第8話 罠vs罠職人=知恵比べ

『侵入者の撃退に成功しました

 280の職業ポイントを入手しました

 2470の経験値を入手しました

 1235の経験値を入手しました

 以下のアイテムを入手しました

 ・白い固形燃料×4

 ・青い固形燃料×3

 ・精霊石(小火)×2

 ・火打石×1

 ・歌羊の干し肉×3

 ・草豚のベーコン×4

 ・小鳥麦の白パン×7

 ・暴れ麦の黒パン×3

 ・杠の砂糖細工×3

 ・サノホのパイプレート×2

 ・サザンシの塩辛×1

 ・霊石温泉パン×2

 ・カメノメ×1

 ・スラッパー×2

 ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました』




 坊ちゃま一行……いや、坊ちゃまは、あの後なんと1時間も喚き散らし続けた。流石にうざくなったのか、灰兎さんが頭上に向かって魔法を発動。問答無用で全員を巻き込んで自爆して、やっと帰ったのだ。

 にしても、雇われ盗賊3人組、事前情報はちゃんと仕入れておいた方がいいと思う。2人も武器落としてるよ。確認した限り、メインの武器の大きさではないようだけど。

 で、入れ替わるようにやってきたのはいつぞや全く出番のなかったイケメン剣士と、盛大に自爆してしまった美人魔法使いさん、プラス、なんかポケットだらけのツナギを着たおっちゃん。


「うふふふふ……!」


 ……美人魔法使いさんが、ずーっと忍び笑いをこぼし続けていて怖いな、正直……


「見ての通り、このダンジョンにはモンスターが一匹もいない。あんたの独壇場だろ? ダンジョンマスターの所まで行きさえすれば、俺たちが負けるはずはない」

「……ふん……まぁいい。積まれた金の分だけの働きはしてやる」

「それで構わないさ」


 イケメン剣士が無駄にきらきらする笑顔を浮かべて話しかけた先はツナギのおっちゃん。……んん? ちょっと待て、あのおっちゃんの立派なヒゲ、小さい身長、の割に分厚い体つき…………


(ま・さ・か・の・ここでドワーフキター―――!!)

「全く、『義兄弟』だの『素早さ宣言』の奴らが散々文句を垂れるから、気になっちまったじゃねえか……」


 テンションが上がるこっちに構わず、ぶすっと不機嫌な顔のままぐちぐち言うドワーフのおっちゃん。ん? そういえば金鬼さんもいってたけど『義兄弟』って……もしかして、兄貴さん達のパーティ名?

 てことは、『素早さ宣言』もパーティ名……なんだろうなぁ。4人組じゃないのは確実として、どっちの2人組だろう。

 と。呑気に観察していたのが悪かったのか、


「さぁて、それじゃあ一丁、知恵比べと行くか。ダンジョンマスターよう」


 そんな独り言と共に、にやり、と笑うおっちゃん。その場にしゃがみ込んでツナギのポケットがら道具を出して、ちゃっちゃっちゃ、と何かをしたと思ったら、


「『罠が解除されました』!?」


 同時に開いていたダンジョン管理画面にそんな文字が出て、思わず手を止めて監視画面に注目した。おっちゃんの手元にはポケットから出した工具、そして、散らばるトラップの材料。


「ちょ待て、そんなんアリか!? 反則じゃないのそれ!!」


 重ねていた2つの画面を同時に見れるよう配置しなおして、作ったばかりの岩の上に腰を下ろす。その間にも次々に『罠が解除されました』の文字が浮かんでは、おっちゃんの手元に罠の材料が増えていっていた。

 ダンジョン管理画面でいじるのは、いまだ未発見の罠。ダンジョンの見えないルールに『侵入者に見える範囲でのダンジョン編集不可』というのがあるのだけど、しっかり土で覆ってある分に関しては編集可能だ。

 管理画面に指を走らせ、おっちゃんの手が届かないうちに組み替える。解除しようとすると発動する仕掛け――だった、のだが、


「ふぅん、なかなかやるじゃねえか。だが、まぁ子供だましだな」


 あっさりと出る『罠が解除されました』の文字。びっしり罠を仕掛けていたのが幸いして、距離的にはまだあまり進んでいないけれど――


「間違いない……このおっちゃん、罠職人だ」


 知恵比べ。おっちゃんは解除に取り掛かる前、確かにそう言った。その意味はつまり。


「おっちゃんが全ての罠を解除しきるのが先か、こっちがおっちゃんの腕を上回って罠を発動させるか、いざ尋常に勝負ってか……!」


 いや、冷静に考えれば罠だけで勝負する必要は無い。何故ならここはダンジョンであって、腕試しの会場ではないのだから。おっちゃんさえ何とか落としてしまえばあの2人が罠地帯を突破するのは無理があるだろう。

 そう。勝負する必要は、無い。

 無いが――少なくとも今は、この勝負に乗るしかない。


「準備が全然足りないっての……! よく考えたら罠解除専門のプロとか居てあたりまえじゃないか、気付こうよ最初にさぁ自分!」


 涙目になりながら頭をひねり、罠を更新していく。殺傷力は十分なはずなのだけど、まだ荒があるのか解除されるペースが変わらない。3段仕掛けのスイッチを1→3→2と仕込んでみても、


「ん? おぉ」


 の一言であっさり解体されたよチクショウ!

