第7話 仕掛け+仕掛け+仕掛け

『侵入者の撃退に成功しました

 260の職業ポイントを入手しました

 3300の経験値を入手しました

 1650のダンジョン経験値を入手しました

 以下のアイテムを入手しました

 ・白い固形燃料×7

 ・精霊石(小火)×3

 ・歌羊の干し肉×3

 ・雲山羊の干し肉×2

 ・草豚のベーコン×5

 ・小鳥麦の白パン×5

 ・華粉麦の茶パン×2

 ・暴れ麦の黒パン×1

 ・鈴の砂糖細工×5

 ・ハナナンのパイプレート×3

 ・恋茜の花篭×3

 ・メメルの角氷×7

 ・乙姫の花蜜×1

 ・モモノの砂糖漬け×15

 称号【猫を噛む鼠】を入手しました

 称号【逃げ切った者】を入手しました

 称号【生還者】を入手しました

 称号【褒められた主】を入手しました

 称号【頼まれる主】を入手しました

 称号【生に固執する者】が【生を諦めない者】に変化しました

 称号【引きこもり主】が【籠城する主】に変化しました

 称号【切り拓く者】と【生を諦めない者】が統合されました

 上位称号【己が手で未来を掴む者】を入手しました』




「……あぁうん……やっぱりあの人は無理ゲーだったのか……」


 1日後。

とにかく破壊されたダンジョンを涙目で修復し、はっと気づいて見たお知らせ画面に、これでもかと並ぶ文字を眺め、ぽつりと呟く。きっと死んだ魚のような眼をしているんだろう、とかどうでもいい事を思いながらも仕掛けを作り続ける手は止めない。

 最初からそんなもん無かった、と言われればそれまでだが、一切の容赦加減をしない事にした。例え一歩だって余分に進ませてやるものか、と全部が全部秒殺仕様の罠で埋め尽くす勢いだ。


ビィー―――――――!!

『ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました』


 そこへ来た『冒険者予報』で知らされていた侵入者。背中に翼があって体の各所に羽がある鳥の頭の人と、子供にしか見えない人の2人組だ。常連さんの中で、昨日の波状攻撃に参加していなかった2人組である。


「よくやったじゃねーのダンジョンマスター、金鬼(きんき)を退けるとは、本当にレベル1かお前? まぁ俺らはありがたいけどな!!」

「収支があってないから勘弁してくれ、と言いたいが、強制送還と致死性罠の組み合わせ、練習にこれ以上の場所は無いんだ。頼むからまだ死んでくれるなよ、ダンジョンマスター」


 小人さんと鳥の人さんがそれぞれ言う。あぁ、経験が何よりの宝って訳ですか。本当の宝箱はまだしばらく待ってほしいんだけど、大丈夫そうかな?

 しかし、死んでくれるなよと言いながらあんた達は殺しに来てるんだよね。あれか、練習にならなくなったらサックリって奴か。

 …………何をどうしようとも、この知恵比べ、負けられないなぁ……!


「おぉっ、気合入ってるな!」

「ちょ、ぎゃっ、待っ、なぁああああっ!?」

「どわお前巻き込むなあっち行ががががが!!」


『侵入者の撃退に成功しました

 60の職業ポイントを入手しました

 60の経験値を入手しました

 30のダンジョン経験値を入手しました

 以下のアイテムを入手しました

 ・青い固形燃料×1

 ・火打石×1

 ・草豚のベーコン×3

 ・暴れ麦の黒パン×3

 ・リリッカの実×5

 ・ドワーフの濁り酒×1

 ・キーレス・ピック×8』


 ふぅ。タイミング的には厳しかったけど、5段までなら正しい手順で起動してくれるか。とりあえず発動した罠を撤去して新しいものを設置しなおし、『冒険者予報』に目を通す。


『次の冒険者

 時刻:6日後

 人数3人

 挑戦回数:2回目

     ↓   』


 当然ながら矢印を押して


『    ↑

 時刻:6日後

 人数:2人

 挑戦回数:2回目』


 うーん……多分だけど、あの時の謎マントこと金鬼(きんき)さん以外の5人が、本来のパーティに戻って仕掛けてくるんだろうな。

 金鬼(きんき)さんに目を奪われた上、美人魔法使いさんの自滅であんまり深くは考えていなかったけど、よく考えれば両方とも十分すぎる脅威だ。罠はまず効かない上に、今召喚できるモンスターでは相手にすらならないだろう。


「さて、どうするかな……?」


 ダンジョン管理画面で全体図を眺めながら、残り6日の空き時間でどんな仕掛けが出来るかと、頭を悩ませることになった。




 6日後。


ビィー―――――――!!

