第10話 定義固定:公式選択

『ダンジョンの名前が“死の修行場・獄 ※心折れ注意”に設定されました

 属性に【無】が追加されました

 属性に【罠】が追加されました

 属性に【境界】が追加されました

 以下の侵入条件が固定されます

 ・自力蘇生アイテム1つ所持

 ・自力蘇生アイテム発動時強制送還

 フロア数制限が緩和されました:+3フロア

 罠設置制限が解除されました:Lv10

 スキルスロットが追加されました:+2個

 職業【ダンジョンマスター】のポイントを入手しました:500P

 職業【罠職人】を習得しました

 称号【罠マイスター】を【罠職人】の熟練度100に変換します

 職業【策士】を習得しました

 称号【考える者】を【策士】の熟練度50に変換します

 称号【知りたがり】を【策士】の熟練度30に変換します

 称号【眺める主】を【策士】の熟練度70に変換します

 称号【多芸な主】を入手しました

 称号【常識を破壊する者】を入手しました

 称号【我が道をゆく者】を入手しました

 生命神が嬉しそうに微笑んでいます

 悪戯神が笑いを抑えるのに苦労しています

 地脈龍がしげしげ眺めています

 精霊神が何かを検討しています

 冥府神からお礼状が送られてきました

 称号【気苦労の軽減者】を入手しました

 ユニーク:『冥府神のお礼状』を入手しました

 黄泉返りチケットを10枚入手しました』




「…………なんぞこれ……」


 ドワーフのおっちゃん襲来のピンチから2週間。お知らせ画面にいつか金鬼さんを退けた時やダンジョンの侵入条件を設定した時並みの文字が並んでいて、思わずそう呟いていた。

 心折れ注意ってなんだ。【常識を破壊する者】ってなんだ。特に、冥府神からのお礼状ってなんだ……っ!

 と思って、はたと気づく。


「……あー、ダンジョン内死者の軽減に貢献したって言えば、したことになるのか」


 まぁ、もらえる物は貰っておこう、という事で電車の中を探してみると、ありました、10枚綴りの特急券みたいなのが。裏書きに、死んだ時に持っていたら、1枚につき1回だけ還ってこれると書いてあった。

 つまり、10回までなら命の保険がある、という事だ。本当にありがたい。ただ問題は、蘇生するタイミングな訳で……死んだ直後に蘇生しても、すぐに殺されるだろうし……。

 とにかく、持っておくだけ持っておくことにする。ポケットに入れるか、と思った時点で、光るチケット。光が収まった後には空になった手と、


『所持アイテム:

 黄泉返りチケット×10』


 というお知らせ画面にかぶさった新しい画面。

 ……今更アイテムボックスの存在が発覚ですよ。しかしどうやって呼び出すんだ? 散々ペンダントをいじくり倒してまだ見つからなかったんだけども。

 うーん、と考えていると、ふと視界の隅に表示の変化が起こる。


『冒険者予報

 時刻:1時間後

 人数:3人

 挑戦回数:8回目』


「兄貴さん達だな」


 独り言で断言して準備にかかる。さてどの仕掛けを使おうかと思ってダンジョン管理画面を開き、


「…………」


 そういえば、と、前から思っていた事をふと思い出して、そちらの準備に取り掛かった。




「……名前がついて一番乗りを譲られるのは、貧乏くじか?」

「あいつら『お前らが一番乗りしたんだから』って無理やり押し付けてきてたもんな」

「普通は当たりくじなんだけどな一番乗りって」


 ……まぁ何というか、随分な言いようだな兄貴さん達以下常連組……。

 次に潜る奴は覚悟しとけ。何が起こったかわからんうちに落としてやる。


「……ともかく、名前が付いた以上、ハイランカーも潜ってくるようになるから、気を引き締めろよ、ダンジョンマスター」

「普通のランク7とかならともかく、金鬼レベルにならないと話にならない気もするが、まぁあれだ、がんばれダンジョンマスター」

「頼むぜー、ここで死にまくったお陰で、やっと他のダンジョンの罠がぬるく感じだしたところなんだ!」


 あ、やっぱりあの人は化け物なんだ。どうしようかと思ったけど。……まぁ、あんな人がゴロゴロいたら困るのはこっちだけじゃないか。中堅以下の冒険者の仕事が無くなるだろうから。


「……では、名前が付いたその結果、どうなったのか体感してみるか」

「出来るだけ奥に進む命を大事に、だな」

「あっ、罠看破スキルのレベル上げにもすごくいいんだ! もうちょっと粘ってくれな!」


 言われずとも殺されるつもりなんてないっての……。

 そして相変わらずの罠回避ですね。あ、ほら、3人ともぴょいって棘天井避けてるよ。重戦士な兄貴さんですらあの身のこなしなんだから、案外誰でも避けれるもんだと思ってもしょうがない。

 そしてあっという間に行き止まり到着ですかそうですか。兄貴さんたち有能すぎるから!


