第4話 侵入者≒ご飯の人
『冒険者たちは侵入を諦めました
冒険者は侵入を諦めました
ダンジョンに4人の冒険者が侵入しました
侵入者の撃退に成功しました
100の職業ポイントを入手しました
120の経験値を入手しました
60のダンジョン経験値を入手しました
以下のアイテムを入手しました
・青い固形燃料×3
・火打石×2
・草豚のベーコン×6
・暴れ麦の黒パン×4
・蛸珊瑚の壺漬け×1
・毬蛇草の茶葉×2
・コッコナッツのクッキー×7
・たいまつ×4
冒険者たちは侵入を諦めました』
「固形燃料・火打石・ベーコン・黒パンは野営ご飯の基本セットなのかな」
初めての侵入者が入ってきてから、2週間が経過した。最初のあの3人を含めて、今までの侵入者は合計11人。今の所、最初の3人が一番奥まで進んでいる。まだトゥルールートにたどり着けた冒険者は1人もいない。
もちろん油断なんて欠片もしてないどころか、一回使った罠や感づかれた罠は必ず改良なり変更を加えて設置しなおしている。命がけなのだ、いくら念を入れても足りないだろう。
が、
「……流石に、お米が食べたくなってきたって言うね……黒パン固い」
食べれるだけでありがたいとは思う。ありがたいとは思うが、それでも流石に堪えてきた。ダンジョン内は謎排気が効いているのでいくら火を焚いても煙たくなる事はないのだが、それでも、黒パンとベーコンのあったかいのは食べ飽きてきたのもある。
もちろん冒険者たちがおやつや個人の楽しみで持ち込んでいたらしい嗜好品がある事はあるのだが、酒は飲まないしお茶はポットが無いしでいまいちだ。流石にのどが渇いてしょうがないから2つ目のスキル『水属性適正』を取った。あと1つは非常事態が起こった時に対処する非常枠として置いておきたいので、これ以上スキルは取れない。
「どーしたもんか……っと」
だいぶペンダントの扱いにも慣れ、今では視界の隅に常に『冒険者予報』を表示しておけるようになった。その表示に変更が出る。
『次の冒険者
時刻:30分後
人数:3人
』
「30分か。また急な……?」
ふと自分で自分の言葉に聞き覚えがある気がして思考を止めた。体は動き続けているが、とりあえずしばらく考えて、
「……あ、最初の3人か。ぱっと見たら残り5分だった、今のところ最深到達記録の」
重戦士・盗賊係・トラ耳剣士の3人組の事だったと思い出した。最後の最後で引いたトラップが、あの時作った中では一番大がかりなものだった筈だ。あれを戻すのにずいぶん苦労した。
そんな事を思い出しつついつもの準備を進めて、
『次の冒険者
時刻:20分後
人数:3人
』
「……あれ、なんか表示がおかしいな」
妙な違和感がある事に気が付いた。ミニ表示にしている『冒険者予報』をペンダントから呼び出し直し、本来の大きさの画面で表示する。
『次の冒険者
時刻:20分後
人数:3人
挑戦回数:2回目』
「…………」
いつの間に追加されたのか、新しい情報がそこには載っていた。ついでに言うと、さっきまでの嫌な予感が大的中である。ちなみに11人の内訳は3・2・2・4人なので、3人組で再挑戦、となると、一組しか該当しない訳で。
「……勘弁してくださいあの勘の鋭い人の塊じゃないかぁぁ……」
げんなり嘆きながら、再挑戦者用の仕掛けを仕込むことに全力を出すことにしたのだった。
さてそんな訳で、やっぱりあの3人だったよちくしょう。
「前はえらい目にあったが、今度はそーはいかねぇぞダンジョンマスター」
「今度こそその顔拝ませてもらうから覚悟しとけっ!」
「……流石に圧死は止めろ。トラウマなんてものじゃないぞ、アレは」
どー聞いてもメッセージですね、監視してること知ってますね、はいはい、圧死は再挑戦の気力をなくす、と。よし、新しい階層が作れるようになったら1つはプレッシャーゾーンにしよう。
はっはー、目指せ心がへし折れるダンジョンだ。文句があるならどんどん言ってくれ、さらに凶悪な罠として生かすから。
「……さて、行くか」
「まずは敷き詰められた落とし穴の回避だったな」
「じゃあまず第一歩目はどこが安全か……罠の分布が、完全に変わっている、だと……」
「ちょっと待て、何でそんな狙い撃ちしたような仕掛けになってんだよ!?」
「……本当に、想像以上だな、色々な意味で。……できれば酒を返してくれるとありがたいんだが……」
「1人だけずっこい! 俺だって新調したばっかのスローイングナイフロストしたのに!」
あ、やっぱりあのナイフ盗賊係の彼のだったのか。土の壁に的書いて遊ばせてもらってます。ありがとー、だいぶ暇がつぶれたよ。今は10本中3本まではだいたい真ん中に刺さるようになったよー。
「で、今度は何の罠なんだよ?」
「うーん、見た感じスイッチ系がタイル模様になってる感じか? ところどころ絶対わざとパターンから外して仕掛けてあるから相変わらずだな!」
「……酒……」
「でも宝箱に入ってても、どうせ外に出るときは確定でロストするだろ。諦めろよ、兄貴」
「そーだぜ、兄貴。つーか、酒があったおかげで装備品ロストしなかったんだろ?」
「……それは、そうなんだが……」
黒髪の重戦士さんは通称:兄貴かー。覚えておこう。でも確かに宝箱に入ってても生還方法はダンジョンマスターを倒すことだけだから、まず取り戻せないだろうなー。というか、未知のダンジョンに挑むのにそんな大事なもの持ち込むなよと思うのは気のせい?