『ダンジョンに5人の冒険者が侵入しました

 ダンジョンに1人の従属希望者がやってきました』


 まず最初にやってきたのは坊ちゃまのパーティ。人数が増えてる? そんなもん前も大人数だったじゃないか。途中で増えてるのは『冒険者予報』で確認済みだ。

 さて今度はどんな間抜け面を晒してくれるのかな、坊ちゃま?


(って、ん な こ と 思ってる場合じゃなー―――い!!!)


 何!? 何なの従属希望者って!? ちょ待って、人を従えるほどの度量も余裕も覚悟も無い!! 来てもらっても困る!!


「……おい、大丈夫なのか、その女」


 誰が希望者なんだっ!? 心底速攻でお帰り願いたい!!

 って、坊ちゃまが引いている……だと……。


「あ? 大丈夫だよ、知ってる限りで一番機転が利いて頭がきれて、んでもって魔法に関する知識もダントツなんだ」

「ほら……同じ天才として、さ。分かるよな? こう、人に合わせるっていうのが、分からない、っていうのが、ほら、あるだろ?」

「あんただって、むしろ何で合わせてやらなきゃいけないんだ、って心のどっかで思ってる筈だぜ。天才っていうのはそういうところがあるもんなんだよ」

「そ、そうか! そうだな! うん、よろしく頼むぞ!!」


 おぉぉ、丸め込まれた。流石坊ちゃま、ちょろいなうん。

 しかし今ので分かった。坊ちゃまとお付きの人は絶対に違うから計算から外して、今丸め込みもとい進言した3人は違う。普通の冒険者だ。

 て事は……坊ちゃまが引いた、あの彼女が希望者か!

 灰色の三角帽子にひらひらマント、貴様魔法使いだな!? しかしそのマントの中の服まで灰色なのはなんでだ……。いや、でも色に惑わされずに見ると、ゴシック風になってるのか。

 興がノったらしい坊ちゃまが何か演説して一向に先へ進まないのをいいことに、灰色の彼女を観察する。坊ちゃまよりちょっと高いだけの背からして、女性っていうより少女なんだろう。

 と、灰色の三角帽子の角度が変わって、つまり彼女が顔を上げて、


「………………えへ」


 ……だからさ。

 何で目を合わせられるのさぁあああああああ!!

 無理だからね? 無理だからね!? 養うほどの度量も余裕も覚悟も根性も何もかも無い無い尽くしだから!! 当然速攻リリースですよ!? 今でも生活できてるんだったら自分の足で歩いて生きて!!

 ばっちり視線がかち合ってしかも笑みを浮かべた赤い目に銀色の髪の美少女に心の中だけでそう絶叫する。体の方は当然フリーズ状態だ。そして何で心の中でだけでかというと、声を出すと聞かれて返事されそうなんだよ!!


「………………うふふ」

「あー、灰兎、何かお楽しみのところ悪いが、先に進むってよ」


 目を合わせたまま、にぱー、という感じで笑みを浮かべ続けていた彼女だったが、さっき坊ちゃまを乗せた時最初に発言した人に言われて、三角帽子を伏せさせた。視線が外れて、体からどっと力が抜ける。

 しかし、通称:灰兎、か……可愛すぎ&似合いすぎて一瞬で納得したじゃないか。恐らく個人的に呼ぶ機会は来ないだろうけど。


「……………………」

「じゃっ、じゃあ、頼んでいいか!? 俺ら、隠し扉とか宝箱とかは得意だが、こういう殺意全開の罠は苦手でな!」

「ふふん、任せておくがいい。さぁやれ!」

「はい」


 何だあの慌て具合……いや、灰兎さんが睨みでもしたっぽいな。

 相変わらず着られているフルアーマーのまま腕を組んで坊ちゃまが尊大に言い放つ。それに応じて動いたのはお付きの人だ。右手の指に、掌より少し大きい位の縦長の紙を挟んでいる。

