第5話 ダンジョン=罠+モンスター
『モンスターを召喚せず3か月が経過しました
称号【孤高の主】を入手しました
一度も姿を見せる事なく3か月が経過しました
称号【引きこもり主】を入手しました
ダンジョンに2人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました
70の職業ポイントを入手しました
60の経験値を入手しました
30のダンジョン経験値を入手しました
以下のアイテムを入手しました
・青い固形燃料×1
・草豚のベーコン×2
・暴れ麦の黒パン×2
・星屑砂糖×5
・ダガーナイフ×1
・フランキスカ×3
・スリングベルト×1
罠のみで50人の侵入者を撃退しました
称号【眺める主】を入手しました
称号【罠マイスター】を入手しました
称号【本当の黒幕・序】を入手しました』
「なんだこの装備品の数……」
いい加減な人数の冒険者が侵入してきたから、そろそろ食料アイテムの確定ロストとそれと引き換えの装備品ロスト率軽減は分かってもいいと思うんだけど……もしかして、この2人検証係か?
だとすれば、ここから先はもっと食料が手に入ると考えていいかな。装備品と食料だったら食料を捨てるだろう。というか、命を懸ける装備品を無くすって普通に厳しいと思うんだ。
「それにしても、いい加減かなりの数の称号が手に入ったような気がするんだけどな。どこをどうやったら確認できるんだろ」
首をひねってもう一度ペンダントを弄り倒してみる。が、やっぱり何処をどう探してもそれらしいのは見当たらない。
自分のレベルもダンジョンのレベルも上がらないのはまぁともかくとして、とりあえず現状の把握ぐらいさせてくれたっていいじゃないか……
「しかし、モンスター召喚かー」
罠でがちがちに固める事ばかり考えていて、うっかり頭から抜け落ちてしまっていた。とりあえず電車のあるフロアに戻って、スキルスロット画面を開く。
魔法陣マークの『モンスター召喚』Lv2、とらばさみマークの『罠作成』Lv3、きらきらした煙のマークの『変性生成』Lv5、滴マークの『水属性適正』Lv2、そして空きスロットの四角い枠が1つ。
『変性生成』はもう少し上がってるもんだと思ったけど、案外スキルの伸びは緩やかなようだ。この分だと冒険者というのは本当に気長な下積みが必要なのがよく分かる。通りで侵入してくる冒険者の中に魔法使いっぽい人が居ない筈だ。
「モンスターを召喚するにしても、MP残量が分からないと不安だ。『変性生成』は思った通り効率がいいスキルだったから、変な疲れが出だしたら止めたらよかったけど……」
一応物は試しと『モンスター召喚』スキルをタッチしてみる。新しい画面が展開して、そこに並んでいる名前を順番に確認していくと、
・ゴブリン(弱)
・小石モグラ
・テンタクル(3本セット)
・極細テンタクル(10本セット)
・神経ミミズ
・スライム(微小)
・鱗トカゲ
・字霊(15匹セット)
・呪印綿毛(20匹セット)
「…………まぁ、こんなもんだよね、たぶん」
わざわざ(弱)とか(微小)とかついているのは、平均よりスペックが落ちるという意味だろう。セットとついているモンスターはどういう事だと言いたいが、名前から見るに1匹(1本)では役に立たない気配がひしひしとする。
それにしたって……テンタクルはモンスターというより罠の気がするし、字霊っていうのはモンスターじゃなくて術の気がする。このモンスターという区分分けの基準はどうなっているんだろう。
「にしてもなー、今のところ必要な場面が見当たらないから、無理に召喚しなくてもいいような……っと」
途中で視界端の『冒険者予報』に変化があったので切り替えて確認。
『次の冒険者
時刻:20分後
人数:2人
挑戦回数:7回目』
「7……ん? この回数の多さはあの人達か?」
ひとまずモンスター召喚を止めてダンジョン制御画面を呼び出しつつ独り言。あの人たち、というのは、この間も大量の武器を落としていったあの人たちだ。延べ人数50人の冒険者が挑戦してきたが、実質人数は大よそ20人弱だったりする。
この2人は短剣を持った起動型軽戦士さんとショートボウを持った隠密系狩人さんで、どっちもケモミミ+尻尾の亜人である。罠の看破の腕はそうでもないらしいが、発動したところで避けてしまえばいいじゃない! を素で行く人たちなので相性は悪い。
本人たちも相性の事は分かっているのか、1週間の禁止期間が開けるなり挑戦しているという感じだ。まぁ、それでもあの兄貴さん達より深くは進めていないけど。
「って、あれ?」
『次の冒険者
時刻:10分後
人数:2人
挑戦回数:7回目
↓ 』
ふと気づけばまた増えている謎の表示。とりあえず原寸大の大きさに戻して、矢印の所をタッチしてみる。
『 ↑
時刻:20分後
人数:4人
挑戦回数:3回目