「レア度5の酒とか確かに珍しいけどさぁ」
「持ち歩く以上しょうがないよなー」
「……ランク2だから、宿に置いておいて万が一にも割られたら、と思うと、な……」
「「あー」」
……確か『火花谷のワイン』だったっけ。結構なレアものだったんだ……。ランク2っていうのはレア度の感じからしてもだいぶ壊れやすいのか。確かに苦労して手に入れた物が無くなってたらショックでかいなぁ……。
返さないけど。自己責任だよ、冒険者でしょ。
「まぁ、とりあえず進むか。……進めるか?」
「なんとかかんとか進めない事はないかな。ただ壁には絶対手をつくなよ。つきたい辺りに罠が仕掛けてあるのは前と一緒だから」
「……俺には特に難易度が高いんだが……」
その鎧、重そうだもんねー。
「諦めてくれ。わき道を見つければとりあえず当座はしのげる賞金が入るんだから」
「このダンジョン幸運も吸い取るのかっての。あれから詐欺の依頼ばっか当たったもんな!」
「……賞金首が混ざっていたから、一応収支は黒字だったが……疲れたな」
それは知らん……。
つか賞金ってなんだ。ダンジョンを消滅させたらいくら、それに貢献する情報でいくらって感じで貰えるのか。そりゃあ攻略に精出すな……。おまけにここは本当には死なないし。攻略なんてさせてやんないけど。
「ん?」
「……どうした」
「いや、つながってる場所がおかしい仕掛けが1つ」
「よし、押してみろ」
「嫌だよ! 何で被害が俺だけで済むように離れてるんだよ!!」
「理由は今自分で言っただろーが!」
おっ、無事見つけてくれたか。新作なんだ、それ。ぜひとも引っかかってほしい。そして感想をどうぞ。
「……言い争っている場合か。とにかく、どこの仕掛けのスイッチなんだ」
「天井」
おぉ……見事に空気が凍っている……
「スルーだ」
「……スルーだな」
「んなら次の安全な場所はっと」
天井にトラウマが残ってるなぁ……。せっかくの新作だったのに。
「そしてここからがらりと変わり落とし穴ゾーン復活だ!」
「あぁー……確か引っかかった話があったな。落ちたと思ったら五体をバラされていた、何を言っているのか分からないと思うだろうが以下略」
「……十分惨殺だと思うのは俺だけか?」
「俺も思うよ兄貴」
「当然ながら俺も激しく同意だ、兄貴」
ピアノ線落とし穴大成功だった2人組の話か。血の跡で線が見えてばれたと思ったんだけど、案外ばれてないのか。……いや、この3人はこっちが監視してることを知ってるから、ミスリードの可能性もあるな。
「あ」
「今度はなんだ?」
「うーんとな、こっから先、進める道が無い」
「……は?」
「たぶん、どっかで罠と思えない位の仕掛けを引いたんだ。でなけりゃこれはダンジョンのルール的にありえない。冗談抜きで一歩でも踏み込めば死ねる……!」
「なんと、言うか……ち ょ っ と 待 て」
「……何だ、完全に対策されているな……。というか、学習しているな……」
絶望3人分いただきましたー。
あ、でもその仕掛けまだ終わってないから気をつけ
「ごふぅ!」
「のぉうあっ!?」
「……っ!?」
……遅かったか。何とか盗賊係の彼は回避、兄貴さんは防御したけど、トラ耳剣士は入ったな。大丈夫大丈夫、毒とか苦しみが長引くものは使ってないから。純粋に単なる飛び出す槍だから。
首と心臓に槍を突き刺されたトラ耳剣士はすぐさま光に包まれ、ぱしゅん、という軽い音と共に姿を消した。残された盗賊係の彼と兄貴さんは目を見合わせて、
「……これは、またダメか?」
「兄貴、今度はちゃんと大事な酒、置いてきたよな?」
こっちは攻略されれば命が無いんだ。簡単にクリアできると思うな……!
『侵入者の撃退に成功しました
100の職業ポイントを入手しました
90の経験値を入手しました
45のダンジョン経験値を入手しました
以下のアイテムを入手しました
・青い固形燃料×2
・赤い小型薪×2
・草豚のベーコン×3
・暴れ麦の黒パン×3
・花苺のジャム×1
・海羊のチーズ×1
・蒼皿の三日月酒×1』
「……兄貴さん……」
今度の酒はランク2、レア度6でした。レア度上がってるよ兄貴さん!
名も無きダンジョン
属性:未定・異次元位相
レベル:1
マスターレベル:1
挑戦者:14人
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