 その紙を欠片も無駄のない動きで肩の上に構え、綺麗に正面へと投げた。紙の癖に投げナイフのようにまっすぐ飛んだ紙は高さを下に変えながら飛んでいき、入り口から3mほどのところで床に張り付く。

 成程、確かにあれは札だ。表面に何か複雑な模様がごちゃごちゃと書いてある。それが全体でみれば絵にも見える、お札と聞いてイメージするそのままの姿だ。


「周囲より魔力を吸い上げ、その一帯に効果を表せ――発動、【大解除符・仙】」


 紡いだ言葉が終わると同時、張り付いていた札の文字が光を帯びて、


ぱぁん!


 と、クラッカーのように軽い音を立てて、お札自体が弾けた。瞬間、お札のあった場所を中心として光の輪が広がって壁と床を伝い、坊ちゃま達の足元辺りまで広がって消える。

 ダンジョン管理画面で確認すると――確かに、その光の輪の中にあった罠が、綺麗さっぱり消え去っていた。罠のストック一覧を眺めても見当たらないから、完全に消滅したとみてよさそうだ。


(……いや? そうでもないのか)


 よさそう、だったが、ダンジョン管理画面に表示されたある物を見つけて考えを訂正する。静かにしたまま侵入者監視画面を見ていると、追加で雇われた3人組が、罠の無くなった半径3mの空間を何やら探索していた。坊ちゃま達と灰兎さんはその場から動かずだ。

 さて……問題は、あの3人の腕前の方なんだけど……今だけは運を天に任せるしかない。もし予想と違っていた場合は、目も当てられないんだから――


「あ……これ、隠し扉、だ。うん……罠、かかってる、な」

(っ!)


 丸め込みの時、2番目に発言した冒険者がそんな声を上げる。固唾を飲んで注目した視線の先で、坊ちゃまは灰兎さんを呼んだ。とてとてと隠し扉がある前に行った灰兎さんは、ふっ、と手を振って杖を呼び出す。相変わらずどこから出したのか分からない。

 灰兎さんの杖はロッドと呼ばれる種類の長さで、綺麗な銀色の蔦が絡まった意匠をしていた。先端には三日月を模した細工があって、欠けた部分を埋めるようにはめ込まれているのは大きくて丸いムーンストーンだ。

 きらきらと光の粒をこぼしていそうな杖を一見何の変哲もない壁に向けて、灰兎さんは魔法を発動する。


「…………開け、開け、そこを通して」

【スキル『影属性適正』アンロック】


 かちゃん、と小さな音がして、同時に壁の土がボロボロと剥がれ落ちた。その場に残ったのは、粗末、とも言えるシンプルな片開きの扉だ。

 いや、豪華絢爛っていうか、いかにも何かありげなデザインにもできたんだけど……敢えて目立たない方がいいと思ったんだよ。その先にある仕掛け的に。それに、シンプルイズザベストって言うし。

 しかし、早かったなー、見つかるまで…………


「何だ、奥にある罠は全部フェイクだったのか。少しは頭があるのかと思ったが、こんな博打的な策に頼るとは、やはり小賢しいだけだったか」

「えぇ、一度捜索されてしまえば終わりですからね。道が続いているのだからと、がむしゃらに奥に突き進むだけの冒険者達も頭が悪いのです」

「そうだな! では行くぞ、ダンジョンマスターの首を上げるのだ!!」


 あーぁ、本職が目の前にいるのにそんな発言するかな。3人の顔が引きつってますよ、坊ちゃま。そりゃ嫌われるわー同情できないわー、完っ全に自業自得だよ。

 けど従うのか、3人とも。契約っていうのは大事なんだね、流石にちょっとすすけて見えるなぁ、後姿が。……あ、最後の1人が灰兎さんに頭下げてる。説得してるのか、ご苦労様。……あぁ、渋々な空気を隠す気が無いね。しかし一応ついて行くのか、説得成功おめでとう。

 そしてパタンと扉が閉まって、視点を切り替えつつ、心の中で独り言。


(あぁ良かった。あの扉を無事に見つけてくれて)


 あの扉? もちろんブラフですが、何か?

