第13話・ゴルドンお前もか!
報酬をたんまりと手に入れ、余裕のできたアルタナはナキアを連れてゴルドンの店『ジャックテイラー』を訪れる。
カランカランと音がして、扉が開かれると数人の店員がアルタナを出迎える。
「いらっしゃいませ!今日はどのような……」
店員たちの出迎えの文句は途中で止まってしまい、驚いたような顔で固まる。
代わりに、アルタナが切り出した。
「こんにちは、今日はこの子の服を探しにきました。」
すると、店員のリーダーと思わしき男性が悲鳴のように叫ぶ。もともと少し面長であるため、口を開くと馬面と言いたくなってしまう程に長くなる。
「大変!アルタナ様がいらっしゃったわ!あなた、会長お呼びして!」
さらには店員はオネェの気があった。
「あの……そこまでしていただかなくていいので、この子の服を。」
そう言ってナキアの背を押して前に出させる。
「あの……このような……。」
ナキアはまたもや、とても緊張していた。無理もない、ジャックテイラーの服はどれも一着金貨五枚はする。だが、それだけに質はいい。店内には婦人物が多く、男物は少し少ない。どちらかというと、婦人物が得意な店である。
「はい、もちろんこちらのお嬢様の服もちゃんと見繕いますわ!でも、商会長はあなたに会いたいそうなんです!だから、会ってあげてください!」
何かあったのだろうかとアルタナは考えたが、何もで思い浮かばなかった。ともあれ、歓迎されているようだから悪いことではないと楽観視して話を進める。
「わかりました。ここで待たせてもらっていいですか?」
「ええもちろん、その間にいくつか見繕いますね。お嬢さん、ちょっとお顔見せてね!」
そう言ってオネェがナキアの前髪をかき分ける。ナキアの顔があらわになる。
そこに隠れていたのは、くりっとした可愛らしい目と、少しだけ小さな鼻、ぷっくりとした唇はまるでさくらんぼのようで食べてしまいたくなるようなものだった。
やがて、ナキアの顔全体が赤く染まっていき、俯いてしまった。
「はっ!見とれちゃった!素材最高よ!腕がなるわ!アレに合わせるなら、アレ!あと、ソレと、コレ!」
オネェはその後目を輝かせながら店内を駆け回る。
そうしているうちに、ドタドタと二階からゴルドンが駆け下りてくるのだった。
「やぁ、アルタナ君。久しぶりだね!」
「お久しぶりです、ずいぶん大きな荷物ですがそれは一体……?」
降りてきたゴルドンは大きなトランクを抱えていたのだ。気になってアルタナはその中身を訪ねた。
「コレかね!?聞きたいかね!?」
ゴルドンはにやけた。不気味なほど盛大ににやけた。アルタナは悪寒を感じ、質問を取り消そうとする。
「いえ、と……
「そんなに聞きたいなら仕方がない!君と出会ったあの日、わたしは天啓を得ていたのだね!そして溢れるアイディアの数々!されどその全ては君に捧ぐデザインだったのだね!」
と言って、ゴルドンはトランクを開けた。
取り消そうとしたアルタナの思惑は見事に叶わず、言葉を遮られてしまう。
そして、トランクから溢れ出すのはアルタナが持つ少年らしさと少女っぽさの両方を強調し増幅するためにデザインされた数々。
アルタナとしては、それらは可愛らしすぎて着れないのである。なんせ、中には少女っぽさを強調しすぎて完全に女性用デザインのものも含まれているのだ。
「あの、コレは……」
「君のために捧ぐ、わたしの全てだね!中でも傑作はコレだね!題して!『男の子なら合法、おてんばお姫様男装外出コーデ』だ!一周回って男に戻る、我ながら悪魔的発想だね!」
もはや一周回って清々しい変態であると、アルタナは思った。
それもそのはず、ゴルドンもまた人並みならぬ美貌を持ったアルタナに魅了された哀れな子羊なのである。
「あの、それは絶対着たくないです。」
「何故だ!絶対に似合うというのに!わたしの目が信用できないというのかね!こんなにも愛らしいのだぞ!」
アルタナはそれが原因だと叫びたかった。だが、相手が貴族の手前そういうわけにもいかず……。
「俺には可愛いすぎます。もっとちゃんと男らしい、これとかで。」
と言いトランクから取り出した服もまだ業が深かった。一見すると、ただの貴族向けの服だ。だが、巧妙にその爆弾は隠されていた。胸元か透け、背中には青い薔薇のレースがあしらわれ、ズボンは皮を側面で編み上げるため淫靡なチラリズムを体現してしまう。ベストは背中がガラ空きで、ぴったりとしたライン作り出すための調整機能付きだ。
「ほう?それがいいのだね!題して『幼き夜の王』だ!美しいものと毒々しさは非常に相性がいいのだよ。ましてや、これはこのエロティシズムまで盛り込まれている。そのエロスこそが夜の王の第二の武器。これを着てくれるのだね……?」
不気味だった。ゴルドンはかつてないほど不気味な声を出していた。
「ちょうどそのコーデに合わせた、女の子がこちらになります!」
と言って、オネェがカーテンをめくる。そこには細い上半身のラインとまっすぐ広がるスカート。全体は黒を基調として濃紺の布がコントラストを演出している。肩には深いブラウンのケープが掛けられて少女らしさを際立立たせ、それを武器に変えたナキアが立っていた。
「お揃いで、きっと喜ぶのだね!」
そしてトドメのゴルドンのキラーワード。
「わかりましたよ!着ますよ……!」
自分で着るといってしまった手前、もはや逃げられないアルタナは半ばヤケになってその服を持って試着室へと入る。
数分後、そこには例の服を着たアルタナが立っていた。
「素晴らしいのだね!素晴らしいのだね!」
たしかにアルタナにはあの高度な性癖満載の服がとても似合っていた。というより、彼以外着こなすことはできないだろう。
今の彼は髪を後ろに縛っている。そのせいで余計に女性らしく映るのだ。
「いいわ!絵になるわ!」
店内は一気にやかましくなる。主にゴルドンとオネェのせいで。
結局そこで、何着か服を買った。アルタナの財布からは金貨三十枚が飛び、しかもゴルドンたちのゴリ押しで例のお揃いのまま帰ることになってしまった。
ちなみに、その代わりに金貨三十枚で実に十五着の服を手に入れていた。アルタナが冗談で着て帰る条件として提示したらあっさり了承されてしまったのである。
「よかった……ですか……?」
帰り道、不安そうな様子でナキアは尋ねる。
「この服は恥ずかしいけど、まぁいいんじゃないかな?ナキアの服も買えたしね。」
「でも……お金……いっぱい……」
「新生活には必要なものだよ。それに、また稼げばいい。どうやら俺はジュニアBランクみたいだしね。」
アルタナはそう言ってナキアに微笑みかけた。
その時、ナキアの中で何かが変わる。
ナキアは、アルタナの腕に抱きついた。
「どうした?」
「ダメ……ですか?」
「いいよ、役得だ。」
そう言って、アルタナはナキアに笑いかけた。
ナキアは思ったのだ。アルタナは優しいから、甘えても許してもらえる。でも、自分で甘えないと甘やかされすぎてしまうと。
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