「……問題はここから、だな……」

「いまだに何も見つからないんだもんな。ここに無かったらあの水底の扉って事になっちまうし」


 流石に兄貴さんもトラ耳剣士さんも顔が苦いなぁ……。まあ、どれだけ探してもそこから先に進む道が見つからないんだからしょうがないって言えばしょうがないか。

 盗賊係さんは一生懸命周りの仕掛けを調べてる。例によって怪し過ぎる赤いでかスイッチはあるけど、スルーが基本になってるね、皆。

 んー、一応仕込んでみた物はあるんだけどな。気づくかな、盗賊係さん。兄貴さん達に出来れば引いてもらいたいんだよねー、さっきの発言撤回させるためにも。


「ん?」


 お?


「兄貴」

「……どうした?」

「ここ、なんか小さい物が隠されてる。開くと矢が飛んでくるから、避ける準備しといて」


 行き止まりの壁を調べていた盗賊係さんが、腰ぐらいの高さに何かを発見して2人に声をかけた。兄貴さんとトラ耳剣士さんはそれぞれ顔を見合わせて、盗賊係さんが指し示す場所の直線上から体をどかせた。

 ……いいのかなー、そんな単純な回避用意で。獄の字がついたダンジョンですよ、ここ。自分で言っててなんだけど。


「あ、違う違う。ここに発射穴ないんだよ。でも矢は飛んでくる仕掛けがついてんの」

「……頭か?」

「毒を塗って足ってのもあると思うぜ」


 よくお分かりで。


「……何本か分かるか?」

「あー、流石にそこまではちょっと? 発射は一回だけだと思う」

「って事は……上からとか下からもありそうだな。両方警戒しとこう」


 それぞれ言って剣と盾を構え背中合わせになるトラ耳剣士さんと兄貴さん。盗賊係さんは左手で短剣を逆手に持って、右手をそろそろと壁に伸ばす。

 その手が一点に触れて、カチン、と軽い音がした。


「「「!」」」


 びりっ、と感電しそうなほどの緊張が走って、


「「「……?」」」


 ……何も起こらないまま数秒が経過した。3人はそれぞれ周囲を警戒したまま声を掛け合う。


「……不発、か?」

「いやそれはないだろ」

「わざとって言っても、実際何も――」


ガヒュンッ!!

ガッギンッ!


「「のぉあ!?」」

「……成程、時間差か」


 驚いた2つの声は盗賊係さんとトラ耳剣士さん。普通は驚くでしょうそこは……。何でしっかりガードした上冷静に考察できるの兄貴さん。いや、やっぱり兄貴と呼ばれるだけはあるって事か。


「つーかこれ……矢じゃねぇよ、バリスタだよ」

「……一応、分類は矢だな」

「にしても明らかにオーバーキルだろ! まともに食らったら胴体吹っ飛ぶじゃ済まないって!」

「しかも、ご丁寧に棘がびっしり生えてるぜ。掴める程の化け物なんて――もしかして、金鬼対策、か?」

「……だけではないだろう。矢じりを見れば拾おうとするだろうからな……」

「ミスリル製……だと……。いや待ってくれ兄貴、俺今、心底このダンジョンマスターの価値観が分からなくなった」

「俺だって分かんなくなったっつーの……。何でミスリルをこんな所に使うんだよ……」

「……必殺、に、全てをかけているんだろうな。そしてもし万が一防げたら小金になる、と思えば、わざと発動する奴も出るだろう。特に、ここまで抜けてくる実力者くらいになれば」

「「文字通り釣り餌か!!」」


 釣り餌は想定外ですと言っておく。しかしそうか、小金になるのか……狙う位置をもう少し工夫してみよう。わざと発動させるレベルのヤバい奴を仕留める為に。

 ところで盗賊係さん、早めにしないと、せっかく開いた仕掛けが閉じるよ? 閉じたらもう1回開き直しで、またあの矢が飛んでくるけど、いいのかーい。


「うおヤベ!」


 危機一髪小箱入手、よかったね、壁に噛まれなくて!


「……で、肝心のそれは何だ?」

「んー、これ自体には何の仕掛けも無い。ただ振っても音がしないし軽いから、スカかも」

「流石にそれは無いんじゃないか? それでスカだったらただの矢を打たせるひっかけって事に、なる……すまん、ありそうだな」


 流石にそこまで酷い仕打ちはしないっつの!