↓ 』
「おぉ?」
『 ↑
時刻:30分後
人数:3人
挑戦回数:5回目
↓ 』
「……」
『 ↑
時刻:40分後
人数:6人 』
「……ついに本気出す。これがっ、俺たちのっ、波状攻撃だっ! ……か?」
ずらりと並んだ冒険者予報に対して零れた呟き。
盛大に引きつっていたのは、きっとどうしようもないだろう。
全ての罠を使い切るつもりでヤろう。でなければ、多分、殺られる。
ざわざわと嫌な感じが這い上がり続ける首筋を押さえて冒険者たちを画面越しに眺めつつ、そう覚悟を決める。本来なら、手札は限りなく温存しておくべきだ。一度見た罠ならいくら不意を打っても回避される確率が高い。
……が、今この時点に限れば、そんな出し惜しみをしている場合じゃない。『直観』スキルなんて持ってはいないのだけど、ここで手札を渋れば死んでしまう、そういう気がしてしょうがないのだ。
「に、してもなぁ……」
「ナー。金持ちさんは形振り構わないから嫌いだナー」
「俺たち冒険者にしてみりゃ、こんな良心的なダンジョンはないんだがなぁ」
「別に宝が無い位構わないよナー」
ため息を連発しつつ進む2人の冒険者。
……おぉ、すっかり宝の事を忘れてた。ダンジョンと言えばお宝なのに、うん。宝もモンスターもない妙なダンジョンでごめん。
それにしても、金持ちさん、だと? その人がこの波状攻撃を命じたという事か。確かに罠の再設置には手間がかかるから、次々来られたらその暇が無くて詰んでしまう。
「そもそもまだレベル1だろ、そんなに期待できる訳がないんだよなぁ……」
「罠の難易度で忘れそうになるけどナー。出来てまだ3か月だもんナー」
理解を示してくれるのは素直にありがたい。え。そんなに難しい罠になってましたか、そうですか、褒め言葉ですねありがとうございます。
そんな事を愚痴りながら進んでいた2人。壁から飛び出す槍やら針やらをひょいひょい避けていたが、もうその回避方向は学習済みだ。とある回避後、着地点から柵に使うようなぶっとい石の槍が飛び出して、光に包まれた。
「っ!」
瞬間、開きっぱなしにしていたダンジョン管理画面に指を走らせ、発動済みの罠を撤去、同時に別の罠のセットをその場に設置して、入り口の方に別の罠を追加した。
確定ボタンを押して画面が光り、
ビィー―――――――!!
『ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました』
ぎりっぎりのタイミングで、ブザーが鳴ってお知らせが届いた。
「あっぶな! けど、連続して出来ない事も無い」
堅実を絵にかいたような4人組の冒険者を画面越しに眺めつつ、そんな事を言って息をつく。指の方は、次の罠の準備中だ。
最後の6人組以外は皆々常連さんなので、実は案外行動が読めたりする。少なくとも、落ちるタイミングはある程度に絞れるのだ。後はトドメに使われる可能性の高い罠の場所に丁度入る罠と攪乱のために追加する罠を画面の脇に準備しておいて、速攻で入れ替える。
『冒険者予報』は10分単位でのお知らせしかくれないから間がどのくらい離れているかは分からなかったけど、少なくとも落ちた人が光に包まれて完全に消えるまでの時間は突入してこない筈だ、という予想の作戦だったのだが、
「うまくはまってくれて助かった……」
ただ、問題はある。……3組目と4組目、つまり兄貴さんのパーティとお初の大人数パーティは、1組目と2組目に話を聞くだろう。そうなれば、小細工は格段に通じづらくなる。
それに、大人数パーティの方は人数にあかせて無理やり突破する事もできるのだ。未だトゥルールートへの条件を見つけた冒険者はいないものの、油断なんて出来る訳がない。
「にしても……金持ちさん、か」
情報を得るのに非常に良さそうな相手なのは確かだろう。かといって電車のフロアに引きずり込んでも拷問なんてできやしない。そもそも舌を噛み切られて自殺されたら強制退出だし。
唸っている間に4人組が落ちる確率の高い罠に差し掛かった。慌てて交換準備を用意。……したが、ギリギリ危ないところを仲間の助けで乗り切った。次の予想地点はまだ先なので、考え事再び。
「催眠術とか……?」
害が無い辺りでそういうものを考えるが、スキルを取るにしても金持ちさんだ。きっとそういうものに対する耐性ぐらい身に着けているだろう。素人の付け焼刃で通じるとは思えない。
「それ以上に強引な手段って言ったら薬とかだけど、後遺症が残るだろうしそもそも薬が無い。誘惑しようにもそれだけの材料が手元にない。後、できるって言ったら……?」
考えて考えて、4人組が次の予想地点に差し掛かり、こちらは入れ替えの準備。
「「「「相変わらず問答無用かオイ!!」」」」
綺麗にそろった声で悲鳴を上げつつ光に包まれた彼らのロスト品を確認せず、すぐさま撤去と入れ替えを実行した。
ビィー―――――――!!
