんだそうだ。どうも急な生活環境の変化のストレスが原因のようで、ついぞ飲兵衛達の悲願は達成されなかったらしい。
「そこを直撃したのが、うちのダンジョンの綺麗な水しか知らない、純粋無垢な手の平スライムだった、って事か」
そりゃあ売れる。むしろ売れない訳がない。しかもこのダンジョンに集まっているのは中堅から一歩先へ踏み出した辺りの冒険者だ。インフレ率がおかしいに決まっている。
「はっきり言って、濡れ手に粟以上のボロ儲けに違いない」
げんなりしながら極細テンタクルの送ってくるレポートに目を通して、思わずため息をついた。本当に色々考えるものだ。3人集まれば文殊の知恵とはよく言ったもので、たまに飛び出すとんでも発想はマネできる物じゃない。
「…………やっぱり、1人っていうのは厳しいなぁ」
寂しさを無理にねじ伏せながらも――そう呟いてしまったのは、誰だって同感だと思う。
死の修行所・獄 ※心折れ注意
属性:無・罠・境界・異次元位相
レベル:1
マスターレベル:1
挑戦者:2402人
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