 全く、パッと見何の飾りも無い地味な手のひらサイズのくすんだ白の小箱だからって、なめ過ぎじゃないのか。基本常識が通用しない(らしい)のがこのダンジョンなのはよく知ってるだろうに。


「んじゃ……開けるぞ?」

「ちょっと待て、距離を取らせろ」

「相変わらず扱いが酷ぇ!!」


 酷いっていうか雑だな。本来斥候役って危険で貴重だと思うんだけど。まぁこのダンジョンでは本当には死なないし、ある意味しょうがないか。

 2mほどの距離をトラ耳剣士さんと兄貴さんがとったところで、盗賊係さんはため息をついて箱に手をかけた。涙目になりながら、もう自棄なのかためらわずにフタを持ち上げる。


「ぶふっ!?」

「……!?」

「大丈夫か!?」


 途端、白い綿毛のようなものが大量に噴き出した。本当に箱に収まっていたのかと疑わざるを得ない量の綿毛は天井にぶつかって広がり、そして重力に従ってふわふわと落ちてくる。

 視界の邪魔になる綿毛だけを振り払って盗賊係さんに近づくトラ耳剣士さんと兄貴さん。綿毛の直撃を顔にもらった盗賊係さんは頭を振ってまとわりつく綿毛を落とし、箱は手に持ったままばたばたと自分の様子を確認する。


「い、いまんとこ……。でも、毒とかじゃない気はする」

「……見た目には何も変わってない、な」

「驚かせやがって…………って、それが目的か!」


 まぁ普通は正体不明の攻撃だと思うだろう。真っ先に思い浮かぶのが毒や麻痺の状態異常、次が本人自覚なしの身体的異常。他にも色々あるらしいけど、このダンジョンはレベル1、そこまで難しいものがあってたまるか、って感じか。

 そしてまぁ、問題は残った中身、だ。え? だっから、空じゃないって言うのに! ちゃんと中身は入ってるよ! ただ、その正確な価値が分からないだけで!!


「「「…………………………………………」」」


 あれ、なんか、ちんもくがしょうかんされてる、よ?

 むしろここまで固まられると怖いな……。なんか反応プリーズ兄貴さん達。え、もしかしてあんまり苦労に見合ってなくて言葉も無い感じとか。あー、だったら心底すみませんでした。


「……ダンジョンマスター、」


 はいっ!?


「……すまん。俺たちはお前の事を誤解してたかも知れん」


 ……はい?


「……こんな宝がレベル1から出るのなら……この罠の難易度も、納得だ。今まで散々理不尽だの鬼だのと言って、すまなかった」


 ………………あれぇ?

 えっちょ、何でそんな急に反省モード!? そんなにいい物でしたかそれ!? うわ、見誤った!!


「直径2㎝はあるよな……しかも曇り1つ無いと来たか」

「兄貴、どうする……? そりゃ欲しがる奴は星の数ほどいるだろうけど、絶対俺らも命狙われるぜ……?」

「だが実際、このランクの魔石を扱えるとなると、それこそ王都にでも行かないと無理じゃないか?」

「しかも中の魔力が色と一緒で澄み切ってる上に高濃度だよ……。ダンジョンだからかどの神気にも染まってないしさぁ……」


 …………………………。

 うん、分かってる。完全にやらかしてしまいましたね。もう、ぅわーい……だよ…………。


「……いっそ自分で使ってしまおうかとも思ったが、親父さんぐらいしか扱えないだろう上、俺自身のレベルが足りそうにない。……王都まで戻って、換金だな」


 兄貴さんでレベルが足りないとか、どんだけー。

 実は『変性生成』でダンジョンの土3㎏から作った物で、それが最低サイズなんだけど……、自分で作った物だからか、レア度が表示されなかったんだよ。ランクはかなり高かったから頑丈なのは分かってたんだけど。

 にしても、そうか………………あの通路を越えた先のフロアにもうちょっと細工しよ。うっかりしたら最強のトラップになるかも知れないし。


「……ともかく、俺が預かる。換金まで行ったら、山分け――」


 透明な魔石を懐にしまいつつ兄貴さんはそう言って、言葉の途中で膝をついた。言葉を止めて自分の様子を見ようとするが、盗賊係さんとトラ耳剣士さんも続けて地面に倒れる。

 当然ながら罠が発動して2人は落とし穴の中へ。そして数秒もしないうちに兄貴さんの体からも力が抜け、その場に倒れた。同じく落とし穴発動で退場。


「……変なところが予想外だったけど、まぁ、肝心なところはうまくいったから問題ない」


 その様子を監視画面で眺めつつ小さく呟く。そして、その辺にふわふわ漂っていた綿毛に命令して、落ちていた箱に呼び戻した。逆再生のようにぎゅうぎゅうに箱に詰まる綿毛たち。最後にパタンと箱のふたが閉まり、そしてその箱は、コマンド1つタッチするだけで手元へ出現。


「お疲れ、呪印綿毛ーズ。思ったよりいい仕事するなぁ」


 宝箱に罠やモンスターを仕込むなんて、鉄板だよね?








死の修行所・獄 ※心折れ注意

属性:無・罠・境界・異次元位相

レベル:1

マスターレベル:1

挑戦者:91人

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