 これは付け焼刃では無理と判断して3段以上発動の罠を全部引っ込める。素材としてダンジョンの床に散らばってしまえば、後ろからのんびりついてくる2人に踏み砕かれるからだ。高いパーツは無いとはいえ、流石に凝ったものを壊されると作り直すのに時間がかかる。

 金鬼さんが再挑戦可能になってるのを忘れたわけじゃないから、出来うる限り手札は温存しておきたいんだよ! しかし出し惜しみすると今あの2人に殺られるという矛盾、どうしろと!?


「……なんだあ? 急に仕掛けがしょぼくなりやがったな……」


 そりゃそうだ。2段以下のなんて既に牽制にしか使えないし。それでも殺傷力的には十分な筈なんだけどなぁ……。それをしょぼいと言い切るおっちゃん、あんたどれだけ場慣れしてんですかって話だよ。

 そうこうしているうちに、通路全体の3分の1が更地になった。やばいやばい、スライム水槽の部屋への扉も引っかからなかったし、そろそろここらで止めとかないと本格的にマズい!


「ほほー、いい感じになってきたじゃねえか」


 ちょ、なんでそんなやる気アップしてんの!? いや確かにその辺から全体的な難易度は上がるけどさぁ!!

 つーか金鬼さんといい、何でこっちの世界の人はこんな好戦的なんだ。まぁ好戦的でなければわざわざこんな危険なダンジョンになんて来ないだろうけど、それにしたって、何、この、強敵であればあるほど燃えるっていうバトルジャンキー体質。

 そしてさっきからそれどころじゃなかったからスルーしてたけど、イケメン剣士と美人魔法使い! ラブラブといちゃこいてんじゃない! 集中力が切れるから! 止め!!


「どうしたダンジョンマスター、もうじき半分だぞ?」


 分かってるっつの!!

 くっそう……あのリア充カップルの上から水をぶっかけたい……! そしてテンタクル(極細)入りにして、外での情報収集に協力させてやろうか……!!

 テンタクル(極細)で寄生状態にして情報を集める、っていうのは、本来坊ちゃま相手に使うつもりだった作戦だ。水に入ったら速攻で寄生させるために召喚した奴の中でも特に細いのを選んで水中に待機させてたってのに、灰兎さんの自爆強制帰還で出来なかったんだよなー。

 ……いや、今から考えれば灰兎さんはこっちの作戦に気が付いてたのか? あの性格から考えて、水中に蹴り落としていてもおかしくなかった筈なのに、わざわざ魔法を使って自爆するとは、微妙に違和感が残るような。

 とかなんとか考えている間にも進むおっちゃん+α。本当にもうすぐ半分じゃないか……!


(どうする……!?)


 手を一旦止めて深呼吸。急がなければいけないが、焦れば焦るほど状況は悪化する。まずは落ち着く事、そして冷静になる事、何より、視野が狭くなっているのを自覚して、それを広げる事。

 まず前提として、罠づくりの腕前で行けば完全に負けてる。

 となると隙につけ込むしかない訳だけど、勝負スイッチが入って轟々に燃えちゃってるからそんなもんはない。

 じゃあモンスターを召喚して不意打ちを仕掛けるか。却下、後ろの2人に薙ぎ払われるのが目に見えるようだ。

 ならモンスターを罠の中に仕込む。残念、そんな時間は無い。次から仕込むために心の中にメモはする。

 一旦罠を全て取り払ってしまう? 何やってる、ストレートに来るだけだ。

 落とし穴で水部屋に強制移動。さっきから幾つも解除されてるっての。


(か……考えれば考える程、手詰まり感が増していく……!)


 それでも死にたくはない。だから諦めない。ひたすらに考え続ける。が、おっちゃんはその間に、ダンジョンの通路、その半分に到達した。


(ヤバい…………詰んだ、か?)


 と思ったタイミングで、ぴたりと止まるおっちゃんの手。何で? と思う前に、ごっそりと通路を大幅に改変。これでもかという密度の罠で埋め尽くしていく。

 これで止まらなかったら、さすがに真剣にマズいのだけ、ど、って、あれ?

 おっちゃんどうしたの? 罠見て固まってる……?

 どの罠だ、大慌てで入れ替えまくったから位置がごちゃごちゃしすぎてるな。えーと、2人がここでおっちゃんがここでー……


「……こりゃあ……効果的なのは分かるが、腹立つな……」


 この罠か。確かここのスイッチと絡んでる罠は確か――


 あ。


『侵入者の撃退に成功しました

 100の職業ポイントを入手しました

 120の経験値を入手しました

 60のダンジョン経験値を入手しました

 以下のアイテムを入手しました

 ・白い固形燃料×2

 ・精霊石(小火)×1

 ・雲山羊の干し肉×2

 ・華粉麦の茶パン×2

 ・クローヌの角氷×6

 ・冠蘭の花蜜×1

 ・黒花崗の砥石×2

 ・手入れキット(小型武器)×1

 ・携帯鍛冶炉×1』


 すまん、ドワーフのおっちゃん。確かに若干卑怯な気はしてしょうがない。うん。でもね、正直誰も引っかからないから、存在自体を忘れてたんだよ。


「……脚立がありゃあなあ」


 天井と連動してる罠だったんだよね。それも、人2人分縦幅の通路目いっぱいに、棘天井が落っこちてくる全面攻撃の奴。床を触れば問答無用で発動するタイプの。


「つうかこれ、誰が通れるんだ?」


 ……常連さんたちは皆して、さらっと前に跳んで避けてるよ?





















名も無きダンジョン

属性:未定・異次元位相

レベル:1

マスターレベル:1

挑戦者:76人

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