第5話・女冒険者さん蹴る

 冒険者ギルドは、中央のゴシック様式の影響が皆無である。どちらかというと、荒野の酒場のような店構えである。

 扉を開き、店内に侵入するアルタナに一斉に注目が集まり店内は静寂に満たされた。

 アルタナはその静寂に居心地の悪さを感じながら、総合受付と書いてあるカウンターに進んだ。


「冒険者登録をさせてください。」


 受付けには、女性職員が座っており、名札をつけている。名札にはモニカと書いてあった。


「ごめんなさい、登録資格があるか確認の必要があります。こちらに手を……」


 モニカはカウンターの下から水晶付きのボードを取り出し、水晶に手をかざすように求める。

 他人にステータスを開示する為の魔道具だ。ボードの材質は縁が銀、それ以外が木材だ。縁の銀には複雑な魔法陣が描かれている。


「はい……」


 アルタナは言われるままに水晶に手を翳そうとした。だが、それに横槍を入れる人物がいた。


「ちょっと待てよ。ボウズ……お前どこかのお貴族様か?そんなナリで、冒険者とはいいご身分だ。綺麗な服も、顔も台無しになっちまうぜ。」


 ガラと頭の悪そうな男だった。利口であれば、顔をピアスだらけにしたりはしない。


「あの……。」

「台無しになる前に、楽しもうぜ。お前くらいキレーなら、俺はかまわねぇからさ……。」


 下卑た視線が、いやらしい手つきが、アルタナを苛む。

 アルタナ自身もわかっていた、自分の容姿が男女関係なく惹きつけてしまうことを。少年らしさと、少女らしさを融和をテーマに芸術の天才が描いた絵画のような容姿なのだ。それでも、いざ自分がその対象になると身の毛がよだつ思いをする。

 アルタナの瞳は、交戦許可を求めて、モニカに向けられていた。

 モニカは、それを許可するわけにいかなかった。モニカには、アルタナはただの美少年にしか写っておらず、戦闘した場合アルタナが敗北すると思っていた。


「手ェ……離しなよ……。」


 テーブル席に座っていた冒険者の一人が、ゆらりと、まるで幽霊のように立ち上がる。

 真っ赤な長い髪、豊満な胸、引き締まった体。女性としての魅力をこれでもかと詰め込んだ冒険者だった。


「は?じゃあ、お前が相手してくれるか?ん?」


 男は相変わらず下卑た視線だ。ただ、それが女冒険者に移ったことで、アルタナの気分は少しだけマシになった。


「は?そんなわけねぇだろ、三下。どうせ、テメーのチ○コもタマも三下なんだろ?」

「言いやがったなこのクソアマ!」


男は激怒して殴りかかる。

次の瞬間。

男は、股間を抑えて宙を舞っていた。


「やっぱりな。次からはもっと色気出して誘え、そうすりゃちったぁ成長するかもな。」


カッコいい。アルタナな素直にそう思った。だが次の瞬間にその思いは裏切られることになる。

女冒険者はくるりと振り返ると顔を緩ませた。


「君可愛いね!冒険者になるの!?おねーさんなんでも教えちゃうから!不安だったらクエスト同行するよ!名前教えて!私はエルザ、ランクはCだけど仕事には慣れてるから!」


 そう、彼女もまたアルタナの美貌に魅了されていたのだ。

 その結果がこのマシンガンのような質問の濁流であり、男が宙を舞う羽目になった理由だ。


「えっ、えっと。」


 アルタナはその豹変ぶりにうろたえた。


「エルザさん、困ってますから。それに、冒険者学校配属かもしれませんし。」


 それを助けたのモニカだった。


「全く、鉄仮面のモニカは動じないわね……。」

「仕事中ですので。」


 モニカはエルザの言葉に毅然と、きっぱりとそう答えてみせる。


「あの……」


 アルタナには疑問があった。


「はい、なんでしょうか?」

「冒険者学校ってなんですか?」

「はい、十五歳から十八歳の方、あるいはスキル未習得の方は正式な冒険者としての雇用が不可能です。なので、冒険者学校の生徒として迎え入れられます。」

「でも、俺お金なくて……。」

「大丈夫ですよ。冒険者学校は孤児院も兼ねております。また、学生にもクエストに参加していただく場合があります。危険性皆無のクエストですね。この報酬の一部と、寄付で冒険者学校は運営されています。」


 そこに、エルザが口挟む。


「冒険者ギルドって元々は孤児院だったんだ。それが、寄付で成り立ってると知って恩返しを始めた。だけど、何をしていいかわからない。だから、してほしいことを掲示板に書くようになった。それが、クエスト!ちなみに、私はギルドの孤児院から学生になり、今に至るってわけ。」


 アルタナは、二人の言葉を聞いて冒険者というより冒険者ギルドそのものへの憧れを強く持つようになる。


「冒険者になりたい。ここに手をかざせばいいんですよね?」


 アルタナの質問にモニカが答える。


「はい。それでステータスとそれを得てからの日数が表示されます。」


 アルタナは緊張していた。ステータスを他人に見せることなど初めてだ。これまで何度もこの魔道具に手をかざした、だが、反応したことはなかった。アルタナがセカンドバースデーを迎えていなかったからだ。


「じゃあ。」


 そう言って手をかざした。

 だがアルタナは失念していた。

 それを、浮かび上がったステータスが物語る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:アルタナ・ウィルソン

クラス:現人神

レベル:2

生命力:5000

筋力:2400

技量:4000

知力:3800

魔力:3200

持久力:300


スキル

〈剣術151〉〈エンチャント158〉〈弓術138〉〈基礎魔術125〉


特技

〈剣聖〉〈気配探知〉〈鷹の目〉〈魔法適正:究極〉〈美の権化〉〈怪物〉〈桜花〉


経過日数:0


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 晒し出されたのはレベルが上昇し、さらに化け物じみたステータスだった。


「「「ええええええええ!?」」」

 

 あまりのステータスの高さにモニカとエルザ、忘れかけていた当の本人ですら思わず叫んだ。

 そのステータスは、様々な憶測を呼び、少しの間ギルドを混乱させた。だが、アルタナの冒険者学校入学は取り消されなかった。

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