 あの先は新設した特殊フロアなんだよねー。あ、罠は一切使ってないから安心してくれていーよ? 仕掛けったって極々単純なものだし、余裕だよ余裕。


「「「「「「………………………」」」」」」

「…………あは、あはは♪」


 そんな事を思いつつ生温い視線を向けていた訳だけど、3人は顎が外れんばかりに呆然、お付きと坊ちゃまは完全にフリーズ、そして灰兎さんは楽しげに小さく笑い声を上げるという、何このカオス、という状態になっていた。

 あぁうん、そのびっくりした顔が見たかったんだよ! 本当によく5日で完成させたな自分って褒めちぎりたいくらいに苦労したんだから! さぁさぁ、続いてどんなリアクションを見せてくれるのかな!?


「なん、だ、ここは。何が、どうなっている。誰か答えろ、これは何だ!」

「……水フロア、と、呼ばれる部屋、だと、思われます……」


 尻上がりに激昂度が上がる坊ちゃまの疑問に、切れ切れでも根性で答えるのはお付きの青年さん……あぁもう執事さんでいいや。流石のプロ根性だね。今はいないけどもう1人のお付きの人もメイドさんって呼ぶことにしよう。

 そう。扉を抜けた彼らを待っていたのは、一面に広がる水水水。壁はプールのような明るい水色に塗ってあるから水の透明さが際立って見えるだろう。よく見れば底の方に扉っぽいものがあるのも見える筈だ。

 部屋の形としては水深に重視を置いているから、反対側の壁まで行くにはそんなに苦労しないだろう。けど、足場は鼠返しになった人数ギリギリのその場所しか無いし、後ろの扉は一方通行で消えているから戻る事も出来ない。


「水フロア? 何だそれは?」


 いや、知っとこうよ坊ちゃま。


「海や川、湖など、水場に隣接するダンジョンには、よく見られる部屋なのです……。他の部屋へ通じる道が、大抵の場合、水を越えた先に存在するのが、特徴の……」

「水の向こう……? な、泳げって言うのか!? いきなり前触れも無しに!? あっ、そ、そうだ、『大解除符・仙』だ! どうせこの水もトラップなんだろう!? 消せ! 消してしまえ!!」


 ナイス解説だね執事さん。そして坊ちゃま、それは無理だよ。だってその水は、スキル『水属性適正』で出した本物だから。その鎧重そうだもんねー、泳ぐとか絶対に無理だよね? まぁ……頑張れ?

 ちなみに足場の高さは水面から1.5m。ギリギリ届きそうで届かない距離に設定してある。シンクロナイズドスイミング張りに水中で人の足場を作ってジャンプすればいけるかも知れないけど……鎧を着てたらまず無理な筈だ。

 悲鳴のような声で喚き散らす坊ちゃまと、膝をつきそうになるのをギリギリで耐えている風の執事さん。冒険者3人はいまだにフリーズ中、灰兎さんは、3人を壁にして坊ちゃまから隠れつつ笑うのみ。


(まぁ……当然ながらただの水だと思うなよ? さぁ頑張って水中の扉を開けてみるんだ、内開きだから水圧的にまず無理だろうけど。あぁ後、いくら部屋の中を探しても排水装置なんて無いから。部屋に入った時点で詰んでるよー)


 え、脱出法? ダンジョンの見えないルール的に用意はしてあるけど、それこそ金鬼さんくらいの実力が無いとまず無理だね。


(だってその水……透明スライムの巣窟だし)


 苦しいとは思うけど、食われて落ちるか溺れて落ちるか、その2つしか選択肢はない。部屋全体が仕掛けなんだ、当然ながら必殺を期して仕込んでるよ?








名も無きダンジョン

属性:未定・異次元位相

レベル:1

マスターレベル:1

挑戦者:74人

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