『ダンジョンに3人の冒険者が侵入しました』
「……さて」
「俺らの役割は金持ちさんたちが話を聞き終わるまで」
「生き残って時間を稼ぐ事、で、す、が!」
「……詰まらんから、無視して奥に進むぞ、ダンジョンマスター」
「奴らは本当に殺っていいからな、ダンジョンマスター」
「なんつうかな、冒険者の恥さらしなんだよ! ああいうのがいるから俺らまで色眼鏡で見られんだ!」
…………嫌われてるなぁ、金持ちさん。つーかぶっちゃけるな、兄貴さん達。確かにこのダンジョンは外との通信完全に拒絶してるけどさ。
しかし進むときの警戒に手抜きなんてないんだね。相変わらずとんでもない勘してるな3人とも。あっ、その罠必殺のつもりだったのに! 二段目も避けるとか大人げない!!
「……何でレベル1のダンジョンなのに、多段発動の罠があるんだ」
「一体何がどうなったらこんな発想できんだよ?」
「うわっはは、もはや笑うしかねーな! 普通レベル4を超えないと出ないぞこんな罠!」
…………エ、マジデー。ソウダッタンダー、ドオリデ、ムズカシイトカ、イワレルハズダヨー。
まぁともかく多段の罠はやっぱり攻略が難しいんだな。それだけでも収穫だ。2段の罠は安定して作れるようになったから、次からは3段以上の奴を混ぜよう。
「……ダンジョンマスター。一応、モンスターもちゃんと召喚しておけ」
ん? 兄貴さん、突然どうしたの?
「金持ちは金持ちだけあって、ガッチガチに対トラップ装備で全身固めてくるんだよ」
「落とし穴無効の腕輪とかー、一定範囲のトラップを消しちまうおっそろしく高い札とかー、そういうのんだな。アレ1枚で2階建ての宿屋が建つんだから世の中金だよなー」
トラ耳剣士さんも、盗賊係さんも……。
「……そして出来れば奴の心に消えない傷を刻んでくれ」
「二度とダンジョンって言葉すら聞けないぐらいとんっでもないの頼むぞ」
「あっ、傀儡の術持ってるか!? かけていいからな!!」
…………そろいもそろって、このダンジョンの事をどんなものだと思ってるのか、じっくり一度お話ししてみたいもんだねぇ。
でも今のは流石に腹立ったから、嗾けさせてもらおう。知ってるかな? ダンジョンの罠ってさ、こっちから任意に発動できるんだよ。もちろん絶対防げないタイミングではボタンがロックされるけど、とりあえず食らえ。
「ぎゃっ!?」
「くっさぁっ!」
「……これ、は……っ」
ふはは、どうだ。腐った水のシャワーは。しかも水が周囲に落ちる事によって壁と床の境目のスイッチが押されて、普通は絶対発動されないけどその分凶悪なトラップが発動するんだ。
さぁ、痺れろ!!
「「「ぎゃあああああ!!」」」
そして速攻で罠の解除と置き直しと追加っと。
ビィー―――――――!!
『ダンジョンに6人の冒険者が侵入しました』
……さて、ここからが本番だ。
名も無きダンジョン
属性:未定・異次元位相
レベル:1
マスターレベル:1
挑戦者:65人
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